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クラム/ヴォクス・バレネ (鯨の声)
たまたま見つけたジョージ・クラムの《Vox Balaenae》 (ヴォクス・バレネ:”鯨の声”)。
アップショウのアルバムでクラムの《Night of the Four Moons》(4つの衛星の夜)を聴いて、シェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》風の曲だったので、クラムを避けた方が良い作曲家リストに入れてしまってから、全く縁がなかった。

調べてみると、クラムは現代音楽作曲家の中でもかなり演奏機会が多いらしく、幻想的で響きの美しい作風に人気があるという。
《Vox Balaenae》を聴くと、それも納得。《Night of the Four Moons》とは作風が違っていて、かなり聴きやすいし、不協和音の世界といっても独特の美しさがある。

クラムの曲には、面白いタイトルのものが多い。代表作のうちでも、
 Black Angels(1970):クロノス・カルテットの演奏で有名で、”for Electric string quartet”とあるとおり
               電気的に増幅して弦の響きをゆがめたオカルトっぽい曲という。
 Vox Balaenae(1971):ラテン語で”鯨の声”。
 Makrokosmos:全4巻。バルトークの《ミクロコスモス》をもじったタイトルが面白い。
           第1巻と第2巻はアンプリファイド・ピアノによる演奏。
           五線譜が円形や十字架状にデフォルメされた変形楽譜なので譜読みに苦労しそう。
 Star-Child(1977):グラミー賞を受賞した合唱曲。同じくグラミー賞を獲得したラウタヴァーラの
             《光の天使》を連想してしまった。これも合唱曲。


《Vox Balaenae》は現代音楽にしては録音がわりと多いので、かなり人気があると思う。
知っているアーティストの録音がないときは、BISかCHANDOS盤を選ぶことが多いが、この盤はジャケット・デザインが良くて(演奏には全然関係ないけれど)、カップリングのケロッグの《Divinum Mysterium》をシャンティクリアが歌っているので。

BeginningsBeginnings
(2004/05/18)
Eighth Blackbird

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Vox Balaenae for Three Masked Players (1971)

”アンプリファイドされたフルート、チェロ、ピアノのための”曲で、テープに録音されたザトウクジラ(humpback whale)の歌にインスパイアされて作曲したもの。
”Three Masked Players”(仮面をかぶった演奏者)というのは、個々の人間を超えた自然の強大な力を象徴的にあらわすためだという。
この曲は、プロローグ(Vocalise)、地質年代にちなんで名づけられた変奏曲群、エピローグ(Sea-Nocturne)の3部構成。
変奏曲の標題である地質年代のイメージがわかないので、調べると”地質年代区分別の生物進化”という表がありました。これで、曲想と標題の関連性が多少なりともイメージできるかも。

Ⅰ Vocalise (...for the beginnig of time)
尺八のような響きのフルートのソロが主体の楽章。
ザトウクラジの歌のイメージというのは、こういうものかと思う不思議さ。クジラは図体が大きいだけにイルカのキーキーという声とは違う。
尺八のような響きの楽器を聴きなれない人なら、とてもエキゾティックに聴こえるかもしれないが、とても馴染みがある音と節回しなので、逆に幻想性が薄れて聴こえる。
中盤で少しだけ、ピアノとチェロが厳つい雰囲気の断片的なフレーズを弾いている。
フルートを聴いていると、子供の頃に良く見た時代劇(座頭市や木枯らし文次郎とか)で、尺八を吹きながら竹林を静かに歩く虚無僧のイメージが目の前に浮かんできて困ってしまった。

Ⅱ Variations on Sea-Time: Sea Theme
時間が止まったように流れる光の届かない深海のような感じ。重苦しくて、音がほとんど聞こえない世界。

Ⅲ Variations on Sea-Time: Archeozoic(始生代)
キーキーというカモメみたいな声のフルートで始まる。始生代という微生物の時代なので、アメーバみたいものが徐々に増殖してくるイメージなのか、やや不気味な音がする。

Ⅳ Variations on Sea-Time: Proterozoic(原生代)
単細胞生物から多細胞生物へと進化していった時代。
ここも尺八風フルートで始まる。チェロも似たような旋律をポロンポロン弾いている。
この楽章は何かが始まりそうな静けさが満ちている。

Ⅴ Variations on Sea-Time: Paleozoic(古生代)
古生代は生物・植物が進化を遂げつつ、海から陸へと上陸していく時代。
冒頭のピアノが力強い和音で始まる。ピアノの音が電気的に増幅されているので、ガラスのような突き刺すような冷たい透明感と鋭く硬い響きがとても美しい。

Ⅵ Variations on Sea-Time: Mesozoic(中生代)
ピアノ、チェロ、フルートがフォルテでテンポも速く協奏する。
ピアノが伴奏的になっているが、とても雄弁で躍動感がある。チェロとフルートが弾いている旋律を撹乱するように、不規則なリズムの断片的なフレーズが散りばめられている。
中生代は恐竜の時代なので、極彩色のようなカラフルさと、混沌としたワイルドさのある楽章。

Ⅶ Variations on Sea-Time: Cenozoic(新生代)
アタッカで前章から続いていたピアノが突然鳴り止み、フルート、ピアノ、チェロと順にソロで弾いていく。
恐竜が絶滅して人類が繁殖していく時代なので、テンポを落として緩慢で静かな雰囲気に。
動きは鈍くなるが、かなり音の種類とフレーズのパターンが広がり、最後は鐘の音のような音も聴こえて終わる。

Ⅷ Sea-Nocturne (...for the end of time)
静けさのなかで、口笛のようなかすかな響きの旋律をフルートが吹いている。
ピアノがその旋律を背景に弾き始めて、時折、フルートと一緒に突発的なスフォルツァンドで弾いている。
ピアノの音は鋭く透明感があるが、Paleozoicの時とは違って、とても暖かみのある音色になっている。
やがてフルートとチェロが入ってきて、やや不協和的な響きではあるが、とても美しく幻想的な三重奏になり、徐々にテンポを落として、海のノクターン風な曲想に。
最後には順に、不気味な低音のピアノの響きとチェロの断片的な旋律、そして、海の中でエコーしているようなフルートのか細い口笛のような音。トライアングルのような音が入り、ファンタジックな旋律を静かにピアノが弾いて終える。
最後は全てが消滅するように終っているのは、”...for the end of time”というサブタイトルどおり、地球上の生命が絶滅するときか、地球の星としての寿命が尽きるときのイメージだろうか。

フルートが主に旋律を弾いているが、ピアノは旋律を弾いたり、伴奏(といってもかなり雄弁)に回ったりして、ピアノのウェートがかなり大きい。チェロはそれに比べてかなり地味に聴こえる。
音がいろんなイメージを喚起する力の曲で、特にピアノ、フルートの音のバリエーションが幅広く、旋律のパターンもかなり変化する。
不協和音的な世界ではあるけれど、音がイメージしているものを考えたりしていると、かなり面白く聴ける。
この曲を聴くと、クラムの作品をいくつか聴いてみたくなったので、バルトークを最近良く聴いていることもあって、次は《マクロコスモス》に。

                                  

現代音楽から突然話がとんで映画の話。
”ザトウクジラの歌”ですぐ連想したのはスタートレック(ネクスト・ジェネレーションの方ではなく、初代の)の映画。
クラムの住んでいる米国だと、鯨のなかでも特にザトウクジラに人気があるらしい。
日本人だと、マッコウクジラの方が馴染みがあると思うけれど、これは捕鯨国だからかもしれない。
スタートレックの映画シリーズ第4作《故郷への長い道》は、そのザトウクジラの歌をテーマにした映画で、トレッキーでなくてもわかりやすいストーリーで、なによりザトウクジラを登場させたのがよかったせいか、大ヒットした。
数あるスタートレックの映画のなかで、《ファースト・コンタクト》と並んで(それ以上かも)最も人気がある。

ストーリーは、突如、謎の生命体(実は、映画第1作で登場した宇宙探査機ヴォイジャー)が地球を強力な電磁波で襲い、地球の大気はイオン化されすべてのシステムが停止してしまった。ヴォイジャーは昔から交信していたザトウクジラが音信不通となったため(絶滅してしまったので)、安否を確かめに来たのだった。
前作でいろいろすったもんだして生き還ったスポックとカークたちエンタープライズ号のクルーは、ヴォイジャーとコンタクトできるのは歌うザトウクジラだけと知り、地球上にまだザトウクジラが存在した1986年へタイムトラベルを敢行。(クジラなら何でも良いわけではないというところがポイント)
無事、ザトウクジラのペア2頭をカークの時代の未来の地球へ連れて戻り、海を泳ぎながらザトウクジラが歌うのを聴いたヴォイジャーは地球への攻撃をやめて、立ち去っていくという、とても単純で、STシリーズらしく幾分荒唐無稽なストーリー。
タイムトラベルというストーリーと明るい色調とややコミカルなところが好きで、スタトレ映画中一番良く観た映画。DVDを持っているので、また観たくなってしまった。

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音楽はレナード・ローゼンマンが担当。ジェリー・ゴールドスミスが作曲した映画第1作《The Motion Pictuer》のメインタイトルとは作風が違うが、それと同じくらいに良い曲だと思う。マーチ風の軽快で明るい曲想で、ポジティブな雰囲気と親しみのもてる美しいメロディがとても印象的。

これは、スターとレックのTV・映画シリーズから代表的な曲を収録したベストアルバム。
2曲目が、ジェリー・ゴールドスミスが作曲した”The Motion Pictuer”(映画第1作)のメインタイトル。
7曲目が、”The Voyage Home”(《故郷への長い道》のメインタイトル)。

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(2003/11/11)
Various Artists

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ブラック・エンジェルズは知ってます
ちょっと間が空きましたね。うじゃくでございます。

ジョージ・クラムは自分のサイトにリンクされている方の紹介で知りました。ブラック・エンジェルズは組曲みたいなもので一つ一つの曲は短いですが、銅鑼のような音が鳴ったりしてなかなか楽しいですよ。
クラムはいろんな作風があるので
うじゃく様、こんにちは。

「ブラック・エンジェルズ」というタイトルと紹介文を読むと、なんとなく電子音楽・実験音楽の雰囲気がしてきますね。
クラムは作風にバリエーションがあるので、どの曲を聴くかで印象が全く違います。印象主義風の無調の曲なら、聴けないことはないんですが。

クロノス・カルテットは何枚もCDを買っては挫折した経験があるので、なによりもクロノスが録音している曲というので、ちょっと危険信号が...。
どこかで試聴ファイルを見つけて、一度聴いてみます。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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