ブラウティハム ~ ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番(1808年改訂版)、ピアノ協奏曲ニ長調(ヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版) 

2009, 12. 18 (Fri) 18:00

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番は、通常演奏されるのは1806年に作曲したバージョン。
1808年の初演はベートーヴェン自身のピアノ独奏。このときのピアノパートは最初の楽譜とは違った改訂バージョンで弾いていたと言われる。
ベートーヴェンが実際に弾いた内容に関しては、写譜師(copyist)が残したスコアの中に、ベートーヴェンの手による注釈がついているので、それをベートーヴェン研究者のBarry Cooperが書き写して、とうとう改訂版が完成。
Cooperは"Beethoven's Revision to his Fourth Piano Concerto”という論文も発表し、その中に改訂版の楽譜が掲載されている(らしい)。(原著は、Robin Stowell編『Performing Beethoven 』(Cambridge Univ. Press, 1994), 23-48)
ベートーヴェンが弾いて以来、演奏も録音もされていなかったに違いない改訂版の第4番。このコンチェルトをロナルド・ブラウティハムが録音した最新アルバムがつい最近リリースされた。
伴奏はアンドルー・パロット指揮で、スウェーデンのノールショピング交響楽団。

ピアノ協奏曲第4番(改訂版)、ヴァイオリン協奏曲(ピアノ版)ピアノ協奏曲第4番(改訂版)、ヴァイオリン協奏曲(ピアノ版)
(2009/12/08)
ブラウティハム、パロット&ノールショピング響

試聴する(classicsonline.com)


楽譜を見ないでも、耳で聴けば明らかにわかるくらいに、いつも聴いている第4番のコンチェルトとは違うところがいろいろ。
特に第1楽章でかなり音が付け加わっているので、きらきら煌きが増してちょっと華やかにお化粧したような...。
和音の厚みが増しているというのではなく(そういうところは少しあるけれど)、全休符のところにフレーズを書き込む、同一音でなく音を移動させながらトリルする、フレーズの一部を1オクターブ上下させる、あまり詰まっていない音符の間に音を追加して動きをだす、上行するところを下降する、etc.。
いろいろ細かい動きが付け加わっているので、よりピアニスティックになって、やや即興的な自由な雰囲気もある。カデンツァはほんの少し変えているけれど、大筋は一緒。
原曲はかなりシンプルでとても清楚な感じがするので、それを聴きなれていると、この改訂版は装飾的なところが増えて華やか。ちょっとうるさい感じがしないでもないけれど、これはこれで音がキラキラと煌くように舞っていてとても美しい曲。

ブラウティハムの録音はフォルテ・ピアノで弾いたものが多くて、モダンピアノで弾いている方が珍しい。メンデルスゾーンやベートーヴェンの協奏曲全集は全て現代ピアノ。
ピアノ・フォルテの響きはあまり好きではないので、コンチェルトの方がスタインウェイで聴けるのは嬉しい。スタインウェイを弾くブラウティハムは、鋭く硬質なタッチで濁りのないクリスタルのような響きが美しく、弱音はとても柔らかな響き。
テンポは速めできびきびと軽快で、強弱のコントラストはシャープ。リズムやアクセントをそれほど強調するわけでもなく表現はわりとあっさり。それでも、響きが綺麗で音自体に表情があるので、そんなに無愛想に聴こえてこない。
隅ずみまで明晰で理知的な感じはするけれど、ドライでは全くなく、研ぎ澄まされたクールな叙情感がひんやりと気持ちよい。
第3楽章になると力強いタッチでスピード感も出て、ちょっとした熱気も感じる。
ブラウティハムはフォルテ・ピアノで響きをコントロールするのに慣れているせいか、スタインウェイを弾いていても、タッチの変化が精妙で響きのバリエーションも広く、濁りのない透明感と明るい輝きのある綺麗な音で弾いている。
ちょっとしっとりした水気のある録音の音とクールな表情の演奏がちょうど良いバランス。

プラハティウムへのインタビュがブックレットに載っていて、フォルテピアノではなくモダンピアノ(スタインウェイ)で弾くことについて、いろいろ書いている。
オケの響きがどこか他の演奏とは違うと思ったら、このオケはノンヴィブラートで演奏するのを好むオケだと書いてあった。注意して聴き直すとたしかにヴィブラートがかかっていないので、スカスカ~とした響きがする。それに、音を歯切れ良く弾いているので躍動感がでて、生き生きとしたところはあるが、かなり直線的な表現も多いので、深い情趣のある演奏ではないように感じる。(これは、最近流行っているらしき古楽奏法の特徴?)
特徴的なのは、ピアノをオケの前に置くのではなく、ピアノの回りをオケが囲むように、ピアノを少し下げて中央に配置しているところ。
プラハティウムは、オケとピアノが対抗するのではなく、室内楽的な演奏を意図したという。オケとピアノの音が同じような位置と大きさで聴こえてきて、協奏するときは時として、ピアノの音がオケの演奏に溶け込むような感じがするのが、今まで聴いてきた録音とはかなり違っているところ。
単に改訂版を弾いているというだけではなく、フォルテピアノではなくスタインウェイを弾くブラウティハムと古楽奏法を取り入れたオケによる室内楽的な演奏という点でも、思ったよりもいろいろ発見がある。

                                

カップリングは、これも録音がとても少ないピアノ協奏曲ニ長調 Op.61a
この曲はヴァイオリン協奏曲のピアノ編曲版で、ヴァイオリン協奏曲では残していなかったカデンツァをこの編曲版ではベートーヴェン自身がしっかり書き込んでいる。
旋律がシンプルで長大なヴァイオリン協奏曲よりはピアノ協奏曲版の方が好きだけれど、ピアノで聴いた後にはいつも思い出したようにヴァイオリンの方を聴きたくなってくる。

このニ長調のピアノ協奏曲はオリ・ムストネンが得意のレパートリーにしている。
ムストネンの演奏はバッハを弾くときと同じスタッカートに近いノンレガートなタッチ、それに強いアクセントと急変する強弱を特徴とするアーティキュレーションが独特。こればかり聴いていると、この奏法が頭の中でスタンダード化して、レガートなニ長調協奏曲の方がなぜか変わったように聴こえてしまう。
ムストネンの演奏は好みがすっぱり分かれるので、これが苦手な人にはブラウティハムの演奏はテクニックはしっかりしているし、変わったクセがなくて聴きやすい。
透明感のある硬質の響きがこの曲の品の良さによく似合っているし、第1楽章と第2楽章は第4番より柔らかいタッチで弾いていて、とても優美。ティンパニが入ったカデンツァは急に曲想が変わるところが面白い。
この曲もブラウティハムのピアノの響きがうっとりするくらいに美しい。高音の弱音の響きは綿菓子のように甘くて溶けてしまいそう。フォルテピアノを弾いてきたことが、スタインウェイを綺麗に響かせることに役立っているのか、元からこういうピアノを弾く人なのか、どちらかは良くわからないけれど、この綺麗なピアノの音を聴くだけでも満足できてしまう。
ピアノ協奏曲よりもさらに室内楽的というか、ピアノがオケのなかから聴こえてくるし、ピアノとオケの音が互いに呼吸を合わせるように共鳴して調和のとれたところがとても和やか。オケがフォルテになるとピアノがちょっと聴こえにくくなるけれど、それでも合奏協奏曲みたいな雰囲気があって、こういう音のバランスは全然悪くなかった。

オケの方は第4番で聴いた時と同じように、軽やかな響きで快活。ちょっと表現は直線的なところがあるので、もう少し繊細さと落ち着きが欲しい気もする。そういう点では、ムストネンが弾き振りしているタピオラ管の方が、しなやかで軽やかで品良くまとまっている。
ムストネンとブラウティハム(とオケ)の演奏の方向がこれだけ極端に違うと、同じ曲でもかなり違った雰囲気。どちらが良いとも言いがたく、この曲は両方聴き比べるのがとても面白い。

 ベートーヴェン/ピアノ協奏曲ニ長調(ピアノはムストネン)の記事

タグ:ベートーヴェン ブラウティハム

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

0 Comments

Leave a comment