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ショスタコーヴィチ/24の前奏曲(ピアノ独奏版、ヴァイオリン&ピアノ編曲版)
ショスタコーヴィチの《24の前奏曲》というと、1933年に完成したピアノ独奏曲の《24の前奏曲》。かなり自由な作風の小品集ながら、聴けばすぐにわかるようなショスタコーヴィチ独特の旋律・和声と曲想がつまっている。
1952年にも前奏曲集を書いているが、こちらはフーガもついた《24の前奏曲とフーガ》。この曲集は、バッハの平均律クラヴィーア曲集にならったとてもシンプル旋律と響きで構成されているので、”現代の平均律曲集”のような趣き。

もう”24の前奏曲”という名前の曲はないだろうと思っていたら、《24の前奏曲》のヴァイオリン&ピアノ用編曲版という珍しい曲がある。
この編曲版は、ショスタコーヴィチ自身が編曲したものではなく、19曲をショスタコーヴィチと親交のあったツィガノフが編曲。
残りの5曲(4、7、9、14、23番)をヴァイオリニスト、カリノフスキーの依頼により、コンポーザー・ピアニストのレーラ・アウエルバッハが2000年に編曲。
これで合計24曲の編曲が完成し、全24曲版としてSikorskiから楽譜が出版されている。

この編曲版《24の前奏曲》の録音はとても少なく、CHANDOS盤はツィガノフ編曲版の19曲しか収録していない。
アウエルバッハ編曲版を含めた全24曲の初演は2001年、CDは2003年に録音されたCentaurレーベルのカリノフスキー/ゴンチャロワ盤が初録音(らしい)。

 《24の前奏曲》(ヴァイオリン&ピアノ用編曲版)[カリノフスキー/ゴンチャロワ]
Dmitri Shostakovich: 1 Violin Sonata + 24 Preludes for Violin & PianoDmitri Shostakovich: 1 Violin Sonata + 24 Preludes for Violin & Piano
(2003/11/25)
グレゴリー・カリノフスキー(ヴァイオリン)、タチアーナ・ゴンチャロワ(ピアノ)

試聴する(NAXOSサイト)
この録音のピアノ音は透明感がなくぼんやりした感じ。和声があまり美しく響いてこないのと、ヴァイオリンの方が前面に出ているので、ショスタコーヴィチ独特の響きの面白さがもう一つ。


 《24の前奏曲》(ピアノ独奏の原曲版)[シチェルバコフ
ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第1番/24の前奏曲ショスタコーヴィチ:ピアノ・ソナタ第1番/24の前奏曲
(2003/11/01)
コンスタンティン・シチェルバコフ

試聴する(NAXOSサイト)
シェチェルバコフの演奏は透き通るような硬質な音が綺麗。和声の響きもとても美しいし、柔らかい弱音で弾いていると、密やかな内省的な雰囲気が漂っている。


ピアノ独奏版と、ヴァイオリン&ピアノ版の両方を聴いてみると、いろいろ違うところがあって、かなり面白い。
曲想と個人的な好みから、ピアノ独奏の方が響きが美しくて曲のもつ雰囲気が良く出ていたり、ヴァイオリンが入った方が旋律が明確になって色彩感と曲の性格が強調されて面白くなっていたり、曲によって好みのフォーマットが違う。
原曲と編曲の違いに加えて、演奏者の解釈もそれぞれ違うので、聴いている録音によっても印象が変わる気はする。

傾向としては、第1番のような静謐さ、幻想性、親密さを感じさせるスローテンポで右手・左手の両方を合わせた和声の響きが美しい曲は、ピアノ独奏で弾いた方が雰囲気がとてもよく伝わる。
特に、シチェルバコフのピアノの響きが透明感で濁りがなく、クリスタルような冷たさもあってとても美しいので、余計にそういう印象が強くなる。
ヴァイオリンの響きだと、どうしてもその冷たい透明感のようなものがでないので、色彩感と叙情感が強くなる。
逆に、6番のような軽妙・諧謔で動きの目まぐるしい曲や、2番・5番のように右手と左手が完全に違った動きの旋律を弾いて和声が分離しているような曲なら、ヴァイオリンが主旋律を弾いても、違和感が少なく、かえって面白く聴こえたりする。
不安感が漂うような旋律だと、ヴァイオリン独特の響きの方が、より不安感を強く感じさせる場合もあったりする。

No. 1 in C major
とても密やかで親密な雰囲気の曲で、冒頭のピアノ・ソロはまるでペルトの《Spiegel im Spiegel 鏡の中の鏡》ような雰囲気。和声がかなり幻想的で、ピアノの響きがとても美しい。
ヴァイオリンが入ると、かなり饒舌に聴こえて密やかな雰囲気が薄くなるので、この曲はピアノ独奏の方がずっと良い。

No. 2 in A minor
物憂げな舞曲風。ピアノの右手の主旋律と左手伴奏の動きが綺麗に分かれているので、旋律部分をヴァイオリンで弾いても全く違和感なく、ヴァイオリンの方が躍動感がある。

No. 3 in G major
第1番同様、とても和やかで密やかな雰囲気の曲。ピアノの響きが美しい。
ヴァイオリンはとてもロマンティックに弾いているので、あまりに明るく歌うように響きすぎる気はする。

No. 4 in E minor
かなり内省的な雰囲気の曲で、両手はほとんど単音のみの旋律。ピアノのシンプルな響きが清らかでとても美しい。
ヴァイオリンだと旋律に加えてピアノの音の厚みが加わるので、内省的な感じは希薄。とてもロマンティックに聴こえてくる。

No. 5 in D major
右手がメカニカルで、左手のリズムも面白い。第2番と同様に、ピアノの右手側旋律と左手伴奏の動きが違うので、右手部分を速いテンポのヴァイオリンで弾くと、これはかなり面白い。

No. 6 in B minor
ショスタコーヴィチらしい、ちょっと調子はずれな軽妙・諧謔な曲。ポピュラー音楽のような旋律も登場したする。
やや不協和的な響きがやや濁りのあるヴァイオリンの音で聴くと、よけいに道化た可笑しさが良く伝わって面白い。

No. 7 in A major
不可思議な雰囲気の和声でひそやかな曲。やや不安感を感じさせるようなぼんやりとした曖昧な雰囲気が漂っている。
ヴァイオリンの音色だとその不安げな雰囲気が強く出てくる。

No. 8 in F sharp minor
静かな雰囲気のなかで、どこかしら軽妙さがあるちょっと変わった雰囲気。シチェルバコフのピアノだとかなり軽やかなタッチ。
ヴァイオリンで弾くと饒舌でちょっと重たく、別の曲のように聞こえる。これは、編曲というよりも、弾き方でそういう風に聴こえるのかも。

No. 9 in E major
速いテンポの練習曲風。ヴァイオリンで右手側の旋律を弾くと、ピアノよりも明瞭に聴こえてくるので、ずっと面白い感じがする。

No. 10 in C sharp minor
ゆったりしたテンポでやや不協和的な響きのロマンティックな旋律が美しい。これも密やかで内省的な感じがする。
ヴァイオリンで弾くと叙情性がずっと強くなって、この編曲も美しい。

No. 11 in B major
少し練習曲風なタッチのちょっとおどけた感じで、リズムが面白い曲。
ヴァイオリンの方が、躍動感と諧謔性が強く出ていてこの曲の面白さが良くわかる。

No. 12 in G sharp minor
ピアノ協奏曲のショスタコーヴィチらしい疾走感のある軽快な曲。ピアノ独特の柔らかい響きが美しい。
Allegro non troppoなので、シチェルバコフはやや速め。逆に、ヴァイオリンはテンポが遅くて旋律もメロディアスに弾いているので、ピアノ独奏とは違って優雅な雰囲気。
こういう2通りの解釈を違う楽器で聴くのも面白い。

No. 13 in F sharp minor
ちょっとスローペースの行進曲風。象が行進しているような感じのスローテンポで、やわらかいタッチの響きなのでどことなくユーモラス。
ヴァイオリン編曲版だと、象の行進風ではないくらいに少しテンポが速くて、わりと快活そうな感じで弾いている。これは弾き方の違い。

No. 14 in E flat minor
やや重苦しさのある曲想で、今までとは違って、ピアノが力強いタッチで旋律や和音を弾いていて厳粛な雰囲気。
ヴァイオリンだと、重苦しく厳しい雰囲気がやや弱いかも。

No. 15 in D flat major
とても可愛らしいワルツ。ピアノがスタッカートで弾いているのでとても軽やか。子供や人形、動物といったと小さなものを連想してしまう。
ヴァイオリン版はとても威勢良く弾いているので、曲の雰囲気がかなり違う。CHANSDOS盤はそれよりは軽やかなタッチで弾いているが、全然可愛い感じがしない。

No. 16 in B flat minor
やや悲愴感のある行進曲風でも、どことなくユーモラス。シチェルバコフのピアノは冒頭はやや弱めのタッチ。
この曲もヴァイオリンがやや勢いよく弾いていて、これはこれで面白い。

No. 17 in A flat major
夜想曲風のとても穏やかな雰囲気。
ピアノ独奏もとても美しいけれど、ヴァイオリン版だと旋律をゆっくりと歌うように弾いていて、優雅でロマンティックな雰囲気が良く出ている。

No. 18 in F minor
ややシニカルな雰囲気の軽妙な曲。
ヴァイオリン&ピアノ版だと、2つの楽器の音色も響きも全然違うので、フーガ風の掛け合いが面白く聴こえる。

No. 19 in E flat major
これもやや夜想曲風の可愛らしい曲。中間部は和声が不安定な感じになる。
ヴァイオリンだと、かなりロマンティックで結構賑やかに歌っている。CHANDOS盤もロマンティックで、やや柔らかい雰囲気。

No. 20 in C minor
両手のリズム感が面白い諧謔さのある曲。この曲はピアノがかなり力強いタッチ。
こういう曲想の曲は、ヴァイオリンでも面白い。

No. 21 in B flat major
左手側の規則正しいリズムに乗せて、右手がやや曲折気味の旋律を弾いているという対比が軽妙な曲。
ヴァイオリンが右手側の旋律を弾くと、正確なリズムを刻むピアノ伴奏とのその対比が良くわかる。

No. 22 in G minor
とても静かな内省的な雰囲気。和声の響きにはどこかしら曖昧な不可思議さがある。
ヴァイオリンだと、ピアノの弾く伴奏と響きが全く分離して聴こえるので、この雰囲気が伝わりにくい。

No. 23 in F major
右手側の高音部の旋律の響きがとても美しく、やや幻想的な雰囲気。
ヴァイオリン版だと、この旋律がやや明瞭に響きすぎる気がする。

No. 24 in D minor
テンポは速くはなくて、ちょっとおどけた感じの曲。ピアノのスタッカートで歯切れのよいタッチが良く効いている。
ヴァイオリン版でも諧謔な雰囲気が良く出ていて面白い。

tag : シチェルバコフ ショスタコーヴィチ

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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