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シェリング ~ バッハ・リサイタル(1976年東京ライブ)
試聴ファイルがないので、珍しく試聴せずに買ったシェリングの東京リサイタルのライブ録音。
レビュもすこぶる良かったこともあるけれど、なぜか直観的に絶対良いに違いないという予感がした。こういう予感はわりと当たる。

リサイタルの曲順は
  1.ヴァイオリンソナタ第3番(ホ長調)(正確には《ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ》)
  2.無伴奏パルティータ第2番(ニ短調)
  3.無伴奏パルティータ第1番(ト短調)
  4.ヴァイオリンソナタ第6番(ト長調)

最初と最後に長調のヴァイオリンソナタを持ってきているので、間に挟んだ2曲の無伴奏は凝縮された緊張感がある。
その緊張を解くかのように、最後の曲は明るい色調で開放感のあるヴァイオリンソナタでフィナーレ。
ヴァイオリンソナタの第3番と第6番というのは、明るく開放的な長調の奇数楽章と叙情的な短調の偶数楽章が交互に入っている曲で、明暗のコントラストがはっきりしている。
2曲とも最終楽章は協奏曲的な華やかさがあるので、選曲がとっても良い。(好きな曲なのでそう思うのかもしれないけど)

無伴奏パルティータの第2番と第1番は、ライブのせいか、スタジオ録音よりも力強さがあり振幅もやや大きく、強い集中力と凝縮力を感じるものがあって、引き締まった響きに引き込まれるような...。
感情移入が激しいという意味ではなくて、格調高くはあるけれどシェリンクの演奏(のイメージ)にしては、かなりパッショネイトな感じがあり、力が篭もっている。
無伴奏パルティータとソナタを聴くときは、たいてい好きな楽章だけ聴いたりしているので、まともに1曲を通しで聴いた記憶があまりない。この2曲の演奏は、吸引力がすごく強いので、頭から終わりまでしっかり聴けてしまった。

シェリングの弾く無伴奏についてはあちこちで書かれているし、ヴァイオリンは弾けないので何か書くにしても実際わからないことが多い。
ここではヴァイオリンソナタの方(のピアノのこと)を中心に。ソナタの方について書く人はあまりいないと思うので。

シェリングのディスコグラフィを調べると、ヴァイオリンソナタは、ヴァルヒャのチェンバロ伴奏、オルガニストのAndré Luyの伴奏(楽器不明。情報が不確か。間違っているかも)で録音したものがあり、今は廃盤らしいので聴いたことがない。
誰かがレビューしていたけれど、ヴァルヒャの時はシェリングはかなり求道的というか厳粛な雰囲気の演奏だったらしい。
でも、このライブ盤はそういう重苦しさは希薄だと思う。ゆったりとしたテンポのせいか悠々とした落ち着きがあり、格調が高いけれど清々しさもあり、変に構えることなく聴ける。
このヴァイオリンソナタは、ピアノ伴奏の録音自体がもともと少ない。聴き比べるとしても、比較的新しい録音なら、ツィンマーマン&パーチェ(SONY盤。いつも聴くのはこれ)、ムローヴァ&カニーノ(PHILIPS盤。すでに廃盤)くらい。チェンバロ盤はいろいろあるけれど、チェンバロとピアノでは別物の曲に私には聴こえる。

 シェリングのディスコグラフィ(日本語版)
 シェリングのディスコグラフィ(英語版)
※作成者が異なるので、日本語版とは違いあり。

シェリングのピアノ伴奏は、マイケル・イサドーアというピアニスト。
プロフィールがブックレットに載っていない(伴奏ピアニストの場合は良くあること)。ベートーヴェンやブラームスのソナタなど、他の演奏でもピアノ伴奏をつとめていたらしい。(たぶん1970年代の頃)
シェリングのディスコグラフィを見ると、長期間にわたりパートナーだったピアノ伴奏者はどうもいなかったらしく、ピアノ伴奏者の異なる録音がかなりある。
イサドーアは、カニーノやパーチェとはかなり違った弾き方。おかげで、三者三様のピアノ伴奏が聴ける。
イサドーアの録音はほとんど見つからず、Rodney Friendのピアノ伴奏をしたヴァイオリン小品集だけは試聴できた。やや太目の柔らかく丸みのあるタッチで、落ち着いてあまり強くは前面に出ないピアノを弾いている。このライブ録音でもそういうタッチなので、少なくともヴァイオリンとの二重奏ではいつもこういうピアノを弾く人なんだと思う。

ヴァイオリンソナタでは、テンポは全体的にそれほど速くなく、一音一音を丁寧に弾き進んでいくように、ゆったりと大きく構えて、落ち着いた演奏。
ムローヴァ&カニーノはしなやかで優美、ツィンマーマン&パーチェはシャープな躍動感と繊細な叙情感がある。もともとの芸風と解釈の違いに加えて、年齢の違いも相まって、若い頃に録音したムローヴァやツィンマーマンの演奏とはかなり違う。

ヴァイオリンの方は表現の起伏はかなりあると感じるけれど、ピアノの方はヴァイオリンに合わせた動きをしているとはいえ、緩やか。
テンポが遅いことに加え、ノンレガートでも柔らかいタッチでシャープな尖りはなくて、左手低音部もさほど強くないし、全体的に響きがまろやかでとても心地よい。
シャープなタッチとか躍動感とかは希薄で、ちょっと地味な感じがしないでもないピアノだけれど、品良く包み込むように穏やかな雰囲気があって、何とも言えず良い感じ。

ヴァイオリンソナタ第3番ホ長調 BWV1016
ヴァイオリンソナタは2曲ともアレグロ楽章のテンポが遅め。
第3番の第2楽章は、ノンレガートとはいえ、かなりレガートに近くて優しい雰囲気。ここをパーチェは、コツコツとした硬質のノンレガートでリズミカルに弾いていたので、ちょっとしたタッチの違いで雰囲気が変わるところが面白い。
第3楽章はとても叙情的な楽章。ピアノのアルペジオが綺麗な曲で、それほど響きを長くも厚くもしていないので、さらさらとした叙情感。
第4楽章は、なんでこんなに遅いの?と思うくらい遅い。(最後の方になると、ちょっと速くなっているけど)
ピアノパートはかなり細かいパッセージなので、このテンポで弾くとリズム感と躍動感が出ず、もたっとした感じはする。
昔はこういうテンポが普通だったのかも。といっても、全般的にテンポが遅いスーク&ルイジチコーヴァの録音でも、この楽章はかなりテンポが速いんだけど。
それでも聴き慣れてしまえば、この遅いテンポだと優雅な感じには聴こえる。


ヴァイオリンソナタ第6番ト長調 BWV1019
第1楽章はかなり軽やか。ピアノパートはオケパートを弾いているようなパッセージだけれど、それにしては柔らかくてしなやか。パーチェの弾き方だと、ノンレガート主体で音がコロコロと弾けて転がっていくような感じで、躍動感が強い。

第3楽章はとても珍しいピアノ独奏。ヴァイオリンソナタでピアノ独奏楽章を持っているのは、この曲の他にはバッハ以外でも、ほとんどないのではないかと。初めて聴いた時は、こんなところに独奏曲が入っていたのかと驚き、暗譜して毎日数回弾いているくらいにとても好きな曲。
このピアノソロは、カニーノの演奏がとっても面白くて、元気のある歯切れの良いタッチと凝った装飾音で、輝くような煌き。(カニーノがゴルトベルクを弾いている時も、同じように装飾音に凝っていた)
イサドーアは全く逆方向で、装飾音はほとんどつけていないので即興的な面白さはないけれど、柔らかいなタッチの弱音域を中心に、滑らかなフレージングにささやくように優しい語り口。とても品良く、奥ゆかしくて綺麗なピアノ。これは冒頭を少し聴いただけでうっとりしてしまう。
ライブのせいか、前半はリピートして、後半はリピートなし。後半の主題の再現部は、冒頭とは違ってフォルテに近いやや力強いタッチに変わって、エンディング。

最後の第5楽章もやや遅め。ここはフィナーレらしく、躍動的で開放感のある曲なので、さすがにピアノも力強いタッチに変わり(といってもやっぱり柔らかいけど)、リズム感もそこそこあって、一歩一歩フィナーレに向かって進んでいるんだよ、という感じ。

アンコールは、ヴァイオリンソナタ第1番の第3楽章アンダンテ。
シェリングが自らアンコール曲を告げている声が入っている。
この第3楽章はとても穏やかで優しい雰囲気の曲。バッハのヴァイオリンソナタは、どの曲も旋律が覚えやすく、綺麗なメロディが多い。
無伴奏パルティータとソナタの影に隠れてしまったようで、それほど録音が多くないのが残念。


このライブ録音は、無伴奏パルティータはもちろん、ヴァイオリンソナタも素晴らしく、まるでライブをリアルに聴いているようなくらいに臨場感もあり、演奏のすみずみまでしっかりと味わえる。予感どおり、初めから終わりまですっかり満足できたのでした。

J.S. バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番  ほか  (2CD)J.S. バッハ:無伴奏パルティータ第2番・第1番、ヴァイオリン・ソナタ第3番・第6番
(2002/09/06)
ヘンリク・シェリング(ヴァイオリン)、マイケル・イサドーア(ピアノ)

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このCDは以前リリースされていた盤をリイシューした廉価盤。約80分のリサイタルがわずか1000円ほどで聴けるというお買い得盤。
1976年のライブ録音ってこんなに音が良いのだろうか、と思うくらいに音質が良い。ヴァイオリンソナタよりも、無伴奏パルティータの方が音の質感・量感が凄く良い。
ヴァイオリンソナタは、ちょっとヴァイオリンが遠めで、ピアノの音がやや大きく感じるときもあるけれど、音自体は良くて、ピアノの音が綺麗に聴こえる。小さなホールで実際聴いているような質感。
ライナーノートは執筆者が2人。シェリングの芸風とその変化がよくわかる解説なので、廉価盤にしては充実している。

付録というのか、最後にシェリングの肉声による作品解説やバッハ解釈などが収録されている。わかりやすい発音と内容の英語なので、吹き替え無しでもだいたいわかる。
録音スペースが足りなかったらしく、最初の解説の方は吹き替えが後から流れるが、2番目のバッハ論については吹き替えの声が同時通訳のようにかぶっている。

シェリングのライブ録音は他にもいくつかあり、スタジオ録音よりもライブの方が良いと書いている人もいるし、クーベリックとのブラームスのヴァイオリン協奏曲の評判も良いので、次に聴くならたぶんこれ。ベートーヴェンのコンチェルトのスタジオ録音も良さそう。

tag : シェリング バッハ

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シェリングのライブ録音って聴いてことなかったので、早速HMVのお気に入りに登録しました。そしてディスコグラフィーも掲載してくれてよかった。結構あるんですね。視聴しまくってみようと思います。ありがとうございました。
シェリングはライブに強いそうなので
のん様、こんばんは。

私もシェリングは、最近集中して聴いているところです。
シャコンヌが堅苦しそうなイメージだったので、以前は避けていたんですけど、いろいろ聴いてみたら、全然そんなことはなくて、張り詰めた音と表現が素晴らしくて。

このライブ録音はかなりお薦めです。このお値段でこの内容ですから。音質もとても良いですよ。
無伴奏に加えて、好きなヴァイオリンソナタが2曲も入っているのが、私好みの選曲でした。

ディスコグラフィはCDを探すときや、まとめて何か書くときに便利ですね。興味のある演奏家のディスコグラフィは、なるべく探しておくようにしています。いろいろご活用くださいませ。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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