ツィンマーマン&パーチェ ~ ブゾーニ/ヴァイオリンソナタ第2番 

2009, 08. 31 (Mon) 18:10

ブゾーニのピアノ協奏曲の録音を探しているときに見つけたのが、ヴァイオリン協奏曲とヴァイオリン・ソナタ。
ブゾーニはピアノ曲のイメージが強くて、それ以外の曲はほとんど聴いたことがない。作品の大半はピアノ曲とはいえ、それでも管弦楽と室内楽曲(ヴァイオリン、チェロ、フルートなど)を数は少ないけれど一応は残している。

ヴァイオリン協奏曲はブゾーニの作風がまだ確立されていない頃の作品で、これを聴いてもブゾーニの作品らしき特徴があまり感じられない。そのせいか録音はかなり少ない。
ヴァイオリン・ソナタの方は2曲書いているが、ブゾーニは第2番を”これこそ私の作品1だ”と言っていたほどに、自身の作風が確立できたと思った自信作。
このヴァイオリン・ソナタ第2番(Op.36A、1900年)は、さほど有名でないわりには録音が10種類以上はあるし、リサイタルのプログラムでたまに見かける。
有名なヴァイオリニストでは、クレーメル&アファナシエフ、シゲティ&ハスキル(これは録音状態がすこぶる悪い)が録音している。NAXOS盤やBIS盤からも録音がリリースされているので、とても多いというわけではないが、選択肢はいろいろある。

そのなかで、F.P.ツィンマーマンのアルバムは、珍しいヴァイオリン協奏曲とヴァイオリン・ソナタ第2番というブゾーニのみの録音。よりによってこの珍しいブゾーニのヴァイオリン曲だけのディスクをリリースするというのは、結構不思議な気がした。
ヴァイオリン・ソナタ第2番はいくつか録音を聴いたけれど、このツィンマーマンの録音が最もテンポが速くダイナミックでテクニックも際立っていて、シャープで彫りの深い表現で造形もくっきり。試聴しただけでも目の眼の醒めるような鮮やかな演奏。

このヴァイオリン・ソナタで重要なのは、ピアノ伴奏。伴奏とはいっても、技巧的なピアノ曲を書いたブゾーニらしく、独奏曲並に凝っているので、ピアニストの腕が演奏の出来栄えをかなり左右すると思う。
楽譜を見ると、テンポが速い部分でも重音移動や跳躍、幅の広いアルペジオが詰め込まれている。ここをピアノ伴奏がスラスラ弾いてくれないと、ヴァイオリンがいくら速く弾きたくても思い通りのテンポで弾けない。
こういう種類の曲は伴奏者を選ぶ曲で、録音をいくつか聴いても、速いテンポだと打鍵の切れがなくてもたつきがちだったり、逆に速く弾けても表現が単調になったりと、なかなか大変そう。特に第2楽章のプレストを聴けば、どのくらい弾けるかがわかる。

ツィンマーマンのピアノ伴奏は、エンリコ・パーチェ。リストが得意なだけあって、どのテンポでも打鍵が安定してテクニックの切れはよく、さらに音色や響きに色彩感がある。
タッチが鋭く音の粒立ちもよく和音でも響きがクリアな音質なので、ツィンマーマンのシャープな響きのヴァイオリンによく似合う。

Freruccio Busoni: Violin Concerto; Violin Sonata No. 2Freruccio Busoni: Violin Concerto; Violin Sonata No. 2
(2007/07/23)
Frank Peter Zimmermann, Enrico Pace

試聴する(amazon.de)

ソニーのディスクは試聴ファイルが少なくて、HMV、amazon、ituneにも見当たらなくて、海外サイトを検索してようやく見つけた。
ツィンマーマンのCDは、変奏ごとにトラックに分けているので、視覚的に曲の構成がわかる。

ヴァイオリン・ソナタ第2番の楽譜ダウンロード(IMSLP)

3楽章構成ですべてアタッカで演奏される。楽章、変奏ごとの緩急のコントラストが鮮やかなうえ、ファンタジー、歌に舞踏、マーチ、コラール、etc.と、いろいろな曲想が次々と現れてきて、変奏の面白さが良くわかる。

ⅠLangsam
冒頭はとても幻想的な雰囲気がするコラール風の和音のピアノソロで始まる。
このコラールのようなイントロは、ブゾーニが2台のピアノ用に作曲した《Improvisation on the Bach Chorale Wie wohl ist mir, o Freund der Seele (BWV 517)》(1916年)でも使われいる。
初めは何かがヒタヒタと迫り来るような雰囲気があって重苦しい冒頭。ややロマンティックな雰囲気に変わって、つぎにラプソディのような華やかな曲に変わるという、垂れ込めた暗雲が徐々に消え去っていくような展開。最後には最初の主題に戻って静かに終るというかなり表情の変化する楽章。

ⅡPresto, attacca -
前半はPrestoで、後半は前半部の主題旋律を変奏したAndante。
Prestoを聴くと、ピアニストのテクニックと表現力がよくわかる。ピアノパートは、かなり運動神経が良くないと速いテンポでスラスラとは弾けないだろうと思う。こういう技巧的な曲を聴くときは、楽譜を見ながら聴くとどういう音型を弾いているのかよくわかって面白い。
”息もつかせぬようなタランテラ”という評されるPrestoの部分は、ツィンマーマン&パーチェはテンポがすこぶる速くて、パワフル。3分弱くらいのテンポで演奏されることが多いが、ここを2分25秒で弾いている。聴いた録音のなかでは最速。

ヴァイオリンはとてもシャープな響きで、クレッシェンドとデクレッシェンドを明確につけた表現が鮮やか。メロディアスな旋律を弾くところでは、歌いまわしが優雅で柔らかになる。
ピアノもヴァイオリンに合わせて、打鍵は鋭く軽やかなタッチ。とても細かいパッセージを弾くピアノのリズム感が良く、疾走感が爽快。ここのピアノパートは、テンポが速いので楽譜の指示にある f sf が弱い演奏が多いが、パーチェはかなり力強いタッチで弾いている。
ヴァイオリンとピアノとも、シャープで力感のあるダイナミックな表現で、この第2楽章の演奏には惚れ惚れしてしまう。

Ⅲ-Andante, piuttosto grave - Andante con moto - Poco più andante - Alla marcia, vivace - Lo stesso movimento - Andante - Tranquillo assai - Allegro deciso, un poco maestoso - Più lento - Più Tranquillo,apoteotico - Tempo del Tema - Adagio
この楽章は変奏がアタッカでつながれている。解説を読むと、第3楽章はベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番(第3楽章は複数の変奏曲)に影響を受けている。
主題にバッハのコラールの旋律が使われているのは、古典的様式へのオマージュであり、また、このソナタを献呈した友人の作曲家で楽譜の出版前に亡くなったオットカール・ノヴァーチェクへのエピタフだという。

変奏ごとに頭の表現記号は変わるので、曲想の変化が良くわかる。
冒頭のAndante con motoの主題は、バッハのコラール"Wie wohl ist mir, o freund der seele"(わが幸いはいかに、おお魂の友よ)の旋律。

 ヴァイオリン・ソナタ第2番の第3楽章冒頭の主題
無題_convert_20090830160352

 バッハのコラール"Wie wohl ist mir, o freund der seele"の主題
無題2_convert_20090830155923

いろいろ入り組んだ変奏になっているので、バッハのコラールの旋律そのものが明瞭にわかる変奏ばかりではないのがブゾーニらしい。
和声がとても美しく、ヴァイオリンの旋律はメロディアス。緩徐部分のピアノ伴奏が特に美しく、コラールのような響きがあちこちでエコーし、調性感のやや曖昧な現代的な響き(ストラヴィンスキーの新古典主義時代のピアノ曲のような)も混じり込んだりしている。

楽章半ばでは突如雰囲気が変わって、 Alla MarciaLo Stesso Movimentoは勇壮な行進曲風。
その後のAndanteで第1楽章のモチーフも出てくる。次のTranquillo Assaiでは、フィナーレに向けてテンポが速くなり、より明るい色調の爽やかな曲想になる。
Allegro decisoは、クライマックスらしい輝きと開放感のあるダイナミックな変奏。ここでも、ヴァイオリンが単音で息の長い旋律を弾いているところに、ピアノが力強いタッチで左手側の変則的なリズムをしっかり刻んでいる。アルペジオと重厚な和音をペダルで長く響かせているところがいくつかあって、これがとても華やか。

普通ならこのフィナーレで華々しく終るところを、さらにPiu Lento以降でコラールの旋律を変奏して静謐な雰囲気に変わる。ここもピアノの響きに透明感と清らかさがあって、この終幕はとても美しい。


ヴァイオリンの旋律はシンプルなので、響きが厚いピアノ伴奏が強すぎるかと思ったけれど、ヴァイオリンの弾く旋律がピアノの伴奏と全く違う動きをしてお互いにかぶることがなく、ツィンマーマンのヴァイオリンも線がしっかりして力強いので、ヴァイオリンとピアノが拮抗した緊張感のある演奏になっている。
これだけピアノ伴奏が華やかで凝っているヴァイオリン・ソナタはそう多くはないだろうし、この曲のピアノ伴奏をするピアニストは、かなりの筋力と運動神経の良さが要求される。録音が多くないのはそれも理由の一つかも。
ヴァイオリンが弾く旋律はメロディアスで美しいけれど、ロマン派のソナタのような感傷や情緒的なところがなく、詩的で古典的な典雅な薫りがあるし、形式的にかっちりとした安定感と色彩感のある響きの美しさも加わって、聴けば聴くほど良い曲に思えてくる。

タグ:ツィンマーマン パーチェ ブゾーニ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

2 Comments

avanti  

ブゾーニのヴァイオリン協奏曲

こんにちは.
昨日NHK FMのクラシック・カフェという番組でブゾーニのヴァイオリン協奏曲が流されました.

ピアノの人というイメージの強いブゾーニだったので,珍しく思うとともにネットで調べているうちにこちらにたどりつきました.

あまりこの曲について書かれているサイトが無く,こちらもヴァイオリン・ソナタについての解説ということでしたが,協奏曲はいかがお聴きになりましたか.

2010/02/11 (Thu) 16:05 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

ヴァイオリンの曲は詳しくないのですが

avanti様、こんにちは。
コメントありがとうございます。

ヴァイオリン協奏曲の方も一応聴いているのですが、もともとヴァイオリンの曲はあまり聴かないことと、ピアノで聴いているブゾーニとの接点があまり見つからないような曲だったので、なんとコメントして良いのやら...という感じでした。

聴き直して見ましたが、ピアノのように重音移動のオンパレードで技巧的に難しいという感じでもなさそうですね。(技術的なことは私は全くわからないので、音を聴いただけの印象です)

雰囲気的には初夏の草原のような爽やかさがあり、第3楽章はテンポも良くちょっと面白い旋律だとは思いますが、全般的に記憶に残るほどのメロディアスな旋律ではないですね。
ピアノとヴァイオリンの曲とは、音の構成も響きも違うのでそれ以上はなんとも言いようがなく、私の好みとしては印象に残る曲ではありませんでした。

もともと一部の作曲家を除いて、ロマン派的な曲はあまり得意ではないので、参考にならない内容ですみません。

2010/02/11 (Thu) 23:10 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment