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フィルクスニー ~ マルティヌーのピアノ独奏曲
マルティヌーは作曲した作品数が400点以上にのぼるという多作家。マックス・レーガーも多作家だったが、2人とも多作のわりには有名な曲は少なく、演奏機会もそれほど多くはないように思う。
マルティヌーは今年が没後50年なので、平年よりはコンサートプログラムに載ることも多く、CDのリリース(新規、再販など)も良く見かける。

マルティヌーはヴァイオリン奏者だったわりには、意外とピアノ曲が多く、ピアノ作品は80曲あまり。
しかし、管弦楽曲や室内楽曲の影に隠れてしまい、ピアノ作品はさほど評価されてこなかったという。
友人のピアニストであるフィルクスニーの言葉によれば、マルティヌーはあまりにたくさん書きすぎてしまって、すべてが美しく作られてはいるが、全部がかならずしも等質ではないと言っていた。
そのなかでピアノ独奏曲の傑作といわれるのは、《幻想曲とトッカータ》(H281)と唯一の《ピアノ・ソナタ》(H350)。

《幻想曲とトッカータ》を献呈されたのは、同じチェコのピアニストのルドルフ・フィルクスニー。
彼の回想によると、《幻想曲とトッカータ》は、マルティヌーとフィルクスニーがナチスを逃れて南イタリアでアメリカへ渡航できるのを待っていたときに作曲されたもの。
マルティヌーがフィルクスニーに贈ったもののなかでも、”最も美しい贈り物”だという。
初演は1943年2月2日にフィルスクニーがNYのタウンホールで行っている。フィルクスニーはマルティヌー作品の熱心な紹介者でもあり、演奏会のプログラムでも度々この曲を弾いていた。

1954年に作曲された《ピアノ・ソナタ》はマルティヌーの主要なピアノ独奏曲のうち、最大規模で最後に書かれたもの。
親しい友人であったルドルフ・ゼルキンに献呈されているが、初演は知人のチェコのピアニストによって、1957年12月3日のチェコ・ブルーノ市で行われている。
ゼルキン自身は初演の翌日にニューヨークでこの曲を演奏し、リサイタルでベートーヴェンのハンマークラヴィーアを弾く前の曲として、このソナタを良くプログラムに載せていたという。

フィルクスニーのマルティヌー・ピアノ作品集のなかにも、この《幻想曲とトッカータ》と《ピアノ・ソナタ》が収録されている。
このアルバムは、1988年録音の5曲の独奏曲集と、1993年録音のピアノ協奏曲が3曲(第2~4番)が収録されていて、75~80歳という最晩年のフィルクスニーのとてもそんな高齢で弾いているとは思えない演奏が聴ける。
独奏曲集の方はさほど技術的な衰えを感じさせないが、それより5年後に録音したピアノ協奏曲の方は、さすがに力感・量感・スピードの面で高齢の影響を感じてしまうところがある。
フィルクスニーは昔からマルティヌーをよく弾いていたわりには録音があまりなく、もっと若い全盛期に録音しておいて欲しかったけれど、最晩年とはいえ、それでも録音を残してくれただけでも良かったといえば良かった。
この時期の録音が数多くリリースされているので、チェコが民主化され始めてからはチェコへ度々訪れては録音をしていたようだ。

ジャケットデザインやケースのつくりはとても洒落ているけれど(紙ケースの両開きタイプ)、ブックレットがなく、一面にフィルスクニーの話しと簡単な曲目紹介があるのみでやや不親切。
曲目解説は、NAXOSのNMLに載っているので、それほど詳しくはないけれど参考になる。

Martinu: Piano Concertos 2Martinu: Piano Concertos Nos. 2, 3 & 4 , Piano Pieces
(2003/04/07)
Firkusny(piano), Pesek (conductor), Czech Philharmonic Orchestra

試聴する(フランスのamazonサイト)


全体的に、フィルクスニーの柔らかいタッチと響きで弾かれ、やや霞がかかったような曖昧模糊とした雰囲気が漂っている。
このアルバムに収録されている曲は、歌謡性のある旋律を歌わせるような曲ではなく、複数のパターンの音型の反復や、和音を多様した和声の美しさが特徴的な曲が多いこともあって、わりと似かよった曲想に聴こえてくる。この曲集を1度や2度聴いただけでは、ポルカ以外の曲はどの曲か識別するのが結構難しい。

どの曲も、断片的ではあっても旋律や和声はとても美しく、パリに暮らしていてルーセルから影響を受けたこともあるせいか、フランス風の音楽(ドビュッシーとプーランクを足して2で割ってルーセル風の明るいフレイバーを利かせたような)に、ミニマリズムやオスティナート、変拍子といった現代的なものをブレンドし、時にはチェコの民謡的なリズムや旋律(と思われるようなもの)を素材にした面白い作風には思える。
管弦楽曲を聴いた時に感じた独特の音階を使ったフレーズやリズム感にミニマル的な反復、厚みのある響きは、やっぱり独奏曲でも現れている。


リトルネルロ集~アンダンテ/アンダンテ・モデラート/間奏曲第1番/アンダンテ/
 間奏曲第2番/アレグロ・ビーボ

独特の和声の響きとリズム感に叙情性がブレンドされていて、軽妙だけれど不可思議さやひそやかを感じさせる。
第6曲だけはアレグロ・ビーボとテンポが速く、軽快なリズム感にコラージュのようにいろんなモチーフが錯綜している。ところどころドビュッシーの《グラドゥス・アド・パルナッスム博士》を連想させるようなところがある曲。

幻想曲とトッカータ
複数の短い曲で構成されるのが特徴的なマルティヌーのピアノ独奏曲にしては、珍しく比較的長い2楽章構成。こういう形式の曲は他には後年の《ピアノ・ソナタ》しかないらしい。
第1曲の<幻想曲>は、冒頭からやや不安げな上昇調のスケールで始まり、これが度々途中で現れながら、とらえどころのないいろんなモチーフが次々と現れ、タイトルどおり絶えまなく変幻するファンタジックな曲。フィルクスニーの柔らかい響きもファンタジーによく似合っている。
第2曲の<トッカータ>は、細かいパッセージが積み重なって躍動感が強まっているけれど、曲想自体は幻想曲によく似ている。

ピアノ・ソナタ
《幻想曲とトッカータ》よりも和声の厚みが増してはいるが、細かいパッセージのいろんなモチーフがコラージュのように現れる不可思議な雰囲気は相変わらず。第3楽章は和音の連打とちょっと変わったリズム感で、ややいかめしいところのある曲想。

歌劇「ジュリエッタ」から<モデラート>(第2幕第3場)
歌劇の一曲をピアノ編曲した(らしい)もので、さすがに旋律がかなりメロディアス。

練習曲とポルカ(全3巻計16曲より抜粋)~練習曲ハ長調/ポルカ・ヘ長調/練習曲イ長調/
 パストラーレ/練習曲ヘ長調/ポルカ・ホ長調/ポルカ・ニ長調/ポルカ・イ長調/練習曲ヘ長調

この曲集は、フィルスクニーが1946年4月にカーネギー・ホールで初演。 戦後のマルティヌー作品に良く見られるオプティミスチックな明るい雰囲気と故郷への郷愁に満ちている。
ポルカは元々19世紀のボヘミア地方の音楽に由来し、チェコの民謡で良く見られるイディオム
練習曲の方はテンポの速い技巧的な曲が多いが、パストラーレとポルカは、チェコの民謡を素材にし叙情的な旋律がとても美しい曲で、このアルバムの中では最もストレートにロマンティック。


                                 

NAXOSからは、マルティヌー・ピアノ作品全集がリリースされていて、《幻想曲とトッカータ》は《ピアノ・ソナタ》は、Vol.3に収録されている。
タッチも強くシャープで強弱のコントラストも明瞭で、メリハリをよくきかせた演奏。
はじめて聴くとわかりやすい演奏に思えたけれど、不可思議さのある幻想的な雰囲気はフィルスクニーよりも薄くて、やはりフィルクスニーのピアノには独特の味わいがある。

マルティヌー:ピアノ作品全集第3 集マルティヌー:ピアノ作品全集第3集
(2007/11/14)
コウクル

試聴する(NAXOS)

tag : マルティヌー フィルクスニー

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
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