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バルトーク/ピアノ・ソナタ
伊東信宏著『バルトーク―民謡を「発見」した辺境の作曲家』を読んでいたら、1926年の夏に書かれた一連の草稿群がバルトークのピアノ書法を全く異なる次元へと高めたことが近年の研究で明らかになった、という記述がある。
この草稿群に書き留められた素材から、《ピアノ協奏曲第1番》、《ピアノ・ソナタ》、《戸外にて》、《9つのピアノ小品》が生まれている。いずれも民俗音楽を直接引用したものではないが、その影響はより深化していたという。
例えば、《ピアノ・ソナタ》の第3楽章と《戸外にて》の第3曲<ミュゼット>の関係。
ショムファイという研究者によれば、第3楽章のかなり長いエピソードが完成直前にカットされて、<ミュゼット>となった。重要なのは、この楽章自体は1つの旋律が民俗音楽のさまざまな演奏形態(声、笛、ヴァイオリン、バグパイプ)によって変奏されてゆくロンドとして構想されたという推論。バグパイプの部分はこの楽章に弛緩をもたらしてしまうので、やむなくカットして<ミュゼット>として独立させたという。
この推論どおりだと、民俗音楽が一連の作品に与えた影響は、表面的にはわからないかもしれないが、実際にはかなり深いレベルまで及んでいることになる。

《戸外にて》はこの前聴いたところ。確かに、<ミュゼット>の茫漠としたとらえどころのない雰囲気は、《ピアノ・ソナタ》の第3楽章とは相容れないところがある。
《戸外にて》の第4曲の<夜の音楽>では、トーンクラスターの響きを背景に、シク地方の民謡の旋律が流れていたりする。他の曲にも、表層と構造に民俗音楽研究の影響が現れているのかもしれない。


 ピアノ・ソナタ BB 88/Sz. 80 [ピアノ・ソナタの楽曲解説(ピティナ)]

バルトークのピアノ曲は、シャンドール、コチシュなどのハンガリー人ピアニストの録音が有名。
一番録音が新しいヤンドーの演奏は、力強くシャープな打鍵で克明にリズムを刻み、よけいな飾りのない引き締まった音で、音の粒が一つ一つ立ち上がってくるような切れの良さがある。

バルトーク:ピアノ作品全集 1 「ピアノ・ソナタ Sz. 80」/「組曲 Sz. 62」/「7つのスケッチ集 Sz. 44」/他バルトーク:ピアノ作品全集 1 「ピアノ・ソナタ Sz. 80」/「組曲 Sz. 62」/「7つのスケッチ集 Sz. 44」/他
(2001/10/01)
ヤンドー

試聴する(NAXOSサイト)

このアルバムには1900年代初めからピアノ・ソナタを作曲した頃くらいまでの作品が収録されている。
前半は抽象性の強いピアノ独奏曲(ピアノ・ソナタ、組曲、スケッチ集)だが、後半は民謡の旋律を素材にした曲集で、その対比が面白い。
特に、「シク地方の3つの民謡」の叙情的な美しさは素晴らしく、「民謡の旋律による3つのロンド」は素朴な民謡素材が自由闊達で洗練されたロンドに変わっている。


第1楽章 Allegro moderato
力強くも躍動的で軽快な曲。重音・和音のフォルテが主体なので、結構な力技がいりそう。
左手が規則的に精密な打鍵でリズムを刻み、その上を右手が同じようにリズムを刻んだり、断片的な旋律(全くメロディアスではないが)を弾いたりしている。
同じリズムのメカニカルな打鍵が続くと単調になりがちだが、左手が時々スフォルツァンドで弾く和音の荒々しさが、ガンガンと杭を打ち込むようにアクセントになっている。右手の旋律も、装飾音がかなり付いているし、ヤンドーのタッチがシャープで切れが良くて、とても軽快。
ところどころ変拍子になっているのも、リズム感が変化する不安定さが、かえって刺激的。
メロディアスではないけれど、全く無機的というわけでもなく、調性があることはあるが(ハ調にはなっている)、不協和的な響きも聴こえ、荒々しさの中にも、さまざまな響きが交錯した美しさがあって、これはかなり面白い曲。

第2楽章 Sostenuto e pesante
一転して、残響を長く残した単音と和音が組み合わせされて、ヘミオラが結構使われていたり、1拍目が休止になったりして、リズム感や拍子が曖昧な感じになる。右手が旋律らしきものを弾いてはいるが、対位法もあちこちで使われているので、伴奏と旋律というすっきりした形は消えている。どこかしら不安げな雰囲気のある曲。

第3楽章 Allegro molto
舞曲的な躍動感と疾走感で、今までの厳しさや不安げな雰囲気が払拭された、とても華やかな曲想の楽章。
第1楽章のように左手がリズムを刻み、右手が旋律らしき断片的なフレーズを弾いているが、旋律は主題部で提示されたものが変形され、時々別の民謡風の旋律が紛れ込んできたりする。
変拍子が多用され、テンポがたびたび変更されているので、リズムやスピードが伸縮して変化に満ちた雰囲気がある。
楽譜で数えてみると、テンポだけで10回指示されていて、さらにリタルダント、ラレンタンド、ストリンジェンド、アッチェレランドといった速度指示が頻出している。
音だけで聴くよりも、楽譜を見ながら聴いた方が曲のつくりが良くわかって、なるほどと思いながら聴いてしまった。

tag : バルトーク ヤンドー

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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