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シュニトケ/合奏協奏曲第1番
シュニトケがソ連時代に製作されたアニメーション "pencil and Eraser"につけた音楽は、「合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)第1番」。
可愛らしい鉛筆と消しゴムの追っかけっこのアニメに、不協和音に満ちた合奏協奏曲が流れているというアンバランスさが面白いが、なぜか音楽とアニメが妙にマッチしているところがそれ以上に不思議。

アニメには、合奏協奏曲第1番のほんの一部しか使われていなかったが、それが全く冴え渡った音楽だったので、全曲を聴かないわけにはいかない。

このアルバムは、シュニトケの「合奏協奏曲第1番」、ペルトの「タブラ・ラサ」、グレツキの「チェンバロ(ハープシコード)協奏曲」の3曲をカップリングしたシャンドス盤。
タイトルを見ただけで、この3曲の共通項がすぐにわかる人はかなり彼らの作品に詳しい人に違いない。
シュニトケは曲名ですぐわかるが、「タブラ・ラサ」も「チェンバロ(ハープシコード)協奏曲」も形式は”合奏協奏曲”的。
現代音楽作曲家のなかで、いわゆる "癒し系"だと思われているのが、ペルトとグレツキ。シュニトケは、同じ合奏協奏曲の形式を使っているけれど、作風が全く違う。
私は3人の作曲家とも好きなので、このアルバムの選曲センスはなかなか良いものだと思います。

Schnittke: Concerto Grosso I/Pärt: Tabula Rasa/Görecki: ConcertoSchnittke : Concerto Grosso I / Pärt : Tabula Rasa / Görecki : Cembaro Concerto
(1998/01/20)
E.Turovsky (Violin), N.Turovsky (Violin), Perrin (Harpsichord), Yuli Turovsky指揮Musici de Montreal, I 

試聴する(NAXOSサイト)

※NAXOSサイト上の日本語CDタイトルは、”合奏協奏曲第3番”となっているが、これは第1番の誤り。トラック別に書いているタイトルが正しい。


シュニトケだけ聴きたければ、クレーメルがソロを弾いている録音があるので、クレーメルがお好きな人はそちらの方が良いと思います。
次の2種類が有名な録音らしく、合奏協奏曲第1番の初演のすぐ後に録音された旧盤、再録盤とがある。

こちらは、旧録の国内盤アルバムで、ロジェストヴェンスキー指揮ロンドン交響楽団、もう一人のヴァイオリン・ソロにはタチアナ・グリンデンコ(クレーメルの最初の奥さん)。1977年8月の録音で、カップリングはなぜかシベリウスのヴァイオリン協奏曲。
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
(2003/03/26)
クレーメル(Violin), グリンデンコ(Violin), ロジェストヴェンスキー指揮ロンドン交響楽団

試聴する


こちらは1988年9月の再録盤で、ハインリッヒ・シフ指揮ヨーロッパ室内管弦楽団による演奏。こちらのヴァイオリンもタチアナ・グリンデンコ。
Kremer Plays SchnittkeKremer Plays Schnittke
(1994/08/15)
Kremer(Violin), Grindenko(Violin), Smirnov (Harpsichord), Smirnov(Prepared Piano), Heinrich Schiff指揮Chamber Orchestra of Europe

試聴する(米国amazonサイト)


さらにバシュメットの指揮でクレーメルがソロを弾いている録音(Cdk Mos、1988年) もある。

                                 

合奏協奏曲第1番(1977年)は、シュニトケ作品の中では、最も有名な曲のうちの一つ。多様式時代の代表作といって良いくらい聴きやすく、最も受け入れやすい曲の一つだと思う。

第1楽章 Preludio: Andante
冒頭からプリペアード・ピアノとピアノの二重奏。どこかしら懐かしさを感じさせる旋律。
プリペアード・ピアノの音は、まるで壊れた機械みたいな音で調子っぱずれな感覚がして面白い。ピアノの方は、低音がボーン、ボーンと鐘のように響く。
シュニトケは、この曲でもピアノパートは、たいていは調和的な和声を使っている気がする。
続いて、弦楽器の息の長い不協和的な響きの旋律に変わる。どこかしら摩訶不思議で、宇宙的というか、ブラックホールにでも吸い込まれてしまいそう。
それでも、響きは美しくて、不協和的な世界の叙情性を感じさせる。

第2楽章 Toccata: Allegro
弦楽が速いテンポのパッセージに変わり、キシキシきしむような音をたてかと思うと、その中で叙情的な美しい旋律を弾くヴァイオリンが現れたり、不協和と協和がせめぎあっているような混沌とした和声に変わる。
とにかくコロコロと雰囲気の違った旋律と和声が入れ替わり立ち代り現れるという、なかなか面白い展開の楽章。中間部で、今までとは違う響きが入ってきたと思ったら、チェンバロのソロだった。
古典的な合奏協奏曲を、現代的な不協和音で演奏すると、こういう響きになると思う。
それにしても、不協和音が支配的とはいえ、和声の響きはシュニトケらしくて綺麗です。

第3楽章 Recitativo: Lento
一転してLentoになると、”Recitativo”というとおり、叙情的ではあるがやや陰鬱なヴァイオリンの旋律に変わる。これも直線的な旋律ではなくて、息の長いうねるような線を描くので、摩訶不思議でネットリした圧迫感を感じさせる。
最後は、第1楽章のように宇宙に吸い込まれるかのような旋律を弾くヴァイオリンの合奏のなかに、バロック風の美しい調和的な旋律が断片的に紛れ込んでいたりするのも、シュニトケらしい。

第4楽章 Cadenza
ここは、曲想がもう一つよくわからないところがあって、カデンツァなので、多分、ヴァイオリンの技巧をいろいろ取り混ぜているのだと思う。最後は、急に短調のメロディアスな旋律に変わって、そのままアタッカで第5楽章へ。

第5楽章 Rondo: Agitato
美しく調和的な和声が随所に現れはするが、協和音と不協和音が錯綜し、いくつもの主題が現れては消えていき、まるでカオスに満ちているかのような楽章。
冒頭はヴァイオリンの鋭く叙情的な旋律で始まるが、すぐにブラックホール的とでもいうような不協和的和声に変わる。
その間隙を縫うかのように、チェンバロがバロック風の旋律を弾いたり、チェンバロも合奏に入ったりする。この調和的な和声と、不協和音の和声が交代で現れたり、混在したりと、なかなか目まぐるしい。弦楽合奏が弾く叙情的な旋律は、カオスのなかを突き抜けるようで、その疾走感がとても鮮やか。

やがてチェンバロがソロを引き出したと思ったら、タンゴの旋律。これに弦楽が加わり、なんとも憂愁漂うタンゴに変わってしまう。この楽章の冒頭主題も織り込まれている。
このタンゴもやがて不協和音が入り込んできて、最後は弦楽合奏が冒頭主題を弾き始めて、タンゴが終わり、再び弦楽による錯綜した合奏が始まる。
最後は、とても叙情的な旋律に代わり、第1楽章のプリペアード・ピアノと普通のピアノによる冒頭の主題が再度現れてくる。

第6楽章 Postludio: Andante
アタッカでつながっているかのように、第5楽章のラストの雰囲気をそのまま引きずっている。
甲高い高音だが消え入るようなか細さで、弦楽合奏がゆったりと息の長い旋律を弾き、それを背景に、プリペアード・ピアノとピアノが、長いインタバルでボーン、ボーンと同音連打を繰り返して、いつの間にか終ってしまった。
第5楽章とは打って変わって、とても静けさに満ちた楽章。この曲のクライマックスは第5楽章なので、演奏時間が短い第6楽章は、独立した楽章というよりもコーダのような感じがする。
最終楽章が、全編スローテンポで静かに演奏されて終えるというパターンは、室内楽曲でもいくつかあったと思うので、シュニトケの曲ではあまり珍しくはないかもしれない。


この曲は各楽章の構成がわかりやすく、シュニトケ特有の不協和・協和音が混在して、旋律のパターンや響きにもかなりバリエーションがあるので面白い。さほど構えなくても、聴きやすい曲だとは思う。
最大の見せ場は弦楽、チェンバロ、プリペアード・ピアノ、ピアノが勢ぞろいして、疾走感に満ちた第5楽章。どうしてタンゴが入っているのかが、ちょっと不思議だけど。
タンゴといえばピアソラ。ピアソラが流行ったのは1990年代後半くらいから。シュニトケが合奏協奏曲第1番を完成させたのが1977年なので、先見の明があったのかも。

tag : シュニトケ

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あのタンゴは…
どうも、うじゃくです。
この曲は曲想がコロコロ変わって面白いですよね。旧ソ連の時代に敵国アメリカで誕生したプリペアード・ピアノが使われているのも意外です。

この曲のタンゴは、1990-1年作のオペラ"痴呆との生活"にも引用されています。日本でもモスクワ・シアター・オペラが来日して上演したことがあったはずです。一時期日本語解説付きのCDが出回っていたようですが、今は廃盤です。ちなみに私が持っている2枚組の輸入盤は、"DISC1"と書かれたCDにDISC2の内容が録音されていて、"DISC2"と書かれたCDにDISC1の内容が録音されているというあべこべな中身で、こんなミス誰か気付かなかったのかよ、と言いたくなる珍品です。
プリペアード・ピアノ
うじゃく様、こんにちは。
早速コメントありがとうございます。

この曲が完成した1977年は、米ソがデタント状態にあった時期ですので、一時的に文化交流のようなものが活発になっていたのだと思います。そのおかげで、アメリカ音楽の一部がソ連国内に入り込んできたのでしょう。モスクワの町中でビートルズが流れることもあったそうです。

ショスタコーヴィチのあとはピアソラの時代...なんて言った作曲家がいたような気がしますが、私はラテン音楽は苦手なのでピアソラは全く聴いていないのですが、さすがにタンゴがどういうものかくらいは知っていて良かったです。
シュニトケは自作のモチーフを、あちこちに転用していることが多いですね。それに気づくようになれれば、結構嬉しいものがありそうです。
ベートーヴェンもよく転用していて、歌曲を聴いていたときに、バリトンが合唱幻想曲の旋律で歌い始めたのには、ちょっと驚いたことがあります。

その輸入盤が海賊版ならそういうこともあろうかと思いますが、正規盤でもプリントした国によっては(どの国とは言いませんが)、充分ありうるような気がします。
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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