青柳いづみこ著 『ピアニストが見たピアニスト』(文庫版) 

2010, 03. 07 (Sun) 18:00

ピアニスト兼文筆家の青柳いづみこさんの著書『ピアニストが見たピアニスト』が、いつの間にか文庫版で出てました。近くのショッピングセンターにある本屋さんで、文庫棚のところに平積みされてました。
単行本は白水社でしたが、文庫版は中公文庫から。(文庫版といっても、最近の新刊は価格が大分高くなりましたね。)

6人のピアニスト~リヒテル、ミケランジェリ、アルゲリッチ、フランソワ、バルビエ、ハイドシェックに関する評伝で、既存の伝記に載っている話もいろいろ盛り込まれている。
特に面白いところは、彼らの録音を聴いた著者の解釈。同業者のピアニストの視点というものは、評論家や素人があれこれ書いているものとは違うので、ミケランジェリの演奏スタイルの変遷に関する解釈については、なるほど~と納得。
リヒテルとミケランジェリはかなりの録音を聴いているので、特に好きなピアニストではないけれど興味は持っているせいか、読んでいても面白い。
アルゲリッチとフランソワは、避けているピアニストなので、ささっと目を通しただけ。
バルビゼとハイドシェックは全然録音を聴いたことがないので、知識が増えたのが良かったかなというところ。
バルビゼの章では、室内楽の共演者であり、カラヤンのソリストでもあったフェラスも出てきて、フェラスの話が印象的だった。

この本はすでに単行本で読んでいるので、その記事はこちら

ピアニストが見たピアニスト―名演奏家の秘密とは (中公文庫)ピアニストが見たピアニスト―名演奏家の秘密とは (中公文庫)
(2010/01/25)
青柳 いづみこ

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たまたまハイドシェックのライブ映像がYoutubeに登録されていたので聴いてみたところ、なぜ彼が日本でしか人気がないのか、納得。

一番気になるのは、タッチが雑なところ。基本的にテクニカルな部分の問題が大きいのか、プロのピアニストにしては、タッチの精妙さに欠けるし、音も美しくない。強弱のコントラストは強いけれど、フォルテのタッチが粗くて強いだけ..みたいなところがあるので、キンキン耳に響く。
もしかして、年のせい?と一瞬思ったけれど、タッチが丁寧で音が綺麗な人は、高齢になってもそのままだし、高齢でタッチが粗い人は、昔からそういうタッチで変わらないことがほとんど。

演奏解釈も一見表情豊かでわかりやすそうだけれど、ベートーヴェンでも楽譜上の指示にかかわらずテンポが頻繁に揺れるし、ブラームスなどのロマン派の曲でも、ルバートをかけるのは当然としても、どの演奏も伸縮するテンポとディナーミクの処理などに説得力というものが感じられず、感情にまかせて弾いているように聴こえる(良く言えば自由奔放)。
曲によっては聴けないことはないものもあるけれど、それでも?と思うところは多い。全体的に構成力や造形力が弱くて、雰囲気で聴かせるタイプという印象。

日本で(だけ)人気のあるピアニスト...などと言われているけれど、海外(米国や欧州)では評価が低いと言うのはよくわかる。
日本でも、とある著名な評論家とファン、一部のリスナーを除いて、彼の演奏が高く評価されているようには思えないけれど。でも、フジ子ヘミングなんかとても人気があるし、ハイドシェックのようなピアニストは日本人には受けるのかもしれない。

ハイドシェックの師は、タッチが極めて精妙でピアニストの中でもとりわけソノリティの美しいあのケンプ。
ケンプはアーティキュレーションに一種独特のものがあって、鋭く強いフォルテを聴くとテンペラメントの強い弾き方だと思うけれど、楽曲構造が明快にわかる論理性や構成力があるので、ケンプの演奏はいつも説得力がある。
師と弟子といっても、これだけピアニズムが違うものなのかとちょっと不思議な気がした。

タグ:ミケランジェリ リヒテル バルビゼ 伝記・評論

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2 Comments

アリア  

おお、青柳さん

今回は記事が重なったわけではないのですが~
文庫が出てたので、私もこの土日に久々に再読してたところです。^^

単行本を読んだ当時よりも、少し知識も聴いたCDの数も増えてるので
以前読んだ時よりも理解度が多少深まって面白く読めました。
やっぱりこういう本は、ある程度の知識があった方がいいですね。
でも以前この本を読んだ後、バルビゼだけは結局何も聴かないままだったんです。
なんでだっけ… と思ったんですが、読み返してみて思いだしました。
ピアノのソロが中心というより、室内楽が中心だったから。
まだピアノで手いっぱいで、他まで手が回らない~。
でも、バイオリンには今までそれほど興味が湧かなかったんですが
フェラスとのデュオは聴いてみようかしら、なんて思ったりしてます。
また新しい世界が開けるかも?

yoshimiさんがアルゲリッチが苦手だと書いてらしたのは読んでたんですが
サンソン・フランソワもだったんですね。
私も以前は苦手でした…
家族が好きで何度も耳にしてるうちに、気が付いたら結構好きになってましたが
でも合わないと思う人の気持ちはよく分かりますー。
好き嫌いがこれほど激しく分かれるピアニストもちょっと珍しいですよね。

2010/03/08 (Mon) 20:40 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

室内楽を聴くと世界が広がりますね~

アリア様、こんにちは。

ちょうどミケランジェリの文献を探していたときに、見つけた本がこれでした。
評伝ものとか歴史ものが好きなので、面白かったですね。
おっしゃるとおり、やっぱりCDをたくさん聴いておいたほうが、理解しやすいですね。

私もバルビゼはあまり聴いていません。内容的にあまり魅かれるものがなかったせいもありますし、そもそもソロの録音がとても少ないので。
フェラスとの録音は有名らしいので、聴くならそれから始めるのが良さそうですね。

室内楽なら、ヴァイオリンソナタとピアノトリオがピアノを聴くには良いですね。
ヴァイオリンソナタは、ピアノパートがソロ並みに充実した曲も結構ありますし、ソロを聴いてみたいと思うほど上手いピアニストも結構います。
ピアノトリオは、ソロ3人の組み合わせのようなもので、ピアノの存在感も強く、名曲も多いです。ついでに書くと、ピアノ五重奏曲はブラームス、シューマン(それに、ドヴォルザーク)は名曲ですし、私はかなり好きです。
室内楽は、他の楽器との掛け合いとか音量や表現のバランスなど、ソロとは違ったところも面白いです。
それと、好きなヴァイオリニストを見つけるのも良いですね。
室内楽とはいえ、ピアノパートを中心に聴いているので、ピアノ曲のレパートリーが広がったようなもので、おかげでCDの購入枚数が増えてしまうのが、悩ましいところです。

フランソワは、ショパンのバラード第1番を聴いたときに、なんて崩した弾き方をする人なんだろうと思って、レビュとかを読むと、好みとは全く違うタイプでした。フランス風の洒落たところがあるというのか、個性的な独特の雰囲気のある弾き方が良いのだと思いますが...。
こういのは好みの問題なので、アルゲリッチと同様、直観的に合わないと思ったので、この印象は変わらないでしょう、たぶん。

2010/03/08 (Mon) 21:36 | EDIT | REPLY |   

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