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シュニトケとアニメーション音楽 (1) The Glass Harmonica (1968)
シュニトケのディスコグラフィを見ていると、意外と多いのが"Music to the Film"というタイトルのついている映画音楽。
作品番号がついているものだけで約80曲。(シュニトケ自身は作品番号を使わなかったので、このリストの作者が便宜的に付与したらしい)
”Film”は大半は映画をさすが、この中にはアニメーション音楽も含まれている。
アニメーションといっても、社会主義体制下のソ連時代の作品だったので、日本のロボットものやディズニーの童話ものといった娯楽アニメーションとはかなり異なる作風のものが多い。
”Film”のうち、どれがアニメーションなのかはタイトルだけ判別がつかないが、Youtubeで動画登録されているアニメーションがあるので、それをピックアップすると、少なくとも10作くらいはアニメーション音楽。(この情報は、<烏鵲の娯楽室>うじゃくさんに教えていただきました。)

シュニトケが音楽をつけたアニメーションは、アンドレイ・フルジャノフスキー監督作品が多い。

明らかにアニメーション音楽であるのは

 Opus 55: Music to the Film "The Glass Harmonica" (1968)
 Opus 62: Music to the Film "A Ballerina Aboard" (1969)
 Opus 83: Music to the Film "The Butterfly" (1972)
 Opus 123: Music to the Film "My Memories Take Me To You" (1977)(プーシキン三部作)
 Opus 158: Music to the Film "I Am With You Again" (1981)(プーシキン三部作)
 Opus 164: Music to the Film "Autumn" (1982)(プーシキン三部作)
 Opus 165: Music to the Film "Pencil and Eraser" (1982)

作品番号がついていないものがあるが、Youtubeに登録されているアニメーションからシュニトケ作品だとわかるものは
 -Armoire(1970)
 -RARE(1973)
 -Miniatures(1986):これは合作のため、作風はシュニトケとはかなり異質



 "The Glass Harmonica"(1968)
シュニトケが一番初めにアニメーション音楽を作曲したのが、アンドレイ・フルジャノフスキー監督作品の"The Glass Harmonica"。
シュニトケの映画音楽作品集(Vol.1~Vol.3の第2巻)に唯一収録されているアニメーションでもある。
アルバムに収録されるだけあって、アニメーション用の劇伴音楽とは思えないほどの内容で、いかにも前衛的な無調の不協和的音楽と、荘重な古典的形式とシュニトケらしい書法・和声が融合したような調性音楽で構成されている。


Andrey Khryanovskiy - The Glass Harmonica (1968)


アニメの冒頭で流れている字幕によると、”ずっと昔、《グラス・ハーモニカ》が創作された。グラス・ハーモニカはその音を通じて高度な思考とまっとうな行為を喚起する魔力的な楽器である。この映画の出来事はファンタスティックな性格のものであり、作者は現代のブルジョワ社会における飽くなき貪欲さ、警察の恐ろしさ、人間の疎外と野蛮化を思い起こして欲しいのである”という趣旨で製作されたものである。
”ブルジョワ社会批判”が目的だと書いてはいるが、同時にソ連の国家体制に対する批判的な意味が言外に込められている気はする。貨幣は資本主義体制の象徴だとしても、”黒い背広姿の警察の男”は社会主義体制の国家権力の象徴に見えてくる。

アニメに登場する《グラス・ハーモニカ》は、まるでガラス製パイプオルガンのパイプの一部をカットしたような形状で、バグパイプのように抱えて携帯できるようになっているが、実際の《グラス・ハーモニカ》は据え置き式なので、アニメ用にデザインしているらしい。

フルジャノフスキー監督のアニメーション作品は、子供向けアニメや娯楽作品ではなく、実験性・芸術性が高いと言われている。
《グラス・ハーモニカ》は、社会主義的リアリズムとは異質な古典性と前衛性を融合したようなシュールな映像で構成されていたために、ソ連当局によって上映禁止処分となったという。

このアニメーションは、絵画を動画にしたような緻密なディテールとグラデュエーションに富んだ色彩が美しく、ここまでくると全く芸術作品そのもの。
”この映画は古典芸術のイメージを用いている”とエンディングに字幕で流れていたが、ボス、デューラー、アルチンボルドなど絵画のイメージを基にして作画したらしい。どこかキリコを連想させるようなシュールなところもある。

このアニメーションは絵も凝っているが、それ以上に内容がとても濃い。
字幕も音声も元から入っていないので絵と音楽だけで理解しないといけないアニメだが、ストーリー展開は明確。
ストーリーにあわせて絵のタッチも色彩も全てが変化していくし、抽象的な概念の象徴として、貨幣、時計台、薔薇、黒い背広の警察の男などが、いろいろなアイテムが使われているので、内容もメッセージも充分に理解できる。

特に、貨幣にとり憑かれ野蛮化していく人間の描写がとてもグロテスクだけど、リアルさは抜群。
この部分のシュニトケの音楽は、極めて前衛的な不協和音とオドロオドロしい曲になっている。
アニメでBGMとして流れている分には、その前衛性はあまり気にはならないけれど、この音楽だけを取り出して聴くとなるとやはり難しさを感じるものはある。

終盤では、貨幣によって疎外され野蛮化していく人間たちが、グラスハーモニカが奏でる音楽を聴くことによって、本来の人間にもどって行く。
このシーンでは、まるでルネッサンス期のような均整のとれた人間の姿に蘇り、天から舞い落ちる花々、空を飛ぶ人々などが、とても美しい色彩とイメージで表現されている。
このシーンで使われる音楽は、物悲しさに一抹の明るさをおびたもので、まるで古典的様式を感じさせる典雅な旋律がとても美しい。
グラスハーモニカから流れてくる音楽は、高音の透明感のある音でとても綺麗で神秘的な感じを出している。オーケストラが演奏する音楽は、古典的な悲劇性を感じさせる劇的なところがあって、不協和音が時々混在してくるのがシュニトケらしい。


全部で20分ほどのアニメーションだけれど、これだけ緻密で表現力のある絵と、ストーリーにぴったりと合った音楽が入っていれば、音声・字幕なしでも(というか、ない方が良い)理解できるし、これはかなり面白いアニメーションである。

                                

"The Glass Harmonica"で使われた曲が収録されているアルバム。全3巻あるシュニトケ映画音楽作品集のうちの第2巻。

Schnittke: Film Music Vol 2Schnittke: Film Music Vol 2
(2006/06/12)
フランク・ストローベル(指揮)、ベルリン放送交響楽団

試聴する(ドイツのamazonサイト)(”Die Glasharmonika”の収録トラックは10~13)

<収録曲>
●Clowns und Kinder (Spelfilm von Alexander Mitta, Mosfilm 1976)(トラック1-5)
●Der Walzer (TV-Film von Viktor Titow, Mosfilm 1969)(トラック6-9)
●Die Glasharmonika (Trickfilm von Andrei Chrschanowski, 1968)(トラック10-13)
  10- Der Musiker und das Carillon (1:50)
  11- Prozession (1:23)
  12- Die Gesichter - Die Flüge - Pyramide (13:27)
  13- Der Musiker - Das Erwachen (4:15)

●Der Aufstieg (Spielfilm von Larissa Schepitko, Mosfilm 1976)(トラック14-16)
※”Trickfilm”というのは、特撮映画のこと。

tag : シュニトケ

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グラス・ハーモニカ
今晩は。うじゃくでございます。

シュニトケのアニメの更新を楽しみにしておりました。実はグラス・ハーモニカについては存在を知らなかったのです。CDは持ってましたが。

アニメはモンティ・パイソンのテリー・ギリアムの映像を見ているかのようでしたが、こちらは人間の醜さが体現されていて、今のアニメには見ることが出来ない表現だなぁと思いました。

話があっちの方に飛んでしまいますが、もしよろしければこちらからリンクを貼らせていただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。
実に面白くて刺激的なアニメでした
うじゃく様、こんばんは。

周辺情報がないかいろいろ調べていたので、時間がかかってしまいました。
一番情報量が多かったのがこの『グラス・ハーモニカ』なので、こちらを先にまとめておきました。

このフルジャノフスキー監督は、ロシアアニメの世界では大変有名な方らしいですね。さすがにそれだけのことはある内容だと思います。
ディテールにこだわった表現力のある作画、ストーリー展開、象徴的にモノを使う手法など、普通のアニメーションとは違った強い思想性を感じます。社会主義体制下でのソ連でしか、こういう表現はできなかったかもしれませんね。
シュニトケの音楽も素晴らしく、このアニメはかなりの掘り出しモノでした。
他のアニメは一応目は通しましたが、”Butterfly”はとりわけ絵が美しく、立体的ですね。まだじっくりとは見ていないので、少し時間をとってまとめてみようと思います。

DVDで”ロシア・アニメーション集”が出ていますが、たぶんYoutubeの動画のソースはそのDVDだと思います。

それから、リンクの件、了解致しました。よろしくお願いします。
私の方でもリンクさせていただいてよいでしょうか。
ありがとうございます
こんにちは、うじゃくです。

リンクの件、ありがとうございます。明日の更新で早速貼らせて頂きます。

また、yoshimiさんからのリンクの申し出、大歓迎です。こんなページですが、何卒よろしくお願いいたします。
こちらこそありがとうございました
うじゃく様、こんにちは。

どうもありがとうございました。
では、私の方からは、左側のカラムのリンク集に掲載させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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