フェルナー ~ バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻 

2010, 04. 11 (Sun) 18:00

このところ平均律の録音をいろいろ探していて見つけたのが、ティル・フェルナーの平均律曲集第1巻。
HMVやamazonのレビューが日本・米国ともとても良くて(レビューが良いからといって好みと合うとは限らないけれど)、フェルナーの平均律は、試聴しただけでそれも納得。

以前は平均律曲集自体がさほど好きでなかったけれど、これは最初に買ったグルダの平均律曲集で変なイメージがついてしまったからに違いない。ポップにデォルメされた(と私には思える)弾き方で、なぜ評判が良いのか今でもよくわからないけれど、少なくともあれは最初に聴くべきものではなく、5番目くらいに聴くべきだった。おかげで長い間平均律は聴かずじまい。(今なら印象も変わるかと思って聴き返してみたけれど、やっぱりグルダの平均律は私には受け入れ難い...)

さすがに、ピアノの旧約聖書に対してこれではいけないと思うようになったので、次に聴いたのはとても評価の良いリヒテルのクレスハイム盤。世評どおりの演奏だとは思うけれど、ちょっと構えたような思い入れの強さと圧迫感を感じるので、最後まで聴こうと思ってもだいたい途中で挫折するし、シフはチェンバロ奏法をピアノで聴いている気分になって、これも合わず。

結局、ぴったりはまったのは、ピアニストの影を感じさせないホルショフスキと、(一般的にはあまり受けないけれど)奏法が独特なムストネン。それに、最近手に入れたコロリオフと、このフェルナーの平均律。
ブラインドで聴いても誰が弾いているかよくわかるくらいに四者四様の平均律なので、これだけ揃えば今のところはもう十分じゃないかと思えるほどに満足。
難点といえば、コロリオフ以外は第2巻を録音していないこと。最近は指揮や作曲にも忙しいムストネンはたぶん第2巻は録音しないような気がするので、フェルナーの方が録音する可能性はありそう。

Bach: Das Wohltemperierte KlavierBach: Das Wohltemperierte Klavier
(2004/04/06)
Till Fellner

試聴する(米国amazon)


フェルナーは、初めの数曲を聴いたときは力感があまりなくてピンとこなかったけれど、ずっと聴いていくと、押し付けがましさのないしなやかさと、音の繊細な響きが心地よく、平均律の録音のなかでは最近一番良く聴いている。
フェルナーのお師匠さんはブレンデル。私はあまり好きではない方なので、最近評判のブレンデルの高弟ポール・ルイスもちょっと苦手。
同じ弟子筋でもフェルナーの方はすんなりと聴ける。ウィーンに生まれ育ったオーストリア人で、ブレンデルに師事していただけあって、ウィーン風(とでも言えばよいのか)の洗練された品の良さと、ピアノの音の美しさを最大限生かしたような柔らかく繊細な響きがとても魅力的。

音が柔らかくても綺麗なのは、シフに似ているけれど、シフのような凝ったアーティキュレーションや装飾音がなくて、ごてごてしたところのないシンプルさと、インテンポで淡々とした弾き進んでいくところが、流れが滑らかでとても自然な感じ。
それにしては、タッチが軽やかで歯切れも良いのでリズム感がよく、柔らかい響きの音は引き締まって弛緩したところは全く無く、表情の変化もドラマティックではないけれど、細部まで微妙な揺らぎのなかで移り変わっていくところは多彩。
ダイナミックレンジを大きくとっていないので、一見平板に思えそうだけれど、これが全く単調さを感じさせない。
コロリオフのように旋律の横の線を強調するというわけではないけれど、声部ごとに音色を変えていくので、柔らかな音の響きの中から旋律が綺麗に立ち上がって聴こえてくる。

短調の緩徐楽章は、リヒテルやコロリオフなら息をひそめてしまうくらいに重苦しい時があるのと違って、淡々と音を塗り重ねていくところがとても良い感じ。(抽象性が強い平均律は、こういう弾き方が好きなので)
強弱のコントラストをそれほど強調することなく穏やかで落ち着いたトーンで、微妙に移り変わっていく音色と響きは繊細で、響きの重なりの多い部分でも濁ることなく、細部まで寸分の狂いもなく計算されたように精緻。
このピアノの音の美しさに、思わずほ~っと溜め息がでてしまいそう。
現代的で作為性を感じさせないしなやかで洗練された平均律と言えば良いだろうか。第2巻もぜひ聴きたいと思わせられるほどに、この第1巻は気に入ってしまいました。

フェルナーのプロフィールとインタビュー記事
トッパン・ホールでのリサイタルのため来日したときのインタビュー記事。トッパンホールの演奏会は、フェルナーに限らず、私の好きな演奏家のリサイタルが多くて、こういう時は東京で暮らすに限るといつも思う。

フェルナーの録音には、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番&第5番、ハインリッヒ・シフとのチェロ・ソナタ全集など。
チェロ・ソナタでは、やはりピアノの音が美しく、チェロとのバランスも良く、とても品良くまとまっている感じ。これはかなり良さそう。
それに、ウィーン、パリ、ロンドン、ニューヨーク、東京(トッパンホール)でベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会を開催中。次に聴くのはベートーヴェンにするつもり。

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