ケンプ ~ モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番 

2009, 07. 30 (Thu) 18:43

ストラヴィンスキーの『プルネチルラ』と『イタリア組曲』のつぎは、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番を聴けば、気分もすっかり晴れやか。
めったに聴かないモーツァルトのなかで、例外的によく聴くのはピアノ協奏曲の第20、23。たまに21、24、25、27番も。
とりわけ第20番と第23番が好きなので何種類かCDは持っていても、聴くCDはだいたい同じ。第23番は昔から若い頃のポリーニ(ベーム指揮ウィーンフィル)、最近はケンプも(ライトナー指揮バンベルク響)。

好きなピアニストでモーツァルトのコンチェルトの録音があると、第20番と第23番(たまに第24番)があればほとんど聴いている。なぜかアラウは全然コンチェルトを録音していなかったのが、とても残念。
ケンプのピアノ協奏曲の録音は、第8、9、15、20、22、23、24、27番があって(他にもあるかも)、指揮者とオケが違う。
このCDはライトナー指揮で録音した3曲を収録。1960~62年の録音なのでケンプ65~67歳の時のもの。ケンプのモーツァルトはモノラル時代とステレオ時代では、大分演奏スタイルが違うらしい。
1953年に録音した22番(ヘッセン指揮フランクフルト放送響)などは、まるでベートーヴェンかと思わせるような雄弁さがあるという。
1955年カラカスでのライブ録音の20番になると、音質が悪いせいもあるが、弱音のタッチや響きが後年ほどには美しくはなく、起伏は大きくフォルテは力強いが、ちょっと荒っぽい気がしないでもない。
そもそもライブだと、スタジオ録音よりもずっとテンペラメントを感じさせる弾き方をしていたらしい。
幸いにしてというべきか、この23番の演奏はその2つの演奏とは正反対。

Mozart: Piano Concertos no 8, 23 & 24 / Wilhelm KempffMozart: Piano Concertos no 8, 23 & 24
(2000/01/11)
Wilhelm Kempff, Ferdinand Leitner, Bamberg Symphony Chorus, Berlin Philharmonic Orchestra

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第23番の冒頭のピアノの柔らかいコロコロと丸みのある弱音の響きを聴いただけで、もうこの演奏は素晴らしいに違いないと確信してしまうほど。ケンプの弱音の美しさに一度はまってしまうと、なかなか抜けられません。

ケンプの弾く23番のコンチェルトは、ポリーニの若々しく透明感のあるクリアな演奏ではなくて、淡い光がさしこむ落ち着いた佇まいで、遠く過ぎ去った昔を回想しているような独特の雰囲気がある。
ケンプの音には温もりと哀感が交錯したような複雑なところがあって、モーツァルトやシューベルトには特に良く似合っている。

第1楽章は、ケンプは弱音域で弾いているところがかなり多い。
この弱音の響きの豊富さと、時々響きを重ねるようにするペダリングで、音が微妙に変化していく。
レガートはビロードのように繊細でなめらかで、とても柔らかくて優しげな表情に満ちた第1楽章。
ライトナーの指揮するベルリンフィルの伴奏も、ケンプのピアノの弱音をかき消さないように、ピアノと重なるところはかなり音量を抑えて控えめで柔らかさのある伴奏。オケだけで演奏しているところは、結構キビキビと切れもよいので、要所で引き締まっている。
第1楽章のカデンツァは、珍しくケンプ自作のものではなく、モーツァルトのカデンツァを弾いている。

第2楽章のピアノは、淡々とした弾きぶりで、訥々としたさりげなく流れ出てくる哀感が美しい。ポリーニのピアノには、ある種の無機的で硬質な透明感があるが、ケンプは全く逆で、心の中に触れてくるような親密感がある。

第3楽章は、軽いスタッカート気味の柔らかいタッチが、まるで羽毛がふわふわ飛び交っているように、とても軽やか。
ポリーニのような元気溢れる弾けるような躍動感ではなくて、過去の幸福な記憶を思い起こして自然に心弾んでくるような和やかさ。ときおりフォルテになるところでは、それほど強く打鍵せずとも、弱音を多用しているせいかコントラストがよくきいて、力強い感じがする。

この曲はケンプの弱音の美しさがとても良く映えて、これほどの弱音の世界をつくれるピアニストはそう多くはいない。
リヒテルは、ピアノで大事なのは、フォルテではなくピアノ(弱音)だと言っていたし、ミケランジェリも弱音に対する感受性をとても大事にしていた。ケンプは歳をとるにつれ、奏法を変えていったようで、弱音の美しさは晩年に近づくほど磨かれていったような気がする。
モーツァルトなので技巧的にそれほど難しいわけでもないし、ひたすら精神を集中して肩の力の入った風でもなく、苦労せずに弾いているように感じさせるところがあるけれど、弱音の響きの美しさやニュアンスの豊富さといい、レガートの流麗さといい、ケンプの精緻なコントロールは素晴らしくて、どんなタッチで弾いているのだろうかと不思議に思えてくる。

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2 Comments

西村和子  

ピアノのタッチ

 私はヴィルヘルム・ケンプの昔からの大ファンです。40年ほど音楽から遠ざかっていて、今再び聴きだすと、やっぱりケンプでした。聴くたびに同じピアノ(勿論製作会社は違いますが、)なのにどうしてこんなに美しい音色が、どうしてこんなに多彩な音色で弾くことが出来るのか。いつも不思議です。いつも聞くたびに感嘆の声を上げてしまいます。そのPP,あるいはPPPの美しさ、優しさ!比類なく美しいです。毎日聴かずにはいられないくらいですね。偉大なピアニスト、不世出のピアニストだと思います。

2013/11/13 (Wed) 20:07 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

美しく気品のある音色ですね

西村和子様、こんにちは。
ご訪問、コメントありがとうございます。

ケンプのピアノの音は、本当に類まれなる美しさですね!
ミケランジェリ、ブレンデルや他にも色彩感豊かな音色をもつピアニストはいますが、ケンプの音の繊細さとニュアンスの微妙さ、それに気品の高さにはかまわないように思います。美しいレガートも素晴らしいです。
ケンプはミケランジェリのようにピアノ自体に拘っていたわけではないようですが、それであれだけの美しい音色が出せるというのは凄いことですね。
ケンプの録音は、バッハやベートーヴェンを主に聴いていますが、シューベルトがケンプの音色に一番似合っているような気がします。

2013/11/13 (Wed) 20:23 | EDIT | REPLY |   

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