ギレス ~ ローレム/リコーリング 

2009, 10. 27 (Tue) 18:00

アメリカの作曲家ネッド・ローレムは日本ではほとんど知られていないけれど、米国ではとても著名な現代音楽の作曲家。特に歌曲で有名だが、交響曲、協奏曲、ピアノソロに室内楽と他のジャンルの作品もいろいろ残している。
ローレム作品の録音は歌曲が多くて、ピアノが入った曲の録音はかなり少ない。
私が好きな《ピアノ・ソナタ第2番》や《ピアノ協奏曲第2番》は1950年前後の作品は、いずれもジュリアス・カッチェンが初演している。
《ピアノ・ソナタ第2番》はカッチェンがDECCAに残したモノラル録音があるし、《ピアノ協奏曲第2番》は、NAXOSの初録音盤がリリースされている。
他にもピアノ曲の録音もあるけれど演奏がもう一つ。現代音楽はピアニストによって出来がかなり違ってくるので、良い演奏を見つけるのに苦労する。

ローレムが2003年、80歳の頃に作曲したピアノ独奏曲《Recalling(リコーリング)》。
この曲も録音が少なくていろいろ探していたところ、ジェイムス・ギレスのアルバムに入っていた録音を見つけて聴いてみると、曲自体も良いけれど、演奏も同じくらいに鮮やかな出来。
このCDの良いところは、輸入盤に多い仏独語の解説がなく英文だけなので、その分ブックレットの内容がとても充実している。
作曲家のコンパクトな紹介と、各曲についての作曲経緯や手法がわりと詳しく書かれている。(曲によってバラツキはあるが)。ピアニストのプロフィールもかなり詳しい。
このAlbanyレーベルは、アメリカの作曲家の作品をメインに録音していて、世界初録音も多い(らしい)。
輸入盤の価格が結構安いし、レーベルがリリースしているタイトルを調べてみると、掘り出しものがいろいろありそうな気がする。

American VirtuosoAmerican Virtuoso
(2006/11/21)
Giles, James(piano), IEBERMANN, L. / HOUGH / THOMAS, A.R. / ROREM / CURTIS-SMITH / BOLCOM / WINTLE

試聴する(米国amazon)



《Recalling》は3楽章構成で、両端楽章は第2楽章の主題に基づいて展開されているので、関連性は強いが、楽章によって作曲手法がそれぞれ違っているところがあって、その違いが面白い。
若い頃のパリ在住時代に書いた《ピアノ・ソナタ第2番》は、当時影響されていたフランス音楽の痕跡があるけれど、この《Recalling》はその後の現代音楽のトレンドの変化が反映されているようで、半世紀近い時間の隔たりが感じられてくる。

主題となる旋律は、ローレムが1941年に初めて出会った作曲の師ポール・ボウルズのオペラ《The Wind Remains》から採っている。この曲は、ボウルズがロルカの脚本を元にしたサルスエラ。
ボウルズに会って以来、ローレムは彼の何十倍もの数の曲を書いてきたが、リズムや旋律がどんな形をとっていても、師の影響を受けていないものはない、と言っている。

ローレムは本領は歌曲なので、こういう抽象的作品であっても、具象的なタイトルを付けたくなるそうで、この組曲はいわゆる標題音楽ではないが、各楽章ともそれぞれ標題がついている。

第1楽章 Remembering Lake Michigan
とても静寂な雰囲気で始まったかたと思うと、すぐに突如としてガ~ンとフォルテの和音。
静かな方の旋律は、やや調性が曖昧でも、物思いにふけっているような内省的で叙情的な美しい旋律。
中間部は、リーバーマンの曲に良く出てくるような、速いテンポのメカニカルで細かな音のパッセージ。最後の方の高音域を中心にした部分は、和声の響きがとても綺麗。
再び冒頭の静かな旋律が戻ってきて、締めくくり。
”Lake Michigan”というタイトルは、ミシガン湖の風景のイメージだと言われればそういう風にも聴けるだろうけれど、そういう意図はなくてローレムの故郷のシカゴへの敬意を表して付けられたもの。

第2楽章 The Wind Remains(Remembering Paul Bowles)
ゆったりとしたテンポで、静かに回想しているような感じのする緩徐楽章。
全体的にやや不安感を帯びたような雰囲気が強いが、ところどころ調性が安定したリリカルな旋律が現れてくる。
この旋律がとても綺麗で、この主題の元となっているボウルズの作品を少し聴いてみたい気がしてくる。

第3楽章 Remembering Tomorrow
冒頭はかなり雰囲気が変わり、シェーンベルクやウェーベルンのピアノ小品を想起させるような十二音技法(やセリエル音楽)的なタッチで書かれた旋律。
途中で第1楽章のような速いメカニカルなパッセージに変わり、さらには第2楽章のゆったりとしたリリカルが主題が聴こえてきて、再び十二音技法的なランダムに飛び跳ねるような音が散乱したりと、最終楽章らしく、今まで出てきたいろんなモチーフが次から次へと現れる。
全体的にテンポも速く、十二音技法的なフレーズも色彩感があり強弱のコントラストが明瞭でわかりやすく、手法としては小難しそうなわりには難解さはなくて、変化に富んだ面白い楽章。

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