カッチェン 《ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集》 ~ 合唱幻想曲 

2009, 10. 03 (Sat) 11:58

ほとんど聴かない合唱曲のなかで、数少ない例外はベートーヴェンの《合唱幻想曲》。
カッチェンのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を聴いていたら、第4番に続けて《合唱幻想曲》が始まったので、久しぶりに聴いてみた。

《合唱幻想曲》は”Fantasie für Klavier, Chor und Orchester”という本来の曲名通り、純然たる合唱曲ではなく、ピアノ独奏とオーケストラ伴奏が入っている。合唱は最後の数分間だけ登場するけれど、この短い合唱部分の高揚感は抜群。
《歓喜の歌》の入った第9番の第5楽章は好きでもないのに、この《合唱幻想曲》は何十回も聴いているほどにとても好きな曲。

《合唱幻想曲》の歌手が歌う主題は、『片思いの男のためいき及び返答の愛』(WoO.118)という一風変わったタイトル歌曲にも使われている。
フィッシャー=ディースカウのベートーヴェン歌曲集を聴いていたら、突然この旋律が出てきて、バリトン独唱でもやっぱり良い曲だと思う。

《合唱幻想曲》は、たいていベートーヴェンのピアノ協奏曲全集の一環で録音されているが、それでも録音しているピアニストは多くはない。
全集をいろいろ集めていると、この曲が入っていたのはポリーニ(アバド/ウィーンフィル)、ゼルキンのライブ録音(晩年のクーベリックとの共演盤)、カッチェン。レーゼル(ケーゲル/ドレスデン・フィル)はNMLで三重協奏曲とのカップリング盤で聴いている。
他にもブレンデルやグリモーとかが録音しているけれど、好きなピアニスト以外の演奏で聴く気が起こらないので、これだけで充分満足。

聴いた演奏のなかで最も高揚感があるのは、ゼルキンのライブ録音。伴奏はクーベリック指揮バイエルン放送響。74歳くらいの晩年の録音だけれど、ゼルキンのピアノはとても情熱的。ゼルキンと比べると、他のピアニストがとても穏やかに聴こえてしまう。伸びやかで輝きのある響きが美しいし、フォルテは力強く、テンポがかなり伸縮して、ライブならではの気合が入っている。
レーゼルは残響の長いピアノが幻想的で美しくて演奏自体は良いのに、ソリストのテンポが速すぎるせいか、ピアノが遅れ気味でテンポのズレが少し気にはなる。合唱はかなりの大音量で迫力充分。

一番良く聴くカッチェンの録音は、ガンバ指揮ロンドン響・合唱団との1965年スタジオ録音。
3種類のCD(ピアノ協奏曲全集、『The Art of Julius Katchen』のVol.2、国内盤)がリリースされている。国内盤はあまり音が良くないので、いつも聴くのは輸入盤。

これはピアノ協奏曲全集の輸入盤。旧録のディアベリ変奏曲と第32番ソナタとのカップリング。

Piano Concertos 1-5 (Coll)Piano Concertos 1-5 (Coll)
(2007/05/15)
London Symphony Orchestra

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『The Art of Julius Katchen』シリーズ。ピアノ協奏曲第4番とモーツァルトのピアノ協奏曲3曲とのカップリング。
モーツァルトは第20番と第25番が、ピアノの弱音が美しいとても端正(でもちょっと地味かも)な演奏。
Art of Julius Katchen 2Art of Julius Katchen 2
(2004/01/12)
London Symphony Orchestra

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《合唱幻想曲》のピアノ部分の楽譜(IMSLP)


カッチェンの演奏はなかなか個性的。冒頭のAdagioや弱音の響きが独特なので、ブラインドで聴いてもすぐにわかる。
全体的に緩急や強弱のコントラストが明瞭。特に、弱音からフォルテに変化するところはかなり急ピッチなので結構盛り上がってしまう。
響きは短めで、フォルテはかなり力強いので、きりりっと引き締まっている。反対に弱音の柔らかく透明感のある響きはとても優しい。

冒頭のピアノソロで和音で弾くプロローグ(という雰囲気)の部分は、かなり遅いテンポでそれもテヌート気味のタッチで、たっぷりピアノを響かせている。
確かに、adagioでffと指定されているには違いないけれど、普通はそこまでテヌート気味のタッチで弾かないので、初めて聴いた時はまるで、一体何が始まるんだろうかと思うような大時代がかった印象だった。このピアノ独奏部分は、スタッカートでも響きが長めで重みがある。

Finaleに入って、ピアノ・ソロが始まると、すっかりテンポが速くなって、切れの良いタッチで軽快。丸みのある柔らかい響きでコロコロと転がるような細かいパッセージを弾くと、目の前の霧が晴れたようにすっきり。
なにせ最初が本当にスローだったので、これくらいがちょうど良いテンポ。冒頭のAdagioのスローペー0スのせいで、全体の演奏時間が19分もかかっている(他は18分くらいが多い)。
オケもきびきびとして力強く若々しい演奏。指揮者のガンバはかなり若かったはず。
ピアノとオケの協奏になると、ピアノも力強く歯切れ良いタッチ。柔らかな弱音からフォルテへと一気にクレッシェンドしていくので、起伏が大きくて爽快。
カッチェンらしくテンポの速いところではピアノに勢いがあり、緩徐部分の穏やかなピアノとの落差が面白い。

合唱に入る前のAdagio。ピアノの弱音の響きが美しく、とても清々しく穏やかな雰囲気。
Marcia,assai vivaceに入ると、ファンファーレのような華やかなオケのトゥッティ。その後で、ピアノが何かの前触れのように、弱音で弾く旋律は幻想的な雰囲気が漂っている。
最後はAllegrettoに変わり、一転してピアノの力強く華やかなアルペジオ。ソプラノとアルトの重唱が始まると、ピアノは弱音でとても優しい雰囲気の伴奏に変わる。このピアノ伴奏のところは、軽やかなタッチで、響きがとても可愛らしい。
次のテナーとバスの重唱のピアノ伴奏もとても滑らか。この後に合唱が入ってくる合唱は、スタジオ録音にしてはかなり臨場感があって、大らかで伸びやかな感じ。
ほとんどフォルテで歌うのと、Prestoに入ると盛大に盛り上がっていく旋律なので、高揚感は充分。オケも盛大に大音量で鳴っていて、特に金管がパワフル。
和音による上行のスケールやアルペジオを弾くピアノにもかなり力が入って、特にラストで繰り返し弾くアルペジオがとても華やか。

コンチェルトや独奏曲と弾くときとは違って、伴奏者でもあるせいか、いつものようにピアノが突進するように加速していないところがカッチェンにしては珍しい。
初めのピアノ・ソロからオケとの協奏、最後の合唱の伴奏部分まで、テンポが良くコントロールされ、オケとピアノ、ソリスト・合唱とピアノ伴奏がぴったり合っているので、いつになく安心して聴ける。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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