スティーヴン・ハフ ~ コリリアーノ/エチュード・ファンタジー 

2009, 12. 25 (Fri) 18:00

コリリアーノの作品のなかで、比較的有名なピアノ作品は、《オスティナートによる幻想曲》、《エチュード・ファンタジー》。独奏曲よりもさらに録音が少ない《ピアノ協奏曲》も、バーバー、リーバーマンと同じくらいに現代アメリカのピアノコンチェルトとしては名曲ではないかと。

《エチュード・ファンタジー》の録音も多くはないが、アメリカ人ピアニストではトッコ、ジャルバート、その他にはシルマー、それにイギリス人のスティーブン・ハフの録音がある。
ハフは今は英国に住んでいるけれど、ニューヨークには若いときに暮らしていたし、米国でのコンサートも多いので、欧州だけでなくアメリカでも結構知られている。評価が高いわりに、なぜか日本ではあまり知られていない。
リーバーマンやツォンタキスなど、アメリカの現代音楽作曲家の作品もレパートリーになっていて録音も何種類かあり、ニューヨークをベースに活動していた作曲家のピアノ独奏曲を収録したアルバムが『New York Variation』。
収録した作曲家は、古いところではコープランド、ベン・ウェーバー、新しいのはコリリアーノとツォンタキス。
いずれもピアノ以外の作品の方で有名な作曲家とはいえ、このピアノ独奏曲は彼らが30歳代に書いた作品でそれぞれ独自の語法がはっきりと現れていて、個性的な曲が詰まった密度の濃いアルバム。

New York VariationsNew York Variations
(1998/05/12)
Stephen Hough (Piano)

試聴する(hyperionサイト)


ハフの現代アメリカ音楽もののアルバムは、これとリーバーマンの作品集の2種類がリリースされている。(ツォンタキスのピアノ協奏曲のアルバムもあるが、これは後期ウィーン楽派とのカップリング)
どちらのジャケットデザインも、都会的な匿名性とNYの混沌とした街を象徴するようなくすんだブラウンをベースに、ぼんやりと輪郭が曖昧なイラスト。Ben Mooreという人が描いた風景画で、このアルバムのイラストは”14th Street"New York"という絵。


コリリアーノ 《エチュード・ファンタジー》

《オスティナートの幻想曲》に比べて、エチュードらしい技巧的な難しさが聴いていてもわかる。それに”ファンタジー”という名のとおり、幻想的な雰囲気が濃厚。
この曲には"強大な形式的統一性と幻惑的な技巧性を両方備えている"とハフが書いている。
第1番の主題が全体を通じて変形されて絶えず現れてくるので、それぞれ独立した5つの練習曲というよりも、『New York Variations』というコンセプトどおりの変奏曲。

ブックレットでは、ハフが解説全体を書いていて、そこにコリリアーノ自身がリスナーのために書いた文章が引用されている。作曲者自らの解説を読むと、曲ごとの主題や構成がどうなっているのかわかるので、いつもながらHyperionのブックレットは充実している。(ただし輸入版は英語なので専門用語が入っていて日本語に置き換えるのにちょっと苦労する)

Etude No.1 For The Left Hand Alone
音はそれほど詰まっていないけれど、とても左手だけで弾いているとは思えないエチュード。 
ハフのタッチは力強いけれどシャープで軽快。芯のしっかりしたクリアな響きが美しく、明晰だけれど幻想的。
冒頭の6つの音列はプロローグのような力強い低音の旋律。雨音が加速するようなオスティナートが入っているのが印象的。
それに続いて、何かが静かに生起していくような密やかで緩い動きの旋律に変わり(コリリアーノは”melodic germ”と言っている)、この2つの旋律が組み合わさって変形しながら展開していく。
リズム、響き、強弱の変化が面白く、終盤に向かって加速して目まぐるしく展開し、最後はピアニシモでゆっくりと半音階で下降し、アタッカのように第2番につながっていく。

Etude No.2 Legato
ほとんど弱音域で弾かれるスローテンポの密やかな曲。ぽつん、ぽつんと、間隔をあけて水滴が落ちるようなイメージ。
対位法が使われているが、コリリアーノによると、交錯する声部を明瞭にすることと同時に響きを持続させることが大事だそう。

Etude No.3 Fifths To Thirds
曲集中最も技巧的に華やかな曲。中央に見せ場をもってきた曲順で、この曲が一番記憶に残っている。
5度(1と5の指)と3度(2と4の指)のシンプルなパターンに基づいて展開していくので、旋律やリズムはわりと単純でわかりやすい。
コリリアーノの解説では、両手がクロスして弾くところが多く、旋律は高音部に現れる、とあり、これは結構弾きづらそうな感じがするけれど、ハフのピアノで聴いている限りは、リズム感も良くスラスラとスピーディで軽快。

Etude No.4 Ornaments
これはオーナメント(装飾音)の練習曲。
第1番の冒頭の主題を、トリル、装飾音符、トレモロ、グリッサンドにルラードと、いろんなパターンで装飾していく。
第3番の初めの4つの音列が展開される。このときに、ルラードが使われているらしく、左手の4つの指で遠くから聞こえてくるドラムのように低音の音群を弾きながら、親指と右手で高速の野性的な(Barbaric)なパッセージを打ち込むのだとコリリアーノが解説。
初めはスローテンポのピアニシモで第2番に似た雰囲気がする。すぐにトリルが始まり装飾音のパターンが増えていくと、テンポが上がりフォルテが続くので、装飾音を綺麗な響きで1音1音を明瞭に弾くのには、かなりの力技がいりそう。
さすがにハフはフォルテの速いパッセージでも、響きも濁らず装飾音も含めて音の輪郭がくっきり。

Etude No.5 Melody
第2番、第4番と同じように、スローテンポで神秘的な響きの旋律。
複数の旋律が並行して弱音の柔らかい響きのなかで流れているところに、主旋律を入れ込みながらも明瞭に聴こえるように弾きわけるという練習曲。
第1番の主題がベースで、少し第2番の旋律も使われている。
終始弱音でテンポも遅く、音もつまっていないので、起伏の少ない平板な曲ではあるけれど、いろんなパターンの旋律の流れがくっきり聴こえてくるので、意外と立体的な感じがする。


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