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マルティヌー/二つの弦楽オーケストラ、ピアノとティンパニのための二重協奏曲
今年はマルティヌー没後50年というアニヴーサリー・イヤー。
ついこの間までてっきりフランス人だと思っていたが、実はチェコの作曲家だったとわかり、これも何かも縁だと思って、マルティヌーの作品をいくつか聴いてみることにした。
マルティヌーの代表作の中で、2曲のヴァイオリン協奏曲は、スーク/ノイマン指揮チェコフィルの録音(1970年代)で聴くことにして(オーダー中でまだ届かないので)、まずはピアノ協奏曲から。

「二つの弦楽オーケストラ、ピアノとティンパニのための二重協奏曲」(H271、1938年)は、マルティヌーの第二次大戦期を代表する作の一つ。
チェコ人指揮者トゥルノフスキーによれば、この曲は第二次大戦中の1938年、ナチスドイツに追われ、フランスを経てスイスへ逃げた時期にわずか3週間で書き上げられたという。(年表を見るとパリ脱出は1940年なので事実は違うかもしれない。年表では、ミュンヘン協定締結の日に完成させている。)

当時の国際情勢は、チェコスロバキアのズデーテンラントが1938年9月30日のミュンヘン会談によってドイツへの割譲が決まる。
1923年以降、マルティヌーはパリで暮らしており、このミュンヘン協定調印の日、スイスの友人パウル・ザッヒャーの所有地で二重協奏曲を完成させた。
1939年にはボヘミアとモラビアがドイツ軍に占領され、ドイツの保護領となる。
1940年にスイスのバーゼルで二重協奏曲を初演したが、以後マルティヌーの音楽はナチス・ドイツによって演奏禁止となる。
ゲシュタポのブラックリストに載ったマルチヌーと彼の妻は、パリを脱出してスイス経由で米国へ向かう。フルニエ、フィルクスニー、ミュンシュ、シャフラーネクたちや、財政援助をしていたザッヒャーとアンセルメにも支えられ、9ヶ月にわたる逃避行の末、1941年3月に米国に到着。以後、マルティヌーは2度と故国に帰ることはなかった。
この頃のマルティヌーの反ナチスの精神は、この二重協奏曲や<戦場のミサ>、後の<リヂツェ追悼>に現れているという。
(参考資料:マルティヌー略年表マルティヌーの生涯)(日本マルチヌー協会のホームページより)

日本マルチヌー協会のホームページの情報によると、速筆多作で有名なマルチヌーの作品は全部で400曲にものぼり、委嘱作品が多い。
影響を受けた作曲家としてはバロックのマドリガル作家モーレイ、それにコレッリ、ドビュッシー、ストラヴィンスキー。
作風は、ロマン派の和声と断片旋律、多調性、ピアノを含む色彩豊かなオーケストレーションを駆使し、変ロ長調、2度3度の音程反復(トレモロ)、シンコペーションの多様、変拍子を好んだ。
「音楽は美しくあらねばならぬ」がモットーの彼の作品は、心情を赤裸々に吐露したものだとのこと。


この二重協奏曲は、日本では、2002年にセンチュリー交響楽団の演奏会で、チェコ人の指揮者マルティン・トゥルノフスキーの指揮、小川典子の独奏で演奏されている。
この演奏会を聴きに行った人が<音盤狂日録>というサイトで感想を書いている。
当日は、”二群の弦合奏を左右に配置、中央指揮台の奥に独奏P、更にその奥にTimpという配置。”だったそうで、独奏Pが弦合奏に埋もれ気味になったとの感想。
CDでもピアノは埋もれ気味なので、ホール音響やピアノ配置の問題ではなく、この曲がもともとそういうオーケストレーションで書かれていたのだと思う。

今月16日には、大阪シンフォニカー交響楽団の第137回定期演奏会「チェコからの手紙 ~マルティヌー没後 50年~」と題して、ヴァーレック指揮、奈良田朋子のピアノ独奏で演奏予定。マルティヌーの曲は、他に代表作「リディツェ追悼」がプログラムに載っている。
さすがにこのとても重い2曲に加えて、さらにマルティヌー作品を演奏するのは避けたらしく、ドヴォルザークの「交響曲第6番」を入れている。

二重協奏曲の録音はそれほど数は多くはないが、マルティヌーなら最初はやはりチェコ人の演奏家の録音で。
これは、イルジ・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、Jaroslav Sarounのピアノ、Vaclav MazacekのティンパニによるCHANDOS盤。

二重協奏曲の録音には、デプリースト指揮マルメ交響楽団のBIS盤もある。
CHANDOS盤に比べると、ピアノとティンパニがやや目立つが、反面、弦楽がやや雑然とした響きで、個々の旋律が明瞭に聴こえてこないところがあり、チェコフィルのような響きの美しさに欠ける。ピアノもリズム感や起伏の付け方がもう一つ冴えない。全体的に緊迫感や不安さがやや緩く感じられるところがある。

個人的な好みとしては、このシャンドス盤のビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルの演奏の方がかなり良いと思う。

Martinu: Symphony No. 1; Double ConcertoMartinu: Symphony No. 1; Double Concerto
(1992/10/28)
Jaroslav Saroun、Vaclav Mazacek、イルジ・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

試聴する(NAXOSサイト)


この曲は、何かに追いつめられているよう不安と緊迫感に満たされている。
作曲当時、チェコの一地方がナチス・ドイツに奪われ、チェコ侵攻を意図するドイツの勢いを目の当たりにして、故国の行く末を案じていたに違いない。
初めて聴いたときは、ブリテンの「シンフォニア・ダ・レクイエム」を思い出した。この曲も、欧州でナチス・ドイツと英国など連合軍との戦争が始まっていた頃に作曲されていて、第1楽章と第2楽章は異様な緊迫感に満ちている。ただし、これは亡き両親のためのレクイエムであったため、死者にまつわるイメージが満ちているからかもしれない。

マルティヌーの二重協奏曲は、曲自体は無調な響きではなく、調和的な和声で構成されているので、音としては聴きやすくはある。
”ロマン派の和声と断片旋律、多調性、ピアノを含む色彩豊かなオーケストレーションを駆使し、変ロ長調、2度3度の音程反復(トレモロ)、シンコペーションの多様、変拍子を好んだ”というマルティヌーの作風が良く出ているのではないかと思う。(変ロ長調の部分はよくわかりませんが)
ロマン派音楽のようなストーリー性とかは全くないが、現代音楽としての難解さは希薄。
しかし、全楽章を貫通する緊迫感には、気がぴしっと引き締まる。いつの間にか、息を詰めて聴いているので、各楽章が終ると深呼吸したくなる。

第1楽章 Poco allegro
この曲を動かしているのは弦楽オケ。ピアノパートが目立たず、ほとんど弦楽合奏の一部分のような扱いなので、合奏協奏曲に近い感じがする。
速いテンポで弦楽パートが疾走し、メロディアスではない断片的な旋律がリズミカルに続き、何かが差し迫ってくるような緊迫感がある。でも響き自体はとても美しいので、無調の現代音楽とは全く違う。
途中で、弦楽オケが息の長い旋律を弾き始めるが、これがなんとも不安感に満ちている。
全体的には、徐々に低音部から高音部へとかけ上げるような動きが多い気がする。これが緊迫感を増すのにはとても効果的。
管楽器がなく弦楽だけで構成されているので、威圧感はそれほど強くはないが、なぜか余計にヒタヒタと迫り来る不穏さや不気味さが増してくる。
弦楽だけだと響きがやや単調になるが、ピアノとティンパニが打楽器的に入ってくるので、リズム感が増し、音にも彩りがついている。

第2楽章  Largo
ここはピアノがだいぶ前面に出てきているが、これもやはり不安げな旋律を冒頭からソロで弾いている。この楽章の中では、何回かピアノが独奏するところがあるが、とても美しくドラマティックな旋律を弾いていたりする。
ピアノソロのあとに続く弦楽合奏のややネットリとしたうねりのある旋律が美しいが、とても妖しげな艶やかさがある。まるで真綿で首を絞められているような息苦しさを感じるところがある。
一応緩徐楽章なので、テンポはゆっくりしているが、ピアノとフォルテで弾く部分が明確にわかれ、緊張と弛緩が交互にやってくる。
普通の緩徐楽章みたいにゆったり穏やかな曲想では全くなく、この楽章も緊張感に満ちたドラマティックさがある。

第3楽章 Allegro
再び第1楽章のような緊迫感のある曲想に戻る。
息を吸ったりはいたりというように、弦楽・ティンパニ・ピアノがフォルテで演奏していると思うと、急にピアノの密やかなソロになって一時的に静かになる。まるで何かを待っているか、息を潜めて様子をうかがっているような..。
再び低音部から高音部へと駆け上がりながら、クレッシェンドしていく。
この楽章は第1楽章よりもピアノソロが目立ってはいて、弦楽と掛け合うような感じで入ってくるので、同等くらいの扱いにはなっている。それでも、全体を引っ張っているのは弦楽パート。
最後は、何かがとうとう決着がついたかのような和音の連打で終る。この和音には安堵感は全くなく、不気味なものの到来を予兆するかのような不安さがある。
ちょうどミュンヘン協定調印の日にこの曲が完成したというから、ナチスに蹂躙されていく故国の運命を音楽で表現しているのかもしれない。


緊迫感に満ちた曲なので、あっという間に第3楽章が終ってしまった。
ロマン派的な感情移入ができる曲ではないが、強い疾走感が全体を貫き、何かに追い詰められていくような焦りや不安が満ちているので、そのムードには気分的に感染してしまうところがある。
決して馴染みやすい曲ではないけれど、この緊迫感と、まるで蜘蛛の巣にからめとられていくようにネットリとした旋律の美しさには、思わず惹きこまれてしまう。
いかに不安と緊迫感に満ちていようと、「音楽は美しくあらねばならぬ」というマルティヌーのモットーが現れているような美しさがある。

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

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好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

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