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ムストネン ~ ベートーヴェン/ディアベリ変奏曲
最近よく聴くようになったのはオリ・ムストネン。彼の才気が煌く個性的なピアノはとても刺激的で新鮮。
ムストネンのディスコグライフィをチェックしていると、ベートーヴェンの独奏曲のCDが数枚あって、変奏曲集やピアノ・ソナタ第30番とか、ピアノ小品などを録音している。
そのなかでムストネンのピアニズムが一番生かされているのは、ディアベリ変奏曲。

ディアベリ変奏曲というと、昔から定評があるのはゼルキン、ブレンデルなど。
新しい録音ならアンデルジェフスキが群を抜いて素晴らしい。
他にもバックハウスとか聴いた録音はたくさんあるけれど、ここにカッチェンの録音が付け加わって、もうこれで打ち止め。
と思っていたら、見つけてしまったムストネンのディアベリ。アンデルジェフスキとは方向性が全然違うけれど、これがアンデルジェフスキと同じくらいに面白い。

ムストネンのイメージは”才気煥発”。といっても、テンペラメントや感性のおもむくままに弾いているという風情ではなく、よく考えられた知的さを感じさせるもの。
このディアベリは、ミクロなレベルまで一度解体してから緻密に再構築したような精巧さ。
どういう響きをどう組み合わせていくのか、試行錯誤しながら組み立てなおしたように、響かせ方と重ね方がよく考えられている。
そのわりに人工的な構築物のような印象は全くせず、魚がピチピチと飛び跳ねているようなタッチで弾いているディアベリはとても新鮮で、どこかいたずらっ子のような才気が煌いている。
ムストネン独特の弾き方は、スタッカート気味の軽くて鋭いタッチや独特のリズム感、強弱のコントラストを細かくつけた起伏のある表現...とかなり独特のクセがあるけれど、音楽の流れは意外に無理がないので、奇をてらったところは感じない。(でも、そう感じる人の方が多いかも...)

少し聴けばすぐにムストネンが弾くディアベリだとわかるくらいに個性的なので、好みははっきり分かれる。
ゼルキンのような、いかにもベートーヴェンらしいオーソドックスな演奏を期待する人には不向き。
万人向けのスタンダードではありえないけれど、好みに合えば、とても面白くて刺激的なディアベリが聴けます。

ベートーヴェン : ディアベリ変奏曲Op.120ベートーヴェン : ディアベリ変奏曲Op.120
(1999/04/21)
ムストネン(オリ)

試聴する
1996年10月、ロンドンのHenry Wood Hallでのスタジオ録音。

ムストネンの弾くディアベリ変奏曲は、速いテンポで、スタッカートに近いノンレガートなタッチを多用して、とても軽快。
スピード感と多彩な表情の変化で、とても生き生きとしている。
ベートーヴェンらしいい”厳つさや重厚さとは全く無縁。

タッチにはかなり種類があるので、響きも多彩。
そのため、異なる声部やフレーズの動きがとても明瞭にくっきりと立体的に聴こえてくるし、目まぐるしく表情が変化していく。
リズムが前のめりがかった符点ぎみだったりするところと、ところどころ強くつけるアクセント、それに独特のフレージングが面白い。

この曲のフォルテ(特に左手バス)はかなり強打するピアニストが多いが、ムストネンのフォルテはそこそこの音量で丸みのあるタッチ。
音単位でつけている強弱の方がコントラストがとても明瞭で、それも絶えず細かく変化するので、横に流れる線的な動きがとてもよく見える(聴こえる)。
高音部は特に夢見るような透明感と弱音の響きが美しい。
ムストネンの音は澄んだ響きなので、混濁することがなくとても綺麗。

リズムも少し変則気味になっているところがあるが、それが規則的なので崩れた感じはなく、打鍵もシャープで正確。
打鍵(と響き)のコントロールがよく効いているので、この弾き方なのに、かなりかっちりとした枠を感じさせる。
その中を、多彩な響きと強弱の変化と工夫されたフレージングで、緻密に埋めていく。
ムストネンの弾き方は、各変奏のもつ雰囲気のなかでも、可笑しさ、不可思議さ、可愛らしさ、ひそやかさといった要素が強く伝わってくる。


冒頭の主題を聴けば、ムストネンらしい弾き方がどういうものなのかすぐにわかる。
ここを聴いて好みに合わないと思ったら、多分最後まで同じだと思う。

第3変奏と第4変奏は、ややゆったりとしたテンポの優しげな旋律。多彩なタッチから繰り出される響きが色彩感豊か。
声部によって音色や響きの柔らかさ・長さが変わって重なりあっていくのがとても面白い。

第5変奏は、カッコーのような音が徐々に減衰していきながら、次々に音を重ねていく。
第7変奏も、響きの重ね方が今までの変奏とは違っていて、1拍目の音をとても長く響かせている中にフレーズをいくつも重ねていく。重なっていく響きに濁りがなく、高音の細かいパッセージがとても綺麗に響いている。
この変奏に限らず、どの変奏も音色や響きのバリエーションと組み合わせが面白くて、ついつい響きの方に神経が集中していってしまう。
それに、スピーカーよりもヘッドフォンで聴いた方が、細部までくっきりと明瞭に聴こえてくる。

第11変奏は、順番にエコーしていく旋律の響きの余韻にかなり注意しながら弾いている。柔らかくすっと消えていく響きがとても綺麗で、少し密やかな雰囲気がする。

第16~17変奏は速いテンポで軽快なリズム感が歯切れ良く、しっかりしたタッチで響きも長くて厚めなせいか、今までの変奏のなかではかなりダイナミックな弾き方。
第19変奏は、カノン風にエコーしていくようなリズムと、アクセントとフレージングが独特なのか、他の演奏とは違った音の動きに聴こえるところがとても面白い。
第20変奏は摩訶不思議な旋律。どの演奏で聴いてももう一つ良くわからない演奏だが、ムストネンはわりと速めのテンポで、音の流れが明瞭に聴こえる。

バッハやショスタコーヴィチのフーガを多数録音しているだけあって、第24変奏のフーガはとても美しい。
ここは珍しく全てレガートで弾いていて、いろんなニュアンスのある柔らかい響きがとても綺麗。
声部ごとに響きが違うので、自然と分離されて立体的に聴こえてくる。
今まで聴いた演奏のなかでは、最も響きが多彩で美しく、憂いや優しさや親密さといったニュアンスに満ちたとても自然な流れのフーガ。

第29変奏はかなり変わった弾き方。普通はレガートで悲痛感を込めて弾くが、ムストネンは、主旋律は主にスタッカート気味のノンレガート。
響き自体は悲しげだけれどストレートではなく、ワンクッション置いて間接的に気持ちを表現したような不思議な叙情感。
第31変奏も似たような弾き方で、こちらはややレガートなタッチが多くなって哀感が強くなっている。

第32変奏のフーガだけ、なぜか急に音量があがって音色が輝いて、響きも長い。かなりしっかり打鍵していて左手バスも力強く、フィナーレらしい重層的な響き。
アクセントの付け方やフレージングに特徴があるせいか、いつも聴くフーガとはところどころ違うように聴こえてくる旋律があったり、明瞭には浮かび上がっていなかった音もいろいろ聴こえてくる。
最終の変奏も軽やかなノンレガートで、高音の響きが綺麗で可愛らしい。

ムストネン独特のアーティキュレーションで弾いたディアベリを聴いていると、まるで人間姿をしたマリオネットたちが動き回っているような擬人的な世界の音楽を聴いているような気になる。
いろいろな要素が重なりあって、立体的で他の演奏とは違った風に聴こえる演奏なので、感覚的に聴くというより、意識的に旋律の動きや響き方を識別しながら聴いてしまう。
現代音楽でもないのに、こういう風に考えながら聴ける演奏は珍しく、これがムストネンの演奏が面白いと思う一番の理由。

                                    

このアルバムには、ベートーヴェンの作品番号のついていない小品が5曲収録されている。
めったに聴けない曲もあるので、フィルアップ(なんだろうと思う)にしてはなかなか良い選曲。
全体的に軽やかなタッチで弾いていくが、ムストネンらしく細かい起伏のつけた演奏なので、短い曲とはいえ、とても表情豊かな小品に仕上がっている。
なかでも、Prestoで弾くバガテルは、ムストネンのタッチに音の動きと曲想がぴったり会っていて、これはかなり冴えた演奏。
最後の《ピアノのための小品「楽しく、悲しく」》はとてもシンプルだけど綺麗な旋律。エンディングらしい静かな雰囲気で終っている。

 -弦楽五重奏曲 ハ長調 Hess41「断片」(ベートーヴェンの最後の楽想)
 -アレグレット ハ短調 Woo.53
 -バガテル ハ短調 Woo.52
 -アレグレット ハ短調 Hess 69
 -ピアノのための小品「楽しく、悲しく」 Woo.54

ムストネンが録音したベートーヴェン作品は、独奏曲ではピアノ・ソナタ第30番、変奏曲集など。協奏曲は、協奏曲5曲全曲とニ長調協奏曲(ヴァイオリン協奏曲のピアノ協奏曲編曲版)の弾き振り。
第4番&第5番の録音は、10月末にリリースが予定されている。
第3番&ニ長調協奏曲の録音は、ムストネン独特のピアニズムが冴え渡っていて、これも大好きな演奏。
特にニ長調の方はあまり演奏されることのないとても珍しい曲で、原曲のヴァイオリン協奏曲よりも、このピアノ協奏曲版の方を良く聴いている。

tag : ムストネン ベートーヴェン

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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