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スーク&シュタルケル&カッチェン ~ ブラームス/ピアノ三重奏曲第2番・第3番
ブラームスのピアノ三重奏曲のなかでは最も有名な第1番に比べて、第2番と第3番は規模が少し小さく、たぶん演奏機会もかなり少ない。3曲のうち1曲だけ録音されている場合はたいてい第1番。
ブラームスのヴァイオリンソナタだと、第3番が一番良く演奏されているような気がするけれど、《雨の歌》の第1番も結構人気がある。

ピアノ三重奏曲は、第2番が完成したときに、ブラームスが出版者のジムロックへの手紙に、「君はここ10年の間で、こんなに美しいトリオを受け取ったことがたぶんないだろう」と書いている。第2番は自信作だったらしい。
第1番の方は、元々は20歳ころの青年期の作品で、34年後にわざわざ改訂したくらいなので、初版のままだったらさほど人気がでなかったかも。
第3番になると、さらに短くなって演奏時間は20分ほどだけれど、楽章ごとの曲想の変化が連作短編小説のストーリーのようにも聴こえる、コンパクトにエッセンスが詰め込まれたような作品。

3曲続けて聴くと、ブラームスらしいほの暗い雰囲気とがっちりした構造のせいか、多少疲れるものがあるが、同じく3曲で完結したヴァイオリンソナタ全集と比べて、チェロが入っているせいか色彩感と音の厚みがあって、それに曲想のバリエーションが色とりどりという感じでわりと面白い。この2曲も第1番と同じく、3人のアンサンブルが滑らかで隙間のない緊密な感じ。


Piano Trio 3ブラームス:ピアノ三重奏曲全集 
(1997年3月25日)
Julius Katchen, Josef Suk, János Starker


試聴ファイル


 ピアノ三重奏曲第2番の楽譜ダウンロード(IMSLP)
 ピアノ三重奏曲第3番の楽譜ダウンロード(IMSLP)


ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 Op.87(1882年)


Johannes Brahms - Piano Trio No. 2, Op. 87
Haydn-Trio, Wien


第1楽章 Allegro
冒頭は明るい色調で和やかな雰囲気の主題。ヴァイオリンソナタ第2番やピアノ・ソナタ第1番(これが実際は2番目のピアノ・ソナタ)のように、2番目に書いた曲は第1番と違って大らかで明るく、3番目になると再び暗く力強くなっている。短調の曲を書くと次は長調の曲を書きたくなるとブラームスは言っていたし。
時々短調に転調しても、すぐに長調に戻るし、短調でも全然暗い翳りがないので、晴れた午後のティータイムみたいにとっても穏やか。

第2楽章 Andante con moto
悲痛感が全楽章を浸しているような緩徐楽章。イ短調の主題とそれに基づく5つの変奏で構成されている。
冒頭のヴァイオリンが奏でる高音の旋律は力強く決然とした雰囲気で、氷が突き刺すように美しく、ピアノ伴奏がさらに輪をかけて叙情的。情緒的にベタっとした弾き方ではないので、透明感のある凛とした美しさ。
ピアノ独奏で始まる第2変奏は憂いに満ちて、涙の雨がポロポロと降り注いでいるような、水気をたっぷり含んだ哀感がある。ピアノとヴァイオリン、さらにチェロが加わって、2音の下降音形(”ため息音形”というらしい)を対話するように弾いているのが、とても悲しげに聴こえる。ピアノのアルペジオと和音のハーモニーもとても悲しそう。
第3変奏は冒頭の主題の悲痛な雰囲気に戻り、続く第4変奏は束の間の安息のように長調の穏やかな旋律にかわる。
第5変奏は短調に戻って、流れるようなレガートで主題が変奏される。ピアノのアルペジオの伴奏を背景に、ヴァイオリンとチェロが交互に、その後で、ユニゾンで弾く旋律がとても流麗。
この楽章は楽譜で見ると変奏の移り変わりが良くわかる。

第3楽章 Scherzo - Presto
ブラームスの短調のスケルツォらしい急迫感のある楽章。
ピアノはPrestoで弾くアルペジオやらスケールが多く、カッチェンのピアノのタッチが軽やかなので、速いテンポでリズム感の良い。ここは強いフォルテでは弾いていないけれど、とても張り詰めた雰囲気。
中間部はコロっと雰囲気が変わって、とても伸びやかで確信に満ちたようなおおらかな旋律。緊張と弛緩のお手本みたいに、この旋律を聴くとほっと一息。

第4楽章 Finale: Allegro giocoso
楽しげでちょっとおどけたようなタッチの主題が面白い。この主題が楽章中いろんな形に姿を変えて頻繁に現れる。
主題の旋律はヴァイオリンが弾いていることが多いが、ピアノがヴァイオリン・チェロと掛け合うように対話しているような旋律のやりとりが軽妙で、どこか可笑しい。ヴァイオリンとチェロが音階を上に駆け上がっていったら、急にピアノが和音で遮ってから反対に鍵盤上を下降していったり(53~58小節のところ)。
ピアノ伴奏は細かく上下下降を繰り返すフレーズと和音の連打が多い。軽やかな主題の雰囲気に合わせて、カッチェンはわりと柔らかいタッチで、とても楽しげなタッチで弾いている。他のパッセージを弾くときも響きにも丸みがあるので、ほんわかとした雰囲気。
エンディングは、フォルテで明るく快活に。



ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 Op.101(1986年)

1886年にThun湖の見えるスイスの湖畔で書き上げたのが、この第3番のピアノトリオと、第2番のチェロ・ソナタとヴァイオリンソナタ。
解説によると、この3作品には、初期作品に見られた”生気(Vigour)”を、中年期に至るまで蓄積していった音楽的な知恵(Wisdom)で和らげて再現したようなところがあるという。
短い曲なので、余分な枝葉はつけずに構成はわりとすっきりした感じで、それでも言いたいことは全部しっかり詰めこんだような緊密感がある。

Johannes Brahms - Piano Trio No. 3, Op. 101
Haydn-Trio, Wien


第1楽章 Allegro energico
冒頭は明らかにブラームスの作品のトレードマークのような嵐のように力強く悲愴な雰囲気の旋律。
でも、すぐに長調の第2主題に交代する。この第2主題の柔らかく広がりのある旋律は晩年のブラームスにしてはかなり清々しい。
と思ったら、また冒頭の主題が変形されてしばらく続き、再び第2主題が登場する。
主題の旋律はヴァイオリンが主に受け持ち、たまにチェロが弾いているが、ピアノはほとんど伴奏か、ユニゾンで旋律を弾いている。

第2楽章 Presto Non Assai
ブラームスのピアノ小品集にでもでてくるような内省的な旋律のスケルツォ。形式・構成からいえばスケルツォなのだと言われるが、ブラームスはスケルツォとは書かれていないし、一般的なスケルツォとは違って、なにか不安げな予感のするような短調でリズムも変わっている。
この楽章を喩えて言えば、”怯えている子供のように急いで通り過ぎていく”(ドナルド・トーヴェイという人が言った言葉)。
この楽章も主題の旋律はヴァイオリンとチェロのユニゾンで弾くことが多い。
その背後で、ピアノは、スタッカート気味の軽やかに(子供が逃げ回っているように?)あちこちを飛び跳ねている。

第3楽章 Andante grazioso
少し寒気を感じさせる第2楽章から一転して、ブラームスが好んで使う”子守歌”風の可愛らしく和やかな旋律。
拍子が頻繁に変わる変拍子が特徴的。2/4と3/4、または、6/8と9/8の拍子が1小節ごとに交代し、時々9/8拍子が続いたりと弾く方はややこしいだろうけれど、その複雑さがメロディの浮遊感につながっている。
ここはピアノとヴァイオリン&チェロのデュエットが、初めからずっと対話しながら、弾いている。
カッチェンの柔らかい響きでひく高音の旋律は、夢見るようにメルヘンティックな雰囲気。こういう感じはカッチェンが弾いていたブラームスのワルツやピアノ小品とそっくり。

第4楽章 Allegro Molto
フィナーレらしく、力強く決然とした雰囲気の冒頭の主題。
初めの2つの楽章のCマイナーに戻っているが、第1楽章とは違って、強い悲愴感はなく、和音主体のピアノが力強い感じ。ソナタ形式の中間部は何かを駆け抜けるように疾走するような旋律。
最後のコーダは主題が長調に転調して明るい色調に変わる。暗い色調の第1楽章と第2楽章から、徐々に明るさがさしこんで、最後のフィナーレではすっかり霧が消えて、晴れやかに澄み切った空に覆われたようなイメージ。



 ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番の記事

 ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番の記事

 ブラームス/ヴァイオリンソナタ第2番の記事

 ブラームス/ヴァイオリンソナタ第3番の記事

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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