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岡田暁生著 『音楽の聴き方』、『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏』
岡田暁生さんという方が書いた『音楽の聴き方』のレビュをいくつかのブログで良く見かけるので、そのうち読もうと思っていたら、9月の上旬に『音楽の聴き方』で吉田秀和賞を受賞したとニュースに出ていた。

音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)
(2009/06)
岡田 暁生

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著者は、音楽史がご専門らしく、今は京都大学人文科学研究所の准教授。
『音楽の聴き方』は、学者らしく多数の引用や例示によって、音楽の聴かれ方の歴史的変遷、音楽を聴いた時にどうやって感じたことを言語化できるのか、言語化するまでにまずどういう文脈で聴くべきなのか、等々、タイトルどおり音楽の聴き方のセオリーを解説してくれている。

本文は面白いとは思うが、どちらかというと、本文よりも「おわりに」として書かれた「聴き方上手へのマニュアル」(箇条書きで列挙された6頁ほどの項目)が、実践的な面ではわかりやすくて、参考になる。いくつか抜き出してみると

 - 他人の意見は気にしない
 - 世評には注意
 - 自分のクセを知る
 - 「理屈ぬき」の体験に出会う
 - 有名な音楽家を神格化しすぎない
 - そのジャンルに通じた友人をもつ
 - 定点観測的な聴き方をする
 - 音楽を語る語彙を知る
 - 音楽に「盛り上がり」図式ばかりを期待しない
 - 「美しくて、人を癒し、快適な気分にさえ、あるいは感動させ、勇気づけるもの」だけが音楽だという
   固定観念を捨てる、「わからない」というミステリーに楽しみを乱す聴き方もある
 - ある音楽がわからないときは文脈を点検する
 - そのジャンルのアーカイブを知る

これ以外にも、いろいろと列挙されている。
各項目にはさらに数行ほど説明文が付けられていて、全くご尤もと思うことは多い。
個人的には数を聴くことと、複数の異聴盤を聴くのが一番効果的。相対的な違いがわかって、自分なりの基準ができるし、自分の好みやバイアスのかかり方がある程度自覚できる。さらに、他人のレビューのバイアスも検討がつくようになるので、好評・悪評に振り回されることがなくなるのも良いところ。

                               

『音楽の聴き方』はそれなりに参考になったけれど、内容的に面白いと思ったのは『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏」』。

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)
(2005/10)
岡田 暁生

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これは歴史社会学的な視点が入っているので、その時々の時代背景との関わりと音楽の形式がどういう風に連関しているのかとか、作曲家と作品の置かれていた文脈が良くわかる。
中世、ルネサンス、バロック、ウィーン古典派、ロマン派を経て、現代音楽へ至った流れが、政治や社会の動きとうまく連関して記憶に残るので、歴史ものにしてはかなりわかりやすい。
文章も論文調ではなくて読みやすいし、入門書には好適。
ただし、著者の専門は19世紀の音楽なので、他の時代については、大学で通史を担当することになって、CDや文献を読んで勉強したと書いている。そういう点では、それぞれの時代の音楽の専門家からみて違う解釈もあると思うので、巻末の時代別の文献ガイドを参考にして、他の本も読んでおいた方が良さそうには思える。
20世紀の音楽の参考文献は、難解なアドルノの著作しか掲載されていないので、アドルノの思想的な背景も考えれば、それだけなのはちょっとどうかなという感じ。同時代の音楽を対象にしているので評価が確立された著作が少ないとはいえ、他の本も取り上げてあったら良かったのに..と思う。

特に面白かったのは、バッハに関する考察とロマン派以降の音楽の動き。
この本によれば、今でこそバッハは偉大な作曲家でその権威は絶大だが、当時は欧州の音楽界のトレンドには全然合わないドイツのローカルな音楽、それも、対位法という時代遅れのスタイルにこだわった作曲家という程度のものだったらしい。
そもそも当時の音楽は、バロック時代の音楽は絶対王政時代の宮廷で消費されるための音楽で、バッハのように堅苦しい宗教音楽や対位法へと傾斜していくのは例外的。
そのバッハと作品が脚光を浴びて徐々に神格化されるようになった過程を、ドイツのナショナリズム的な時代背景から説明しているところが面白い。

かなり単純化していうとすれば、ウィーン古典派は近代市民社会での市民階級の勃興と啓蒙主義の精神に彩られ、「感動させる音楽」であるロマン派は、産業革命・科学技術・資本主義などによって徐々に無味乾燥になっていく時代ゆえに生まれたロマンティックな音楽。19世紀~20世紀への世紀の転換期での後期ロマン派とフランス印象主義を経て、無調・前衛の現代音楽へと、従来の安定した型・形式・調性が徐々に揺らいで崩壊していく流れが良くわかる。

本文に載っていたアーノンクールの言葉によると、「18世紀までの人々は現代音楽しか聴かなかった。19世紀になると、現代音楽と並んで、過去の音楽が聴かれるようになりはじめた。そして20世紀の人々は、過去の音楽しか聴かなくなった」。これと似たことはいろんな本で書かれている。
あのベートーヴェンも当時の人にとっては同時代の音楽=現代音楽。その頃は次々に新しく生まれてくる音楽を聴く楽しみがあったのだろうが、今は過去の音楽をどういう切り口で聴けるのかという楽しみに変わっている。
わけのわからない「いわゆる前衛音楽における公衆の不在」の果てに、「巨匠による古典的レパートリーの名演」へと関心が映っていった、という。
現代音楽といっても様式は多種多様で、調性音楽へ回帰していくような形式の曲もあって、最近は”前衛”も廃れて随分とっつきやすくなってはいるが、調性音楽の魔力は絶大で100年や200年経っても変わらないんじゃないかと思えてくる。


著作リストを調べてみると、『ピアニストになりたい!19世紀 もうひとつの音楽史』というのが歴史もので面白そう。これも近いうちに読んでみたい本。

ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史
(2008/10/24)
岡田 暁生

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tag : 伝記・評論

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『西洋音楽史』、私も読了しました。
西洋音楽史、とても面白かったです。どの時代も読者に(少なくとも私には)興味を引き起こす書き方をしていらっしゃって、一気に読んでしまいました。
バッハに関する考察は面白かったですね。彼の音楽は古典派の少し前なのにやたら古く聞こえる、と思っていたら、実際時代遅れだったようですね。

ところで、19世紀では演奏中だろうと、今の軽音楽のライブみたいに騒いでいたそうですね(『ピアニストになりたい!19世紀 もうひとつの音楽史』の表紙にもなっていますね)。岡田さんが「どんな音楽にも必ず、『適切な聴き方』というものがある」とおっしゃっていますが、当時と今の差には本当に驚きます。

この本の勢いで「岡田さんの本だ!」と思って、『音楽の聴き方』を購入しましたが、こちらは半分ほど読んで、数ヶ月放置しています;
個人的には、好きな音楽に対して語る語彙を持たず、頭の中によくわからない複雑な感覚が滞ったまま誰とも共有できない状態も好きです。
『西洋音楽史』は良書ですね。
エウロパ様、こんばんは。コメントありがとうございます。

歴史解説書の類が好きなので、新書とかでいろいろ持っているのですが、音楽史となるとコンパクトにまとまったものがなかったので、岡田さんの本はとても参考になりました。
『音楽の聴き方』の方は、一通り読んで2回は読みませんでしたが、過去にどう聴かれてきたのかという、社会史的なところは面白いです。
今は録音技術のおかげで、レコード(CD)鑑賞と演奏会とは、聴き方も変わりますね。最近の演奏会は聴衆が立てる雑音(騒音?)が増えているらしく、個人的には音楽は静かに集中して聴きたいものです。

音楽に限らず芸術ものは、なかなか言葉で表現しがたいものがあるので、比喩を使ったりするのですが、それも少しずれたりして、正確に言語化するのは難しいですね。
「良い・悪い」と「好き・嫌い」も、スパっと区別できないところがありますし、結局、言葉以前に、自分の直観が一番頼りになるように思います。そういう意味では、おっしゃる通り、あえて言語化する必要もないのかもしれません。
同じ感性を持つ人同士だと、「良かったですね~」の一言だけで、わかるといえばわかりますから。

同じ録音を聴いても、久しぶりに聴き直すと印象が違ったり、聴き落としていたところが聴けるようになっていたりしますね。
私が書く目的といえば、そういう変化をチェックするのが面白くもあるので、記録がわりというところでしょうか。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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