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グールド&メニューイン ~ バッハ・ベートーヴェン・シェーンベルクのヴァイオリンとピアノのための作品集
Youtubeでグールドとメニューインが演奏している映像をたまたま見つけ、弾いている曲がこのところ良く聴いているバッハの《ヴァイオリン・ソナタ》の第4番。(第1~第4楽章の4パートに分かれている)
この映像は1966年5月18日にCBSで放映された”Duo in Festival”のものだと思う。
CDの方は持っていたけれど、長い間聴いていなかったし、演奏映像を見たのは初めて。そもそもグールドとメニューインの演奏している姿をまともに見たことがない。
録画映像を見ると、グールドは口をパクパクさせて歌いながら暗譜(メニューインも暗譜)で弾いていて、身体を揺らしながらも打鍵は正確で安定している。タッチはまるで蝶が踊っているように軽やか。鍵盤を上から押し下げるというよりも、はじいているようなタッチが面白い。
椅子の足がかなり短くて、ひじが鍵盤からかなり下がっているのがグールド独特。この姿勢の方が打鍵が安定するので、弾きやすいのだろうと思う。(他に理由があるかも)
録音マイクの関係からか、メニューインの立ち位置はピアニストから遠く離れていて、よく見るコンサートでの位置とは全然違う。演奏中は直立不動的な姿勢で足の位置が全く移動せずに、上半身の揺らぎもわりと少ない(それともこれが普通?)。
この映像は、モノクロなのが時代を感じさせるものがあるけれど、とてもリアリティがあって、見ていていろいろ面白い。

Bach - BWV 1017 - Gould, Menuhin - Pt.1


このデュオは、グールドがメニューインにデュオをしませんかと依頼して実現したもの。
CDに収録されているのは、バッハの《ヴァイオリンと鍵盤楽器のためのソナタ第4番BWV 1017》、ベートーヴェンの《ヴァイオリン・ソナタ第10番Op. 96》、シェーンベルクの《ピアノ伴奏を伴ったヴァイオリンのための幻想曲Op. 47》の3曲。
CDのライナーノートには、1965年10月の2日間かけて録音した時の様子をグールドが記した文章が載っていて、これが面白い。
1日目は、リハーサルと本番収録で、バッハとベートーベンのソナタはスムースに完了。
問題はシェーンベルクの幻想曲。グールドは度々演奏していて熟知しているこの曲について、メニューインは全く知らず理解していなかった。
1日目の収録は散々の出来で、グールドは絶望的な気持ちになったという。(メニューインとグールドがこの曲の解釈などについて対話している映像も残っている。)
翌日、スタジオに到着した2人はすぐにシェーンベルクにとりかかったが、この時の経験はグールドの人生のなかでもとても素晴らしいものの一つだった。
一体どんな魔法を使ったのかわからないが、メニューインは文字通り一夜で、この極めて難解な作品を吸収し、全く瑕疵のない技巧でもって、演奏したという。なによりもグールドが驚いたのは、まるでメニューインがこの曲を愛しているかのように弾いたことだという。

メニューインの話がこの後に書かれていて、他の誰よりも深くシェーンベルクを理解しているグールドから学ぶことはとても興味があることだと言っている。16歳以上も年下のグールドに対して、自分よりも優れた点があることは認めて学びとろうという姿勢には、自分の限界を良く理解しているメニューインの謙虚さがよく出ている。

あまり相性の良くないグールドとはいえ、さすがに聴かずに済ませることができるピアニストではないので、一応CDはいろいろ集めている。
バッハのピアノ・ソロよりも、それ以外の作曲家(ベルクやヒンデミット、ギボンズ、シュトラウス、ブラームス、シェーンベルクなど)の録音が多い。あまりにバッハばかりが話題になるので、他の作品の演奏がどんなのか興味があったせいか、ずっと昔にまとめて買い込んだ覚えがある。
ふだんは聴かないけれど、たまに思い出したように聴きたくなる。このCDは多分ほとんど聴いたことがなかったはず。たとえ昔聴いたとしても、あまり理解できなかっただろうし、今回聴きなおしたのは、ちょうど良いタイミングだった。

Bach;Son.for Violin&Harpsi.Gould Meets Menuhin Bach,Beethoven,Schoenberg
1993/06/29
Glenn Gould (Piano), Yehudi Menuhin (Violin)

試聴する(米国amazon)


ヴァイオリンの方は古いラジオ放送を聴いているような、あまり色艶がない古めかしい音がするが、ピアノの音はやや響きが篭もりがちとはいえ音自体は鮮明。
ヘッドフォンで聴くと、やっぱりいつもどおりグールドのハミングするような声が入っているが、今回はとても小さく収録されているので、気になるほどではない。放送用音源だけあって、その他のノイズは全く入っていないので、録音状態としては良い方だと思う。

                            

最初に収録されているバッハの《ヴァイオリン・ソナタ第4番BWV 1017》は、後年のピアノの自己主張が強いラレードとの録音(楽章によってはかなりエキセントリックな感じもする)とは違って、グールドにしてはとても”まっとうな”(と私には思える)演奏。
当時50歳くらいだったメニューインの演奏は、かなり渋みのある演奏なんだろうと思う。特に第1楽章Sicilianoの侘びしげなヴァイオリンの響きがなんとも言えません。このSicilianoは、《マタイ受難曲》の中のアリア”哀れみ給え、わが神よ”のようなとても美しい曲。
メニューインのヴァイオリンには、過剰でない程よいロマンティックな趣きがあって、グールドの(ソロの時とは違った)柔らかいタッチと響きのノンレガートな伴奏と、不思議と良く合っている。
グールドの伴奏は、緩徐楽章はタッチはノンレガートでも柔らかさがあり、響きも長めにしてまろやかで、さっぱりとした哀感を帯びた音色がとても美しい。メニューインのやや細めのヴァイオリンの叙情的な旋律にとてもよく似合っている。
左手はいつもながら強めのタッチで、ピアノの2声の動きがくっきりと明瞭なので、ヴァイオリンの弾く旋律とのからみがよくわかる。
急速楽章になると、タッチがややシャープになるが、それでも響きは柔らかいし、ヴァイオリンと対等に呼応してはいるけれど、ごく自然に調和しているような雰囲気。
第2楽章のフーガがテンポも穏当で、ヴァイオリンとピアノがぴったりうまく噛み合っている。
その反対に、第4楽章はとんでもなく速いテンポ。あまりに速いので、ヴァイオリンがたっぷりと歌いたくても歌えないような気ぜわしさがある。
映像を見ているとそれほど気にならなかったが、CDで聴くと滅法速いのに気がついた。このセカセカしたような演奏は、あまりに速すぎてところどころヴァイオリンとピアノがずれたりしていて、変なところで面白く聴けてしまう。

ピアノ・ソロの場合だと、もっとシャープなタッチで速いテンポで演奏するようなところだろうけれど、ここはヴァイオリン・ソナタなので、どこか枯れた風情のあるメニューインのヴァイオリンによく合わせている。
グールドは自らこの録音にメニューインを招いたくらい彼をとても尊敬していたようで、いつもの独特の解釈でややアグレッシブともいえるソロを弾くグールドとは違った感じがする。

                            

ベートーヴェンの《ヴァイオリン・ソナタ第10番》は、あまり聴いていない曲なので良くはわからない。
バッハよりもフォルテや速いテンポで弾くところが多く残響も長めなので、グールドのピアノの存在感が強くなってはいるが、ヴァイオリンに覆いかぶさるようなことはない。テンポが速いところは、ベートーヴェンにしては、ノンレガートなタッチで弾いていることが多く、歯切れの良い躍動感はある。
ライナーノートを読むと、楽譜の指示(単純に、ピアニシモ)とは正反対の弾き方をグールドがしていたという。
グールドよりもはるかにこの曲を理解しているメニューインも、自分ではそういう解釈をする勇気はないが...と言いつつ、それでもグールドの演奏には納得していた。
メニューインは、この年下のグールドの音楽性をとても尊重していたらしく、音楽の方向性は違う(というか全く逆?)とはいえ、それが不思議と上手くかみ合ったデュオだったのかもしれない。

                            

最後は、最も苦労して録音したシェーンベルクの《ピアノ伴奏を伴ったヴァイオリンのための幻想曲 Op.47》
シェーンベルクの12音技法のピアノ小品やピアノ協奏曲を聴き慣れているせいか、この曲は初めて聴いてもかなり聴きやすい。シェーンベルクの作品のなかでは、ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲と同じくらい(それ以上かも)に好みの曲。
ヴァイオリニストの五嶋みどりによる作品解説を見つけたので、最初はこれを読まずに聴いて、2度目は解説を読んでから聴くと、この曲の構成や表現しているものが良くわかる。

ヴァイオリン・パートのところはあまり良くはわからないけれど、シェーンベルク特有の抽象的で無感情なところは全然なく、緩急・強弱のコントラストと艶っぽい響きで、とてもロマンティックな感じさえする。
グールドのピアノも、ベルクのピアノ・ソナタ同様に素晴らしい。ベルクの演奏は鋭く研ぎ澄まされた冷たい叙情感が美しかったが、このシェーンベルクではファンタジックな響きがとても美しい。
ヴァイオリンパートはまだしも旋律的な繋がりを感じるものがあるが、ピアノパートは全く断片的な旋律の塊がコラージュのようにつながっている。
それを表情づけていくところがとても上手く、タッチ、強弱、響きにかなりバリエーションがあって、無機的なドライな感じは全くせず、不可思議さや妖艶さやその他もろもろが交錯するような面白さがある。
メニューインもかなり気合が入っているせいか、このCDに収録された3曲のなかでは、最も凝縮された緊張感のある演奏という感じがする。

シェーンベルクの幻想曲の演奏映像もYoutubeに登録されている。この曲は、演奏する姿を見ながら聴いた方が、表現しようとしているものを感じ取りやすい気がする。
メニューインの顔には強い集中力と緊張感が漂っているし、グールドが曲にシンクロするように、指先だけでなく腕や上半身を使ってピアノを弾いている。
グールド自身、この曲の演奏には集中力が必要だといっていたし、この演奏映像を見ていると、かなりの精神力が要求される曲だというのが視覚的にもよくわかる。


グールドのソロではなく室内楽を聴きたいなら、この録音はかなり良いのではないかと思えるくらい、とても気に入ったアルバム。選曲も録音状態もとても良いし、何よりも互いに敬意を抱いているメニューインとグールドとのデュオが聴けるのが素晴らしい。
ピアノ・ソロのグールドのように強い個性で覆うようなところは控え目で、わりと”まっとう”な演奏だという気はするけれど、やはりグールドでしか弾けないような才気を感じさせるところは全然変わらない。

tag : グールド バッハ ベートーヴェン シェーンベルク

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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