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セーケイ・ユーリア著 『バルトーク物語』
バルトークの伝記は数種類出ているが、この『バルトーク物語』は、リスト音楽院でバルトークに師事していた著者が、主にバルトークの幼少期~ハンガリーを出国して米国へ移住するまでの音楽活動についてまとめたもの。
著者が「伝記ではなく肖像画」と書いているように、訳文が”ですます”調なところも相まって、事実を積み重ねた伝記風という感じではなく、著者が直接見聞きした様子も交えて、バルトークのいろいろな側面を伝えているという物語。
弟子としての尊敬と愛情の念が伝わってきて、バルトークの謹厳実直な人柄と、音楽に対して厳しい完璧主義者であり革新者であっというところが良くわかる。
ただし、弟子が師について書いているので、あまり触れたくなさそうなところはオブラートに包んでいるような書き方をしているので、他の伝記も読みたくなってくる。

バルトーク物語 (音楽選書)バルトーク物語 (音楽選書)
(1992/04)
セーケイ ユーリア

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特に細部が詳しくて面白いのが、リスト音楽院時代のバルトーク。これは学生時代と教授時代の2つの時代があって、学生時代からピアニストとしては抜きん出た才能があり、作曲の方は教授と相性が悪かったらしいが、結局”優”をもらったという。

教授時代はピアノを教えていて、作曲の教授はコダーイが担当していた。
著者が直接ピアノの教えを受けていたこともあって、バルトークが実際にどういう教え方をしていたのかということが、まるで自分がその場にいるかのようにリアリティがある。
バルトークは他の教授と違って、教える学生の数を少なく抑えて、学生一人当たりのレッスンの時間を30分から1時間半くらいとっていた。
言葉で説明するよりも、自らが弾いてみせるという教え方が多かったという。学生がどんな曲を練習用にもってきても、バルトークは暗譜で弾いていた。
元から寡黙な性格だったのもあるだろうけれど、ピアニストとしても優れていたので、言葉よりも実演の方が言わんとしていることが伝わったのかもしれない。
テクニカルな面については教えず(それは学生自身で習得する道を探すしかない)、形式感、リズム、強弱を重要視して、学生がうまく弾けていなければ、同じ部分をできるまで何度も何度も繰り返し、練習させたという。

ショルティもバルトークのピアノの授業をとっていて、その様子がショルティの自伝で書かれていたが、バルトークは自分の作品(このときはアレグロ・バルバロ)を学生が弾くのをとても嫌がっていたように書かれていた。
本書でも、そういうシーンはあるけれど、結局、バルトークの作品を練習するなら何が良いかと聞かれて、バルトーク自身は《子供のために》を弾くことを学生に勧めている。
バルトーク作品でレッスンを受けることできた学生はあまりいなかったそうなので、これはとてつもなく幸運といえる。
《子供のために》のレッスンでは、普段は笑顔など滅多に見せないバルトークが、楽しそうに教えていたという。
いつもは自らが弾いて教えるのに、このときは言葉でいろいろ説明しながら教えていたというから、やはり自作については拘りがあって、演奏解釈を正確に説明しておきたかったのだろう。

コダーイと共に行った民謡収集は有名で、コダーイの研究論文に感動して、読んだとたんで当時はまだリスト音楽院の学生だったコダーイにすぐに会いに行った話や、それまでさほど評価されていなかったリストのピアノ曲を演奏会で弾いてその解釈に聴衆が感動したとか、リヒャルト・シュトラウスの曲に感動して楽譜からオーケストレーションを研究したり、ドビュッシーの音楽に引かれたりと、バルトークの音楽的な遍歴が詳しく書いてあるところが面白い。

バルトークが亡くなった後、妻でピアニストのディッタはハンガリーに帰国してひっそりと暮らしていたが、やがてバルトーク作品の演奏会を行い、《ミクロコスモス》全6巻の録音をリリースしている。
2番目の妻ディッタとの間の子供である次男はレコード会社に勤めていて、父親の演奏した録音テープをあちこちのレーベルから探しだしてきて、散逸するのを防いだという。

tag : バルトーク 伝記・評論

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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

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