*All archives*



フランツ・シュミット/ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲
左手のためのピアノ協奏曲の多くは、戦争で右手を失ったピアニスト、ヴィトゲンシュタインが委嘱したもの。
委嘱した作曲家は、ラヴェル、プロコフィエフ、ブリテン、コルンゴルト、フランツ・シュミット、リヒャルト・シュトラウス。(たぶんこれだけのはず)

一番有名なのは、ラヴェルの《左手のためのピアノ協奏曲》。
ラヴェルの両手で弾く方のピアノ協奏曲ほどには演奏機会が少ない。これは、まるで両手で弾いているかのように思えるほどに、左手だけで弾くには至極難曲のため。
プロコフィエフの曲も、ピアノ協奏曲全集には録音されているので、わりと聴かれているはず。(人気はそれほどないけれど)

それ以外の曲は、録音自体が少ないので、たぶん聴いたことのある人はそう多くはない。
ブリテンの《ピアノと管弦楽のためのディヴァージョンズ》は、ブリテンの才気が煌く名曲。
録音は少ないとはいえ、カッチェン、フライシャー、オズボーン、ドノホーと、ヴィルトオーソ系のピアニストが録音している。

ヒンデミットの曲は、そもそも楽譜が長い間公開されず、最近ようやくフライシャーが録音したくらいなので、これは知られていなくて当然。
でも、曲自体がそう面白く聴けるというものではないので、楽譜が出回っていたとしても、あまり状況は変わらなかったかもしれない。

ヒンデミットの曲に比べると、ずっと聴きやすいのが、フランツ・シュミットの《ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲》。
ベートーヴェンのスプリング・ソナタの主題をモチーフにした変奏曲だし、現代音楽的な無調ではない安定した調性音楽。
なぜかこの曲も録音が少ない。曲自体は聴きやすいけれど、ベートーヴェンの主題旋律以外は、どの変奏も強く印象に残るわけでもなく、全体的に弱音域が多くて穏やかで雰囲気が漂っているし(変奏によっては違うところもあるとはいえ)、現代にしてはあまりに古典的な風合いが強くて、目新しさがもう一つ。

《ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲》の録音もそう多くはなく、NMLでラグナ・シルマーの録音をたまたま発見。
それに、つい最近、好きなピアニストのマルクス・ベッカーが、シュミットの《左手のためのピアノ協奏曲》(これはさらに稀少な録音)と合わせてCDをリリースしていた。(それで、この曲のことを思い出した)
それにカルロ・グランテも録音している。グランテはなぜかややマイナーな全集ものをかなり多く録音している。他に録音がない時は重宝だけど、あまり好きなタイプの弾き方ではないのが残念。

CONCERTOS (BOREYKO, HAMBURG SO, SCHIRMER)CONCERTOS (BOREYKO, HAMBURG SO, SCHIRMER)
(2006/02/28)
Ragna Schirmer

試聴する(米amazon)


シルマーのピアノとオケは、全体的に弱音域側で演奏することが多く、緩々と穏やかなタッチ。
変奏によってはそうでもないけれど、起伏の緩さと強弱のコントラストの弱さで、全体的に平板で、印象が弱い。

この曲を聴いていると、いろんなところで、どこかで聴いたことがある旋律のような気がしてくる。
それが何の曲だったか思い出するのに意識が向いてしまって、いつの間にが曲が終っていた。おかげで2回続けて聴かないといけなくなってしまった。

I. Langsam
冒頭のオケの出だしは、どこかで聴いた気がする。もしかして、ベートーヴェンか何かの交響曲のモチーフ?
続くピアノ・ソロのアルペジオの旋律は、ドシュッシーの《アラベスク第1番》の冒頭のアルペジオの反行形のように聴こえる。
さらに続いて出てくる爽やかなロマンティク旋律は、初めはイージー・リスニングのようにも聴こえたけれど、ロマン派初期あたりのピアノ協奏曲(フンメルとかリースとか)に出てくるような、わりとありがちな旋律のような...。
この変奏は、いろんなモチーフが次から次へと、さして脈絡もなく(と思えるくらいに関連性が良くわからない)登場して、穏やかな雰囲気のままに終ってしまう。

II. Thema: Scherzo, allegro vivace
なぜかここで主題が登場する。聴けばすぐに思い出す、あのベートーヴェンの《スプリング・ソナタ》の有名な緩徐楽章の旋律。(私はあまり好きではなくて滅多に聴かないので、思い出すのに苦労した)
allegro vivaceのスケルツォのわりには、さほど躍動感がなくて、とても優しく軽やかで優雅。
原曲は、もっと歯切れ良くて元気に弾いていた演奏が多かったような気もするけれど...。
左手だけで弾くので、旋律も響きにも厚みがないせいか、伴奏のオケの音量もかなり抑え気味(元からそういう指定なのかもしれない)。
ピアノが旋律をいろいろ変形させながら弾きオケが伴奏というパターンが多い。(逆もあるけれど)

III. Ruhig fliessend
この変奏は相変わらず、ゆったりしたテンポで密やかな雰囲気。長調と短調が交錯して、薄い明暗のコントラスト。

IV. Lebhaft, doch nicht zu schnell: Tempo di bolero
Lebhaft(生き生きと)だけれど、”速過ぎないように、ボレロのテンポで”とあるせいか、やっぱりこの楽章もおとなしめ。
前半は、プロコフィエフか何かのロシア物のバレエ音楽のように聴こえる変奏。ややシニカルさが入り混じって、トリルが多いところはちょっとコミカルで不可思議な雰囲気。
後半になると、ピアノのカデンツァが、アルペジオと和音を交えてわりと華やか(でも、勢いがあまりない)。

V. Langsam
Langsamなので、ゆったりとしたテンポの静かな変奏。
終盤のオスティナートを背景にするところの変奏は、ピアノがほとんどスタッカートになっていて、やっと動きが出てきた感じ。このスタッカートの響き、どこかで聴いたことがあるような...。

VI. Sehr ruhig
穏やかでのどかな田園風景風の長調の変奏。

VII. Massig bewegt
今まで続いてきて、優しく穏やかな雰囲気と違って、短調でややコラール風の厳粛な曲。
ピアノの和声の響きがとても美しく、この変奏だけは印象的。
続いて、スタッカートで明るく軽快に主題が再登場し、主題が変形されて徐々にクレッシェンドしていく。


全体的に演奏が弱音側に寄っていて、テンポも緩やか、盛り上がるところもほとんどなく、どの楽章も穏やかで平坦な起伏の部分が多い。
変奏自体は、聴いている時は部分的に面白いところもあるけれど、聴き終わってみるとさして(というか、ほとんど)印象に残らない。
1つの変奏のなかで、さらにいろいろ展開していくけれど、一つの筋のある流れがないかのように、変形された旋律に加えて別のモチーフもパッチワークのように次から次へと登場する。

タイトルが”協奏曲”でも”交響的”でもなく《協奏的変奏曲》というところが、この曲の性格を物語っている気がしてくる。
ピアノ協奏曲にしては、ピアノがそれほど目立たず、ピアニスティックなところも少ないし、交響曲的というには、オケの存在感がなさ過ぎる。
実際、曲自体がそういう曲なのか、それとも演奏があまりに控えめ目なのか(多分、両方のような気がする)、この曲は異聴盤を聴かないと、どうもよくわからない。

変奏曲形式の左手のピアノ協奏曲といえば、ブリテンが書いた《ディヴァージョンズ》。
この曲も正確には、”管弦楽とピアノのための”変奏曲であって、コンチェルトではないし、ラヴェルのようにピアニスティックな作風ではなく、左手だけのシンプルな旋律で表現できるアイデアを追求している。
こちらは、シュミットと違って、自作主題を元に変奏が展開していく。
変奏はそれぞれ性格が明確に違っていて、ブリテン得意の組曲形式で、不協和的な響きも美しく聴こえ、閃きに満ちたところがとても刺激的で面白い現代的な曲。
同じ変奏曲と言っても、作品のもつ力の違いを強く感じるので、シュミットの《ベートーヴェンの主題による協奏的変奏曲》がほとんど演奏されないのも無理ないかと。
ヴィトゲンシュタインは、数多くの委嘱曲のなかで、ブリテンの《ディヴァージョンズ》を最も高く評価していたという。

ブリテン/ディヴァージョンズ <左手のピアノと管弦楽のための主題と変奏> の記事

tag : シルマー

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。