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ケンプ/バッハ作品集 ~ フランス組曲第5番、カプリッチョ《最愛の兄の旅立ちにあたって》
ケンプがステレオ録音したバッハ作品はそれほど多くはなくて、ゴルトベルク変奏曲、イギリス組曲第3番、フランス組曲第5番、トッカータとフーガニ長調、平均律クラヴィーア曲集第1巻・第2巻(抜粋)、カプリッチョ《最愛の兄の旅立ちにあたって》。
ケンプ自ら編曲したバッハの曲は10曲くらいあって、自作自演盤の録音も残っている。
バッハの作品は、モノラル期にも録音していたようなので、探せば戦前のも含めていろいろあるのだろうとは思うけれど、今入手できそうなものはこれくらい。

ステレオ期のケンプのバッハ作品はいずれも高齢の時に録音していて、ゴルトベルクが1969年(73歳)、平均律が1975年(79歳)と80年(84歳)、その他の作品が1975年(79歳)。いずれもDG盤で、国内盤は全て廃盤。フランス組曲、平均律(一部)以外は海外盤で新品が入手可能。

国内盤のバッハ作品集のうちの1枚。4曲収録されていて、好きな曲が多いので良く聴いている。

バッハ名演集バッハ名演集
(1998/03/05)
ケンプ(ヴィルヘルム)

試聴する(別の海外盤にリンク)[米国amazonサイト]
イギリス組曲(CD1:トラック3-11)、フランス組曲(CD1:トラック12-18)、カプリッチョ(CD2:トラック25-30)、トッカータとフーガ(CD2:トラック31-32)

※試聴サイトのリンクが間違っていたので修正しました(7/21)
この作品集は1975年、ケンプが79歳の時に録音している。
ピアニストは人にもよるが75歳くらいまでは、それほど大きな技術的な衰えを気にせずに聴ける録音が多いと個人的には思っているので、その年齢を越すとテンポや指回りにかなり高齢ゆえの影響を強く感じてしまう。

それを気にするか、気にしないかは、個人差がかなりある。このCD紹介文によると「技術の衰えが限度を越えている」と書いてあるので、どんなに酷いのだろうかと思いながら聴いてみると、私の個人的基準ではそこまで言うほどに酷くはないと思うけれど。
たしかに速いパッセージやフォルテの部分は、タッチの切れが悪いし、指が良く回っていないところもある。イギリス組曲、トッカータとフーガはそういうところは感じるが、カプリッチョとフランス組曲の方は技術的にやや難易度が低くなるせいか、ずっと安定しているように感じる。
アラウ、ゼルキン、リヒテルの晩年の録音を聴きなれているので、技術的なことはあまり気にならなくなっている。

そもそもレガートなタッチで弱音主体で響きの美しさたフレージングの滑らかさを出した弾き方なので、どうしてもモタモタとしたタッチに聴こえる。これより5年前に録音したゴルトベルクの方が、やはり技術的にはずっと良くて、とても軽やかなタッチで生き生きとした躍動感がある。
といっても、79歳という年齢を考えれば、逆にこれだけ弾ける方が不思議なくらい。

                                   

収録されている4曲中、よく聴いているのはカプリッチョとフランス組曲第5番。
どちらも好きな曲なので数種類の録音を持っているけれど、ゼルキン、アンデルジェフスキの録音が特に気に入っている。

バッハのカプリッチョの中でも特に有名な《最愛の兄の旅立ちにあたって》。
スウェーデン王の軍楽隊へ入るために旅立つ兄へ捧げた曲で、6曲構成。
わりと淡々とした弾き方だけれど、ケンプ独特の親密さや頼りなげな優しい雰囲気があって、そこが曲想によく似合っている。
第1曲の”旅立ちを阻む友人たちの言葉”は、あっさりとした弾き方だけど、柔らかく暖かさのある響きがとても美しく、心のこもった感じが良く出ている。
特に美しいのがこの第3曲”友人たちの嘆き”。ここも淡々とした弾き方だけれど、ゆったりとしたテンポで、余韻を長く残しているので、憂いを帯びた旋律が哀しげに聴こえてくる。
第4曲”どうしても避けられないと分かった友人たちが別れを告げる”は、オルガンのような響きの重なりがとても美しく、晴れやか。
第6曲”郵便馬車の角笛を模したフーガ”は、テンポが速くなって、指回りが怪しいところは結構あるが、アクセントの効いたスタッカート気味のタッチを主体にリズムを刻んでいる。ケンプのフーガは、声部のからみが立体的に聴こえてくるので、わかりやすい。


ケンプが弾くフランス組曲第5番は、タッチが柔らかく軽快、高音部の響きが特に綺麗で、フォルテはやや抑え気味。ピアノの響きは多彩で、その柔らかな音のニュアンスの移り変わりが素晴らしく、その美しさにはうっとりとするものがある。
ケンプの演奏は、余計な気負いも無く、淡々としているようで、実はとても自由闊達な感じがする。
ゼルキン、アンデルジェフスキ、シフなど技術的にも音楽的にもしっかり演奏と比べると、技術的な切れ味は悪いけれど、とても素朴で親密感を強く感じさせるものがあって、なぜか一番ゆったりと落ち着いて聴ける。

冒頭のアルマンドは速めのテンポでタッチがとても軽やか。ゴルトベルク変奏曲の時とは違って、あちこちで装飾音を入れていて、この響きがとても可愛らしい。
クーラントも速いテンポでノンスタッカート気味のタッチが弾むような感じを良く出している。左手側の旋律を強めに弾いている。
サラバンドはゆったりとしたテンポに変わり淡々と弾いているが、柔らかなタッチと弱音の響きが心地よく、まるでさり気なく寄り添うような雰囲気がある。
ガボットも軽やかで柔らかなスタッカートが可愛らしい。ブーレは速いテンポでリズム感も軽快。
ルールはテンポを落としてピアノの響きを少し長めにして、まるで語りかけるような旋律の歌わせ方。
ジーグも冒頭から高音のピアノの響きが澄み切って甘やかでとても美しい。この楽章は特に和声の響きに透明感があって美しく、テンポも軽快。音が重なると時々鐘が鳴っているような響きがする。

フランス組曲では、ケンプの弾くピアノの響きはどのテンポでも多彩なので、緻密な音のタペストリを聴いているかのよう。収録している4曲中、フランス組曲が最も響きの美しさを味わえる。
打鍵のシャープさや指回りのよさは確かに以前よりも落ちてはいるが、この音の繊細な移ろいをしっかりコントロールできている。これだけ音が繊細で変化が多いと、大げさな起伏をつけなくても、曲の表情がとても豊かで、それも自然な表現に聴こえてくる。それに音自体に暖かみがあるので、この曲の優しい雰囲気が良く出ている。

                                   

「フランス組曲第5番」に、1963年の放送用録音を音源にしたアルバムが出ているのを発見。(情報源はアリアCDのホームぺージ
”claXL”というレーベルがリリースした『Wilhelm Kempff in Potsdam』というアルバムで、日本では一般には流通していないらしい。
68歳のケンプが、若い頃に住んだ街ポツダムで1963年に録音したもので、とても即興性に富んだ演奏だったという。放送用録音なので半ばライブ録音に近かったのだろうと思う。
試聴ファイルで聴いてみても、DG盤と比べて、第1楽章からテンポが滅法速く力強いタッチで、強弱の変化もとても大きく躍動感とエナジーに満ちて、強いテンペラメントを感じさせる。
フォルテのタッチが、騒々しく感じるくらいあまりに鋭く強いのが気にはなるが、その勢いには思わず惹き込まれてしまうような吸引力がある。ケンプの実演にはムラが多いとよく言われているが、この録音を聴くと、そう言われているのも納得できてしまった。

この演奏に比べると、75年録音のDG盤が技術的な衰えが酷いと言いたくなるのもわかる気はする。
弾き方としては、レガートで柔らかさのある音がとても美しいDG盤の方が個人的には好みだし、内容的にも良いと思う。その演奏で聴こえてくる音の繊細さと美しさ、包み込むような優しく暖かい雰囲気は、この63年の録音ではあまり聴けそうにない。

Wilhelm Kempff in PotsdamWilhelm Kempff in Potsdam
(1998/03/05)
Wilhelm Kempff

試聴する(ドイツのamazonサイト)
カップリングは、シューベルト:4つの即興曲、ブラームス:カプリッチョ(Op.76 No.2)とラプソディ(Op.79 No.2)。

                                   

ケンプのステレオ期のスタジオ録音によるバッハ演奏が収録されているCDは、フランス組曲、平均律(一部)以外は、今現在、新品が入手できる。
フランス組曲が入っている盤は廃盤が多いので、USED品かオークションで入手可能。平均律は国内盤(廃盤)が2種あって、それが一番収録数が多いようだ。
分売盤を買うと重複するので効率は悪いけれど、全集盤が廃盤なので仕方がないところ。

ゴルトベルク変奏曲だけが収録されている盤。
Bach: Goldberg VariationsBach: Goldberg Variations
(1994/03/01)
Wilhelm Kempff

試聴する(米国amazon)


イギリス組曲第3番、カプリッチョ、バッハ・ヘンデル・グルックのケンプ編曲版が収録されている盤。
Bach: Englische Suite No. 3; Capriccio; Transkriptionen für KlavierBach: Englische Suite No. 3; Capriccio; Transkriptionen für Klavier
(2008/08/26)
Wilhelm Kempff

試聴する(米国amazon)


平均律曲集から12曲のプレリュードとフーガ、カプリッチョ、トッカータとフーガニ長調を収録した盤。
Bach: Keyboard Works [Australia]Bach: Keyboard Works [Australia]
(2007/07/26)
Wilhelm Kempff



ゴルトベルク以外の上記のバッハ作品と編曲版の演奏が収録されている2枚組のDG盤(廃盤)。
これがDGに録音したステレオ期のバッハ作品をまとめて収録した盤。ただし、平均律だけは国内盤と比べて曲目が少ないので一部は収録されていないと思う。
Bach: Piano Works & TranscriptionsBach: Piano Works & Transcriptions
(1994/11/22)
Wilhelm Kempff

試聴する(米国amazon)

tag : ケンプ バッハ

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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