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ムストネン ~ ヒンデミット/主題と変奏「四気質」
ムストネンの弾き振りした演奏はベートーヴェンのピアノ協奏曲とかいくつかあるけれど、珍しくもヒンデミットの《主題と変奏<四気質>》を弾き振りしている。

この曲は、米国移住後の1940年に作曲。バレエの振り付け師ジョージ・バランシンのために作曲していたが、途中でバレエには向かないと思ったらしく、ピアノ協奏曲のような組曲形式で完成させた。
バレエに向かないはずの曲だったが、バランシンはバレエとして6年後に初演したが、その後は舞台から消え去ってしまった。(1976年にニューヨーク・シティ・バレエ団によってリバイバル上演されている。)
コンサート用作品としては、1940年に初演され、その後もピアノ協奏曲として演奏されている。

どうしてこんな変テコなタイトルなのかというと、人間の性格を4気質にわけて、それぞれ変奏曲としてその特徴を表現するという発想のため。
この《四気質》という曲名の由来は、古代ギリシアのヒポクラテが唱えた<四体液説>が起源。この説は、人間は血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁からできており、体液は人間の気質にも影響を与える。血液が多い人は楽天的、粘液が多い人は鈍重、黒胆汁が多い人は憂鬱、黄胆汁が多い人は気むずかしい気質となる。(Wikipediaの解説)
これは中世を通じて受け入れられていた説で、現代の心理学の性格分類の基にもなっている。《四気質》という言葉を見て連想したのは、クレッチマーの気質類型。ただし、こっちは3類型。 シュタイナー学校で有名なルドルフ・シュタイナーが、この古代ギリシアの分類法を使って子供の性格を分類している。

この曲の録音は思ったよりもいろいろあって、中でもなぜかモーツァルト弾きのハスキルがこの曲を好んで演奏していたらしく、ヒンデミット指揮によるライブ録音として、1959年(ORFEOR)、1957年(Music and Arts Programs of America)の演奏が残っている。(他にもあるかもしれない)
ハスキルは特に好きなピアニストでもないし、ライブ録音の音質もあまりは良くはない。他にも、アックス、シェリー(これはかなりピアニスティックな演奏)などいくつか録音があるが、ムストネンの弾いたヒンデミットの《ルードゥス・トナリス》が素晴らしい出来だったので、この曲もムストネンの演奏で。こういう一風変わった曲をムストネンに弾かせるとかなり面白い。
ムストネンは作曲もするせいか、バッハ、ショスタコーヴィチ、ベートーヴェンなど、どの演奏もムストネンの才気が聴き取れてしまうくらいにとても個性的。
かなり鋭角的なタッチと音単位で急速な強弱の差をつけていく独特の奏法なので、面白いけれどなんか違うような....と感じる曲もないことはないが、現代音楽を弾く場合は、そういう奏法とか解釈の許容範囲が広いというか、演奏家次第というところがあるので、このヒンデミットは実に良い選曲。

オーケストラはヘルシンキ祝祭管。ヤーッコ・クーシスト(ラハティ響コンサートマスター)等、フィンランドの若手奏者が集まった団体らしい。
カップリングされているシベリウスの第3番の演奏は、結構良いらしい(私はシベリウスはヴァイオリン協奏曲以外は聴かないのでよくわかりません)。

Sibelius: Symphony No. 3; Hindemith: The Four TemperamentsSibelius: Symphony No. 3; Hindemith: The Four Temperaments
(2003/06/24)
ヘルシンキ・フェスティヴァル管/ムストネン(指揮、ピアノ)

試聴する(米国amazon)


この曲は5曲からなる組曲構成で、第1曲が主題、第2曲以降が各気質を表現した変奏曲。
各曲は3部構成になっていて、1つの気質の中に存在する複数の側面をあらわしたような、なかなか凝ったつくりになっている。
弦楽5部&ピアノという楽器構成で、特にこのオケの演奏は響きがやや薄めで透明感があって、細部の陰翳や微妙なニュアンスが聴き取りやすい。

主題 "Theme"
冒頭は弦楽が弾くリリカルで気品が薫るが、ややもの憂げな雰囲気の息の長い旋律。
中間部は鋭く軽やかなタッチのピアノが弾く細かいパッセージが、鍵盤上を飛び跳ねるように行き来して、とても技巧的で軽妙。トリルや3連符といった細かい動きや、不規則な音の配列のスケールや、和音のままで分散和音的に動き回ったり、トリルのままスケールのように上下したりと、音の動きがとても面白い。
いつもながら、ムストネンのタッチはエッジの良くきいた粒立ちのよい音で、クリアで透明感がある。どんなに速いパッセージでも音は1音1音がとても鮮明に聴き取れる。軽やかな音で好奇心に満ちた雰囲気がいっぱい。
完結部は、オケとピアノが柔らかに揺れるようなシチリアーノで協奏する。この楽章に限らず、どの楽章も3つのパートから構成されているのは、それぞれの気質がもつ多面性を表現しているらしい。

変奏1:"Melancholy"(憂鬱質):ゆっくりと
タイトルどおり憂鬱げにまったりしたピアノは、気乗りのしない雰囲気の断片的なフレーズを弾いている。そこにゆったりとしたテンポの憂鬱げなヴァイオリン・ソロ。
(この冒頭部分は、解説によると、バロック時代のフランス風序曲のような複付点のリズム。)
やがて、気分が晴れたように、オケがテンポ良くやや明るめの色調の旋律を弾き始める。が、突如ピアノがフォルテで悲愴感のある和音を行進曲風に弾き始めると、オケも悲愴感を漂わせたような旋律に変わる。
そのうち徐々に気鬱になっていくようにピアノも弦楽も威勢が悪くなって、シシリアーノを元にした重たげなマーチをデクレッシェンドしながら終っていく。

変奏2:"Sanguine"(多血質):ワルツ
冒頭は明るめのタッチでのピアノで始まり、すぐにオケが力強くどことなく明るさのある典雅な雰囲気のワルツ。
やがて、主題楽章で現れた蝶のようなトリルでピアノが入ってくると、オケもそれに合わせて躍動的で楽しげなリズムに変わる。
最後はピアノの刻む力強いリズムをバックにオケが快活に冒頭のワルツを弾いて、ピアノがアルペジオでクレッシェンドして、歯切れ良く終る。
このワルツは、"Sanguine"なので、ポジティブな雰囲気なのだろうけれど、ヒンデミット独特の調性感が曖昧なところのある和声なので、ロマン派的な陽気さや明るさとは違って、ちょっとまったりした感じがする。

変奏3:"Phlegmatic"(粘液質) :モデラート
弦楽器がねっとりと粘っこい音で弾く旋律で始まるところが、いかにもタイトルの雰囲気らしい。
やがてピアノが入ってくるが、パラパラと飛び跳ねるように音があちこちに散らばっている旋律。どこかしら奇妙な感じ。その合間に弦楽が相槌を打つように脱力するような短いフレーズを差し挟んでくる。
やがてテンポがあがって、ピアノの規則的な和音のオスティナートを伴奏に、オケが弾くいくぶん気の抜けたようなシンコペーションがかったシシリアーノで穏やかに終る。

変奏4:"Choleric"(胆汁質):ヴィヴァーチェ
冒頭は厚みのある弦楽合奏と力強いアルペジオのピアノ。オケが力強く合いの手を入れるかのように、ピアノとオケが対話(というよりは論争)していくところがとても面白い。
(解説だと、この部分は、カッカと頭に血が上り嫉妬に駆られたように主導権を争っている様子だという。)
中間部はオケのピチカートの旋律と、ピアノのノンレガートの細かいパッセージが交互に弾かれて、やがてそれが並走して、ややお互いを牽制しているような感じ。最後はピアノがバン!と打ち切るように和音を弾いて終結部へ。
終結部は、再び冒頭主題にもどり、オケとピアノがまた力強く対話(論争)していくが、ピアノが主導権をとろうとするかのように主題楽章よりもずっとダイナミック。響きの厚みのある華麗なアルペジオや和音移動が華やかで、フィレーレはピアノが鐘のように力強い響き。


この曲はピアノ協奏曲とみなされているらしいが、どちらかというと弦楽とピアノの室内協奏曲風で、2つのパートの対話/論争というか、掛け合いがとても面白い。
それでも結構ピアノが目立っているところは多く、技巧的なパッセージがさらっと挟まれていて、ムストネンのテクニックが冴えている。特に、奇妙で不可思議で軽妙な雰囲気を出すところがとても上手い。
楽章ごとに気質的特長にあわせた曲想に変わっていくが、聴いていても情緒的・感傷的な雰囲気は全くしない。独特の和声とあまりメロディアスではない旋律のためか、それぞれの気質を分析的に表現したような理屈っぽさがある。
主題と変奏という変わった楽章構成なので、一応、静→動へと推移しては行くが、盛り上がりのある伝統的な3楽章構成とはかなり違った展開。
これはこれで面白い曲だと思うけれど、あまり演奏されていないというのも、実際に聴いてみればなるほどと納得できてしまう。

tag : ムストネン ヒンデミット

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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