シュニトケ/ピアノ・ソナタ第2番 

2009, 12. 12 (Sat) 18:05

シュニトケの書いたピアノ・ソナタは3曲。真ん中のピアノ・ソナタ第2番(1990)は、妻のピアニスト、イリーナ・シュニトケに献呈された曲で、初演・初録音もイリーナが行っている。
イリーナの録音盤は廃盤らしく入手しにくいので、試聴だけしてみると、柔らかいピアノの響きが美しく叙情感がとても強い。
クールでシャープなボリス・ベルマンの録音とは方向性が正反対。イリーナのピアノで全曲聴けば、シュニトケはこんなに美しい旋律と和声の曲を書く人だったのだと再発見するに違いない。

Alfred Schnittke: Quasi Una Sonata; Piano Trio; Piano Sonata No. 2Alfred Schnittke: Quasi Una Sonata; Piano Trio; Piano Sonata No. 2
(1994/01/11)
Mstislav Rostropovich (Cello, Conductor), English Chamber Orchestra, Irina Schnittke (Piano), Mark Lubotsky (Violin)
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この録音は、シュニトケ自身が立ち会ったスタジオ録音。


ピアノ・ソナタ第2番の録音は、イリーナのほかに、ボリス・ベルマン、ラグナ・シルマー、イーゴリ・チェトゥーエフなどが録音している。(それぞれの録音については、《ピアノ・ソナタ第1番》の記事で少し書いてます)

このCDはラグナ・シルマーの録音。ゆったりしたテンポでややテヌート気味に弾き、ピアノの響きも綺麗なので、ちょっとウェットな感じの叙情的なシュニトケ。
Alfred Schnittke: Piano Sonatas Nos. 1-3Alfred Schnittke: Piano Sonatas Nos. 1-3
(2006/02/28)
Ragna Schirmer (Piano)

試聴する(米国amazon)
米国amazonのレビュワーが結構手厳しく、”テンポ、リズム、ペダリング、音符さえもアバウト”というコメント(それが的確なのかどうか判断不能)。
この曲を何の予備知識もなく初めて聴くなら、このCDは入手しやすくとっつきやすい演奏なのでそんなに悪くはない。曲が気に入ったら他の録音と聴き比べしてみると演奏の違いはわかるが、それが妥当かどうかは楽譜と突き合せないとたぶんわからないはず。

ピアノ・ソナタ第2番 (1990)

第1番が4楽章形式で30分以上とかかる結構長いピアノ・ソナタだったが、この第2番は3楽章形式で演奏時間は20分ほど。
第1番よりも、楽章間のつながりがスムースで、第1楽章と第3楽章は主題旋律も明瞭で印象的なので、構成的にもわかりやすい。
3曲のピアノ・ソナタのなかでは、この第2番が最も旋律・和声が美しくて叙情性が強く、聴きやすい。

第1楽章 Moderato
主題旋律は、濃厚な情感がべったりと敷き詰められたような美しさがあり、かなり妖艶さも漂っている。ベルクのピアノ・ソナタのネットリした叙情感を、冷たく研ぎ澄ましたような感じ。
その主題が絶えず変形されているが、旋律線は明瞭なので、シェーンベルクのピアノ曲を聴いた時のような変奏パターンのわかりにくさはない。
その旋律線の上に和音が重なって響きに厚みがあり、和音は不協和的だが響きは美しい。
最後はフォルテでゴーンと打鍵して終った...と思うと、エピローグのように微かな弱音で主題旋律が再現されて、フェードアウトしてゆく。
シュニトケは、静寂さのなかに消えていくという終り方を好むらしく、こういうエンディングは、室内楽曲でも良く出てくる。

第2楽章 Lento
冒頭は第1楽章の静寂さをそのまま引きづったように静かに始まる。
主題の旋律があまり明瞭さのある旋律ではなく、この楽章は全体的に断片的なフレーズがぼんやりポロポロと鳴っているような感じ。
弱音で弾く和音が結構多く、その柔らかい響きと不明瞭さのある旋律のせいで、もやもやとした漠然とした不確実性のようなものが漂っている。

第3楽章 Allegro moderato
この楽章はとても饒舌。主題旋律もそれ以外の旋律も、音があちこち飛び跳ね回って、ピアノがいろいろおしゃべりしているようで、”陽気な”シェーンベルク風の曲。この曲はとっても面白い。
リズムパターンがいろいろ変わるが、主題旋律は明瞭なので、変奏されているところが良くわかる。第1楽章同様、和声には不協和音が混じって入るが、調和的な感じの響きなので耳ざわりは悪くない。
中間部になると、なぜかペルトの”ティンティナブリ”様式に似たとても静寂な曲想に変わる。シュニトケは引用を多用した作品も多いので、ここだけ取り出して聴いたら、ペルトの曲を聴いているように錯覚しそう。
徐々にクレッシェンドしつつ、再び主題を織り込んだ旋律が登場し、最後はトーンクラスター風な響きも入り混じって、高音部から和音で急転下降して、ガーン、ガーンとしつこく低音を連打して終る。...と思ったら、またペルト風の旋律が静かに再現される。これが本当のエンディング。
すんなりとしたエンディングしてくれないところが、シュニトケらしい。

タグ:シュニトケ シルマー ベルマン

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2 Comments

Lake-Loki  

かなり前の記事ですが…失礼いたします

はじめまして。
六年前の記事ですが、同じFC2に、シュニトケにここまでお詳しい方がいることに感激し、コメントすることにしました。

まず、この曲の第一楽章がベルク(私が最も崇拝する作曲家です)のピアノ・ソナタに似ているという指摘に、この上なく共感しました。
それぞれ、二十世紀の初頭と世紀末に生まれた作品ですが、調が曖昧ななかで、叙情を手探りするような雰囲気が似ていますね。

イリーナのCD、高騰してますねぇv-12
夫のピアノ五重奏曲やチェロ・ソナタで素晴らしいピアノを聴かせていた彼女の演奏で、ぜひこの曲を聴きたいのですが──
まあ、少し値が下がるのを待つしかないようですね。

シルマーの演奏は、yoshimiさんの評を見る限りでは、内田光子がこの曲を弾いたような内容なのではないかと感じ、興味が湧きました。
今度聴いてみます。

クラシックブログは数あれど、シュニトケのことまで詳しく載っている所はめったにないので、これから応援させていただきます。

2015/04/06 (Mon) 04:56 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

ヒンデミット風なところもあるような

Lake-Loki様、こんにちは。

随分昔の記事をお読み下さって、ありがとうございます。
ここ数年、シュニトケはほとんど聴いていないので、すっかり曲の中身を忘れてました。
聴き直してみても、やはりこのソナタは面白いです。

今の私には、この記事を書いた時と印象が少し変わったようで、ベルクとシュニトケとの類似性よりも、違いの方がよく聴こえてきます。
ベルクのソナタの方が調性感がやや強く明るい色調で(グールドの演奏で聴くと)クールな叙情感があり、明晰です。
シュニトケのソナタは、内面を吐露した呟きみたいに陰翳があり、いくぶん混沌としていて、パーソナルな色彩の濃い音楽に感じます。
それに、情念的にはベルクよりも濃密さが濃くなっていますが、旋律的には(調性感を崩して情緒的にした)ヒンデミット風の旋律がときどき聴こえてきます。

私は内田さんがどうにも苦手で、シルマーとはピアニズムが似ているかどうかは、今はCDを持っていないので、何とも言えません。
印象は聴く人によって違いますから、一度お聴きになってみてください。

ご存知かもしれませんが、シュニトケに関する情報は、『烏鵲(うじゃく)の娯楽室 「現代音楽・文芸趣味室」』というホームページの方が、私よりずっと以前から多数の情報を公開されています。
私が聴くのはピアノ作品中心ですが、こちらは幅広いジャンルをカバーされていますし、紹介されている音源も多いです。
それを読んで大変参考になりましたし、シュニトケについて興味を持ちました。
ぜひ、烏鵲さんのホームページもご覧ください。
http://www.ujaku-gorakushitsu.com/

2015/04/06 (Mon) 21:37 | EDIT | REPLY |   

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