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スーク&カッチェン ~ ブラームス/ヴァイオリンソナタ第3番
秋になると聴きたくなってくるのがブラームス。同じように感じる人が多いらしく、この季節になるとブラームスにまつわる記事をあちこちで見かけるようになる。
ブラームスやベートーヴェンの曲は、どんよりとした秋や冬のドイツに一番似合っているような気がするせいか、夏にはあまり聴く気が起こらず、秋から冬になると無性に聴きたくなる。逆にどんな季節でも聴けるのはバッハ。特に今年の夏はピアノで練習していた曲だったせいか、バッハの鍵盤楽器曲やヴァイオリンソナタを頻繁に聴いていた。

ブラームスのピアノコンチェルトとソロ曲は数えきれないくらい聴いているので、たまには室内楽を。
少し肌寒い秋の夜に聴くなら、ほの暗く秋めいた憂愁漂うヴァイオリンソナタの第3番。春や初夏だと、しっとりとした情感が優しげな第1番が良く似合っている。

ブラームスのヴァイオリンソナタ全集は、名盤といわれるシェリング&ルービンシュタインを昔は聴いていた。(たまたま名盤の廉価盤シリーズで見つけて、名盤なら間違いないだろうと思って買ったもの)
ルービンシュタインのピアノは元々好きでも嫌いでもなく全くこだわりがないので、スーク&カッチェンの録音を見つけてからはそれしか聴かなくなってしまった。

このアルバムは、カッチェンのブラームスのピアノ作品の全曲録音の一環として、室内楽曲を順に録音していった企画の最初の録音。
この後で、スーク&シュタルケルとピアノ三重奏曲全集とチェロソナタ第2番を録音していた。
さらに、ピアノ四重奏曲・五重奏曲、チェロソナタの再録などが予定されていたが、1969年にカッチェンが急逝したために、室内楽曲の全曲録音は未完のまま。
順調に行けば、チェロソナタやヴィオラソナタ、クラリネットソナタも録音して、ピアノ伴奏付きの室内楽曲全集が完成していたに違いない。
ヴァイオリニストにスークを選んだのは、DECCAのプロデューサーだったのか、カッチェン自身だったのかはわからないけれど、これ以上はないくらいに良い選択。
スークはこの5年ほど前に、パネンカのピアノ伴奏で第2番&第3番をチェコのSUPRAPHONに録音している。
スークはDECCAが専属契約しているヴァイオリニストではなく、(チェコが社会主義体制だったせいで)SUPRAPHONがメインだったが、EMI、ERATEなど外国のレーベルにも録音していた。

この録音は1967年、カッチェンが亡くなる2年くらい前の録音で、当時は41歳くらい。
スークとも年が近い。このブラームスは重厚な渋みがあるというよりは、ほの暗い情熱がなぜか清々しく、芯の通った若々しさを感じるものがある。白熱する激情的な演奏というわけではないので、そういうのが好きな人には物足りなく聴こえるかも。
カッチェンがブラームスのピアノ独奏曲を弾いているときの独特のコクあるピアノが、このヴァイオリンソナタの伴奏でもしっかり味わえる。
ピアノ作品全集を録音してから数年経っているので、さらに弱音に磨きがかかり表現の幅も広がり、このブラームスらしい音が詰まって入り組んだピアノ伴奏を聴いていると、まるでピアノソロを聴いているような気分。

Violin Sonatas: Decca LegendsViolin Sonatas: Decca Legends
(2001/02/06)
Josef Suk, Julius Katchen

試聴ファイル



ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調Op.108 (1888年) [作品解説]

ブラームスは、ピアノ・ソナタもヴァイオリンソナタもなぜか3曲書いて終っている。両方とも3曲目は規模が前2曲よりも大きくなり、憂愁がより濃くなっている。
ピアノ・ソナタは5楽章、ヴァイオリンソナタは4楽章と、通常の形式よりも1楽章多い。
ピアノ・ソナタは20歳くらいの青年期、このヴァイオリンソナタは晩年の作品、感情的な表出度合いはピアノ・ソナタの方が疾風怒濤期特有のストレートさがある。
ヴァイオリンの方は全然詳しくないので、私が書いているのはもっぱらピアノ伴奏について。どちらかというと、ピアノ伴奏を聴くために、ヴァイオリンソナタを聴いているような気がする...。

第1楽章:Allegro
心の中がもやもやとして、思索を巡らしているような雰囲気がブラームスらしい楽章。
冒頭の主題は、少し速めのテンポで弾くヴァイオリンの芯のしっかりした響きと、ピアノの柔らかな響きが対照的。
カッチェンのピアノの音は、ピアノ・ソロを弾いているときと同じような、やや靄のかかったような丸みがあり、ほの暗さが漂っている。くすんだような柔らかな弱音(高音になると澄んだ響きが綺麗)と力感・量感のある切れの良いフォルテとのコントラストが良く効き、強弱の起伏も細かく、ブラームスらしい明暗の交錯するようなところは、いつもながら独特のコクがある。
ヴァイオリンに寄り添うようなやや控えめなピアノ伴奏だった第1番とはちょっと違って、ピアノがかなり前に出てきてはいるが、ちょうど拮抗したくらいのほど良いバランス。ヴァイオリンもピアノも芯が通ってきりっと引き締まり、ブラームスをベタベタと情緒的に弾かないというところは同じ。
第2主題になると叙情的な旋律が美しく、ピアノのアルペジオが良く映えている。

展開部は、ピアノの右手が伴奏の旋律を弾き、左手低音部で通奏低音のようにA音をずっとオスティナートし続けるのがとても印象的。
このオスティナートされる音の弾き方がピアニストによって微妙に違っていて、カッチェンはモコモコと靄のかかったような響きで引き続けている。心の中のわだかまりがなかなか晴れないような独特の雰囲気で、時どきフォルテで弾くところは、心の中の感情が急に溢れてしまったような。

第2楽章:Adagio
この楽章だけが長調で、ブラームスらしいとても和やかな雰囲気の緩徐楽章。他の楽章が全て短調で不安感や緊迫感のようなものがあるので、ここは束の間の安息のような趣き。
ここはごく普通のピアノ伴奏のパターン。ヴァイオリンがゆったり弾く穏やかな旋律を、重音・和音とアルペジオを弾くピアノの柔らかい響きで支えている。このメロディには、スークの深みのある品の良いヴァイオリンの音がよく映えている。

第3楽章:Un poco presto e con sentimento
3分足らずの一番短い第3楽章は、ピアノがスタッカートで弾く冒頭の主題が、どこかしらおっかなびっくりでためらいがちな気分。弱音で弾く軽やかなアルペジオも同じような雰囲気がする。
ピアノが主題を弾くところが結構多く、リズムや音型がいろいろ変わっていくので、伴奏のわりにはかなり目立っている。この楽章の主題の雰囲気は、ピアノで弾いた方がいろいろと表現しやすい感じがする。
ピアノが弾く重音はほとんどスタッカートがついているので、タッチは軽やか。アルペジオも多く、鍵盤上の上行下降を頻繁に繰り返している。この音の軽やかさと安定しない動きが、やや不安げで落ち着かない雰囲気を醸し出しているような感じ。

第4楽章:Presto agitato
Presto agitatなので、やたらガンガンとフォルテでうるさいタイプの演奏を時々見かける。特にピアノはフォルテの和音やアルペジオが多いので、つい力が入ってヴァイオリンをかき消しがち。
スーク&カッチェンの場合は、ほどよく抑制されたテンペラメントに品の良さがある。力感・量感のあるシャープなフォルテと、ややくぐもったような弱音の旋律の間を揺れ動き、緊迫感も充分。
ピアノの力強いフォルテも、ヴァイオリンに覆いかぶさるようなことはないほどよいバランス。
中間部は少し落ち着いた雰囲気の叙情的な旋律に変わっているが、ここも前半の雰囲気を引きずっているような暗さがあってそれほど長くは続かずに、すぐにもとの主題の再現部に移ってしまった。
第4楽章は、特にブラームスらしい厚みのある和声と感情の浮き沈みの激しい濃い陰翳があって、この楽章を聴くとやっぱりブラームスはいいなあといつも思ってしまう。

 ヴァイオリンソナタ第1番の記事

 ヴァイオリンソナタ第2番の記事

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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