マルクス・ベッカー ~ バッハ/ゴルトベルク変奏曲 

2009, 09. 19 (Sat) 12:00

マルクス・ベッカーは、レーガーのピアノ作品全集を録音したことで知られるピアニスト。
レーガー作品以外はあまり録音がないけれど、<ゴルトベルク変奏曲のCD聴き比べ>というホームページで、この曲を録音していたのを知って、めずらしくて聴いてみると、実に好みにぴったり合う演奏。
CPOというマイナーなレーベルなので、あまり知られていない録音に違いないけれど、思わぬ掘り出しものだった。
今まで聴いたゴルトベルクのなかで、一番好きなのがベッカー、ケンプ。次にペライア。この3人のゴルトベルクを聴くと、とても幸せな気分になれてしまう。

Bach: Goldberg VariationsBach: Goldberg Variations
(2002/01/15)
Markus Becker

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レーガーは、「ドイツ三大B」(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)に連なる立場だと自任していて、作風も変奏曲、対位法を駆使しているせいか、当時の人々からは「現代のバッハ」、「第2のバッハ」とも称されたという。
レーガーによるバッハのオルガン作品のピアノ編曲も多数あり、この編曲版もベッカーがHyperionに録音している。
レーガーのスペシャリストがどうしてバッハのゴルトベルクを録音しているのかと思ったが、そういう流れからいえば、ベッカーがゴルトベルクを弾くのも意外な気はしなくなる。

ベッカーの演奏は、とても繊細な表情を見せる詩情豊かなピアノで、囁くように語り掛ける弱音がとても綺麗。音の間からいろんな感情がこぼれ落ちるようなきらめきに満ちている。
細部のタッチも丁寧で、力みのなりふわ~としたタッチが心地良い。
音が綺麗で、特に柔らかく温もりを感じさせる弱音の響きが美しく、高音の澄んだ響きはとても可愛らしく聴こえる。
技巧的にもしっかりして、細部まで丁寧に弾いている。いろいろ挟む装飾音もわざとらしくない自然さがあって、ピアニストの個性的な解釈を聴かせるというタイプではない。
シフほどの磨きぬかれたアーティキュレーションや絹のような響きではないが、シフの場合はピアニストの解釈が前面に出てくるので、そういう面白さを聴きたい時はよいが、音楽だけを聴きたい時にはそこがしつこい感じがする。
ベッカーのゴルトベルクを何度も聴いていると、強弱の変化が細かく起伏もかなり大きいのに気がついたけれど、音楽の流れに無理がないので、自然で豊かな情感を感じさせるところがとても魅力的。
ベッカーのゴルトベルクに近いタイプの演奏はペライア。ペライアの明るく幸福感に満ちたゴルトベルクを軽やかな響きと夢見ごこちの詩情でもっと繊細にしたようなタッチがベッカー。
ペライアのゴルトベルクが好きな人なら、ベッカーの演奏はたぶん好みに合うでしょう。

アリアはゆったりとしたテンポで、柔らかく細部まで微妙な表情の変化があってかなり叙情的。
第1変奏はとても力強く弾力のあるタッチ。ちょっと”ごつい”感じがするので、この調子で弾かれてしまうとどうかなと思ったけれど、後の変奏は全体的に軽やかなタッチで響きも柔らか。
どちらかというとレガート気味のノンレガートが多いので、響きも旋律の流れも柔らかく滑らか。
残響がやや長めなので、和声の響きの美しさが良くわかる。
左手はあまり強めなタッチではないが、テンポが速くてタッチが強いときは、かなり左手の旋律・リズムが強めにでてくる。
テンポが速い楽章でも、テクニックはしっかりして打鍵の切れも良いが、異常に速いテンポや名人芸的な鮮やかさを聴かせるという技巧的な派手さは少なく、落ち着いたタッチ。その分緩徐部分の柔らかい音楽の流れがつながっていくので、これはこれで自然な流れに聴こえる。
中間の第16演奏は、今までの変奏とは違って、突然音色がキラキラと輝くように明るい。
第25変奏はさらりとした哀感があり、第28変奏はトリルの響きと旋律の響きとも柔らかくとても夢幻的な雰囲気がする。
第30変奏のQuodlibetは、鐘がエコーするような響きがとても美しく、清楚な煌きがある。
最後のアリアは、もうこれで眠りましょうね....というようなゆったりまったりした弾き方。柔らかく澄んだ雰囲気があり、どことなく暖かい感じがする響きがとても心地良い。
夜中に聴くといつの間にか眠りにおちこんでしまいそうな夢見ごこちのゴルトベルク。


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