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大澤壽人/ピアノ協奏曲第3番「神風協奏曲」
大澤壽人の《ピアノ協奏曲第3番 変イ長調「神風協奏曲」》は、岡田暁生さんの『CD&DVD51で語る西洋音楽史』で紹介されていて、これは必ず聴かなければと思った曲。

曲名の「神風」とは、あの古来から言い伝えられている「神風」のことだろうか?と初めは思ったけれど、俵好太郎氏のレビューを見ると「朝日新聞が発注し三菱航空機がつくった純国産の2人乗り機」のこと。
NAXOSの解説文にもわざわざ、”カミカゼ特攻隊とは関係ない”と明記している。「Kamikaze」という言葉から日本人以外の人がすぐに連想するのは、戦時中の”カミカゼ”らしい。

『CD&DVD51で語る西洋音楽史』によると、作曲者の大澤壽人は、その突出した才能のせいで当時の日本の音楽界に理解されず、完全に忘却されていたが、それを発掘したのは片山杜秀氏。
片山氏による大澤壽人の紹介文が詳しい。(Wikipediaのプロフィールはこちら
大澤壽人は、海外で受けた教育や演奏活動が、当時の日本人にしてはかなり目覚しい。帰国するよりもそのまま海外で活動した方が良かったような気もするが、戦争へ突入する雲行きになっていた時代だし、いろいろ難しいこともあったんだろう。日本に帰国後、次々と自作を披露してもさほど評価されなかったため、作風をより受け入れやすい方向に変えたり、ポピュラー音楽の世界や教育活動にも関ったりと、精力的に活動していたが、脳溢血で1953年に46歳で急逝。その後、音楽界から忘れられていったという。

このピアノ協奏曲第3番は1938年の作。当時にしては日本人離れしたコスモポリタンで斬新な作風とは思うけれど、今なら何の抵抗感もなく受け入れられる。
そもそも当時の日本のオーケストラのレベルでは、演奏するには難しすぎたらしい。関西が活動拠点だったので文化的な土壌の問題もあっただろうし、この曲(と他の作品)が理解されなかったというのも、妙に納得。

大澤壽人:ピアノ協奏曲第3番大澤壽人:ピアノ協奏曲第3番 変イ長調「神風協奏曲」、交響曲第3番
(2004/06/01)
ドミトリ・ヤブロンスキー (指揮), エカテリーナ・サランツェヴァ (ピアノ), ロシア・フィルハーモニー管弦楽団

試聴する(米国amaozn)
NAXOSの日本人作曲家シリーズをいつも録音している顔ぶれ。伊福部昭の《リトミカ・オスティナータ》の演奏はもう一つだったので、この曲は大丈夫だろうか...と思って聴いていたら、変拍子が続出するリトミカとは違うせいか、わりと良かったのではないかと。


 ピアノ協奏曲第3番 変イ長調「神風協奏曲」(1938年)

作曲されたのが1938年2月~5月。初演は6月24日大阪にて、大澤本人の指揮により宝塚交響楽団が演奏。ピアニストは、当時大阪に住んでいたMedtnerの弟子のMaxim Shapiro。

冒頭からしばらく聴いているだけで、日本固有の伝統的な素材を織り込んだ作品が多い日本人作曲家の曲とは全く違うのがわかる。
アメリカやヨーロッパの最新の作曲技法を取り入れたコスモポリタン的な洒脱なところと、ダイナミックな雰囲気が漂うところは、いわゆる”日本人離れした”とでもいうのでしょう。
同じように、日本的なものを感じさせないのは、矢代秋雄のピアノ協奏曲。
矢代秋雄のコンチェルトの方は、和声的には美しいが、作風はかなり前衛的。そういう点ではまさにオーソドックスな現代音楽風。岡田博美の色彩感のある演奏も良くて、洗練された美しさと、高尚さのようなものを感じる。
大澤壽人のピアノ協奏曲には、こういう高尚で洗練された感じはないけれど、生命力があるというか、生き生きとした表現力と、肩の凝らないわかりやすさがあって(”品がない”とレビューで書いていた人もいるけれど)、とてもユニークで個性的。
作風は全く違えど、どちらも日本のピアノ協奏曲の名曲だと思う。


第1楽章 Larghetto maestoso - Allegro assai
冒頭は「エンジンのモットー」。3音(A flat-E flat-F)の動機は、このコンチェルトの推進力。
冷たい肌触りで鈍く光る鋼鉄の飛行機のいかめしさと力強さが伝わってくるようなモットー。いたるところでこのモットーが姿形を変えて出てくる。
モチーフの提示のあとは、ピアノが弾く華やかなフォルテの和音とそれに続く艶やかなアルペジオ。ここはラフマニノフを連想してしまった。これはなんか凄い曲になりそうという予感。

第1楽章には、エンジンがブルンブルンと鳴って離陸へ向けて着々と準備が進んでいく様子や、未知なる旅立ちへの期待と不安が伝わってくるような曲。
エンジンのモットーと行進曲風のモチーフが混在した主部は、飛行機の離陸する様子を表現しているそうで、とても力強い旋律。
ピアノが弾くトリル、トレモロ、グリッサンド、プロコフィエフ風のフレーズなどは、飛行機がテイクオフして、垂れ込めてくる雲や霧を突っ切って上昇していくように、技巧的でリズミカル。
最後は飛行機が視界から消えて飛び去っていくようにアルペジオで、す~と消えていく。

時折、遊覧飛行かサーカスのシーンに出てくるような、華やかでメルヘンチックな旋律が顔を出して、フランス風(プーランクやサティ?)の洒落た響きがとても面白い。
どことなく日本というか東洋風な雰囲気をちらりを感じるところもあるけれど、和声はフランスの近現代音楽のような美しさ、力強いオケの伴奏はロシア風(とでも言えばよいのか)のダイナミックさ。

第2楽章 Andante cantabile
”夜間飛行”をイメージした楽章で、ノクターン風のジャズ。エンジンのモットーが目立たない形で織り込まれている。
冒頭は、サクソフォーン(か何か)のちょっと物憂げなジャズ風の旋律で始まる。第1楽章とは全く違った雰囲気で、このギャップが面白い。
続いて、ピアノによるブルース風の流麗でノスタルジックな旋律。ここはとっても綺麗なメロディ。
中間部はシンコペーションとスタッカートによる陽気でジャジーなダンス風。最後はアルペジオで装飾された主題が登場する。

第1楽章とは打って変わって、ジャズとラヴェルを融合させたようなタッチがとてもお洒落。
ラヴェルのピアノ協奏曲の第2楽章のような夢想的な美しさがあると思ったら、戦前の日本のダンスホールをイメージさせる映画音楽風のやや俗っぽい顔が急に現われたり。どうもサックスの旋律を聴くとレトロな日本を感じてしまう。
ガーシュウィンのピアノ協奏曲の第2楽章を思い出させるジャジーな叙情感も美しい。大澤壽人は初めはアメリカで勉強し、音楽活動をしていたこともあって、アメリカ的なものも入っているような感じ。
真っ暗な夜空を見ながら、これから向かう異国の様子を想像しているかのように、生き生きとしたメロディアスな旋律が、次々と鮮やかに移り変わっていく
フランス、アメリカ、日本的なものが混在したような、とにかく面白い曲です。

第3楽章 llegro moderato - Allegro vivace
「神風」が目的地へ近づいていくところをイメージした楽章。序奏、ロンド、コーダの3部構成。
ラヴェルに加えて、プロコフィエフを混ぜ合わせたような曲。

ラストスパートをかけるように、最初は速いテンポでピアノによる幾分ジャズ風のトッカータ。
オケがかなり騒然とした雰囲気で、ピアノは高音域を主体にあちこち動き回って、プロコフィエフのような軽妙さ。キラキラと煌くように軽やか。
行進曲風モチーフも入ってきて徐々に熱を帯びてくる。エンジンのモットーが頻繁に登場。
一本調子の単調さを避けるように、主に木管が演奏するロンドでは、スケルツァンドのわりにそれほど躍動的でもなく、どこか間の抜けたのんびりした旋律。

終盤は、欧州のミュージックホールを連想するような陽気なサウンド。ロンドンも間近い感じ。
目的地へ向かって、飛行機が一気に降下して行くように、ピアノもオケも加速していくが、ラストは突然やってきた。
えっ、これで終わりなの?と思ってしまうほどにあっけなく、風のように通りぬけて、ロンドン到着。


現代音楽(というか20世紀の音楽)のピアノ協奏曲はかなり好きなせいか50曲以上は聴いているので、いろんな作風の曲に出会ったけれど、このコンチェルトはその中でもかなり個性豊かで、繰り返し聴いても面白いと思えるほどに、好みのタイプ。
調性が安定し、歌謡性の強くない旋律や和声も美しく、リズム感も良いし、現代的なシャープさとロマンティックな叙情性が適度に融合して、難解な前衛性は薄い。
ラヴェル的なものをベースにジャズの要素をブレンドし、プロコフィエフのような運動性と軽妙さを加えて、いろいろな技法を使っているのではないかと。(こういうのは作曲の専門家の領域なのでよくわかりません)
現代音楽のピアノ協奏曲で時々感じるような折衷的な中途半端さは全くなく、現代的な作曲技法を吸収・消化してオリジナルを創作したように個性的。
ピアノパートがオケに埋もれることなく華やかに動き回り、本当にピアノ協奏曲らしいコンチェルトでした。

楽章ごとの性格付けが明確なので、どの楽章も印象的だけど、面白さではラヴェルとジャズをブレンドして、ちょっと俗っぽい感じもする第2楽章が一番。
鋼鉄の飛行機が異国へ旅立とうとするイメージがよくでている第1楽章のダイナミックさも素晴らしい。
徐々に目的地へと近づいていく慌しさと期待感で浮き立つような第3楽章は、プロコフィエフのような躍動感と軽妙さが楽しい。

邦人作曲家の曲でこれほど印象的だったのは、吉松隆の《朱鷺寄せる哀歌》、矢代秋雄の《ピアノ協奏曲》、伊福部昭の《リトミカ・オスティナータ》を聴いて以来。この曲が戦前に書かれたことと相まって、全く驚きに満ちたコンチェルト。

吉松隆/朱鷺によせる哀歌

矢代秋雄/ピアノ協奏曲

伊福部昭/ピアノと管弦楽のためのリトミカ・オスティナータ
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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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