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ムストネン ~ プロコフィエフ/束の間の幻影
ロマン派や印象主義の曲を夏から聴いていると、感覚が飽和状態に近づいて疲れてきたので、こういう時は現代へ戻ることに。

今よく聴いているのはプロコフィエフ。
昔はそれほど好きというわけではなかったけれど、トラーゼやソコロフのCDとDVDを聴いていると、ポリーニやグレムザーでは気がつかなかったプロコフィエフの叙情性や美的なところに魅かれるものを感じたので。
プロコフィエフを聴けば聴くほど、ピアノ作品が少ないショスタコーヴィチよりも、プロコフィエフの方が感性的にずっと合っている気がしてくる。

同時代のロシアの作曲家のなかでも、とりわけプロコフィエフはピアノ作品が多い。
ピアノ協奏曲5曲、ピアノ・ソナタが10曲、《束の間の幻影》《シンデレラ組曲》《ロミオとジュリエット》、小品で有名な《3つのオレンジへの恋》など。
コンチェルト、ピアノ・ソナタと《束の間の幻影》は異聴盤が多いので、どれを聴くかはちょっと悩ましいところ。
最近聴いたムストネンの新譜のレスピーギがとっても良かったので、”ムストネン×プロコフィエフ”で選んだのは《束の間の幻影》。

《束の間の幻影》は、ムストネンがONDINEに移籍する前に録音しているDECCA盤。
このCDを買った目的はヒンデミットの《Ludus Tonalis》だったけれど、《束の間の幻影》も同じくらいに良くて、この曲の定番はムストネンに。
リヒテルの録音とか有名なものは他にもいろいろあるし、わりと好きなピアニストのべロフの録音は、タッチが強すぎてフォルテが騒々しくて、幻想性がちょっと薄い気がする。

Visions Fugitives Op 22 / Ludus TonalisVisions Fugitives Op 22 / Ludus Tonalis
(1996/10/15)
Olli Mustonen (Piano)

商品詳細を見る(廃盤のため試聴ファイルなし)


CDは廃盤。Youtubeにムストネンの《束の間の幻影》の音源がある。
いつもながら、チェンバロとピアノを融合させたようなタッチと音、それに独特のアーティキュレーションが冴えている。
好みは分かれるだろうけれど、奇をてらったわけではなくて、バッハでもベートーヴェンでも基本的には同じ奏法。
Ondineに移ってその奏法にさらに磨きがかかっているように感じるので、DECCA時代は幾分おとなしめかも。
ムストネンのピアノの音は線が細くてシャープで研ぎ澄まされた美しさがあり、曲想によってコロコロと鮮やかに変わる表情は、色とりどりの宝石のように煌めいている。
シャボン玉の泡のように浮かんでは消えていくようなこういう幻想的で刹那的な曲は、ムストネンの感性と奏法に親和性が高い気がする。

prokofiev visions fugitives 1.2(by Olli Mustonen)


prokofiev visions fugitives 2.2(by Olli Mustonen)


タイトルどおり、掴み取ろうとしてはふっと消えていってしまうような気がするほどに、いろんなタイプの幻想が交錯していく。
静謐で美しい旋律の曲から、速いテンポとシャープなスタッカートで躍動的な曲、不可思議で幻想的な曲から、子供や小動物が遊んでいるような軽妙・諧謔な曲まで、曲想はいろいろ。
リズム・旋律・和声とも、ピアノ協奏曲やピアノ・ソナタとは違って、叙情性は薄く幻想性が強い感じがする。研ぎ澄まされて凝縮されたエッセンスを聴いているよう。
似たような雰囲気の曲も多いので、自分で弾かないとどれがどの曲が混同しそう。何回か聴いて構成と曲想の違いがはっきり理解でいて、ようやくとらえどころのなさは消えたけれど。
特に印象的なのは、旋律と和声がとても美しい第7曲Pittoresco (Arpa)。不可思議な雰囲気の第8曲~第10曲、それに最も幻想的な第17曲と第18曲。
ただし、ベロフの演奏で聴くと、奏法や解釈の違いが大きくて、かなり印象が変わってくる。聴き比べてみると、やっぱりムストネンの演奏は異世界にいるような幻想性を強く感じる。


1. Lentamente 静かで内省的。幻影の世界に誘われるようなまどろむような感じ。

2. Andante 一定のパターンを繰り返す左手でぼんやりした響きで、ちょっと不安げな雰囲気。

3. Allegretto 浮遊感のあるちょっと不可思議な雰囲気。途中で右手のスタッカートの旋律が動き回って、動的な感じ。スカッタートとレガートを取り混ぜて、面白い曲。

第4曲~第6曲は、シャープなタッチで、リズムが面白い曲が続く。
4. Animato スタッカートが小気味よく、最後はオスティナート。
5. Molto giocoso かなり強いスタッカートが突き刺すようにシャープ。結構明るい色調で諧謔な雰囲気。
6. Con eleganza これも軽いスタッカートで諧謔。

7. Pittoresco (Arpa)
この曲中で一番旋律と和声が美しい曲。ゆったりとしたレガートで、柔らかく軽やかなアルペジオが優雅。
静かな湖の水面に広がる水紋のようで、とても清々しい響き。最後だけ濁った不協和音が少しはいっている。
ムストネンの線の細くシャープでクリアな音が良く似合う。

第8曲~第10曲は、あかるい色調の軽快なタッチで、軽妙・諧謔な雰囲気。
8. Commodo 可愛らしくてちょっとおどけた感じ。子供が夢の中で楽しげに遊んでいる雰囲気。どこかで聴いたような気がすると思って記憶をたどると、ネッド・ローレムのピアノ・ソナタに旋律と和声が少し似ている(気がする)せい。
9. Allegro tranquillo 軽いスタッカートのアレグロで軽妙。子ねずみがちょこまかと動き回っているような。
10. Ridicolosamente ちょっと気が抜けたような感じのリズムと旋律がおどけた感じ。

第11曲~第13曲は、不可思議な雰囲気のする音型とリズム。
11. Con vivacità 右手の装飾的な音型が面白い。どこかで聴いたような気がするので、わりと有名な曲かも。
12. Assai moderato 少し謎めいた雰囲気。
13. Allegretto 3声が絡んで、やや陰鬱なもやもやと得たいの知れない何かが潜んでいるような雰囲気。

第14曲~第16曲は、速いテンポで和音を多用した動的な曲。
14. Feroce 速いテンポと強いスタッカートにアクセント。
15. Inquieto 両手の和音が、いろんなリズムを刻んで躍動的。
16. Dolente ゆったりとしたテンポでテヌート気味のタッチは、ねっとりまつわるような雰囲気。途中で急に軽快なフレーズが挿入されるが、すぐに途切れて元に戻る。

第17曲~第18曲は、やや不気味で幻想的。
17. Poetico 左手側の旋律の分散和音は、柔らかいタッチで幻想的。密やかに何かがひたひたと忍び寄ってきそうな不気味さ。
18. Con una dolce lentezza 同じパターンのフレーズがオスティナートされて、ゆらりゆらりと漂うようなとても不可思議な浮遊感。

19. Presto agitatissimo e molto accentuato
一転して目が醒めるような曲想はフィナーレのよう。速いテンポが旋律が行きつ戻りつ、低音から徐々に高音へ上昇。最後は一気に低音部へと滑り落ちて和音で締めくくり。

20. Lento irrealmente
冒頭の曲に呼応したように、ゆったりとして静寂な曲。
旋律は冒頭とは対照的で、かなり不可思議な雰囲気。
最後の同音の三連符は、まるで水滴が滴り落ちて余韻が残る響きが、幻影の名残りのよう。

tag : プロコフィエフ ムストネン

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ムネトン,リヒテル,ネイガウス
おはようございます。

Youtubeで聴きましたが、Olli Mustonenの透明感はいいですね。ジャズで云うとECM系のピアニストと似た美意識の音世界ですね。中古CDでも高価.たまたま数日前にアマゾンでみたら1000円以下で出て、捕まえました。ヒンデミット含めてとても良くて、暫く聴き続けそうです。

もともとの私の手持ち(といってもここ数ヶ月なので知れていますが)のなかでは、リヒテル(ショスタコーヴィチの前奏曲とフーガとともに束の間の幻想も幾つか)、ゲンリッヒ ネイガウス(ショスタコーヴィチの前奏曲op34全曲が聴きたくて入手.束の間の幻想も全曲)の2つがありました,リヒテルの冷たい・強い音も良かったのですが、ゲンリッヒ ネイガウスに強く惹かれました。リヒテルと比べ技巧的ではないのですが、音の表情が豊かな感じで(表現が思いつかない)、端々で音が細かく表情を変えていく様が美しい。同じ盤のスクリャービン、目当てのショスタコーヴィッチともども良かったです。(余計なことを書きました)

文章を読んで聴くと印象が深まり、その曲が昔から聴いたことがあるように記憶が沈殿していくので、とても嬉しいですね。だから本とかブログとか読みながら聴いています。異調盤を幾つか聴くことも、作曲者・演奏家・時空という3次元を旅する中で、自分の好みのベクトルを同定するために有効ですね。とても面白い。ジャズの場合は演奏家・時空という2次元なので、より深い迷路に入った感覚・快感があります(恐ろしい)。迷いそうな世界なので、いつも羅針盤として読ませていただいています。ありがとうございます。
ムストネンとネイガウス
ken様、こんにちは。

珍しいことに(と言っては申し訳ないんですが...)、ムストネンがお気に召されたようですね。
彼は奏法が極めて独特なため、クラシック好きの人はあまり好きにはなれないタイプのピアニストです。時代様式の違いに関らず、かなりスタッカート気味なチェンバロ的ノンレガートを多用し、ディナーミクが極端です。
でも、あの奏法であれだけの音のコントロールができるというテクニックは凄い。他のピアニストにはない音とその美しさ、それに才気を感じさせる演奏が私はとても好きですけど。
ヒンデミットの「ルードゥス・トナリス」は良い録音が少ないので、ムストネンはとてもおすすめです。

ECM系と言われれば、純度の高い透明感のある音はそうですね。
ECMなら、ジャレットも良いのですが、バイラークがとても好きで、ソノリティ、旋律の美しさ、リハーモナイズのセンスが私の好みにぴったり合っていて、一番好きなジャズピアニストです。(最近の録音はあまり聴いていませんが)

ネイガウスは教育者として有名で、「ピアノ演奏芸術―ある教育者の手記」という本も書いてます。この本でも、弟子のリヒテルの音楽性を極めて高く評価しておりました。
手に入る録音が多くはなく古いこともあって、ネイガウスを聴く人はあまり多くはないようです。
Youtubeで聴いた「束の間の幻想」は、幻想的というよりは物静かで内省的な雰囲気が強い感じがします。音がしっとりと柔らかく、色彩が微妙に変化していく響きで、フレージングも滑らかで、とても繊細な印象でした。

私は、メジャーなピアニストの定番ものも一応リファレンスのために聴いてはいますが、記事には書いていないことも多く、好み(と見方も)がかなり偏ってます。(羅針盤の針の方向が狂ってたりするかも...)
レビューはよくチェックしてますが、同じ曲でも正反対なことを書いているブログも結構多いですね。こういう時はどっちが正しいのか迷いますが、書いている本人にとってはどちらも正しいはずなので、自分で実際聴いてみるに限ります。
異聴盤を聴くときに、世評の高い定番などオーソドックスなものと聴き比べていくと、個々の演奏の特徴やオリジナリティが良くわかります。
個人的には、バロック、古典、ロマン派など、いろいろな時代の音楽を聴くと、現代音楽と過去との断絶と繋がりが両方感じとれて、面白く思えます。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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