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ウゴルスキ ~ ブラームス/ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ
数少ないウゴルスキの録音のなかで、一番聴きやすいのはたぶんブラームスの作品集。
1990年にドイツに亡命後、50歳を過ぎてドイツ・グラモフォンに録音したCDには、ブラームスの他にメシアンの《鳥のカタログ》、ムソルグスキーの《展覧会の絵》、シェーンベルクとスクリャービンのピアノ協奏曲など。
最近は新しい録音もないし、日本でのコンサートもあまり見かけないしで、ウゴルスキの演奏を聴いている人はそう多くはないに違いない。調べてみると2007年からはドイツ・デトモルトの音楽院の教授になって教えている。

彼は結構変わったところのある人らしく、「レコード芸術2001年8月号」(たぶん)のインタビュで面白い(というか結構トンデモない)ことをいろいろ言っているらしい。ブラームスやシューマンのピアノ・ソナタには良い作品がなく、満足できる演奏にも出会ったことがない、自分の演奏が一番だ...とか。(原典に当たってないのでこの通りかどうかは定かではありません。)
普通はそう思っていてもはっきり言わないだろうけれど、それだけ自信を持って弾いているともいえるので、ウゴルスキの演奏を聴いてみると、確かにそう言うだけのことはある。

ブラームスのピアノ独奏曲は、ルプーとカッチェン(それにケンプとレーゼルも)の録音があれば充分なので、他の演奏を聴こうという気にはあまりならないが、このウゴルスキは例外で、いくつか試聴しただけで、これは聴いておかねば...と思ったほどに印象的。
ブラームスというよりは、ウゴルスキの独特の世界を聴いているようで表現意欲に満ちてはいるが、奇を衒ったタイプではなく、独特の柔らかい弱音の響きが多彩なニュアンスを含んでとても美しい。リサイタルで弾いたブラームスやモーツァルトもこういう響きで弾いていたらしい。

いままで弾かれてきたブラームスとは全然違う独特の響きのブラームスなので、一度聴くと忘れられないが、これは好みがはっきり分かれるタイプ。ブラームスらしくないと思って二度と聴かないか、ここまで美しければ、これはこれでいいじゃないかと思うか、どちらか。
これだけ独自の美学が貫徹されたブラームスを聴くと、カッチェンやゼルキンの演奏とは全然違うけれど、全く別世界のこの美意識に聴き惚れるところがあって、思わずベストにしてしまいたい気にもなる。さすがにそれはしないけれど、カッチェンの演奏(これが一番好きなので)と同じくらいに気に入ってしまった。

収録しているピアノ・ソナタ3曲も同じスタイルの演奏で、いつも聴きなれた曲が全く違った顔を見せるのが面白い。
特に、《左手のためのシャコンヌ》は素晴らしく、これを聴いてしまうと他の演奏を聴いても物足りなく思える。[《左手のためのシャコンヌ》の記事]

ピアノ・ソナタ第1番~第3番、《ヘンデルの主題による変奏曲》、《左手のためのシャコンヌ》の5曲が収録されているピアノ作品集。私の持っているのはこのCD。今は廃盤になっていて、ヘンデルバリエーション以外は、『Brahms: Complete Edition』に収録されている。
Brahms;Piano SonatasBrahms;Piano Sonatas
(1997/03/10)
Anatol Ugorski

試聴する(米国amazon/『Brahms: Complete Edition』Disc20~21)


ピアノ・ソナタ第3番とヘンデルバリエーションを収録した国内盤。これは今でも入手可能。
ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番,ヘンデルの主題による変奏曲とフーガブラームス:ピアノ・ソナタ第3番,ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ
(2006/01/13)
アナトール・ウゴルスキ

試聴する


ウゴルスキのブラームスは、弱音の階層がとても多くて、柔らかい響きのp、pp、pppのニュアンスがとても多彩。残響は長めで、特にフォルテの和音になると響きが重層的でシンフォニック。
強弱のコントラストはダイナミックだが、緩急のコントラストも鮮やかで、特に緩徐的な部分はゆったりとしたテンポで、表情がこまやかに変わっていく。
直線的に弾くタイプではなく、曲線的で変幻自在といった感じがするが、音楽の流れはとても滑らか。細部まで表現に凝っていてもなぜか作為性は感じないし、テンペラメントや感性にかられたような情緒性もウェットな情念も感じさせない。
音の織り成す世界の美しさはとてもファンタスティックで、多彩に変化するテンポやタッチ、表現も音楽の流れにうまく調和していて、いつものブラームスの世界とは違うけれど不思議と納得してしまう。


<メモ>
冒頭のアリアからして、弱音の響きが柔らかく微妙なニュアンスを感じさせる音で、長めの残響と相まって、とても美しいアリア。
第1変奏は軽やかというよりは、力強いタッチだが、時に柔らかい歌いまわしになったりして、表情がよく変化する。
第2~3変奏は細かくルバートをかけていて、柔らかいタッチで甘い響きが可愛らしい。第4変奏は力強いフォルテ。ファルテはどの変奏でも力強く勢いがあるので、弱音とのコントラストが鮮やか。
第5変奏は流麗なレガートの弱音が儚げな雰囲気。第6変奏は柔らかい和音の響きでどこなく暗い翳りがある。
第7~8変奏は力強く打鍵で、しっかり正確にリズムを刻んでいくが、特に第8変奏の左手の同音連打のリズムがかっちりしてゆるぎない感じ。
第9変奏は、少しネットリしたタッチで和音をたっぷりと響かせている。こういう弾き方をすると結構しつこい感じがすることが多いが、ウゴルスキの場合はなぜか自然に聴こえてくる。この弾き方に慣れてしまったせいもあるが、情緒性を感じさせない弾き方だからだと思う。
第11変奏と第12変奏はわりと速めのテンポ。弱音の響きが美しくて、夢見るような雰囲気の旋律。
ウゴルスキの場合は、変奏ごとのテンポ設定にかなり幅があって、緩急(に加えて強弱も)のコントラストをダイナミックにつけている。
第13変奏は和音で主体の荘重な旋律。左手の和音がアルペジオで、右手が悲愴感のある旋律だが、わりと柔らかいタッチで、ことさら力強く重厚な感じにはせず、穏やかに訴えかける雰囲気。
第14~15変奏は、一転して速いテンポに変わり、力強く明るい喜びを歌うような華やかさがある。急速のフォルテで弾くとゴツゴツしがちだが、ウゴルスキは音楽の流れがとても滑らか。
第16~18変奏は、やや速めのテンポで、軽やかな弱音の響きが美しく。主旋律と副旋律、それに内声部の響きが違っているので、それぞれが分かれて聴こえてくるのが面白い。
第20変奏はゆったりしたテンポで弾く柔らかい弱音の響きが、不可思議さのある曖昧な雰囲気を出している。
第21変奏は、とても悲しげで美しい旋律。ウゴルスキのピアノの響きは、この旋律にこれ以上ないくらいぴったりした響き。
第22変奏はとても速いテンポで軽やか。うきうきとして心が弾むようで、高音の音色も鐘のようにとても美しい。
第23~24変奏は、一転して力強いタッチのスタッカートやスケール。大きくうねるようにクレッシェンドしてゆくスケールは結構迫力がある。
第25変奏は最後の変奏。速いテンポで力強いタッチがとても華やか。
最後のフーガは、わりとゆったりしたテンポだが、リズム感が良く流れも滑らか。フレーズに応じてタッチと響きの変化の幅がかなり大きいので、このフーガはとても表情が豊か。ストーリー性を感じるほどに饒舌で、厚みのある響きに輝きがあり、とてもドラマティック。締めくくりに相応しい堂々としたフーガ。

アリアからフーガにいたるまで、明るさと陰翳が交錯する濃い表現と多彩な響きで万華鏡のように美しく変化していく。全曲通しで聴いていると、まるで長い道のりをあちこち旅してきたような気分になる。
この曲でこういう弾き方もあるんだといろいろ新しい発見ができるとても個性的なブラームス。今まで聴いたヘンデルバリエーションの中では最も刺激的だった。

tag : ウゴルスキ ブラームス

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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