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カッチェン ~ ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲(1962年ステレオ録音)
吉田秀和氏の著書『世界のピアニスト』を読むと、1967~68年のベルリンに滞在していた頃、マゼール指揮ラジオ・シンフォニー・オーケストラの演奏会で、カッチェンがソリストをしていたラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》を聴いたという話が載っている。
カッチェンが肺がんで亡くなったのが1969年4月だったので、その1年~2年前くらいにあたる。

この曲の録音は2種類残っていて、1954年のモノラル録音と1962年のステレオ録音で、両方ともエイドリアン・ボールト指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の伴奏。
ピアノ協奏曲第2番はショルティの指揮だったせいか、超高速テンポの筋肉質でとてもスポーティな演奏。
こちらのパガニーニ・ラプソディの方は、ボールトの指揮なので、テンポはかなり速めにとってはいるけれど、演奏自体はコンチェルトのような一風変わったタイプではなくて、とてもまとも。
テンポも、いつものようにクライマックスで止まるに止まれず加速することはなく、よくコントロールされていて、この頃の演奏にしては安定している。

8年前に録音したモノラル録音の演奏だと、変奏によってややテンポが遅く、フォルテや重音の打鍵が少し重たい感じで、フレーズ末尾やフレーズ内の表情付けが直線的で素っ気なく聴こえることが時々。
新録の方は、変奏よってはテンポがやや速くなり、打鍵がシャープでテクニックの切れも良く、表現もよりニュアンス豊かで、力強くもしなやか。
第18変奏は、旧録ではややルバートが強めで少しベタっとしたロマンティックな感じが強かったのが、新録はずっとさらっとした叙情感で、弱音の柔らかい響きと暖かい音色が綺麗でとても優しい雰囲気。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番)
(2013/5/15)
ジュリアス・カッチェン(ピアノ),サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ロンドン交響楽団,エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

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パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43(1934年)

パガニーニの『24の奇想曲』の第24番の主題を元に、24の変奏で構成した”狂詩曲”という名前のついた変奏曲。

24種類の変奏は、それぞれ曲想や音の配列に特徴があって、調性も一部の変奏で変えていて、この変奏の順番は起承転結のあるストーリーのように流れがわかりやすい。
繰り返し出てくる主題と「怒りの日」の旋律も短いながら印象的。
有名な第18変奏の甘い旋律はちょっと場違いなくらいに美しい。第19変奏以降のクライマックスへ向かう盛り上がりも抜群。
ピアニスティックな華やかさと、”手に汗握る”ようなスリリングな展開に加えて、ピアノ協奏曲にしてはオケとの絡み合いがかなり面白い。(オケのパートだけ聴いていても、交響曲並に面白いかも)
それにしても、時々モノクロ時代のハリウッド映画を見て(聴いて)いるような気分になってくる。

カッチェンは、いつもながら速いテンポで、指回りが良く跳躍する重音移動もシャープなタッチで軽快。
音量・力感も豊かで、リズミカルで勢いのあるピアノがとても爽快。技巧優先という感じはなく、表情も細かやでしなやかさもあり、爽やかな叙情感がとても気持ちよい。

冒頭は、序奏-第1変奏-主題という少し変わった構成。
<序奏>のピアノの低音の打鍵がきびきび。弾力もある響きが、とても気持ち良い。

次がオーケストラによる<第1変奏>。パラパラ飛び跳ねて、最後にストンという音の動きがちょっとユーモラス。

手に入れた2台のピアノ用の楽譜(海外版。87頁もある)には、英語で”V​a​r​i​a​t​i​o​n​ ​I​:​(​P​r​e​c​e​d​e​n​t​e​)​”とわざわざ書いている。
耳だけで聴くのとは違って、楽譜を見るとリズムや音の動きが視覚的にわかるし、特に変奏曲は曲の構成を理解しやすいように思えるので、1回か2回くらいは楽譜を見ながら聴く習慣がついてしまった。

そして、ピアノとヴァイオリンによる<主題>
冒頭には出てこなくても、これが主題の旋律なのは間違いなくわかる。(直前部分が全部序奏だと思いこんでいたので)
ここは、オケのヴァイオリンが主題の旋律を弾いている。断片的に主題を弾くピアノの音がアクセントのようによく響いている。

次の<第2変奏>では、交代してピアノが主題演奏。ちょこまかと軽快に、高音域のアルペジオがV字型(楽譜上では)に上行下降する。

<第3変奏>はオケとピアノの対照的な動きが面白い。
アリや蜂がせわしく動き回るようなオケの細かいパッセージをよそに、ピアノが悠然と少し物憂げな旋律を弾いている。

<第4変奏>は、ピアノも忙しそう。
1拍め、または、3拍めにアクセントを利かせたリズミカルな音型をオケとピアノが掛け合って進む。
最後は、そのまま第5変奏につなげるかのように、ピアノが和音移動で一気に駆け上がっていく。

<第5変奏>は、ここは第1変奏をさらに変形したような感じがする。
ピアノが重音主体で同じテンポで(でも速くなっているようには聴こえる)、飛び跳ねているなかを、オケが合いの手を入れるように、ドンドン!と威勢良い。
カッチェンのタッチの切れの良さと、シャープなアクセントで、飛び跳ねるピアノがとてもリズミカル。

<第6変奏>同じテンポながら、気だるい雰囲気で、音がややまばらになり、動きも緩やか。
弱音の軽やかなアルペジオが入ったりして、直前の動きが激しかった反動か、ちょっと一息いれているように気が抜けたような雰囲気の旋律。

<第7変奏>は、ゆったりとしたテンポで嵐の前の静けさのよう。
グレゴリオ聖歌の有名な「怒りの日」の有名な旋律が流れてくる。主題にまぎれこんでいるので、デジャブのような感じがしても、すぐにはわかりにくいかも。
この「怒りの日」の旋律を使った曲はいろいろあるけれど、私はリスト《死の舞踏》(サン=サーンスを編曲した版の方ではなく)をいつも思い出してしまう。

<第8変奏>
再びエンジンがかかったように、元の速いテンポで、ピアノが重音で高速移動。厚みのある和音でも、歯切れ良いタッチで力感も十分あり、リズミカル。何かが起こる前触れのような雰囲気。

<第9変奏>はとってもダンディ。
「怒りの日」の変奏らしく、言われてみればそういう気もする。(ちょっとわかりにくいけど)
アクセントとスタッカートを組み合わせたオケの三連符のリズムと、そこにクロスリズムで最後に楔を打ち込むように打鍵していくピアノが掛け合っていく。映画の追跡劇のようで、結構スリリング。
ピアノが弾くフレーズ末尾の低音は、力強いアクセントがよくきいて、重量感もしっかり。

ピアノは上行しては下降するパターンを繰り返し、終盤の三連符の重音で両手のユニゾンのように下降する。ちょっとジャズ風というか(映画音楽のように通俗的な気もする)、駄目押しするような旋律。

<第10変奏>はすぐにわかる 「怒りの日」の旋律による変奏。
前半を締めくくるようにちょっと長め。オケがかなり目立って、9小節目は突如勇壮な和音が鳴り響き、その後は急に脱力したように、ピアノが高音で弾く細かいパッセージを背景に、トライアングルがかわいらしく響いて、キラキラと雪の結晶が舞っているよう。最後は、次の変奏へ向かって減速するように、落ちをつけたようなトライアングルの音で、おしまい。

<第11変奏>は、打って変わって静寂な雰囲気に。
かすかに響く弦楽のトレモロを背景に、ピアノ・ソロが広域のアルペジオや半音階のユニゾンやら、その他諸々の幻想的な響きをイメージさせる旋律がメイン。ハープのグリッサンドも鮮やか。
ここは軽かやなタッチと響きの重なりが美しく、雪の女王の世界のように、静寂で冷たく雪が舞い散っているようなイメージ。

ニ短調に転調した<第12変奏>は、ゆったりとしたとてもロマンティックな変奏。
ピアノが符点のリズムで弾く和音の旋律がとても甘く哀しげ。あまりベタっとした感じではなく、弱い弱音でさりげなく優しいタッチ。

<第13変奏>はアレグロの勇壮な変奏。
弦楽が弾く主題を背景に、ピアノがそれを補強するように2拍目と4拍目にフォルテの和音。

初めてでてくる長調の<第14変奏>は、勇ましく駆け抜けるような旋律。まるで映画音楽を聴いている気分。
三連符が多用され、ピアノは三連符の和音のユニゾンで高速移動して、リズムを刻む。
最後は、ピアノの右手と左手が1音ずれた三連符のユニゾンで、右手か左手かどちらかに引きづられてしまいそうなリズム。(ここはオケの音量に掻き消されがちで、あまり明瞭に聴きとれなかったけれど)

<第15変奏>は、ラフマニノフのピアノ協奏曲に出てくるようなピアニスティックな変奏。
高速のパッセージで鍵盤上を軽やかに動き回る明るく楽しげなピアノがとっても素敵。ちょっとジャズ風な洒落た感じがする。

<第16変奏>は、なぜかバレエを見ているような気がしてくる変奏。
主題の断片がいろんな楽器で弱奏され、不可思議で何かが起こる前触れのような雰囲気。

<第17変奏>も視界が霧で覆われたようにもやもやと曖昧模糊としたムード。
アタッカで、ピアノが不安げなアルペジオをゆっくりと弾き始め、オケはその不安感を引きのばすように、2分音符主体の息の長い単音でつながっていく旋律を弾いている。
最後は、次の変奏に自然につながるように長調に転調して、そのままアタッカでつながる。

<第18変奏>は、なぜか突然変ニ長調に変わり、この曲中有名なロマンティックな旋律。
まるで今までもやもやと霧のように不安感が消え去ってしまったよう。
この旋律は、パガニーニの主題の反行形になっている。(聴いただけではよくわからないけれど)
ピアニストによって、ルバートたっぷりでベタっとロマンティックに弾いたり、さらっと弾いたり、感じが変わるところ。
カッチェンの場合は、ルバートはかけてはいるけれどセンチメンタルな感じはなく、ピアノの温もりのある柔らかい響きで優しく語りかけるようなタッチ。
ピアノで弾くのにぴったりの旋律なので、ここだけ摂り出して、よくピアノソロで弾かれるというのも納得。
オーケストラのトゥッティに交代すると、ピアノが伴奏している和音のアルペジオも相まって、クライマックスのように盛り上がって、とても清々しく雄大。最後は、ピアノ・ソロでメロディを再奏して静かに終る。

楽譜上では、ここでイ短調に戻って、テンポはVivaceに変わり、はっと夢から覚醒したような音を弾くオケ。楽譜を見ていなければ、ここは次の変奏の冒頭部分のように聴こえる。

イ短調に回帰した<第19変奏>は、ピアノが3連符のアルペジオを左右の手で交互受け継いでいく。この飛び跳ねるようなピアノが、リズミカルで躍動的。

ここから後の変奏はアタッカでつながっていき、フィナーレに向かっていく助走のように、疾走感のある雰囲気でまとめられ、ピアニスティックなパッセージが華やか。

<第20変奏>はアタッカで繋がって、同じような雰囲気。
ピアノの装飾音のように弾くリズムが、馬が疾走していくように、軽快でリズミカル。
オケの弦楽が弾く細かいパッセージが、まるでざわめきのように聴こえる。

<第21変奏>も三連符のなかに主題がまぎれながら、高速で上行下降を繰り返すピアノパートがメインで、とてもダンディなパッセージ。フレーズ最後には、アクセントのついた和音の三連符が続く。

<第22変奏>は、un poco piu vivo。冒頭は、ピアノの重音でつながる左右両手の下降スケールが、一定のリズムで徐々に音程を上げていき、からクレッシェンド。
これから何かが起こるプロローグのようなパッセージ。

最後にフォルティシモで和音のオスティナートに到達し、もやもやとした雰囲気が徐々に消滅。長調に変わり、ピアノのアルペジオを背景に、主題を変形した音型をオケが繰り返し、最後はピアノによる両手重音の技巧的なパッセージに主題を織り込み、華やかなカデンツァ。

<第23変奏>
ピアノソロとオケのトゥッティで主題が交互に変奏されて、最後はピアノのユニゾンのスケールでダイナミックなフィナーレ。
ここで終ると思ったら、まだ終らずに、すぐに弱音の経過的なパッセージに変わり、そのままアタッカで第24変奏に。

<第24変奏>
ピアノが弱音のまま、主題を織り込んだ両手で跳躍する三連符で上行下降を繰り返し、オケが主題を再奏。
最後は、締めくくるように金管が「怒りの日」をフォルテで短く一度だけ演奏し、ピアノとオケのトゥッティが和音の連続で華やかにエンディング。この最後のピアノのパッセージが、ピアノ協奏曲第2番のラストと良く似ている。
さらに、最後の2小節で、ピアノがまるで付け足すように、主題の断片を弱音で弾いている。まるで肩透かしをくったような感じが可笑しい。



 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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