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カヴァコス&デメンガ&パーチェ ~ メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番
ロマン派のピアノ三重奏曲のなかで聴くのは、ブラームスとメンデルスゾーン。
ピアノトリオに限らず、そもそもロマン派の作曲家とはあまり相性が良くないので、もっぱら聴くのはブラームス。時々メンデルスゾーンとリスト。これに、バッハ、ベートーヴェン、現代音楽(20世紀の音楽)を加えると聴きたい曲がほとんどカバーできる。

秋になるとなぜか聴きたくなってしまうブラームスは、ピアノトリオをこの前聴きなおしたばかり。
ついでにメンデルスゾーンも聴きたくなってしまう。第1番は旋律の美しさと潤いのある瑞々しい叙情感が素晴らしく、短調でもブラームスのようなほの暗い翳りがないので、何度でも繰り返し聴いてしまう。
メンデルスゾーンの曲のなかでは、ピアノ/ヴァイオリン協奏曲、ピアノ独奏曲をさしおいて、一番好きな曲。第2番も同じくらいに良い曲だけれど、第1番はなにより旋律がメロディアスで綺麗。

第1番は古い録音ならスーク・トリオ、新しい録音ならフィッシャーがジョナサン・ギラードというフランス人の若手ピアニストと録音したPentatone盤を聴いていた。
スーク・トリオはなぜか絶叫調でけたたましく、ピアノのフォルテが耳にキンキンくる(スーク・トリオにしてはこんな演奏は珍しい)。
Pentatone盤は音がとてもクリアで、ギラードのピアノが切れ味良く、ヴァイオリンやチェロよりもピアノの方が目立っている気がする。ただし時々フォルテが強くて騒々しいので、もう少し丁寧なタッチで綺麗な音で弾いて欲しいとは思うけど。
スターン/イストミン/ローズの古い録音も試聴したら、とても親密感があってかなり良い感じ。これも聴かないといけない。
この間見つけたのは、ヴァイオリンがカヴァコス、ピアノがパーチェと、両方とも好きな奏者のSONY盤。(チェロは初めて聴くパトリック・デメンガ。お兄さんのトーマスの方ではなくて。)
これも試聴してぴったり波長が合ったので、CDで全曲聴くとやはり期待通りの演奏。
しっとりした叙情感なかにも凛とした緊張感のある優美なメンデルスゾーン。カヴァコスのやや線の細い引き締まったヴァイオリンの音が綺麗で、ピアノは波がうねるように滑らかで軽やか。チェロは録音のせいかちょっと控えめに聴こえる。
このトリオは音楽の流れが途切れずにとてもしなやかで、リズミカルな躍動感もあって一番良いている録音。

カヴァコスとパーチェは、ノルウェーの音楽祭で初めてメンデルスゾーンの《ヴァイオリン, ピアノと弦楽のための協奏曲 ニ短調》で共演。この時2人はとてもスムーズに調和した演奏ができてお互い相性が良いことがわかり、いろいろ刺激になることも発見して、パーチェがカヴァコスの指揮するオケでソリストをつとめたり、カヴァコスのリサイタルでピアノ伴奏をするなど、定期的に共演するようになったという。[Youtubeのインタビュー録画より]

Mendelssohn: Violin Concerto in E minor; Piano Trios Nos. 1 & 2Mendelssohn: Violin Concerto in E minor; Piano Trios Nos. 1 & 2
(2009/02/16)
Leonidas Kavakos (violin), Patrick Demenga (cello), Enrico Pace (piano)

試聴する(米国amazon)

このSONY盤は残響がやや多めで水気を含んだような潤いのある響きがリリカルに聴こえる。ヴァイオリンの音が一番明瞭でとても綺麗に聴こえるが、チェロとピアノの低音部が少しモコモコ。ピアノはやや後方から聴こえてくるが音量は充分。ただし高音がスカスカして響きが良くない。総じてヴァイオリンにフォーカスしたような感じの録音。演奏自体には全く文句なく満足しているけれど、音質面ではフラストレーションを感じるものがある。
AKGのモニター用ヘッドフォンで聴いてみると、楽器のバランスが均等に近くなり音もかなりクリア。ピアノの音も大分前方に出てきて高音もかなり綺麗に聴こえて、不満もすっかり解消。AKGはヘッドフォンにしてはもともとかなり音が良いので、このCDはヘッドフォンで聴くに限る。
フィッシャーのPentatone盤の方が残響が少なく、3つの楽器の音がかなり分離されて明瞭に聴こえる(フォルテの時はピアノがかなり強め)。ステレオで聴くなら、音の鮮明さだけをいえばPentatone盤が良いし、第1番の演奏はかなり良いので時々聴いている。

メンデルスゾーンのピアノ作品といえば《無言歌》が有名。短いながらも旋律の美しい曲が多く、テクニカルにはそれほど難しくもないので、子供の頃はピアノのレッスンの教材になっていた。
”無言歌”とは違って、ピアノ協奏曲や変奏曲などは華やかな技巧を凝らしてとてもピアニスティック。
このピアノ三重奏曲のピアノパートも、ピアノ協奏曲並に技巧的でとても華やかに聴こえる。
ピアノパートが難しいブラームスのピアノトリオに比べて、大きな跳躍はあまりないし、和音も最大8度なのでそんなに開いていない。ただし、スケールでもアルペジオでも音はかなり詰まっているので、AllegroやPrestoで弾くところは指回りが良くないと、切れの悪い演奏になってしまう。
パーチェは、ブゾーニのヴァイオリンソナタ(これもピアノパートがソロ並に難しい)でとても冴えていたので、このメンデルスゾーンでも鮮やなテクニックと流れるように滑らかな弾きぶり。

 ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.49(1839年)

第1楽章 Molto allegro agitato
冒頭のチェロの憂いの満ちた深い響きがとても印象的。パーチェのピアノのアルペジオは響きが柔らかく、波がうねるようなクレッシェンドがダイナミックで流麗。
この主題にはピンと張り詰めたような叙情感が流れていて、清々しい情熱をおびたこの主題を一度聴くと、なかなか忘れられない。この楽章のピアノパートを弾いてみると、甘く切ない響きの和声がとてもメロディアス。”無言歌”を弾くより、この曲を弾いている方がずっと気分が良い。

やがて長調に転調して、ほっと一息ついたような第2主題が登場する。
この2つの主題が絶えず入れ代わって、光と影、緊張と弛緩が交錯しながら、展開していく。
和声の美しさに加えて、音に水気を含んだような潤いがあるように感じられるせいか、とても瑞々しい感じがする第1楽章。

第2楽章 Andante con moto tranquillo
ピアノ独奏による叙情的な旋律は、まるでメンデルスゾーンの”無言歌”を聴いているような柔らかく明るいタッチで、とてもほのぼのとした雰囲気。
ピアノが伴奏に回って、チェロとヴァイオリンのデュオになるが、すぐにピアノがソロで続きを弾き始まる。第1楽章もそうだったけれど、ピアノがいつもどこかで鳴っているので、かなりピアノの存在感が強い感じがする。
中間部では、短調に転調して旋律が憂いを帯びていき、切々と訴えるように徐々に強くなっていく。ここはヴァイオリンとチェロのデュエットがこの旋律に良く映えている。

第3楽章 Scherzo. Leggiero e vivace
悲愴感と切迫感のあるブラームスのピアノトリオのスケルツォとは違って、明るく軽快なスケルツォ。
小さなバレリーナが舞台の上を目まぐるしくクルクル動き回っているように躍動的で軽やかな雰囲気。
このピアノパートは細かく速いパッセージが続くピアニスティックな書き方。パーチェの指さばきはすごぶる良く、タッチも軽やかでシャープ、急速な強弱の変化も滑らかで、特に弾むようなリズム感が爽快。フォルテのタッチのコントロールも良く、強すぎたりバタバタした感じがしないのが良い。

ついピアノの方に耳が集中してしまうけれど、ヴァイオリンとチェロもリズミカルに動き回っている。
この楽章はヴァイオリンとチェロがかなり違った動きをするので、3つの楽器の旋律を聴き分けていると、結構面白く感じる。
ラストは、ピアノが鍵盤上を細かい動きで駆け上がってから、ちょっと気が抜けたみたいに、弦のピッチカートと一緒に、ポロン、ポロン..と終るのが、とても可愛らしい。

第4楽章 Finale. Allegro assai appassionato
この楽章の主題は短調で独特のアクセントのあるリズム(舞曲みたい?)が緊張感を生み出しているようで、これが頻繁に登場する。
このリズムを持った主題が、ピアノか、またはヴァイオリン&チェロ(の両方かどちらか)かのパートで、変奏されながらほとんどずっと(第2主題とフィナーレの部分は除いて)演奏されているので、嫌でも記憶に定着してしまう。
ややゆったりと大らかな雰囲気の第2主題をはさみながら、シンプルな主題が楽章中を展開されていくので、旋律の流れ自体はわりと単純。速いテンポでかなり疾走感があるのと、ピアノとヴァイオリン・チェロとの主題の旋律の受け渡しが目まぐるしい。
この楽章のピアノパートは、第2主題を弾くところ以外は、ほとんど休む間もなく鍵盤上を高速で動き回っている。
和音、アルペジオ、スケールを詰め込んでいるので、とても華やかだけれど、ピアニストはかなりの運動神経がいりそう。ここもパーチェのピアノはうねるように滑らかなフレージングと軽やかな指さばきが鮮やか。


 メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第2番の記事

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RE:メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番
Yoshimiさん、こんにちわ

この曲は、私が好きな曲の1つです。と言っても、持っているのは1種類だけで、それも1927年のカザルストリオによる録音と言う石器時代(笑)のものですが。

メンデルスゾーンの曲では、これ以外には、交響曲第3・4番、バイオリン協奏曲ホ短調、無言歌あたりが好きですね。

後、メンデルスゾーンと言えば、姉のファニーのピアノ曲も中々、良かったと思います。
このピアノトリオは名曲ですね
matsumo様、こんにちは。
コメントありがとうございます。

この曲はスークトリオで初めて聴いた曲ですが、良いとは思ったのですが演奏が好みとちょっと違っていたので、カヴァコスたちの録音がマイベストになっています。
カザルストリオの録音は有名なんですが、SP時代(というのでしょうか)の古いものは聴きづらくてまだ聴いたことがありません。
第2番も同じくらい(か、それ以上に)好きな曲ですが、第1番の旋律の美しさにはかないませんね。

交響曲はあまり聴かないのですが、《イタリア》と《フィンガルの洞窟》はセル/クリーブランド管のCDを持っているので、たまに聴いています。
無言歌は子供の時に半分くらいピアノのレッスンで弾いてました。有名な《春の歌》や《狩の歌》は、弾く曲としては好きではなかったのですが、メロディの綺麗な曲が他にたくさんあるので、久しぶりに弾きなおしてみたくなりました。

ファニーさんの曲は聴いたことがありませんので、ナクソスでちょっと探してみます。
この曲、好きです
こんにちは。
メンデルスゾーンのピアノ・トリオ第1番、私も好きな曲です。
5~6種類持ってますが、よく聴くのはスターン/ローズ/イストミンかな。
スターンのヴァイオリンの切れ味がすごいです。

最近読んで感銘を受けた藤谷治「船に乗れ!」という小説で
この曲が重要なモチーフとなっていました。
それもあって、なおさら最近よく聴いてるかも。

ファニー・メンデルスゾーンではピアノ三重奏曲作品11が好きです。
よろしければご参考までに
   ↓
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/fanny.html

ピアノトリオは2曲とも好きです
木曽のあばら屋様、こんにちは。
コメントありがとうございます。

メンデルスゾーンの室内楽では、このピアノトリオの第1番と第2番がとても良いですね。両方とも同じくらいに好きです。
スターンのトリオのCDは、今amazonにオーダー中です。今月中には手に入るでしょう。室内楽を聴くときは初めにピアニストで選ぶので、イストミンは一度聴いてみたいと思っていました。
スターンはシベリウスのコンチェルトなど、いくつか聴いたことがあります。シベリウスも切れ味の良い演奏でした。

ファニーの曲は人気があるようですね。コメントで教えてくださった方がいらっしゃるので、ナクソスでピアノ作品はソナタなどの独奏曲の方は聴きました。
ピアノトリオもamazonで試聴してみましたが、独奏曲と似た作風で、フェリックスよりもロマン派色が強くてメロウな感じがします。和声がファンタスティックでシンフォニックな響きですね。

「船に乗れ!」って音楽小説なのですね。初めて知りました。
音楽がらみの小説といえば、「エロイカ変奏曲」や「ベートーヴェンの憂鬱」などは読みました。特に「オルフェウスの窓」(これは少女漫画ですが)は子供時代の愛読書でした。(古いですね~)
おかげで、読了後はベートーヴェンばかり聴いていました。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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