カヴァコス&パーチェ ~ ベートーヴェン/ヴァイオリンソナタ第6番
2010-01-24(Sun)
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタのなかでも、穏やかでちょっと地味な感じがしないでもない第6番。
第1楽章~第2楽章を続けて聴いているとつい眠くなってしまうので、もっぱら第3楽章ばかり聴いている。
この第3楽章は8分くらいの曲に主題と6つの変奏が詰め込まれているので、旋律自体が好きな上に変奏曲の面白さが味わえて、第4番第1楽章とならんで一番好きな楽章。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集はそれほど集めていないので、聴いているのはスーク&パネンカ、シュナイダーハン&ケンプとグリュミオー&アラウ(全集は未完。6番は未録音)、クレーメル&アルゲリッチに、比較的新しい録音なら西崎&ヤンドー。パールマン&アシュケナージ、ムター&オーキスは5番と9番のカップリングだけ。
スーク&パネンカの全集は、音がとても綺麗で品も良いので一番よく聴いている。
この第6番ではパネンカのピノがちょっと穏やかなので、もう少しタッチや強弱の変化を大きくして欲しい気も少しするけど...。
F.P.ツィンマーマンとカヴァコスの全集録音が出ないかなと(一体いつになることか...)思っていたところに、最近、カヴァコスがこの第6番を弾いているTVE(スペインの国営放送局)の放送用演奏映像がYoutubeに登録されたのを運良く発見。ピアニストは数年前からカヴァコスの伴奏者をしているパーチェ。
第6番のソナタを久しぶりに聴いてみると、第1楽章はフォルテがしっかりしたタッチで柔らかなピアニシモとのコントラストが良く効いていて結構起伏が大きいので、眠気を誘われずに澄んだけれど、やっぱり第2楽章は眠くなる...。
変奏曲の第3楽章になると、今まで聴いた演奏とは違うところもいろいろあって、変奏ごとの表情の変化も面白く、これは何度も聴いてしまった。
音源はTV局の放送用音源なので、ライブ録音のような雑音が無く、音が綺麗に録れているし、ピアノを弾く指や手の動きもよく見える。もともと指回りはとても良いので指の動きを見ていると、手首の位置をやや低めにしてわりとフラットな手の形で、打鍵するのに余計な動きが少なくとても滑らかな弾き方。
そのわりにタッチはやや硬質でピアノでもフォルテでも響きがしっかりして、演奏にも安定感があり、ヴァイオリンの動きにも良く合わせている。なるほど、こういう風に弾いているのね~と、見ていても聴いていても楽しめる。
ヴァイオリンソナタ第6番第3楽章の演奏映像[Violin:カヴァコス、Piano:パーチェ]
第3楽章は、変奏ごとの性格付けが奏者によって細かいところでいろいろ違って、その違いを聴くのも面白い。
カヴァコスとパーチェの弾き方は表情の変化が明快で、生身の人間の表情がコロコロ変わるようなイメージが浮かんできそう。
ヴァイオリンの強弱の振幅と同じくらいにピアノが合わせて引っ込みすぎでもなくでしゃばりもせず、ピアノとヴァイオリンがほぼ対等に聴こえてきて、とても良いバランス。
ピアノは音の流れは滑らかだけれど、タッチはしっかり。特に低音が弾力のある響きで安定感があるし、スタッカートもふわっと軽いのではなく、拍子を刻むように結構強めで、全体的に音の切れ味とリズム感がとっても良い。
持っているCDとNAXOSのオンラインで第3楽章だけをいろんな録音で聴くと、ピアニストによってタッチの重さやスタッカートの長さと強さとか、細かいところで微妙にいろいろ違うので、弾き方が少し変わっても表情が結構違う印象になる。
主題はちょっとモーツァルト風(?)の明るく軽やかなメロディ。心が弾むようなリズムとピアノの低音部の柔らかい響きが心地よい。この主題は最後の変奏でかなり華やかに変わる。
第1変奏は、主題の躍動感を受け継いで、ピアノがスタッカートで刻む四分音符がとても歯切れ良くて、リズミカル。(他の録音を聴いていると、ここは三連符の初めの一音のように軽やかに弾くかのどちらか)
続く三連符の残り2音は軽やかで可愛らしく、気持ちが浮き立つように軽やか。
第2変奏になるとレガートで穏やかな曲想に変わり、ヴァイオリンの滑らかな旋律がとても優雅。ピアノもヴァイオリンとユニゾンで弾く旋律が優しげ。
第3変奏はヴァイオリンとピアノの右手で弾く旋律が対話しながら、ピアノは左手で三連符の伴奏。
3つの旋律・伴奏がからみあっていくところが面白い。左手のピアノ伴奏はスラーがついていないので、ノンレガート気味の硬めのタッチ。鍵盤上を速いテンポで繰り返し上下していくので、推進力のある変奏。
第4変奏は、ベートーヴェンの生真面目なユーモアを表現したような、とっても面白い弾き方。
ヴァイオリンとピアノの両方が急にフォルテで和音をバン!バン!と弾くところは、かなり肩に力が入ったフォルテ。
このフォルテはヴァイオリンが前半はスタッカートの四分音符、後半は普通の四分音符。ピアノの方は前半は全音符、後半はスタッカートの四分音符。この違いを明確に弾き分けて、前半は力強いがまだしも整ったフォルテ。
後半のフォルテでは、ヴァイオリンがさらに強く力を込めて(見ていてもわかるくらいに身体が振動している)、それに呼応するように、ピアノも弾力のあるスタッカート気味のフォルテで机を叩くように、バン!
その後すぐに何事もなかったかのように、弱音で穏やかな表情に戻るところの間合いの取り方が上手くて、なぜか可笑しい。ピアノを弾いている姿を見ていると余計にそう思える。
第5変奏は、打って変わって短調の流麗で美しい変奏。今まで短調が出てきていなかったので、特に綺麗に感じる曲。
最後の方で、主題でちらっと出てきた符点のリズムが、ここでも現れる。
TempoⅠに入ると、この符点のリズムが全編にヴァイオリンとピアノの両方に現れてくるのが面白い。特にピアノの方のリズムが良く効いている。
終わりはこのリズムがピアノでデクレッシェンドでオスティナートされて、第6変奏へ。この繋げ方がとても自然な感じ。
最後の第6変奏は、主題が6/8拍子で変奏されて、ヴァイオリンとピアノとも力強くて快活。
途中で、フィナーレに向かう準備のようにPの緩やかな旋律を挟んでいる。
最後は上行する左手伴奏のスケールにのって、ヴァイオリンとピアノの右手が下降する旋律を交互に弾いて、力強い和音でエンディング。
この第3楽章は、変奏ごとの曲想、リズム、ピアノの伴奏の付け方などの違いが明確なので、個々の変奏も面白いけれど、次々と変奏が展開していく流れが滑らかで、10曲のヴァイオリンソナタの中でも、とてもわかりやすくて、聴いていて楽しい。
ヴァイオリンソナタ第6番の楽譜ダウンロード[IMSLP]
聴いていて楽しい曲というのは、自分で弾くには難しすぎる曲を除けば、弾いていても楽しいと思えることが多い。早速楽譜をIMSLPからダウンロードして弾いてみると、このピアノパートはわりと弾くやすい。
伴奏部分だけを弾いていても、変奏ごとに音の配列やリズムがかなり違うし、主旋律を弾いているところも多くて、独奏曲ではなくても弾くのは結構楽しい。それに、耳で聴くだけでなくて実際に弾いてみると、曲の流れや構成が目と指を通しても理解できるせいか、細部も気をつけて聴くようになって、面白さも倍増するという効果も。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
第1楽章~第2楽章を続けて聴いているとつい眠くなってしまうので、もっぱら第3楽章ばかり聴いている。
この第3楽章は8分くらいの曲に主題と6つの変奏が詰め込まれているので、旋律自体が好きな上に変奏曲の面白さが味わえて、第4番第1楽章とならんで一番好きな楽章。
ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集はそれほど集めていないので、聴いているのはスーク&パネンカ、シュナイダーハン&ケンプとグリュミオー&アラウ(全集は未完。6番は未録音)、クレーメル&アルゲリッチに、比較的新しい録音なら西崎&ヤンドー。パールマン&アシュケナージ、ムター&オーキスは5番と9番のカップリングだけ。
スーク&パネンカの全集は、音がとても綺麗で品も良いので一番よく聴いている。
この第6番ではパネンカのピノがちょっと穏やかなので、もう少しタッチや強弱の変化を大きくして欲しい気も少しするけど...。
F.P.ツィンマーマンとカヴァコスの全集録音が出ないかなと(一体いつになることか...)思っていたところに、最近、カヴァコスがこの第6番を弾いているTVE(スペインの国営放送局)の放送用演奏映像がYoutubeに登録されたのを運良く発見。ピアニストは数年前からカヴァコスの伴奏者をしているパーチェ。
第6番のソナタを久しぶりに聴いてみると、第1楽章はフォルテがしっかりしたタッチで柔らかなピアニシモとのコントラストが良く効いていて結構起伏が大きいので、眠気を誘われずに澄んだけれど、やっぱり第2楽章は眠くなる...。
変奏曲の第3楽章になると、今まで聴いた演奏とは違うところもいろいろあって、変奏ごとの表情の変化も面白く、これは何度も聴いてしまった。
音源はTV局の放送用音源なので、ライブ録音のような雑音が無く、音が綺麗に録れているし、ピアノを弾く指や手の動きもよく見える。もともと指回りはとても良いので指の動きを見ていると、手首の位置をやや低めにしてわりとフラットな手の形で、打鍵するのに余計な動きが少なくとても滑らかな弾き方。
そのわりにタッチはやや硬質でピアノでもフォルテでも響きがしっかりして、演奏にも安定感があり、ヴァイオリンの動きにも良く合わせている。なるほど、こういう風に弾いているのね~と、見ていても聴いていても楽しめる。

第3楽章は、変奏ごとの性格付けが奏者によって細かいところでいろいろ違って、その違いを聴くのも面白い。
カヴァコスとパーチェの弾き方は表情の変化が明快で、生身の人間の表情がコロコロ変わるようなイメージが浮かんできそう。
ヴァイオリンの強弱の振幅と同じくらいにピアノが合わせて引っ込みすぎでもなくでしゃばりもせず、ピアノとヴァイオリンがほぼ対等に聴こえてきて、とても良いバランス。
ピアノは音の流れは滑らかだけれど、タッチはしっかり。特に低音が弾力のある響きで安定感があるし、スタッカートもふわっと軽いのではなく、拍子を刻むように結構強めで、全体的に音の切れ味とリズム感がとっても良い。
持っているCDとNAXOSのオンラインで第3楽章だけをいろんな録音で聴くと、ピアニストによってタッチの重さやスタッカートの長さと強さとか、細かいところで微妙にいろいろ違うので、弾き方が少し変わっても表情が結構違う印象になる。
主題はちょっとモーツァルト風(?)の明るく軽やかなメロディ。心が弾むようなリズムとピアノの低音部の柔らかい響きが心地よい。この主題は最後の変奏でかなり華やかに変わる。
第1変奏は、主題の躍動感を受け継いで、ピアノがスタッカートで刻む四分音符がとても歯切れ良くて、リズミカル。(他の録音を聴いていると、ここは三連符の初めの一音のように軽やかに弾くかのどちらか)
続く三連符の残り2音は軽やかで可愛らしく、気持ちが浮き立つように軽やか。
第2変奏になるとレガートで穏やかな曲想に変わり、ヴァイオリンの滑らかな旋律がとても優雅。ピアノもヴァイオリンとユニゾンで弾く旋律が優しげ。
第3変奏はヴァイオリンとピアノの右手で弾く旋律が対話しながら、ピアノは左手で三連符の伴奏。
3つの旋律・伴奏がからみあっていくところが面白い。左手のピアノ伴奏はスラーがついていないので、ノンレガート気味の硬めのタッチ。鍵盤上を速いテンポで繰り返し上下していくので、推進力のある変奏。
第4変奏は、ベートーヴェンの生真面目なユーモアを表現したような、とっても面白い弾き方。
ヴァイオリンとピアノの両方が急にフォルテで和音をバン!バン!と弾くところは、かなり肩に力が入ったフォルテ。
このフォルテはヴァイオリンが前半はスタッカートの四分音符、後半は普通の四分音符。ピアノの方は前半は全音符、後半はスタッカートの四分音符。この違いを明確に弾き分けて、前半は力強いがまだしも整ったフォルテ。
後半のフォルテでは、ヴァイオリンがさらに強く力を込めて(見ていてもわかるくらいに身体が振動している)、それに呼応するように、ピアノも弾力のあるスタッカート気味のフォルテで机を叩くように、バン!
その後すぐに何事もなかったかのように、弱音で穏やかな表情に戻るところの間合いの取り方が上手くて、なぜか可笑しい。ピアノを弾いている姿を見ていると余計にそう思える。
第5変奏は、打って変わって短調の流麗で美しい変奏。今まで短調が出てきていなかったので、特に綺麗に感じる曲。
最後の方で、主題でちらっと出てきた符点のリズムが、ここでも現れる。
TempoⅠに入ると、この符点のリズムが全編にヴァイオリンとピアノの両方に現れてくるのが面白い。特にピアノの方のリズムが良く効いている。
終わりはこのリズムがピアノでデクレッシェンドでオスティナートされて、第6変奏へ。この繋げ方がとても自然な感じ。
最後の第6変奏は、主題が6/8拍子で変奏されて、ヴァイオリンとピアノとも力強くて快活。
途中で、フィナーレに向かう準備のようにPの緩やかな旋律を挟んでいる。
最後は上行する左手伴奏のスケールにのって、ヴァイオリンとピアノの右手が下降する旋律を交互に弾いて、力強い和音でエンディング。
この第3楽章は、変奏ごとの曲想、リズム、ピアノの伴奏の付け方などの違いが明確なので、個々の変奏も面白いけれど、次々と変奏が展開していく流れが滑らかで、10曲のヴァイオリンソナタの中でも、とてもわかりやすくて、聴いていて楽しい。

聴いていて楽しい曲というのは、自分で弾くには難しすぎる曲を除けば、弾いていても楽しいと思えることが多い。早速楽譜をIMSLPからダウンロードして弾いてみると、このピアノパートはわりと弾くやすい。
伴奏部分だけを弾いていても、変奏ごとに音の配列やリズムがかなり違うし、主旋律を弾いているところも多くて、独奏曲ではなくても弾くのは結構楽しい。それに、耳で聴くだけでなくて実際に弾いてみると、曲の流れや構成が目と指を通しても理解できるせいか、細部も気をつけて聴くようになって、面白さも倍増するという効果も。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。