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ヒンデミット/ピアノ・ソナタ第3番
ヒンデミットは、ヴィオラ奏者だったわりには、ピアノ曲も協奏曲、ピアノ・ソナタ、組曲、小品集といろいろ残している。
なかでも有名なのは、発想とネーミングが面白くピアノ協奏曲のような《主題と変奏”四気質”》、ピアノ・ソナタ(特に第3番)、《ルードゥス・トナリス》。
《主題と変奏”四気質”》はクララ・ハスキルが好んで演奏していたので知られている。ハスキルのライブ録音が数種類残っている。
《ルードゥス・トナリス》は、バッハの平均律曲集やフーガの技法の現代版ともいわれるヒンデミットの代表作。
録音はあまり多くなく(グールドはなぜか録音していない)、<対位法, 調性およびピアノ奏法の練習(研究と訳している場合もある)>という副題で損をしているわけでもないだろうが、聴いたことがある人も少ないに違いない。
聴けばすぐにわかるだろうけれど、全然練習曲風でも無味乾燥な曲集でもなくて、ヒンデミットのピアノ作品の語法が凝縮されたような響きも旋律も現代的に美しい傑作。

ピアノ・ソナタは、グールドが録音したヒンデミットのピアノ・ソナタ集が有名。ヒンデミットのピアノ・ソナタに関するブログは、たいていグールド盤を取り上げている。
グールドは15歳の時に《画家マティス》を聴いて以来、ヒンデミット作品をとても気に入っていたらしく、CBSに『ピアノ・ソナタ全集』や『金管とピアノのためのソナタ集』を録音をしている。当時としては(今でも)かなり稀少な曲の録音だったに違いない。

Hindemith: The 3 Piano SonatasHindemith: The 3 Piano Sonatas
(1993/03/09)
Glen Gould

試聴する(米国amazonサイト;第3番はトラック10~13)

これは旧盤。グールドの録音を集めたシリーズの一環で、リリースされたときに買ったもの。
今は廉価盤の新しい盤がでている。


ヒンデミットの4曲のピアノ・ソナタのうち、最も形式的に堅牢で構築感があり、楽章ごとに性格づけが明瞭で、一番面白いのが第3番。
1936年に相次いで書かれた3つのピアノ・ソナタのうち、第3番は8月18~20日に書き上げたという。
ソナチネのような第2番に比べて、形式的に拡大されて構造的に堅牢で緻密な対位法を駆使した緻密な書法で、ピアニスティックな技巧も要求される。
旋律は明瞭で、和声の響きの美しさと現代的な乾いたロマンティシズムを感じさせるのがとても印象的。
数少ないモチーフをいろんな形で繰り返し織り込みながら、全く単調さがなく隙の無い緻密な構成が全く職人芸的。

ヒンデミットのピアノ作品の録音はあまり多くはないけれど、ピアノ・ソナタ全集は数種類あるし、第3番はそのなかでも演奏機会が多いので、一応選択できるだけの数はある。
私が聴いたのは、グールド、ペーターマンデル、パーチェ、ジョーンズ、チェルカスキー(ライブ)の5種類。(この他にも、ユージナなど数種類の録音がある。)
アンドレ・プレヴィンも1960年代くらいにピアノ・ソナタ第3番を録音していたそうで、それを収録した来日記念盤が10月にリリース予定。(バーバー、マルティンのピアノ曲とのカップリング)

今まではずっと昔に買ったグールド盤をよく聴いていた。
線的な動きを強調するところは好みではなくても、何度聴いても面白いのは間違いない。
特に第2楽章と第4楽章はグールドらしい弾き方。
現代ものは解釈でかなり印象が違ってくるので、グールドと違う解釈で弾いている演奏があるのではないかと探していたら、パーチェがライブ録音していた。
パーチェの弾くヒンデミットは、和声の響きが美しくて、詩的な雰囲気もあってとても気に入ったので今はそれを聴くことが多い。
いずれもピアニストの演奏解釈の個性的なところが良く出ていて、なかなかインパクトが強い弾き方ではある。
この2人の演奏をを聴いてしまうと、他の演奏を聴いても物足りなく思えてきてしまう。


パーチェの演奏は、DANACORDレーベルがシリーズで出している”フーズム城音楽祭ライブ録音集”(1989年の第3回以降、毎年ライブ録音をリリース)に収録されている。
ドイツのフーズム城音楽祭というのは、知られざる作品や音楽家を探求するという趣旨のかなりマニアックな音楽祭で、1987年に始まっている。
音楽祭に参加したピアニストを見ると、アムラン、シチェルバコフ、マルシェフ、ハフなど、ヴィルトオーソ系のピアニストも結構いる。
演奏曲目も、一般的にそこそこ知られているような作品は少なく、”稀少”なピアノ曲がかなり多い。
そのなかでは、ヒンデミットのピアノ・ソナタはわりと有名な方かもしれない。


レアリティーズ・オヴ・ピアノ・ミュージック 2001-フーズム音楽祭ライヴ録音

Rarities of Piano MusicRarities of Piano Music 2001 - Live Recordings from the Husum Festival
(2002/12/1)
Various Artists

試聴する(米国amazonサイト:Track12~15)


ピアノ・ソナタ第3番の録音を聴き比べたホームページがあって、私が聴いたことのあるピアニストに関するコメントを読むと、ポイントが的確(と私は思う)で、全くその通り。
他の曲の録音比較もあるので、あまり詳しくない曲のCDを探すときにはとても参考になります。

                                   

第1楽章 Ruhig bewegt
穏やかなリリシズムが感じられるとても和声の響きの美しい楽章。
冒頭に出てくる主題はとても音がシンプルに並んだだけのような旋律で、これが意外とロマンティック。
この主題が右手と左手に入れ替わり立ち替わり現れてくる。
このフレーズを聴くとすぐにヒンデミットのピアノ・ソナタだとわるくらいに印象的。

グールドはいつもながら明瞭なタッチと硬質で残響の短いシンプルな響き。
独特のノンレガートなタッチではないのでさほどドライな感じはせず、抑制されたリリシズムが漂い、中間部の速いパッセージは急迫感がとても鮮やか。

パーチェは音に艶やかさと潤いがあって、こちらも綺麗な響き。
全体的に詩的な雰囲気が強く、中間部もやや穏やかな盛り上がりかたなので、グールドの演奏の方が印象が強い気はする。


第2楽章 Sehr lebhaft
”とても生き生きと”という指示されているように、スケルツォ的性格の楽章。
かなりのテクニックと正確なリズム感が要求されると言われるとおり、独特の変則的なリズムが結構難しいらしい。
リズムが鈍かったり、細部のタッチが不明瞭で流れがちな演奏もちらほら。

この楽章はかなり速いテンポで弾かないとモタっとした印象になる。
一番速いのはグールド。あまりに速くてタッチがメカニカルでドライ。
そこまで速く弾かずとも良さそうな気もするけれど、他の録音でもメカニカルに暴走気味に猛スピードで弾くことがよくあるので、グールドらしくて違和感はなし。
原曲のもつ軽妙な部分をややグロテスクに増幅したようなところがあって、聴いていて奇妙な面白さを感じるものはある。だれもこういう風には弾かない(弾けない)と思う。
グールドが弾くこの第2楽章、フーガの第4楽章を聴いていると、いつも無機的な線の世界で構成された幾何学の世界にいるような気になる。

パーチェの弾き方は、それより少しテンポは落としているが、それでもかなり速い。
タッチがシャープで1音1音が明瞭に聴こえるので、曖昧さのないリズム感があり、テクニカルな問題はなし。
全体的に疾走感と量感があり、響きも美しいので表情豊かで、ドライタッチのグールドとは全く違う弾き方。
特に、ブリテン的なモダンさを連想してしまう中間部の細かいパッセージでは、軽妙さのある響きと表情が詩的に聴こえてきて、ここはとても綺麗に弾いている。

第3楽章 Massig schnell
最終楽章のニ重フーガを構成する主題が登場する。”適度に速く”と指示されたマーチ風の曲想で、やや厳しさと重苦しい雰囲気がする。
なぜかグールドがかなり遅いテンポ(演奏時間は6分)なのが珍しい。第2楽章が異様に速かったので、なおさらそう感じてくる。
パーチェはそれほどテンポを遅くしていないので、あまり重々しい深刻な雰囲気ではなく、行進曲風に歯切れ良い。


第4楽章 Fuge. Lebhaft
これは5分前後で弾かれることが多いフーガ。
グールドならもっと速く弾くような気もするけれど、第2楽章はとんでもなく速かったし、あえてスピード感を抑制して各声部の動きがくっきりと線的に浮かんでくるようにしたような、やや遅めのテンポ。
そのせいか、”Lebhaft(生き生きと)"という指示のわりには、ちょっと硬い感じはする。
かなり残響を短くしたドライなタッチなので、線的な明瞭さはあるけれど、逆に和声の響きはシンプルに聴こえるので、ドラマティックさや荘重さはやや希薄。
フーガになっているせいか、他の録音もだいたいグールドと似た弾き方。
対位法による旋律の交錯したところをじっくり聴くなら、複数の旋律線の動きが明瞭にわかるグールドの演奏が一番明晰で、やっぱり面白い。

グールドのフーガ。これはCDの音源ではなく、放送用音源らしい。
CDよりも、テンポが速めで、打鍵も軽やか。
Glenn Gould - Paul Hindemith , Piano Sonata No. 3 - Fugue



パーチェの演奏だけは滅法速くて、4分足らずで弾いている。
テンポが速い上に、他の録音とは違ったタイプの弾き方で、縦で揃う和声の響きを重視したシンフォニックな演奏。
各声部の線的な動きよりも、声部が重なっていく響きの推移を追っているように聴こえる。
タッチがシャープなのと、うまくペダリングしているので、この厚みのある和声のわりには響きが濁らず、綺麗な響きですっきりとした印象。
色彩感のある音質なので、この重音だらけの楽章でも、主旋律とそれ以外の旋律の推移はわかる。
この旋律が錯綜して重なりあった和声の厚みのあるフーガを、このスピードで、響きも明瞭に弾き切っているところは、かなり鮮やかで迫力もある。
このスピード感に慣れてしまったので、他の演奏が遅くてもたっとして聴こえてきてしまう。


パーチェの演奏はライブ録音だけれど、旋律や和音が錯綜したこの曲をほとんどミスなく弾いている。
全体的に速いテンポながら、音の切れが良く一音一音が明瞭に響くので和声の響きが綺麗に聴こえる。
音色や響きが多彩で色彩感もあり、リズム感もとてもよく、ピアニスティックであっても、メカニカルな感じがしない。
速いテンポでも、強弱のコントラストを細かくつけていて、旋律の歌わせ方もリリカルなところがあるので、技巧派にしては、テクニックと感情表現とのバランスはかなり良い方。
特に、音が複雑に交錯して織り成す響きが美しく、やや乾いた詩的な叙情感を感じさせるところは、ショスタコーヴィチやプロコフィエフを弾くのにも向いている気がする。

tag : ヒンデミット グールド パーチェ

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はじめまして
ヒンデミットのピアノソナタ第3番を検索していてこちらに伺いました。「グールドをめぐる32章」から興味をもったのですが、パーチェという素晴らしいピアニストを知ってうれしいです。ありがとうございました!
パーチェは本当に良いピアニストですね
仮装ぴあにすと様、はじめまして。
ご訪問、コメントありがとうございます。

ヒンデミットのピアノ・ソナタは3曲ありますが、一番有名な第3番は名曲ですね。
グールドのCDで初めて聴いて以来、この曲は現代曲でも特に好きな曲の一つです。
数年前に聴いたパーチェのライブ録音は、グールドとは方向性が違って、対位法の妙はあまり味わえませんが、また一味違ったヒンデミットで面白いです。

パーチェは、最近ツィンマーマンとヒンデミットのヴァイオリンソナタ3曲を録音して、CDも出ています。
ピアノ・ソナタを連想させるような作風ですので、私はヴァイオリンソナタも気に入ってます。
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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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