カッチェン 《ベートーヴェン/ピアノ協奏曲全集》 ~ ピアノ協奏曲第1番 

2010, 04. 19 (Mon) 18:00

現代もののピアノ協奏曲を聴いていると、それはそれで面白いとは思うけれど、結局、最後に還っていくところはベートーヴェンとブラームス。
ブラームスは結構精神的にエネルギーがあるときに聴きたくなる。そうでないときは理性と感情のバランスがとれているベートーヴェンの方が聴きやすい。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番は決定的な名盤がなさそうなので(あるのかもしれないけど)、下手にあれこれ異聴盤を集めるよりも、好きなピアニストの録音だけ集めている。
ミケランジェリ(ジュリーニ/ウィーンフィル)をよく聴いていた時期があって、凝ったアーティキュレーションと多彩な響きが面白いとは思ったけど、何度も聴いていると人工的に感じてきたので、今は聴かない。(ベートーヴェンとブラームスをミケランジェリで聴くのは、ちょっと...)
他にも、アラウ、ゼルキン、レーゼル、グルダ、ポリーニ、アンダ、etc.といろいろ聴いたけれど、これが絶対にベストという録音がどれかは、なかなか決め難い。

結局、最後に残ったのはカッチェンとケンプ(第3番の時と同じ結果)。レーゼルとアンダもとっても素敵。それにEMI盤のアラウも私好み。
聴くたびに、どれがベストがいつも変わっているような気がするけど。
この中で一番若々しい演奏はカッチェン。世間一般にはあまり聴かれていない録音でも、弱音の柔らかい響きと、コロコロ変化する表情が面白い。
指揮者は若いガンバ。ガンバ/ロンドン響の伴奏で弾いたカッチェンのコンチェルトは、どの曲でも自由で伸びやかに弾いていて、この組み合わせの演奏を聴くと、いつも気分が晴れやかになる。
大御所のミュンヒンガーの指揮で演奏したモーツァルトのコンチェルトはとても端正だけど、ピアノが枠にはめられたような窮屈そうな印象だった。指揮者によってピアニストは随分変わる。
ガンバとカッチェンは、相性がとても良かった指揮者とピアニストだと思うけれど、だんだんケルテス(や他の名の知れた指揮者)と録音することも増えていて、ガンバとはこのピアノ協奏曲全集が最後の録音になってしまった。

Piano Concertos Choral Fantasy Diabelli VariationsPiano Concertos Choral Fantasy Diabelli Variations
(2007/05/15)
Julius Katchen (Piano),Piero Gamba (Conductor),London Symphony Orchestra, London Symphony Chorus

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第1楽章 Allegro
冒頭のトゥッティからして、速めのテンポできびきびと切れ味の良い演奏。金管がかなり元気。
ピアノ・ソロが始めると、ややこもった感じの柔らかい弱音の響きがとても可愛らしい。これは優美なベートーヴェンになるのかと思ったけれど、すぐにエンジンがかかったように元気になっていく。
解説にも”若者のベートーヴェン”と書いてあって、その通りメリハリの聴いた快活でアクティブなベートーヴェン。
硬質で粒立ちの良いタッチで弾くパッセージは軽やかで切れ味良く、フォルテはかなり力強いタッチで、弱音で弾く柔らかい表情とのコントラストが明確。情緒的にクネクネベタベタせずに、さらりと情感を込めて弾いていくところが爽やか。

中間部のアルペジオのクロスリズムで始まるピアノ・ソロは、とても響きが柔らかくやや霞がかった弱音が幻想的。中間部の締めくくりの和音のアルペジオの響きがとても綺麗に聴こえる。
この中間部は特にピアノの響きが美しく、以前よりも響きのバリエーションがずっと多くなっている。
ブラームスのピアノ作品全集を完成させた頃から、弱音の使い方にとても神経を使うようになっているので、1960年代半ば以降の録音を聴くと、いずれも独特の響きのする弱音で、すぐにカッチェンの演奏だとわかる。

最後のカデンツァも、テンポが落ちずに勢い良く、シャープでエネルギッシュ。細かいパッセージは指が良く回ってしまうせいか、コロコロと滑るような勢いで弾いている。

この楽章は、音が詰まったパッセージではついテンポが速くなってしまうところがあるけれど、それでもすぐに元のテンポにちゃんと戻っている。
もう40歳間近の頃の録音なので、2年前に録音した第4番の時のような、止まるに止まれず加速していくクセがかなりコントロールされている。録音年に注意して聴いていると、テンポや弱音の使い方とかいろいろなところが、年とともに変わっていくのがわかるのが面白いところ。

第2楽章 Largo
ここはかなりテンポを落としている。演奏時間が12分くらいなので、普通よりも1分ほど長い。第1楽章は逆に1分ほど短いので、緩急のコントラストを強くつけている。
丸みのあるやや篭もったような質感の弱音には暖かみがあり、とても穏やかで安らかな感じ。この楽章はとても情感を込めて弾いているけれど、とてもさりげなく自然な雰囲気。
もともと緩徐楽章は好きな方ではないけれど、このゆったりしたテンポとささやくような暖かい弱音の響きが相まって、カッチェンの演奏にはしみじみとかみ締めるような味わいがあって、この楽章はかなり好き。

第3楽章 Rondo
この楽章もやっぱりかなり速い。カッチェンのピアノは、第1楽章よりもフォルテが抑えめで強弱のコントラストがいくぶん弱め。少し柔らかいタッチで弾いているので、響きに丸みが出てずっとソフトな印象。
第1楽章の力強いタッチに比べると、この楽章はそれよりも可愛いらしさの方が強く出ていて、とても軽やかなタッチで、さらさらとした叙情感が爽やか。

第1楽章と第3楽章はかなりテンポが速いので、指回りは滅法良いけれど、細部のタッチがちょっと粗くなるところもあるような気がしないではないけれど、こういう勢いのある弾き方が身上でもあるので、細かいことは気にせず、この勢いと切れ味の良さ、弱音の美しさを楽しむのが一番。



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