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リッチー・バイラーク 『Round About Bartok』
リッチー・バイラークは、クラシック音楽に強い愛着をもっているジャズ・ピアニストの一人。
クラシックを弾くことで有名なのは、キース・ジャレット。実際にクラシック・ピアニストとして演奏会を度々行っていたことがあるくらいだし、バッハの平均律曲集などの録音も出している。
チック・コリアも、グルダやキースと2台のピアノでモーツァルトを弾いていた記憶がある。小曽根真も最近はモーツァルトとかを弾いているらしい。

バイラークは、クラシックを原曲のまま弾くことはしない。(たまにライブで弾いているかもしれないけど)
6歳から10数年間はクラシック・ピアノのトレーニングを受けているので、ジャズピアニストの中でもテクニック面は安心して聴ける。彼が学んだ音楽は、バッハから、ショパンなどのロマン派、十二音技法の現代音楽までと幅広く、なかでも好きな作曲家はショパンとバルトーク。
かなりの理論家でもあるので、武満徹に招かれて1993年9月の八ヶ岳高原音楽堂でレクチャー・コンサートをしたこともある。ジャズが20世紀の現代音楽に与えた影響に関するレクチャーコンサートだったらしい。

バイラークは、あくまでクラシックをモチーフにしてジャズをする人で、その路線のアルバムは4枚リリースしている。『No Borders』(VENUS RECORDS の国内盤タイトルは『哀歌』)、『Round About Bartok』、『Round About Monteverdi』、 『Round About Mompou』。
最も聴きやすいのは、有名なクラシックの小品集をモチーフにした『No Borders』。シューマン、サティ、モンポウ、ドビュッシー、フォーレ、ショパンなど旋律の綺麗な叙情的な曲が多い。
バイラークにしてはややマイルドなので、VENUS RECORDSが手を出しそうなアルバム。
MonteverdiとMompouをモチーフにしたアルバムは、もともと好きな作曲家でもないので未聴。

『Round About Bartok』は、内容のユニークさと歯ごたえのあるアレンジは、『No Borders』以上。
モチーフにした曲は、バルトークをはじめ、スクリャービン、コダーイ、チプリアン・ブルムベスク、他にルーマニア、ロシアのフォークソングなど。
特に、バイラーク自身が”バルトークのNY生まれのgreat-nephew”のようだと感じているほど、バルトークには魅かれている。
素材が珍しいことに加えて、バイラークが編曲するときにつけた和声が現代音楽的だったりして、このアルバムはとっても面白い。
おかげで、さほど聴いたことがなかった原曲の曲集まで聴きたくなってしまったという、とても刺激になるアルバム。

もちろん、普通のジャズ・ピアノのアルバムも多数リリースしている。
最近は、VENUS RECORDSから次々とアルバムがリリースされているので、バイラークはかなり一般的に受けるようになった気もする。
ECM時代のバイラークのピアノが一番好きなので、ポピュラーに傾斜したようたVinus盤は『哀歌』以外は聴いていない。
特に、ECMのピアノ・ソロアルバムは本当に素晴らしい演奏で、硬質で澄み切った音色とクリスタルのようにクールな叙情感は、バイラーク独特の美しさ。
2000年からライプチッヒの音楽学院で教えているので、安定した環境で作曲しているせいか、最近のアルバムは、昔の張りつめて鋭く突き刺すようなところが丸くなり、スマートな作風に変わっている。

<ジャズCDの個人ページ>(K. Kudoさん)に、バイラークのディスコグラフィとコメントが載っています。バイラークのCDを集めていた時に、とても参考になりました。

Round About BartokRound About Bartok
(2007/05/07)
Richie Beirach(P), Gregor Huebner(Vln), George Mraz(B)

試聴する


バイラークはNYでは”ミスターコード”と称されるくらい、リハーモナイズの達人というか、和声的に凝ったコードをつけることで有名。
バイラークのオリジナルや編曲したものを聴いていると、不協和的な和声が時々使われている。硬質でクリスタルのような透明感のある響きと、独特の叙情的な旋律や和声を聴けば、バイラークのオリジナルやアレンジだとすぐにわかる。
"Round About Bartok"は、そういうバイラーク独特の語法とクラシカルなタッチの音楽の両方が聴ける。
このアルバムでは、ジャズのピアノ・トリオのファーマットではなく、ドラムの代わりにグレゴール・ヒューブナーのヴァイオリンを入れているので、ベースが弦楽器のチェロの代わりだと見立てると、雰囲気的にはピアノ三重奏曲風の響きがする。
ドラムという楽器があまり好きではないし、ヴァイオリンが入るとかなりクラシカルな雰囲気になるので、このフォーマットは大好き。

1.Around Scrijabin Prelude Op. 16
スクリャービンはかなり多くのピアノ独奏用の前奏曲集が残しているが、有名なのはOp.11の「24の前奏曲」。でも、この曲のモチーフは、Op.16の《5つの前奏曲》の方で、そのなかでも有名な第4番。
スクリャービンらしい和声が美しく哀愁溢れる旋律。原曲のピアノソロでも、ヴァイオリンで弾いても、同じくらいにこの旋律は美しい。
ピアノの硬質で艶やかな響きは少しネットリした情感があって、ベースは内面的に沈潜したように抑えた静かな雰囲気。
どことなく物憂げで耽美的な雰囲気を感じるプレリュード。
《5つの前奏曲》の試聴ファイル(NAXOS)

2. Around Bartok Bagatelle # 4
ピアノ独奏曲《14のバガテル Op. 6/BB 50》の第4番がモチーフ。
ピアノ・ソロで弾くドラマティックな雰囲気の旋律を、ヴァオリンとピアノが繰り返し弾いてから、ジャズらしいスタイルに変わる。
主題の旋律も織り込まれたややアップテンポでリズミカルな編曲。
《14のバガテル》の試聴ファイル(NAXOS)

3. Around Stenkarasin
ヴァイオリンのピッチカートで始まり、続いてペルトのFratresを連想させる旋律を弾いてから、”ステンカラージン”の旋律が流れる。とても平和で郷愁感漂うとても美しい旋律。
同じ旋律を弾いても、柔らかくしなやかなタッチのヴァイオリンだと懐かしさが強くでて、バイラークの硬質の響きピアノだと透明感と清々しさが強くなり、ちょっと曲の雰囲気と温度感が変わるのが面白い。

4.Around Bartok's World
虫の羽音のような音のクラスターをヴァイオリンが弾き、そこにピアノの不協和音が重なる。
バルトークの「夜の音楽」がモチーフかと思ったら、《14のバガテル》の第3番Andanteだった。
ピアノも羽音のような響きの旋律を弾き始めると、曲が次々と変形していき、ヴァイオリンのピッチカートやピアノのスタッカートで弾く、旋律とはいい難い音のクラスターが交錯する前半。
ヴァイオリンの羽音を背景に、2曲目の”Bagatelle # 4”のモチーフをピアノが弾いたりして、”Bartok's World”らしい現代音楽風に仕上げていて、これはとっても面白い。ただし、これを聴いてジャズだと思える人は少ないと思う。
途中でジャズ風アレンジに変わって、”You And The Night And The Music”をアップテンポで弾いている(らしい。この曲は知らないけど、そう解説に書いている)。
アップテンポで目まぐるしく動くピアノは、バイラークらしい硬質の音と鋭いタッチのフレーズが冴えている。
最後はまたブンブンという羽音のようなヴァイオリンとピアノが登場して、ディミニエンドで静かに終る。
《14のバガテル》の試聴ファイル(NAXOS)

5.Around Salcam De Vara
《Salcam De Vara》はルーマニア民謡で、とても爽やかな曲。これは頭からややスローテンポのジャズ風で変わったところはなし。
ベースとピアノだけで弾いている部分は、ドラムが入っていないせいか、澄んだ響きと落ち着いた雰囲気でとても良い感じ。

6.Around Porumbescu
チプリアン・ブルムベスク (1853-1883)の”Balada, Op. 29”がモチーフ。天満敦子が弾いている「望郷のバラード」がこの曲らしく、ロシア風の憂愁に満ちた曲。
元々ヴァイオリン曲なので、全体の2/3くらいはヴァイオリンがメインの旋律を弾き、ピアノとベースはバックに回っている。
《Balada》の試聴ファイル(NAXOS)

7.Around Dubrawuschka
”Dubrawuschka”は、ロシア民謡(らしい)。冒頭は技巧的なパッセージを弾くベースのソロで始まり(他の曲では地味だったが)、ヴァイオリンとベースのデュオ、ピアノとのデュオに変わる。この曲もごくまともなジャズ風の曲。

8.Zal
この曲はバイラークのオリジナルで、日野皓正とのデュオで1976年に録音していた。
バイラークは、ECM等に録音した1970年代に作ったオリジナル曲にとても愛着があるようで、ZAl以外にも、Sunday SongやLeaving、Elmなど、いろんなアルバムで度々弾いている。
このアルバムでは、ベースとのデュオ。

9.Around Kodaly's World
バルトークでも随分レアな素材だと思うのに、今度のモチーフは、コダーイのピアノ曲集《9つのピアノ小品 Op.3》から第1番Lento。
コダーイ=無伴奏チェロしかすぐに思い浮かばないので、ピアノ曲もあるんだろうかと思って探すと、曲数は少ないけれどあるにはあった。
最初のピアノが弾く和音のアルペジオはとても綺麗な響き。その後は、やや暗い色調のヴァイオリンとピアノ伴奏で、変拍子的なリズムにやや不協和的な和声と、なかなか変わっていて、ジャズの雰囲気からはほど遠い。
バルトークと同じように後半はジャズ風に。このコロっと180度変わる展開が、どの曲を聴いても面白い。
《9つのピアノ小品》の試聴ファイル(NAXOS)

10.Cossack's Farewell
最後は静かでやや哀しげ雰囲気のコサック民謡。この旋律はバラード風でとてもロマンティック。

tag : リッチー・バイラーク バルトーク スクリャービン

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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