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岡田暁生 『CD&DVD51で語る西洋音楽史』
『CD&DVD51で語る西洋音楽史』というタイトルどおり、各時代・作曲家を代表するようなCDとDVDを取り上げて、時代背景やクラシック音楽の歴史的な変遷、作曲家の本質的な特徴などを、わかりやすく解説。
著者の岡田暁生氏は音楽史の学者さんなので、極めて主観的で思い込みの激しい一部の音楽評論家とは違い、歴史的・社会的コンテキストを背景に作曲家や作品を解説してくれるので、歴史と社会学を勉強した私にはとても面白い。

彼は『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』、『ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史』、『音楽の聴き方』など、音楽史ものの著書があり、いずれも良書。
文章がわかりやすいし、内容的にも面白い。『ピアニストになりたい!』は結構笑える。
 『音楽の聴き方』、『西洋音楽史 「クラシック」の黄昏』の記事
 『ピアニストになりたい! 19世紀 もうひとつの音楽史』

本書で取り上げられている51のCD&DVDには、持っているものや聴いたことがあるものが1/3くらい。古楽系が結構多いのが個人的にはあまり有難くないところ。
あくまでも個人的な趣味で、曲や演奏が面白かったもの、または、面白そうで聴いてみたいなあと思うメモしておくと...

グールド『Glenn Gould in Leningrad』
   第19話 バッハを脱構築する愉しみ?

グールドの《ゴルトベルク変奏曲》には2種類のスタジオ録音があるが、これはライブ録音の方。
抜粋版の上に、曲順まで変えているという珍しい演奏。入手しにくい録音らしいので、グールド好きの人向き。これは未聴(たぶん聴かない)。

アレクサンドル・タロー『ラモー《新クラヴサン曲集》』
   第20話 クラヴサンではなくフォルテピアノを――ロココのメランコリー

タローは、ラモーだけでなく、クープランも録音している。色彩感豊かな演奏は、まるでラヴェルやドビュッシーのように煌きがあって、音のタペストリーを聴いているような...。
あまりバロックは好きではないせいか、CDを聴き終わると曲をすっかり忘れている。曲を聴くというよりも、タローの演奏を聴いている気がする。とにかく、タローのピアノがとても素敵なので、バロックをピアノで弾くこと(聴くこと)に抵抗のない人なら、とってもお薦め。

マンゼー指揮/イングリッシュ・コンソート『C.P.E.Bach: Symphonies No1-4』
   第21話 バッハの息子はフリージャズ・ミュージシャン?

《Symphonies》と書いてあるけれど、これは《Sinfonias,Wq183》のNo.1~4のこと。
古典派とバロックの音楽語法上の変化は主に次の3点。「対位法の廃止」「通奏低音の廃止」「情感の複数化」。対位法はすでにバロック期に廃れつつあった手法で、バッハは例外的。
C.P.E.Bachのヴァイオリンソナタがわりと好みに合った曲だったので、交響曲の方はどうかと思って読んでみると、第1番は色とりどりの曲想が錯綜して、父バッハの構築性とは逆の、脱構築性の世界らしい。
これは面白そうと思って聴いてみると、いつも眠くなるバロックの管弦楽曲とは違って、ファンファーレやら弦がキーキーとけたたましく、調性もモチーフもコロコロと持続性なく変転し、飽きる前にブツブツと短いフレーズで完結していくので、無理なく聴けてしまう。これは結構面白かった。

ケンプ『Schubert : The Piano Sonatas』
   第26話 「ベートーヴェン・コンプレックス世代」としてのドイツ・ロマン派

著者によれば、ベートーヴェンの凄いところは「全てを言い切り、完成させる力」、その後継者たちは逆にそれができない。それが「ベートーヴェン・コンプレックス世代」。
完成させようとすると、こじんまりとまとまってしまったメンデルスゾーン、図式的になるブラームス、言い切ろうとして終われなくなるシューベルトとヴァーグナー。
ここではシューベルト。「言い切ろうとして終われなくなる」(このフレーズは笑える)というのは言いえて妙というべきか。
最後は《未完成》だったし、冗長なくらいに長大なソナタ、小品にしてはやたらに長い曲...。もとから相性が良くない作曲家と作品なので、好きなピアニストなら違うかもと思って、ケンプ、ルプー、アラウ、ゼルキン、etc.と少しずつ聴いてきたけれど、やっぱりシューベルトとは縁がないのが良くわかってしまった。結局、しつこく買い続けてきたシューベルトのCD(何十枚かはある)は、ラックの奥深くに埋もれている。

クライバー指揮/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団『ブラームス《交響曲第四番》』
   第31話 音楽におけるドイツ・アカデミズム

ブラームスの交響曲で好きな順番は、4番→3番→1番→2番。4番ならチェリビダッケがマイベスト。クライバーはその対極のような演奏で、スポーティというか、あまり好きなタイプではない。
章末の追記を読むと、クライバーの晩年は幸福なものではなかったらしい。彼が死ぬ直前に乗っていた車のステレオからは、この第4番のクライバー自身の録音が見つかったという。
ブラームス最晩年の寂寥感に満ちた曲を最後に聴いていたというのが印象的。これを知ると、ちょっと聴き直してみたい気がしてきた。

グールド『シェーンベルク歌曲集』
   第37話 越境(1)――シェーンベルクと無調

シェーンベルクの和声がわけのわからない不協和的に聴こえるのは、演奏者の責任。グールドのようにシェーンベルクを理解している演奏者にかかると、とても美しい曲に聴こえるという。
この録音は持っているけど、聴いた記憶があまりないので、これも聴き直さないと。
シェーンベルクの演奏でわかりやすいのは、ピアノソロなら叙情美しいピーター・ヒル、ピアノ協奏曲ならカラフルな色彩感で饒舌な内田光子&ブーレーズ/クリーブランド管の演奏。確かに、演奏者が変われば、旋律も和声もメロディアスで美しく聴こえてくるから不思議。

ピーター・ヒル~シェーンベルク/ピアノ曲集
内田光子~シェーンベルク/ピアノ協奏曲



シャイー指揮/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団『ヒンデミット《室内音楽集 第一~第七番》』
   第39話 越境(3)――騒音の解放

ヒンデミットは、ロマン派のような感情移入や共感といったものをあえて拒否したような曲を書くという。
ヒンデミットは、現代音楽のなかではとても好きな作曲家の一人。感情移入するような音楽では全くない即物的と評される作風が現代社会の映し鏡のようで、感情の横溢するようなロマン派音楽を聴いた後に聴くと、なぜか爽やかに感じたりする。
ヒンデミット独特の職人芸的な対位法を駆使した堅牢な構築性の上に、やや不協和的な響きの美しい和声と現代的な乾いた叙情性が共存するという、不可思議な雰囲気が漂うところが独特。
室内音楽集の第2番はピアノ協奏曲。確かにこれも騒音のような喧騒に満ちた音楽。でも面白い。
ヒンデミットのピアノ作品なら、《ピアノ・ソナタ第3番》、《ルードゥス・トナリス(対位法・調性およびピアノ奏法の練習)》、《主題と変奏<四気質>》あたりが、わりと聴きやすい。

ヒンデミット/ピアノ・ソナタ第3番
ムストネン~ヒンデミット/主題と変奏「四気質」
ムストネン~ヒンデミット/ルードゥス・トナリス-対位法, 調性およびピアノ奏法の練習



サランツェヴァ・ピアノ/ヤブロンスキー指揮/ロシア・フィルハーモニー管弦楽団
  『大澤壽人《ピアノ協奏曲第三番》「神風協奏曲」』
   第44話 世界音楽化する西洋音楽

私は全然知らなかった作曲家と作品。2004年にこの世界初録音がNAXOSからリリースされたときは、ちょっとしたブームだったらしい。
日本人離れした作品と評していたので、どんなピアノ協奏曲かと思って聴いたら、フランス風の華麗な和声、プロコフィエフ的な躍動するリズム感に加え、ジャジーな雰囲気も詰め込まれたピアノ協奏曲。(いくばくかは東洋的な響きも混ざっている気はするが)
こんな曲が戦前に書かれていたというのは驚き。このコンチェルトのことを知っただけで、この本を読んだ甲斐もあったというもの。

大澤壽人《ピアノ協奏曲第三番》「神風協奏曲」


ポリーニ『ショパン《練習曲集》』
  プレトニョフ指揮/ロシア・ナショナル管弦楽団『ベートーヴェン交響曲全集』

   第45話 メモリー・オーバーフロー――演奏における歴史の過剰について
いわずと知れたポリーニのエチュード集。これを評して「超未来の鉄筋高層建築」とか「速さ・強さ・耐久力ちといった項目ごとの客観的測定が可能な、「競技」」...と書いているのには笑えるけれど、なんとなく納得。
プレトニョフのベートーヴェンは、過去の大指揮者の名演のエッセンスをたっぷり盛り込んだような演奏らしい。過去の巨匠たちの演奏を聴きなれている人でないと、そういう面白さがわからない気はする。


印象に残ったこと
「偉大なのは作曲家であり、演奏家が自分の技をみせびらかせてはならない」という思想は、バロック的な浪費の美学とは対極。これは19世紀に登場した近代のイデオロギー。(「第17話 カストラートの乱痴気騒ぎ」より」)

バロック時代の音楽の共通点は通奏低音。バロック時代の音楽は、旋律そのものの魅力はあまりないが、通奏低音が加わると大きな呼吸と陰影が生まれる。古典派以降の高音(楽器)中心の旋律がリードする音楽は、近代個人主義社会の精神を反映した産物。バロック時代は個人を超越したものから自由になるという思想がなく、通奏低音に全体が支えられて初めて旋律が生きるような原理の音楽。
通奏低音の精神の偉大さというものを感じたいなら、カザルス指揮のバッハ/管弦楽組曲第1番の冒頭を聴くと良い。(「第15話 通奏低音の精神の偉大さ」)

CD&DVD51で語る西洋音楽史CD&DVD51で語る西洋音楽史
(2008/08)
岡田 暁生

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目次(出版社サイトに掲載)

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NoTitle
私も「西洋音楽史」と「音楽の聴き方(途中だけど)」
読みましたよー
この本も気になっていたんですが
結構気になる音源が入っていたんですね。
って一番気になるのはグールドですけど・・・
タローのラモー持ってます。
「ロココのメランコリ」って
サブタイトルがぴったりな感じです。
紹介されているCDが聴きたくなってきます
のん様、こんにちは。

岡田さんの本は、どれも情報がたくさん詰まっていて、面白いですね。「音楽の聴き方」は、最後にあった心得箇条書きには納得しました。(それ以外はあまり記憶に残っていないのですが...)
私は歴史が好きなので、「西欧音楽史」の方がいろいろ勉強になりました。

この本も、いわゆる名盤・定番以外のものも入っているので、聴いてみたいと思うのがいくつか。
タローさんのディスクも紹介されていたので、岡田さんのセンスはなかなか良いのでは、と思いました。
グールドは、これ以外にもゴルトベルクのライブ録音(59年盤?)があって、結構良いらしいです。(私は聴いたことはないですが)
NoTitle
岡田暁生さんの本は面白いですね。
私もこの本と「西洋音楽史」、「音楽の聴き方」を読みました。
この本に紹介されてるCDを1枚ずつ順番に聴いて
それで音楽史を体感してみたいなーと思いましたよ。
…実際にやろうとしたら大変そうですが。
51枚集めるところからして、とっても大変そう。(笑)
で、私もケンプのシューベルトのピアノソナタ持ってます…
私にとってもシューベルトってあまりピンと来ない作曲家なんです。
で、ケンプなら聴けるかなあって。
でも、結局のところ、やっぱりあんまり聴けないですね。
なので老後の楽しみに取っておきます。(笑)

「ピアニストになりたい!」も読んでみたいです。
チェルニーの話も面白そう♪
シューベルト
アリア様、こんにちは。

さすがに、51枚全部聴くのはちょっと引いてしまいましたが、いろいろ興味のあるディスクがあったし、聴かないまでも面白い話がたくさんある本です。

シューベルトは、ピアニストを変えたら合うかもと思って、好きなピアニストの録音を少しづつ聴きましたが(私もケンプのも持ってます)、やっぱりシューベルトの心性世界は私とは違うのだという結論に至りました。
「3つの小品」の第1曲とか、好きな曲もあるんですけど、なにしろ長い...。弾いていても、途中でイヤになってきます。

「ピアニストになりたい!」は結構笑えます。”マニュアルオタク”のチェルニーには、なぜか親近感を感じてしまいました。
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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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