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ツィンマーマン&パーチェ ~ バッハ/ヴァイオリンソナタ全集
バッハの《ヴァイオリン・ソナタ》の鍵盤楽器パートは、ヴァイオリンがピリオドかモダンかに関わらず、大半の録音はチェンバロ。
チェンバロではなくピアノ伴奏の録音はないかと思って探してみると、古いところでは、メニューイン/ケントナー、ラレード/グールド(これはまるで弦のオブリガートつき鍵盤ソナタの風情らしい)、比較的新しいのは、テネンバウム/カップ、ムローヴァ/カニーノの録音などあまり多くはない。
このヴァイオリン・ソナタをチェンバロではなくピアノで演奏するというのは、古楽演奏の流行に関わらず、昔も今もやはり稀なスタイルらしい。

それでもあえてモダン楽器のみで録音しているのが、ツィンマーマンとパーチェ。スタジオ録音のCDと、その後にライブ録音したDVDの2種類がリリースされている。
このパーチェというピアニストは聴いたことがないし、他の録音もほとんど見当たらない。プロフィールを調べると、ソロとともに室内楽にも取り組んでいて、ツィンマーマンとは1997/98年シーズンからデュオをしている。
パーチェのプロフィールを見つけて、写真を見ると映画「トスカニーニ」に出ていた時のトーマス・ハウエルに良く似ているような...。1989年の国際フランツ・リスト・ピアノ・コンクールで優勝、当初はリストのスペシャリストと見なされていたので、技術的にはかなりしっかりしている。Youtubeには、リストコンクールの優勝者という経歴のせいか、演奏映像がいろいろ登録されていて、リストでもラフマニノフで、力まずスイスイと弾いているところが面白い。

このCDは、数楽章の冒頭を試聴しただけで直観的にピタッと合うものを感じたので、すぐに購入。

Bach Sonaten Fr Violine und Klavier BWVヴァイオリン・ソナタ第1番~第6番 ツィンマーマン(vn)パーチェ(p)(2CD)
2007年12月03日
フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン), エンリコ・パーチェ(ピアノ)

試聴する(HMV)[国内盤にリンク]


この演奏は、2006年11月、ドイツのグリュンヴァルト音楽学校アウグスト=エファーディンク=ザールで録音されている。
録音は残響が短めで、ヴァイオリンの硬質な引き締まった音が澄んでいるし、ピアノのコロコロと丸みのある音が柔らかく響いて、とても綺麗。
演奏の色調は明るめで、速めのテンポで軽やかで切れがあり、なにより推進力と躍動感があって、表情もよく変わり、とても生き生きとしている。
パーチェのピアノは特に強い個性を出しているわけではなく、2人の呼吸が自然に合って、ヴァイオリンの細やかな表情の変化にピアノがぴったりとあわせていて、これがヴァイオリンと対等と思えるくらいの存在感がある。
ムローヴァ/カニーノの演奏だと線がやや細くしっとり叙情的な雰囲気で、ピアノはさほど目立たず伴奏に回っているという感じがする。それを聴いた後だと、ツィンマーマン/パーチェの生気溢れる演奏がとても爽やか。

ツィンマーマンが弾いているのは、クライスラーが所有していたこともある1711年製ストラディヴァリウス(Lady Inchiquin)。ちょうどバッハがこのソナタを作曲している時期に製作されたヴァイオリン。
ツィンマーマンの話だと、たいていのヴァイオリンは数日あれば弾きこなせるが、このストラディヴァリウスは何年もかかったという。まろやかな音は優しく繊細で、2001年から弾き始めてもう「私の一部ですよ」というくらいとても強い愛着を持っているのがわかる。本当に品の良い音がする。
ツィンマーマンはわりと短めのフレージングで歯切れ良く、あまり強い余韻を残さずに音がすっと空中に消えていくな感じで、かなりすっきりと軽やかさのある音。
技巧派のイメージが強いので急速楽章のシャープさも良いけれど、意外と緩徐楽章で静かに深い叙情感を感じさせるところがとても美しい。
このところ、スークのゆったりしたテンポでヴィブラートが綺麗な幾分ロマンティックな演奏を聴いていたので、かなり印象が違う。
ヴィブラートもかかってはいるがそれほど強い感じはしないので、優美さや華麗さは控えめ。明るい色調でシャープな切れの良さと、余計な修飾のない端正さが混ざり合っていて、かなり好みに合っている。

このツィンマーマンのヴァイオリンにとてもよく似合っているのが、パーチェの弾くピアノ。
この2人は98年以来ずっとコンビを組んでいるので、呼吸がぴったり合っている。ピアノ伴奏だと、チェンバロ伴奏とは全然違ったように聴こえてくるのが面白いし、他の録音のピアノ伴奏と比べても、パーチェのピアノはとても印象的。
DVDのライブ録音ではスタインウェイを弾いていたが、このスタジオ録音はそれとは違った音がする。調律のせいか、ピアノ自体が違うのかはよくわからない。パーチェは古いイタリア製のピアノを弾くというから、そのピアノなのかもしれない。響きが短くフォルテでも濁りがないし、音がとてもまろやかな。スタインウェイのような煌びやかさや重みが薄くて、軽やかで奥ゆかしくて品の良い音がする。ツィンマーマンのヴァイオリンの音と親和性が高く、とても響きが心地よい。

チェンバロと違ってピアノで演奏していると、チェンバロではわかりにくかった声部の動きや和声の響き・推移が明瞭に聴きとれる。ヴァイオリンとピアノ(2声)のあわせて3声が独立分離して明瞭に聴こえてくるので、各声部のからみがよくわかる。
ピアノで弾くバッハならレガート系の弾き方が好みだけれど、この曲に関してはパーチェのノンレガート主体の弾き方が正解。ペダルもほとんど使っていないので、残響の少ない音で濁りもなく旋律がとても鮮明に聴こえる。
パーチェのタッチはノンレガート主体であっても、グールドのような鋭いスタッカート的なタッチではなく、とても柔らかく軽やか。響きは柔らかくコロコロとした丸みもあって心地良い。
旋律によっては、レガートとレガートに近いノンレガートもとりまぜながら、ヴァイオリンの絹のように繊細な響きによく調和させている。
緩徐楽章では、レガート主体の伴奏で叙情的な旋律を弾くヴァイオリンを支え、アレグロやプレストの楽章では、ノンレガートの軽快なタッチでリズム感が良く、時には強めに打鍵して量感・力感を出して弾いたりと、さらりと弾いているようでも、かなり表情豊か。特に好きな第1番の第2・第4楽章、第3番と第4番の第4楽章など、テンポの速い楽章は、音楽が淀みなくなく流れ、生き生きとした躍動感がとても気持ちよい。
ヴァイオリンの動きに合わせて、左手低音部のリズムを強めに弾いたり、伴奏に回って弱音で副旋律を弾くときもあれば、ヴァイオリンとデュオするように明瞭なタッチで弾いたりと、ヴァイオリンとのバランスで、ピアノの2声ある旋律の弾き方を変えているのが面白い。

チェンバロとピアノによる伴奏の両方を聴いていると、テンポ設定やアーティキュレーションの違いがよくわかって、とても面白い。
ピアノ伴奏とは全く趣きの違うチェンバロの音色や弾き方が、とても新鮮に聴こえてくるので、両方の楽器で聴くのも楽しいもの。
このピアノ伴奏盤は、パーチェの弾くピアノがとても良く、稀な演奏スタイルということもあって、古楽演奏にこだわらずピアノで弾くバッハのヴァイオリン・ソナタを聴いてみたい人には、かなりおすすめ。
スタジオ録音の演奏は、ライブ録音よりも彫りが深く、推進力とテンションの強さを感じさせるし、ピアノの音はこちらの方がずっと良いけれど、ライブ録音の方は、ライブ特有の明るい躍動感があるし、2人の弾き方や呼吸のあわせ方がしっかり見れる。もうこれはCDとDVDの両方とも持っておくしかないような...。

                                  

このヴァイオリン・ソナタ全集のライブ映像を録音したDVDもリリースされている。
このDVD映像は、以前NHK-BSでも放映されていたので、放映時のブログ記事があちこちに載っている。いくつか読んでみたけれどとても好評だった。

CDとは音源が違っていて、こちらは2008年5月にドイツのポリング修道院図書館で収録されている。
演奏風景以外にも、ツィンマーマンがバッハ演奏に対する考え方などを語ったドキュメンタリー「バッハと私」が特典映像になっている。
このDVDのプロモーション用映像をnaxosvideosがYoutubeで公開している。
コンサートホールと違って、この修道院図書館は自然な光が差し込む白を基調とした明るい空間。木製の階段の色合いもシックで、天井などあちこちに美しい彫刻が施され古い歴史を感じさせる落ち着いた雰囲気が、バッハの曲によく似合っている。
”譜めくリスト”がいないのでパーチェが自分で譜めくりしているのが面白い。
ツィンマーマンは、いつもながらやっぱりきちっとした真面目な弾きぶりだけれど、深く感情移入したような集中力を感じさせる。
一方、パーチェは、ツィンマーマンの方を時々見やりながら、ピアノを弾くリズムに合わせて小さく身体を動かせて、とても気持ち良さそうに弾いている。テンポの速い長調の楽章になると、ニコニコして本当に楽しそう。CDを聴いていても、パーチェのピアノにはそういう雰囲気を感じるものがある。
曲が高揚していくと、何度か2人がシンクロするような身体の動きをみせるところが面白い。
10年近くペアを組んでいるこの2人は、一見して性格的には違うタイプのような感じがするけれど、音楽的には良い組み合わせなのに違いない。

Sonatas for Violin & Piano Bwv 1014-1019 (Ws) [DVD] [Import]Sonatas for Violin & Piano Bwv 1014-1019 (Ws) [DVD] [Import]
(2009/05/26)
Pace, Zimmermann

商品詳細を見る

日本のamazonだとリージョンコードが”1”と表示されているが、HMVや海外サイトでは”Region All”。amazonが販売している輸入盤のDVDではそういうケースをいくつか見かけた。輸入盤なので日本語の吹き替え・字幕はなし。

tag : ツィンマーマン パーチェ バッハ

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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