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シュニトケ/ピアノ・ソナタ第1番
シュニトケが書いたピアノ独奏曲は、ピアノ・ソナタ第1番~第3番、即興曲とフーガ、5つのアフォリズム、ピアノ小品集など限られてはいるが、現代音楽の作曲家としては、それでも多いかもしれない。
わりと聴きやすいピアノ協奏曲に比べて、独奏曲の方は冷え冷えとした音楽に聴こえてどうにも馴染めないと思っていたら、無機的だと思っていたシェーンベルクのピアノ小品をピーター・ヒルが弾くと、叙情流れる美しい曲に聴こえる。
シュニトケの場合も、ピアニストの問題ではなかろうかと思い直して、いろいろ録音を探してみた。

シュニトケのピアノ作品の録音は多くはないが、ピアニストによって弾き方がかなり違うのと、曲自体がそもそもとっつきにくいところがあるので、どれが良いのか聴き分けるのに苦労する。
HMVやamazonでは、現代音楽のCDレビューが極めて少ないので、結局、米国とカナダのamazonのレビューをチェックして、予備知識をインプット。海外のamazonのレビュは字数制限が緩いらしく、かなりマニアな人たちが詳細なコメントを書いていて、これが結構参考になる。

ピアノ・ソナタから順番に聴いていくことにして、まずはピアノ・ソナタ第1番(1987-1988)。
シュニトケの室内楽曲に比べると、このピアノ・ソナタは旋律の叙情性がかなり強く、不協和的な和声の響きも歪みが少ない。
全体的に低音部が重苦しく響いている部分が多い。これ以前に書かれた室内楽曲や管弦楽曲には諧謔さやシニカルなトーンが織り交ざっていたが、このピアノ・ソナタにはそういう雰囲気は希薄で、全体的に暗い翳がさしている感じがする。
脳血管発作を繰り返していたシュニトケの健康状態の不安定さが影響しているんだろうかと思えてくる。

第1楽章 Andate
教会ソナタのような”緩-急-緩-急”の4楽章構成。
静かに単音の旋律で始まるが、すぐに高音部で同音連打を音を変えながら繰り返していく。何かが始まろうとする合図の鐘の音のようなプロローグ。
この同音連打が終ってから、低音部のボーンと同音のオスティナートをバックに、高音部が旋律を弾いている。これが終ると、両手で和音による旋律を弾き始めるが、柔らかく静かな響きが厳粛で美しい。最後は右手の高音部による単音の旋律に変わって、消えるように終っていく。

第2楽章 Allegro
冒頭主題が短いモチーフが印象的。初めは静かで内省的なトーン。
クレッシェンドしながら、その主題が次々と展開されて、旋律が訴えかけるように響きを帯びて、感情的に高揚していくような感じ。
右手の叙情的な旋律と左手低音部の厳しいゴーンとなる和音がぶつかり合い、不協和的なつぶれたような音が大分混じってきているが、それでも、全体的に和声は美しく力強い叙情感がある。
この楽章だけ聴くだけでも良いくらいに、印象的な曲。

第3楽章 Largo
ここは心の奥底に沈潜していくような密やかな雰囲気。前半は両手とも単音主体の旋律で、響きが重なりあって、とても神秘的な感じがする。
中間部でクレッシェンドして和声の厚みが増して(特に低音部)、後半は低音の重苦しい響きの和音がゆっくりと鳴っている。最後は高音部から中間部の和音の静かな旋律変わり、これがクレッシェンドして激しくフォルテで連打して終る。

第4楽章 Allegretto scherzando - Allegro - Largo - Allegretto
最初はシェーンベルクのピアノ曲のように、音があちこち飛び回っている。次は和音がかなり多くなり、Allegroでは時々第2楽章のモチーフが現れる。
和声的には美しいが、第2楽章ほどには旋律がメロディアスではなく、もやもやとした沈鬱な何かが渦巻いているような、つかみどころがない感じはする。
Largo~allegrettoは第3楽章の回想風。低音のぼんやりしたゴーンという響きを背景に、高音部は息が擦れかけたような旋律が弱々しい。



                                 

ボリス・ベルマン(CHANDOS)
シュニトケのピアノ作品の古典的な録音は、おそらくボリス・ベルマン(ラザールの方ではなく)。
極めて知的でクール。ポリーニのシェーンベルクほどドライではなく、冷たい硬質な響きが美しいとはいえ、ベルマンのアルバムを聴き通すのにはかなりの忍耐力がいる。
ベルマンの演奏で聴くと、叙情性が希薄な理知的でドライなシュニトケになってしまう。こういうタッチの演奏が好みなら、ファースト・チョイス。

CHANDOS盤のアルバムには、第2番・第3番のピアノ・ソナタと小品集がいくつか収録されていて、選曲はユニーク。
小品集もピアノ・ソナタと同様、冷たく冴えたシャープな演奏で、長く聴いていると疲れるものがあるが、《6つの小品》だけは曲想が可愛らしくてまだしも聴きやすい。

Schnittke: Piano MusicSchnittke: Piano Music
(1998/11/17)
Boris Berman

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ピアノ・ソナタ第1番が収録されているアルバム。
Schnittke: Piano Sonata; Stravinsky: Piano Sonata; Serenade in A; Piano-Rag-MusicSchnittke: Piano Sonata; Stravinsky: Piano Sonata; Serenade in A; Piano-Rag-Music
(1992/10/28)
Boris Berman

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ラグナ・シルマー(Berlin Classics)
ベルマンと違って、ラグナ・シルマーは丸みある音と柔らかいタッチで(やや訥々とした感じがする)、叙情感を強くだしたシュニトケ。バッハのゴルトベルク変奏曲の録音もあるが、これも似たようなタッチ。
わりとテヌート気味のタッチで抑揚をつけて旋律弾くので、情感が強くでて聴きやすくはあるが、ところどころもたっとしたところがある。
CD評を探してみたら、米国amazonにとても詳しいリスナーのレビューがあった。
シュニトケのピアノ作品の録音についていくつかレビューを書いている人で、これがなかなか的確。
それによると、テンポ・リズムが一貫せず、楽章の中でテンポが恣意的に揺れ、シュニトケの楽譜上の指示とは違うテンポ設定になっている。リズムもアバウトで、音もところどころ間違っている(らしい。私には識別不能)。
テンポについては、いろいろ聴き比べていると、テンポがかなり違うところがあって、Allegroなのに途中からスローダウンしてトロ~ンと弾くので、弛緩したような感じになる。
テクニカルな切れが凄いわけではなく、色彩感と強弱のコントラストがやや弱いので、平板に聴こえる部分もあり、造形力も強くはないので曲の構造がわかりにくい感じはする。
録音自体は暖かみのあるクリアな音がとても美しくて、とても好みのタイプの音。響きも適度な残響で濁りもなく綺麗で、いろいろ問題はあるとはいえ、初めて聴くのであれば、雰囲気的には聴きやすいし、美しい叙情が流れるシュニトケが聴けるのはとても貴重。

Alfred Schnittke: Piano Sonatas Nos. 1-3Alfred Schnittke: Piano Sonatas Nos. 1-3
(2006/02/28)
Ragna Schirmer

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イーゴリ・チェトゥーエフ(CARO MITIS)
イーゴリ・チェトゥーエフはウクライナ出身の若手ピアニスト。
ピアニスティックな鮮やかさ・音響面の美しさが際立っているので、聴覚的にはとても聴きやすい方。
シルナーやポノマレワのような情感は乏しいが、響きの美しさがそれをカバーして、ベルマンほどのドライな感じはしない。
音色・響きが多彩でとてもカラフル。テクニカルな切れは良いので、音もクリアで鋭く、ペダリングが巧く、残響が多いわりには濁りは少ない。明瞭なフレージングと極端と思えるほどに強い強弱のコントラストで、構造的にわかりやすく明晰。
特にフォルテの強さとシャープさが目立っている。ところによっては、ガンガンとうるさくて強すぎる気がするし、和音が重なると旋律がかき消されそうになる。
こういう方向性の演奏は、初めて聴くと音自体は新鮮だけれど、繰り返して聴くとあまり面白くなく思えてきた。

レーベルはCARO MITIS。ロシア初のハイブリッドSACDレーベルで、全てマルチチャンネルのハイブリッドSACDで出しているらしい。
ピアノ・ソナタ全3曲に加えて、”即興曲とフーガ”も入っている。CD1枚でこれだけ聴ければ充分。
ピアノはベルマンも弾いていたファツィオーリを使っている。

Alfred Schnittke: Complete Piano Sonatas [Hybrid SACD]Alfred Schnittke: Complete Piano Sonatas [Hybrid SACD]
(2005/01/01)
Igor Tchetuev (Piano)

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ポノマレワ(MV Productions)
ロシア出身で今はカナダに住んでいるスヴェトラーナ・ポノマレワ(Svetlana Ponomarëva)の録音は、たまたまシルマーのCDレビュのなかで誉められていたもの。
ポノマレワのCDはカナダのamazonでしか取り扱っていないので、日本や米国では見かけなかった。
ポノマレワのホームページで、ピアノ・ソナタ第1番の第2楽章、第3番の第2楽章が全曲試聴できる。

ポノマレワのシュニトケは、叙情性は強いが、シルマーよりもずっと自然な感じに聴こえるところが良い。
残響は短めなわりに色彩感があって綺麗な響きで、和音が重なるところでも音が濁らずに音はクリアに聴こえる。
テンポもほどよく、強弱のコントラストも明確で、タッチやフレージングも明瞭。わりと骨格がしっかりと浮き出るので、曲のつくりがわかりやすい。
ベルマンやチェトゥーエフには、シュニトケの尖ったところが強く出ていたが、ポノマレワはそういう尖りが少なく、親密感が強い。英文のレビューでは”Organic”(有機的、自然な)という言葉が使われていたが、その通り。
今はこの2つの楽章だけを聴いたのみ。チェトゥーエフのようなピアニスティックな煌びやかさはないが、表現やタッチが丁寧で音楽の流れに自然な滑らかさがあるので、何度も聴いても飽きないところがある。
第1番の第2楽章を聴いた感じでは、ポノマレワの演奏がテクニカルに安定し、叙情表現も無理なく自然でバランスがとれていて、一番好みに合っていた。

収録曲は、ピアノ・ソナタ第1番、《Little Piano Pieces》(全曲の世界初録音。抜粋したものはベルマンが録音済み)、ピアノと弦楽のための協奏曲(1979)。
コンチェルトは、録音状態がすこぶる悪いモノラルのライブ録音らしい。このコンサートのライブ映像は、Youtubeに登録されている(3映像に分割)。

Svetlana Ponomareva plays Schnittke Svetlana Ponomarëva plays Schnittke
(Jan 1 2006)
Svetlana Ponomareva

試聴する(Ponomarëvaのホームページ)

tag : シュニトケ ベルマン シルマー

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(非公開コメント受付中)

御無沙汰してます
どうも、うじゃくです。お久しぶりです。

ピアノ作品集は…正直同じロシアの作曲家のシチェドリンより聴きづらかったです。ユーモアや民族色があるシチェドリンに比べ、「色が無い」という印象があったのかな。だから、自分のサイトもはっきり言って手抜きです。

ただ、これだけyoshimiさんが挑戦されていらっしゃるのですから、私も正面からピアノの曲に向き合いたいなと思っています。レビューは期待しないで下さいね。
ピアニストによって曲の雰囲気が変わります
うじゃく様、お久しぶりです。コメントありがとうございます。

シチェドリンとシュニトケは方向性が違うので、聴きやすさは全然違いますね。私はチャイコフスキーや民族系(シチェドリンとかカリンニコフ)は好みと違う音楽なので、シュニトケの方が相性が良いのです。

シュニトケのピアノ独奏曲は、初期か1990年頃のものが多くて、晩年のピアノ・ソナタやアフォリズムなどは、病の影響からか作風が変遷していた時期だからか、暗い翳がさしていますね。今回は4-5種類の録音を聴いたので、それにも慣れましたが。
シルナーとポノマレワでシュニトケを聴くと、なかなか叙情豊かで良い曲に思えます。どのピアニストで聴くのかというのは、大事ですね。

ピアノ・ソナタならたぶん2番が一番叙情性が強いように思います。子供のために書いた小品集も可愛らしいですね。他の曲は結構暗いので、とっつきが悪いかもしれません。私はメカニカルなフーガもわりと好きですが。
今回はかなり集中的に聴いて、すっかりシュニトケのピアノ作品が好きになってしまったので、順番に記録に残しておこうと思います。

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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