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9月にリリースされるバッハのピアノ曲録音
9月にリリースが予定されているバッハのピアノ曲録音のCDには、ポリーニ、シフ、ペライアの最新録音が入っている。このクラスのピアニストのバッハの録音が、1ヶ月の間に3つもリリースされるというのは、そう度々あるものではない気がする。
特に、ポリーニの「バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻」は予約受付開始後間もなく、HMVではセールスランキングの上位にも入っているので、知っている人も多いはず。ポリーニとバッハとはどうも結びつきにくいので、意外性から話題になっているに違いない。
平均律は昔からポリーニがリサイタルで弾いていたという曲なので、晩年になってから急にバッハを弾きたくなった...という類の話ではないらしい。
平均律はもともと好きではない曲集なので、すでに数種類持っていることもあって、さらにCDを買って全曲聴こうという気があまりしないれれど、バッハ弾きではないポリーニが弾いているので意外と新鮮かも。まずは試聴してみてから。

平均律クラヴィーア曲集第1巻 全曲平均律クラヴィーア曲集第1巻 全曲
(2009/09/30リリース予定)
マウリツィオ・ポリーニ

試聴する(HMV国内盤にリンク)


ポリーニのバッハ演奏(実演の方)のレビューを探していて、偶然見つけたのがポリーニのインタビュ記事
この記事は、音楽の友1992年8月号に載っていたポリーニのインタビュ記事の抄録だそうで(原典は確認してません)、バッハに限定せず、ポリーニの音楽に対する考え方をいろんな角度からまとめていて、とても面白い。
”バッハ・協演”という項目のなかで、ポリーニはこう言っている。

「子供の頃はバッハに傾倒していて、随分たくさん勉強しました。多分バッハはベートーヴェンと共に私の最も好きな作曲家です。今は、ピアノでバッハを弾くのに問題があると思うので・・・。でも、バッハのあの柔軟性を考えれば、バッハがあれほど自由に偏見なしに他の楽器への作品の書き換えをしているのを考えれば、ピアノでも許されるのでしょうね。チェンバロ協奏曲がヴァイオリン協奏曲になったり、その逆があったり、ヴァイオリン独奏のホ長調組曲のプレリュードが「オルガンと管弦楽のカンタータ」の前奏曲になったり、その他いくらもこうしたことがありますから。確かにランドフスカのチェンバロの素晴らしさなどを思うと・・・でも・・・楽器の置き換えは最終的には可能でしょう、認めてよいでしょう。現に多くのピアニストがやっていますし。」

                                 

バッハをピアノで弾くべきかというのは、昔からよくあるテーマで、アラウも昔はバッハをピアノで良く弾いていたが、1950年頃からパタっと公開演奏では弾かなくなった。バッハを弾くのにピアノは向いていないと思ったようで、もし、再び弾くとしても、それはハープシコードだろう、とまで言っていた。
しかし、最晩年になって、50年くらい昔に自ら録音したゴルトベルク変奏曲を聴いてみたところ、ピアノでバッハを弾くことも可能であろうと思い直したという。結局、ピアノで弾いたバッハのパルティータ全集が、4番と6番の録音を残して未完のまま、最後の録音となった。

ブレンデルもバッハの録音は数少ないが、やはり長年バッハはピアノ演奏には向かないと考えていたという。しかし、「古楽器でのバッハの演奏をたくさん聴きましてから、私はこれだけがバッハの音楽をよみがえられる唯一の方法じゃない」という結論に達してピアノによるバッハ演奏・録音を始めたという。「スカルラッティはハープシコードの音に結びついているのに対して、バッハについては、音色は二次的なものだと考えてきたというわけです」。(デュバル著『ピアニストとのひととき(上)』より)

                                 

すでに数多くのバッハ録音を残しているシフが、再度パルティータ全集をリリースする。
シフのパルティータ全集の旧録は1983年録音なので、この新録はそれから20年以上も経っている。
これは2007年9月21日のノイマルクトでもライブ録音。シフは、スタジオよりもステージの方が自分自身を解放できるので上手く弾けるのだ、と言っていたことがある。
素晴らしい出来だったゴルトベルク変奏曲の新録(2001年)もバーゼルでのライブ録音だったし、これはかなり期待できそう。
旧録は細かいテンポルバートに、装飾音・フレージングも工夫を凝らしてかなりしつこい感じがして、あまり好みではないので、この新録はそれからどう変化しているんだろうかととても興味がある。

バッハ:パルティータ全集バッハ:パルティータ全集
2009年09月10日リリース予定
アンドラーシュ・シフ

試聴する(米国amazon)


シフの場合は、多くのピアニストが抱える”ピアノでバッハを弾くべきかどうか”というジレンマは、不思議なことに全くない。
シフは子供の頃からバッハを弾いていて、”バッハはぼくの神様なんです”と言っている。
14歳の時にジョージ・マルコムに師事するためにロンドンへ行って、そのとき本当にバッハを理解できるようになったという。
マルコムが使っていたハープシコードは、普通のタイプのハープシコードではなく、いろんな種類の効果をだせるようにペダルが10個ぐらいついた改造型のものらしく、実際実演でも弾いていた。
シフの方はそのマルコムにハープシコードを学んだわけではない。シフにとってみればハープシコードはミシンのような気がするといっていたくらいだから、この楽器がそもそも好きではないらしい。
というわけで、マルコムのところでは、ハープシコードは全然弾かずに、バッハやバロックについて、学問的感覚を身につけることや、バロックの手順を本当に理解することを学んだという。(デュバル著『ピアニストとのひととき(上)』より)
シフの発言をいろいろ読んでいると、そのソフトな雰囲気の演奏とは違って、ポリシーが明確でかなり頑固。人によっては独断的だと思うかもしれないけれど、なかなか面白いパーソナリティではある。

                                 

ペライアの最新アルバムもパルティータ。
2008~2009年にかけての録音で、すでにパルティータ第1集として2~4番の3曲はリリース済み。
ペライアは1990年代に指の故障で一時演奏活動ができなかったことがあり、その時期にバッハの研究に没頭した。これが心の支えになったと言っていたくらいなので、それ以降立て続けにバッハを録音している。いずれも凝った表現や音色・装飾音の煌びやかさなどで聴かせるものではなく、シンプルな音と表現の自然体のようなバッハ。
この最新アルバムでも、どういうパルティータを弾いているのか想像がつくところはあるけれど、個性の強いピアニストのパルティータばかり聴いていると、こういうクセがなくて自然に音楽が流れるような演奏を聴くとほっとするものがある。

パルティータ第1番、第5番、第6番パルティータ第1番、第5番、第6番
2009年09月01日リリース予定
マレイ・ペライア

試聴する(HMV/国内盤にリンク)


バッハを録音するピアニストは、平均律、パルティータ、フランス組曲、イギリス組曲、ゴルトベルク変奏曲といった一連の鍵盤楽器曲もいくつか(または全部)録音していく場合が多いので、最近は集めるCDが増えていって頭の痛いものがある。
美しく多彩な音色と響きでバッハを弾くフェルツマンも、リリース済みのイギリス組曲に次いで、フランス組曲の全曲録音を終えているというから、そのうちCDがリリースされるはず。
9月に入って各CDがリリースされたので、早速聴いてみたポリーニ、シフ、ペライアのバッハ。
バッハの演奏に対しては、特定の好みが強くて、かなりバイアスがかかっている。そういう点からいえば、やっぱり予想通りの印象だった。
好きなバッハの演奏は、アンデルジェフスキ、ケンプ、ペライア。フェルツマンも独特の響きの世界が面白いとは思う。ゴルトベルクなら、マルクス・ベッカーもケンプと同じくらいに好き。最近手に入れたコロリオフやソコロフの録音もとても素晴らしく、好きなピアニストが増えていくのは嬉しい。

ポリーニは、凝ったアーティキュレーションは使わず、直線的に淡々と弾いているので、強いクセや作為性を感じさせない。余計な枝葉をつけずに、木の幹が真っ直ぐに佇んでいるようなイメージ。
音自体の美しさで勝負する人ではないので、磨きぬかれた音の美しさはないけれど、クセのない残響がやや長めの響きはまろやか。
ベートーヴェンの1990年代以降に録音したピアノ・ソナタの演奏(後期ソナタ以外)よりは、響きの混濁がとても少なくなっているので、ペダリング(や録音条件)に気をつけているのかもしれない。
タッチに切れがあまりない感じがするので、速いテンポで複数の声部が錯綜すると、長めの残響と相まって、旋律線がごちゃごちゃとするところが時々。
好んで聴くのは、研ぎ澄まされた響きとアーティキュレーションが得意なムストネン、縦と横の線が明瞭で構造が明確に聴き取れるコロリオフ、微妙なディナーミクの美音で旋律がすっと立ち上がってくるフェルナー。
それと比べると、ポリーニらしい刻印があるかといえば、かつてのような強い造形力で聴かせるわけでもなく、ピアニストの強い個性をあまり感じさせない。
でも、世評高いリヒテル(私は好きではないけれど)のような強い緊張感がなく音も綺麗なところは聴きやすいとはいえるし、アシュケナージよりはずっとタッチも表現も丁寧だし、構えず自然平明なところが良いといえないことはないので、それほど気に入らなかったわけでもない。
でも、これがポリーニの録音だと知らなければ、聴きたいと思うかというと、結構悩ましいと思ってしまうのが難点。
1980年代なら、この録音とは全く違った論争の対象になるような個性的なバッハを弾いていたのではと思ってしまう。完成度は低くても、平均律も若い頃に録音して欲しかったと思うのは、たぶん私だけではないはず。

シフは予想通り、完璧といっても良いくらいの洗練された演奏。
アーティキュレーションが凝っているので、チェンバロの奏法に少し似ているような気がするところもないことはないけれど、凝りに凝った旧盤よりはかなりルバートが少なくすっきりした演奏。
(シフはチェンバロ演奏に対しては否定的(チェンバロという楽器が嫌いらしい)なのに、初期のシフの録音はチェンバロ的な奏法に思える。若い頃のお師匠さんがマルコムだったせいか、古楽の伝統的な演奏解釈や奏法を吸収したせいだろうか?)

磨きぬかれたように一つ一つの音が美しいのは、シフならでは。ただし、フェルツマンと比べると音色のバリエーションが少なくて、音自体はややモノトーンに近いところはあるかも。
フェルツマンは色彩感は豊かだけれど、1つ1つの音はそれほど綺麗ではないように感じるので、どちらが良いとはいえないし。
この録音を初めて聴いた時はかなり作為性を感じていたけれど、なぜか最近になってそれをほとんど感じずに聴けるようになったのは、ゴルトベルクの録音をかなりいろいろ聴いてきたおかげ。(それでも多少人工的な感じはするけれど)
ピアノで弾くパルティータなら申し分なく素晴らしいので、人に薦めるときはたぶんリストの最初か最初の方にくるのは間違いない。


ペライアも予想通りのレガートな流れと柔らかい響きが美しい。
愉悦的で饒舌なシフの演奏と違って、とってもシンプルなアーティキュレーションで地味な感じはするけれど、空気のように自然に流れるペライアのバッハは元から好きなので、これは何度も聴いている。
細部までとても丁寧に弾きこまれていて、目立たないけれど注意して聴くとフレージングや響きに工夫しているところがいろいろと察せられて、じっくりと耳を傾けて聴いてしまう。
イギリス組曲の録音はかなり肩に力が入ってピアニストの意気込みみたいなものが強く感じられてちょっと苦手なところもあったけれど、パルティータになるとその余分な力がすっかり抜けて、ペライアのバッハ録音のなかでは一番良いのではないかと思います。

tag : バッハ ペライア シフ ポリーニ

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こんにちは。

久しぶりにコメントさせていただきます。
毎回いっぱい吸収しようと思って読んでいます。でも基礎知識がないので、多くは右から左状態です(悲)

今日は記事内容がどこかへ行かず、にたくさん僕の中に残ってくれました。

バッハの鍵盤作品は初めからピアノだったので、何の違和感もありませんが、いろいろと問題があるんですね。
そう思うとチェンバロで聞いてみないといけないなと思いました。
チェンバロ演奏を聴くといろいろ発見があると思います
よんちゃん様、こんにちは。

バッハをピアノで弾くべきかどうかというのは、ずっと昔からピアニストにとっては悩ましいテーマなのですが、グールドのゴルトベルク以来、ピアノで弾くことがごく普通になってきたのかもしれません。

チェンバロはほとんど聴いたことはなかったのですが、最近チェンバロ演奏の録音をいろいろ聴いていると、逆にピアノのバッハ演奏の特徴がよくわかったりするので、好みに合うかどうかは別として、面白いとは思います。

チェンバロの名盤はたくさんありますが、奏者によって弾き方のクセが強いので、自分の好みにあったチェンバリストを見つけるのも良いと思います。
私は、テクニックがしっかりしていて明るく軽快なピノックのチェンバロが好きなので、いくつかCDは集めました。

古楽演奏には詳しくないのですが、最近はオケの世界では古楽演奏が定着しているようで、モダンのオケも古楽的なアプローチを取り入れたりしているようですね。
今の時代はヘビーな演奏よりも、すっきりと軽快なタイプの演奏が好まれるらしく、そういう時代に向いた奏法なのかもしれません。


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ECMの秋の新譜からシフが弾くバッハ・パルティータ全集だ。前に聴いていたシフの盤はベートーヴェンのソナタ第6巻で、これはなかなかに良い出来映えだった。 http://www.hmv.co.jp/product/detail/3642920 国内盤はこちら↓ J.S.バッハ:パルティータ全集 ...
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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