メンデルスゾーン/幻想曲 嬰へ短調 <スコットランド・ソナタ> 

2010, 01. 05 (Tue) 12:00

12月からちょっとメンデルスゾーンに凝っているので、ピアノ独奏曲の全集でまとめて聴いている。
昨年はメンデルスゾーンの生誕200年だったのが記憶からすっかり消えていたので、カヴァコスがメンデルスゾーンのアルバムをリリースしたのも、メンデルスゾーンイヤーだったからだと後になって気がついたくらい。そのアルバムで久しぶりにピアノトリオを聴いてから、急にメンデルスゾーンづいてしまった。

メンデルスゾーンで有名なのは《無言歌》。こればかりが有名なような気もするけれど、ピアノ・ソナタもちゃんと書いていて、第1番~第3番の3曲、番号がないものが3曲。
ピアノ・ソナタで演奏されるのは1827年作の第3番が一番多いらしい。この曲は穏やかで優雅な曲想で、大きな浮き沈みもなくて、どちらかというとあまり印象には残らない。
ピアノ・ソナタではないけれど、<スコットランド・ソナタ>というサブタイトルがついた《幻想曲嬰へ短調》の方は3楽章構成のソナタ。
メロディアスな旋律とファンタジックな響きが美しく、第3楽章は技巧華やかでとてもピアニスティック。陰影に富んだロマンティックな曲で、メンデルスゾーンの作品で最も好きな曲の一つ。

この曲は、メンデルスゾーンの作品集によく収録されている。
メンデルスゾーンのピアノ作品の全集版は思ったよりもいろいろリリースされていて、マーティン・ジョーンズ、ダナ・プロトポペスク、マリー=カテトーヌ・ギロ、ベンジャミン・フリスなどが録音。
<スコットランド・ソナタ>を聴いてみると、全集録音のなかでは、NAXOS盤のフリスが録音の音も良いし、表現も丁寧。あまりベタベタとロマンティックすぎない叙情感が好きだけれど、第3楽章がちょっとだけテンポが遅い。その分旋律は綺麗に聴こえるが疾走感に欠けるところがあるので、好みとしてはPrestoらしい速いテンポで切れ味良く颯爽と弾いて欲しい気がする。

Youtubeにもライブ映像がいくつか登録されている。その中では、(ちょっと若いころらしき)ペライアとパーチェの演奏がテクニック・テンポ・表現ともバランスが良い感じ。両方とも好きなピアニストなのでどちらも良く聴いている。
ペライアのライブは多少のミスタッチはあるけれど、テンポ設定がぴったりで、響きも綺麗だし叙情性も強くてかなり良い。それにTVのライブ録画なので音がとても綺麗。
特に第3楽章のテンポがほどよい速さで、旋律が厚い響きに埋もれずに綺麗に聴こえてくるところが、他の録音と比べて良いと思えたところ。岸壁に打ち寄せる激しい波を感じさせるように力の入った演奏で、この楽章にはこういう弾き方が良く似合う。

 《幻想曲/スコットランド・ソナタ》のライブ映像(ピアノ:ペライア)
※第3楽章はリピートを省略して、すぐに2番カッコへと進んでいる(または映像が編集されている)ので、演奏時間は全部で11分弱。(全曲リピートありで普通13分~15分くらいかかる。)

パーチェの方はライブ録音の音質がもう一つ良くないけれど(聴くには全然困らない程度)、いつもながらミスタッチもほとんどなく、第3楽章はいつもながらすこぶる速いテンポで、シャープな打鍵が冴えて疾走感が抜群。緩急のコントラストも強く一気にたたみかけるようなダイナミズムが爽快。
 《幻想曲/スコットランド・ソナタ》のライブ録音(第3楽章)(ピアノ:パーチェ)



 幻想曲~スコットランド・ソナタ 嬰ヘ短調 Op.28 / Fantasie (Sonate écossaise) Fis-Moll Op.28 (1833年)
 [ピティナの作品解説]  [楽譜ダウンロード(IMSLP)]

メンデルスゾーンがスコットランドへ旅立つ前の1828年に作曲開始、帰国後の1830年にヴァイマールのゲーテの前でこの幻想曲を演奏。その後1833年に改訂版を完成させて出版した。
3楽章構成で、メンデルスゾーンの曲によくみられるように、この曲もアタッカで連続して演奏される。
メンデルスゾーンにしては陰翳が濃くて、長調の曲よりも濃厚なロマンティシズムが素敵な曲。


第1楽章 Con moto agitato: Andant
冒頭のやや悲愴感のある哀しげな旋律が、いかにもメンデルスゾーンらしくとてもロマンティック。
どんよりと灰色の雲が垂れ込めたような冬のスコットランドの陰鬱でさびしげな雰囲気が漂っているような。
ゆったりと主題を弾いた後は、長調に転調してやや明るめの第2主題に変わる。分散和音の数小節を挟んで、感情が高ぶるように徐々に動きが激しくなって、主題に回帰する。
時折カスケードのように流れ落ちる分散和音がとてもファンタスティック。

第2楽章 Allegro con moto
これはとても楽しげなイ長調のスケルツォ風。さっきの重苦しげな暗い雰囲気がすっかり消えている。
第1楽章と第3楽章との間の緩衝帯のように、2分くらいのとても短い曲。スコットランドの爽やかな夏といった感じ。

第3楽章 Presto
これは概ねソナタ形式らしい。たぶんこの第3楽章が最も有名(だと思う)。
冒頭から高速で弾く6連符が右手か左手(か両方)に、ほとんど間断なく現れている。
まるで寒さの厳しいスコットランド北方の冷たく吹きすさぶ風や岸壁に打ち寄せる波のうねりのようなイメージ。(調べてみるとスコットランドは日本の関東くらいの気候らしい)
曲自体はprestoで一気に駆け抜けるようにとても情熱的で、第3楽章は一度聴いただけですぐに気に入った楽章。
強弱の起伏とテンポの緩急/静動の落差がかなりあるので、旋律と構成はわりとシンプルだけれど、単調なことは全くなくて、とてもドラマティック。

Prestoといっても、ピアニストによって結構テンポの差がある。
やや遅めのテンポで旋律部分をたっぷり歌わせて弾く人もいるけれど、一度速いテンポの演奏を聴くと、そっちに慣れてしまう。やはりPrestoとあるので、疾走感を期待してしまう。
Prestoらしく速いテンポで弾いているピアニストは多いが、ギロはタッチが軽すぎて迫力不足。ジョーンズは指は良く回っているけれど、表現が直線的で叙情感がもう一つ。
パーチェはスピード感とダイナミズムは抜群に良いが、速すぎてやや旋律が埋もれがちな気がする。これは、聴き慣れるとそれほど気にもならないし、こういう荒々しい雰囲気の弾き方が結構気に入っている。
ペライアは、パーチェよりもややタッチが柔いせいか少し流麗に聴こえるけれど、細かいパッセージはわりとしっかり響くし、右手の旋律部分は他の音に埋もれることなくくっきり歌わせている。ペライアにしては力強さと推進力もあってかなり情熱的な演奏。
ゴルトベルクやパルティータの柔らかなレガートの演奏ばかり聴いていたので、<スコットランド・ソナタ>を弾くペライアはちょっと雰囲気が違って新鮮。

タグ:メンデルスゾーン ペライア パーチェ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

0 Comments

Leave a comment