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アンデルシェフスキ ~ バッハ/イギリス組曲第5番
今日の夜中(から朝方にかけて)、ウェブラジオでアンデルシェフスキのリサイタルのライブ録音を放送していたので、久しぶりに聴く。
今月1日に行われたアンゲリカ・カウフマン・ザールでのリサイタルで、シューベルティアーデ・シュヴァルツェンベルク音楽祭のプログラムの一つ。(なぜかシューベルトの曲は全然入っていなかったけど)

夏は朝型リズムに変えているので、2:30~4:00という時間帯(オーストリアの放送局だったので)は、少し眠たかったけれど、アンデルシェフスキのライブ録音はそう頻繁には聴けないし、録音もしたかったので最後まで聴いていた。
学生の頃はNHKFMのエアチェックをよくしていたけれど、今はインターネットのウェブラジオ。
海外のリサイタルは、実演はもちろんTV・ラジオ放送やCDでもなかなか聴けない。それを海外のラジオ局がウェブで数多く放送しているし、そう悪くない音質で聴けるというのは、本当に便利な世の中になったもの。

数ヶ月前に同じくウェブラジオで聴いたアンデルシェフスキのリサイタルのプログラムとほぼ同じ。
バッハの《イギリス組曲第5番》、シューマンのペダルピアノのための《カノン形式による6つの練習曲》&《暁の歌》、ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第31番》、アンコールはバルトークの《シク地方の3つの民謡》という順番・
今まで聴いたライブ録音は3回とも、最初にバッハ、間にシューマン(とヤナーチェク)、ラストはベートーヴェン、アンコールはバルトークというパターン。
カーネギーホールのライブ録音のCDでは、シューマンイヤーではなかったので、シューマンは《ウィーンの謝肉祭の道化》の1曲だけ。その変わりヤナーチェクの《霧の中で》が入っていた。

                                   

最初はバッハの《イギリス組曲第5番》。
この曲はホルショフスキのライブ録音で初めて聴いて、今までイギリス組曲を敬遠したのが自分で不思議に思ったくらいに好みの曲。ホルショフスキの演奏があまりに素晴らしくて、開眼したのかも。
昔はわりと好きだった《フランス組曲》は全然聴かなくなって、今気に入っているのは《イギリス組曲》の方。
ホルショフスキは第2番と第5番のライブ録音、アンデルシェフスキは第6番のスタジオ録音があるので、この3曲は特に良く聴いている。

ホルショフスキの第5番はとてもゆったりしたテンポだけれど、朗々とした深くホールに鳴り響きは荘重で厳か。
他のピアニストではなかなか聴けないタッチなので、いろいろ録音を探してみて同じくらいに素晴らしいと感じたのは、ピアノ演奏ではなく、レオンハルトのチェンバロ盤。
チェンバロ演奏は音色や奏法が好きではないので、ピノックの録音をいくつか聴くくらい。例外的に、レオンハルトが弾く《イギリス組曲》は、ホルショフスキと並んで気に入って、かなり良く聴いたと思う。

ホルショフスキの《イギリス組曲第5番》が収録されているカザルス・ホール・リサイタル(1987年)のCD。このとき実に95歳。
ミエチスラフ・ホルショフスキー・カザルス・ホール・ライヴ1987ミエチスラフ・ホルショフスキー・カザルス・ホール・ライヴ1987
(2005/07/20)
ホルショフスキー(ミエチスラフ)

試聴する(国内盤)


レオンハルトの《イギリス組曲》。《6つのパルティータ》とカップリングした盤もあるけれど、パルティータは試聴してみて、チェンバロ独特の奏法が全く合わなかったのでパス。
これは再録音盤なので、昔とちがって弾き方があっさりして流麗で、音も柔らかくて、私には聴きやすい。
Bach:English SuitesBach:English Suites
(2003/01/24)
Gustav Leonhardt

試聴する(米amazon)



アンデルシェフスキの《イギリス組曲第5番》は、ホルショフスキのような残響の多い荘重な響きと叙情感の深い演奏ではなくて、現代的とでもいうのか、残響少なめの透明感のある音で、軽やかでやや柔らかい響きのノンレガートとレガートを交えた流麗な流れが美しく、テンポも速くてタッチも明瞭で切れ良く、軽快なリズム感、それに、さらりとした叙情感のあるバッハ。

一番好きなPreludeは軽快で明るい色調。荘重さや急迫感は薄めで、これは前回聴いたライブ録音でも同じだけれど、タッチがしっかりめで力感が強くなっている。
明瞭で歯切れよい音と、時に入れるあっさりとした装飾音が軽いアクセントになり、全体的に速いテンポで疾走感もあり、リズミカル。
声部の分離も明瞭で、横の線の流れが滑らかでほどよい力感があり、大仰さのない細やかな起伏をつけながら、淀みなく音楽が流れていく。
ホルショフスキを聴き慣れていると、最初聴いたときはちょっと物足りなく思えたけれど、よく考えるとシフやペライアも似たようなタッチではあるし、ホルショフスキのような演奏の方が珍しいのかもと思い直した。
それに何度か繰り返して聴くほどに、芯のしっかりした澄んでやや丸みのある響きが心地良く、さらりとした叙情感が体のなかにしみこんでくるようで、やはりアンデルシェフスキのバッハはとてもしっくりと馴染む。

Allemandeも、やや速めのテンポでタッチは軽やか。水気を含んだような柔らかな響きと、淡い哀感が美しく、Couranteも速いテンポでリズム感のあるちょっと上品な舞曲風。
Sarabandeはさすがにゆったりととても密やか。繊細ではあるけれど、深くはのめりこまないさらりとした叙情感があり、Rondeauは鐘が鳴っているような優雅な響きが綺麗。
最後のGigueは今までは一番力強いタッチで切迫感があるけれど、時に柔らかいタッチで柔らかな響きのレガートも美しい。
Gigueを聴くと、旋律が上行したと思ったら下行したり、半音階的な進行の和声の響きに不安定感を感じて、時々なぜか眩暈がしそうな変な感覚がして、曲が逆さまになって沈んでいきそうな気がする。

アンデルシェフスキのバッハは、ノンレガートでも軽やかで柔らかいタッチが耳に心地良く、色彩感のある響き、特に弱音のしっとりして繊細な響きがいつもながら美しい。
音の粒立ちの良いタッチで声部ごとの響きも変えて旋律線がどれも明瞭、フレージングがとても自然に聴こえて立体感もあって、喩えて言えば、装飾が少なくシンプルで無駄のない彫刻のようで、端正で均整の取れた構築美を感じる。
重厚・荘重さや強い叙情感はないけれど、ほぼインテンポで装飾音は凝らずにさりげなく、明瞭でほどよい強弱のコントラストやリズム感も品が良く、淀みない流麗さとさらりとした叙情感がとても美しくて、何度でも聴いていたくなる。
やはりアンデルシェフスキのバッハはいつ聴いても良いものです。

                                   

次の曲はシューマンのペダルピアノのための《カノン形式による6つの練習曲》
今年はシューマンイヤーなので、珍しい《カノン形式による6つの練習曲》を入れている。この曲を初めて聴いたのが、前回(数ヶ月前)のアンデルシェフスキのライブ録音だった。
他のピアノ版の録音をいくつか聴いたけれどあまり良い演奏がなくて、結局、アンデルシェフスキのライブ録音が、ベストと思えるほどにピアノの音と叙情感が美しい。
特に、カスケードのように重なっていく柔らかな響きはオルガンかハープのようで、その美しさは格別。

シューマンの《暁の歌》は綺麗な曲なのだろうけれどよくはわからない。シューマンは、ピアノ協奏曲とたまに《クライスレリアーナ》くらいしか聴かないので。

最後はベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第31番》
アンデルシェフスキが昔からレパートリーにしている曲で、いつ聴いても素晴らしい演奏。
でも、カーネギー・ホールのライブ録音の印象が強烈だったので、それに比べると劇的なところが薄まっているような気はする。
カーネギーホールのライブ録音だと、かなりディナーミクがより強調されて起伏が大きく、ドラマティクで深い重い感情に覆われているような印象だった。今回はそれよりはややさっぱりとしているような...。細かく聴き比べればかなり解釈が変わっているところがあるのかもしれないけれど、そこまではせず。
2回目のアリオーソはかなり息が絶え絶え...という感じが強くなっているかも。
それにアリオーソから最後のフーガに移る和音の連打が、かなり厳めしい響きで力強い重たい。まるで鋼鉄の扉を鉄の棒でが~んが~んと打ち鳴らしているような感じ。あまり好きな響きではないし、(たぶん)フィッシャーが言っていた”心臓の鼓動”のように、生気を取り戻すような感じはしない。

終盤でテンポを上げていく部分は、ほんのちょっとテンポが前のめり気味に速い感じがして、音が濁ったりミスタッチがあって、ややせわしない感じがしないでもなかった。前回のライブの方がテンポも打鍵も安定していたのは確か。

アンコールは、いつもの通りバルトークの《シク地方の3つの民謡》。”チーク地方”と訳している場合もある。
旋律と和声の響きがとても美しくて、朗々としているけれど、深くしっとりした静けさと繊細な叙情感も漂っている。この曲を聴くと、いつも目の前でぱっと鮮やかな色が突然広がる感じがする。

今回はインターネットの回線が安定していて、ノイズも中断も全くなく、全曲良い音質で無事録音完了。
特にアンデルシェフスキのスタジオ・ライブ録音が全く出ていない《イギリス組曲第5番》とシューマンの《カノン形式による6つの練習曲》は、繰り返し聴きたいと思う曲と演奏なので、夜中に起きていたかいもあったと満足できたせいか、この日は熟睡できました。


[関連する過去の記事]

シューマン/ドビュッシー編曲 ~ カノン形式による6つの練習曲(独奏版&2台のピアノ用編曲版)の記事

アンデルシェフスキ ~ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番 (カーネギー・ホール・ライブ)の記事

バルトーク/シク地方の3つのハンガリー民謡の記事

tag : バッハ シューマン バルトーク ベートーヴェン アンデルシェフスキ

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お返事です
コメントありがとうございました。

イギリス組曲に限らず、ホルショフスキのバッハは、平均律、パルティータなどにも良いものが多いですね。
ただ、晩年のライブ録音が多いので、曲によって体調の良し悪しが影響しているようで、演奏の内容にばらつきがあるように感じます。

もっぱらCDリスナーしていますが、アンデルジェフスキも、実演ではCDとはまた違うように聴こえるのでしょうね。
録音に限って言えば、パルティータの録音集を聴いて、昔はアンデルジェフスキが一番好きなバッハ弾きでした。
その後、異聴盤をいろいろ聴く習慣がついたので、アンデルジェフスキのバッハは今でも好きですが、曲によってベストと思う演奏とピアニストが随分変わりましたね。
それにアンデルジェフスキは、バッハ以上にシマノフスキ録音が素晴らしく思えてきました。

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好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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