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ヒンデミット/室内音楽第2番(ピアノ協奏曲)
ヒンデミットは、歴史的に有名な「ヒンデミット事件」で良く知られているわりには、聴いている人がまわりにはほとんどいない。
そういえば、有名曲を除いて、コンサートではあまり演奏されていないように思えるし、録音は結構多いとはいえ、有名な《画家マティス》や《白鳥を焼く男》などの管弦楽作品、ヴィオラや管楽器を使った室内楽が中心かなという気がする。

ピアノ関係では、やはりグールドが録音した《ピアノ・ソナタ》(第1~3番)で知られたのではないかと思えるほど、ピアノ・ソナタは有名。私もヒンデミットの初体験はグールドの演奏だったので、良く覚えている。
ヒンデミットはヴァイオリニストだけれど、音楽院時代には、ピアノやクラリネットなども学び、とても器用な人だったらしい。
そのおかげで、彼の作品で主役になっている楽器は、ヴィオラ、ヴァイオリン、木管・金管、ピアノで、作品数も多くて、室内楽ではレパートリーの拡大に役立っているに違いない。

ヒンデミットの作風はかなり好きなので、いろいろ解説を調べてみると、なぜ波長が合うのか良くわかる。
ヒンデミットは現代音楽の範疇には分類されているけれど、無調へ向かうことはなく、和声の美しさと職人的な緻密な構成を感じさせるし、初期はブラームスの影響が残り、後年はネオ・バロックや新古典主義指向なので、かなり聴きやすい音楽ではある。
後年は、新古典主義時代のストラヴィンスキーを硬派にして堅牢な構造で覆ったような雰囲気がある。曲によっては、和声の響きがアルバン・ベルクの濃厚な情念をすっかり消し去ったような感じがする。
旋律に歌謡性はあまりないので、そういうものを求める人にはつかみどころがない音楽に聴こえるはずだけれど、ヒンデミット独特の和声に慣れるとこれがとても美しい。構成的にも緊密で、ピアノ曲を聴いていると対位法が使われているのがよくわかって、地味ながらも聴けば聴くほど味のある曲が多い。
時代が無調音楽へ向かっていっても、ヒンデミットはそれに与せず、音楽に再び秩序と客観性を求めた作風で、調性的な安定感はあるが、ロマン主義的な感情移入を受けつけないようなところがある。

グールドのCDを聴き直していると、ヒンデミットのピアノ・ソナタも出てきたので、ピアノを使った他の曲もついでにいろいろ聴いてみると、これはかなり面白い。

ピアノ協奏曲なら、《ピアノ協奏曲》(1945年)、《室内音楽第2番(ピアノ協奏曲) Op. 36 No. 1》(1924年)、《主題と変奏~四気質》(1940年)、ピアノ、金管と2台のハープのための協奏音楽op.49 (1930年)
ピアノ独奏曲は結構いろいろ書いているが、特に有名なのが、《ルードゥス・トナリス(対位法、調性およびピアノ奏法の練習)》(1942年)、《組曲「1922年」》Op.26(1922年)、《ピアノ・ソナタ第1~第3番》(1936年)
室内楽は、ピアノ伴奏が入った曲をたくさん書いているので(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、クラリネット、etc.)、当分聴く曲に困ることはないに違いない。

ピアノ協奏曲3曲の中で、もっとも明るく躍動的なのが《室内音楽第2番(ピアノ協奏曲) Op. 36 No. 1》(1924年)。
ヒンデミットは《室内音楽》全7曲を1921年から1927年にかけて7曲書いている。
第1番は12の独奏楽器のための室内楽曲(ピアノも入った合奏協奏曲風)、それ以外は協奏曲形式で、ピアノ(第2番)、チェロ(第3番)、ヴァイオリン(第4番)、ヴィオラ(第5番)、ヴィオラ・ダモーレ(第6番)、オルガン(第7番)。

こういう連作形式の曲集なら、ラーシュ=エリク・ラーション(1908-1986)も書いていて、こちらは《12のコンチェルティーノ Op.45 ~ フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット・ホルン・トランペット・トロンボーン・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバス・ピアノのための)。各曲とも規模が小さく楽章も分れていないバロック・古典風のコンチェルティーノ(小協奏曲)。

室内音楽第2番とピアノ協奏曲という珍しいカップリングのアルバム。ヒンデミットのピアノ協奏曲の録音は少ないので、こうやってまとまって聴けるのは嬉しい。
これに《主題と変奏<四気質>》も加わっていれば申し分なしというところだろうか。でも、《主題と変奏》はムストネンのとても冴えたピアノによる録音があるのでそちらで充分かも。

Hindemith: Kammermusik No. 2, Op. 36/1; Viola Concerto, Op. 48; Piano ConcertoHindemith: Kammermusik No. 2, Op. 36/1; Viola Concerto, Op. 48; Piano Concerto
(2004/01/13)
Lee Luvisi (piano), Jorge Mester(conductor), Louisville Orchestra

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《室内音楽第2番(ピアノ協奏曲) Op. 36 No. 1》(1924年)

7曲からなる《室内音楽》は、ヒンデミットのネオバロック・古典主義を指向する時代の代表作。
第2番のピアノパートの動きを聴いていると、『主題と変奏<四気質>』に似ているところがいろいろある。

第1楽章 Sehr lebhafte Achtel - Molto vivace
プロコフィエフか新古典主義時代のストラヴィンスキーのような諧謔なカノン風の細かいパッセージをピアノが延々と引き続け、この音型がいろいろ変形されて、ピアノの後をオケが追っかけたり、掛け合っていく。ピアノパートはかなり速いテンポで細かいパッセージを弾き続けるというとてもピアニスティックな書き方。
可笑しげな雰囲気はするが、感情的なものが感じ取れず、音の動きをメカニカルに表現した即物的といえば即物的な旋律。
この落ち着きのない騒々しい雰囲気は、戦前のトーキー映画で、クラシックカー(当時は普通の自動車)や馬車と人間がストリートをセカセカと行き交っているような感じがする。

第2楽章 Sehr langsame Achtel - Molto moderato
ここはシリアスなトーンの緩徐楽章。弦楽のネットリとした旋律と、ビヨヨ~という不安げな管楽器の音色が鬱々と暗い。そこに、ピアノが少し艶っぽさのある響きでトリルの混じった旋律を弾き始めて、憂鬱そうに思索にをふけっているような感じ。
ヒンデミットは不可思議な雰囲気を出すときに良くピアノのトリルを使うが、ここもトリルが効果的。
旋律自体や和声の響きはとても美しく、叙情感というものはあっても、感情的なものとは切り離されている。ピアノの響きは硬質でとてもクール。
終盤近くになると、突然オケが下降調の脱力してしまうフレーズを弾いて、トリルを弾くピアノが入ってくる。その後はかなり気分が晴れたように、明るめでリズム感のよい旋律に変わるが、それも長続きせず、またピアノが元のシリアスな憂鬱そうな雰囲気の旋律に戻って行く。この展開はちょっと躁鬱的な感じがする。

第3楽章 Kleines Potpourri - Sehr lebhafte Viertel
第1楽章のようにテンポが速く、軽妙な雰囲気で、ピアノが忙しげに細かいパッセージを弾いている。まるで小さなネズミたちがそこら中を走りまわっているようで、ちょっと可愛らしい雰囲気。
管楽の吹いている旋律も、どこか間の抜けたようなところがあってユーモラス。

第4楽章 Finale - Schnelle Vierte
この楽章はネオバロック風のフーガ。明るいスケルツォのように、トランペットがファンファーレ的な旋律を吹いて始まり、すぐにピアノの華やかなアルペジオが続く。
ピアノは4/4拍子、同じ音型の旋律を繰り返すオケは3/8拍子(と解説に書かれている)。
ピアノパートは、ヒンデミットらしいトリルや同じ音型のオスティナートがふんだんに使われたフーガ。

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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