グレゴリー・ソコロフ ~ バッハ/パルティータ第2番
2010.04.22 18:00| ♪ グレゴリー・ソコロフ|
現役で世界最高のピアニストは誰かといえば、人によって推すピアニストは違うでしょうが(ツィメルマン、ポリーニあたりが多いかな?)、グレゴリー・ソコロフもそう評される一人。
演奏活動が欧州大陸中心のため、来日することがほとんどないせいか、日本ではあまり知られていない。
英国では時々演奏会をしていたが、2008年に入国手続が厳しくなった以来、途絶えているらしい。(”英国カルチャーの終焉ーソコロフ事件をめぐって”にその経緯が載っている)
ソコロフはスタジオ録音が少なく、そのキャリアの長さと評価の高さに反比例して、今入手できるCDはライブ録音を含めてもそれほど多くはない。演奏活動はリサイタル中心で、Youtubeにライブ映像がいろいろ登録されている。
Naiveから出ている2種類のBOXセットに、バッハ、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、スクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフと、バラエティ良く収録されているので、このBOXセットを聴けばとりあえずソコロフのピアニズムを堪能できる。
ソコロフの演奏の中でも有名な《フーガの技法》の録音が収録されているのが、このBOXセット。
他に、パルティータの第2番、ベートーヴェンのロンドやピアノ・ソナタ第4番&第28番、ショパンのプレリュード全曲、ブラームスの4つのバラーとピアノ・ソナタ第3番。
好きではないショパンはともかく(これも素晴らしい演奏らしい)、これを今まで聴いていなかったなんて...と後悔するほどに、いずれも最初から最後まで、魅きこまれてしまった。もしツィメルマン、ポリーニ、ソコロフの3人のうち誰のリサイタルに行きたいかと聞かれれば、私なら迷うことなくソコロフ。
バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、ショパンごとに分かれた分売盤も出ているけれど、価格が高めで入手しにくいものもあるので、BOXセットの方がとってもお買得。
バッハの《フーガの技法》と《パルティータ第2番》は1982年録音。
パリのリサイタルのDVDも素晴らしいらしく、これもそのうち入手しないといけない。
Grigory Sokolov - Live in Paris
パルティータ第2番ハ短調 BWV826
パルティータの第2番は、アンデルジェフスキ、ホルショフスキー、ペライア、フェルツマン、アラウ、グールド、etc.といろいろ聴いても、なかなか決定盤が見つからなかったけれど、ソコロフを聴いたおかげでようやくベストと思えるものが見つかった。
ソコロフは、ダイナミックレンジが広く、フォルテは力強いタッチで音量も大きく、引き締まった色彩感もある響き。
ロシア人のピアニストは、フォルテになるとバンバンと乱暴な(と私にはこえる)弾き方をする人が結構いるように思うけれど、そういうところが全くなく、フォルテがとても美しい。鋭いタッチで力強く、引き締まって弾力があり、音が割れたり濁ることがない。
弱音の表現の幅も広く、余韻の響きの美しさやニュアンスの繊細さがとても印象的。ソコロフは、外見はシベリアの熊さんみたいにがっちりとした体格なので、外見と演奏内容との関連性はないとはいえ、初めて聴いた時はこのイメージのギャップが面白かった。
何よりも、その音のもつ力(吸引力とでもいうのか)は、他のピアニストでは聴くことができないような魔力的(とでも言えばよいのか)なものを感じる。
強い求心力と堅固な構築性、内省的な深さに乾いた叙情感などいろいろなものが感じ取れて、その多彩さと強さは圧倒的。”精神性”という言葉が好き人なら、その一言で表現できるような演奏。(この言葉は好きでもないし、使わないようにしているけれど)
Ⅰ.Sinfoniaの冒頭は、遅めのテンポの力強い和音で深い響きに、厳しく悲愴な雰囲気が漂っている。ここはこういう風に弾いて欲しいと思っていたイメージとぴったり。
導入部が終わると、余韻が柔らかに響く弱音で弾かれる主題。密やかに流れるような叙情感がとても綺麗。終盤は力強く弾けるようなフォルテで毅然とした雰囲気で一気にラストへ。
Ⅱ.Allemandeも、少し水気を含んだような柔らかいな弱音の響きがとても美しく、凛とした叙情が漂うアルマンド。
Ⅲ.Couranteは硬質の力強いタッチの引き締まった響きで、軽快だけれど弾力のあるクーラント。
この曲の中で、最も静寂なⅣ.Sarabande。ゆったりとしたテンポで、ポツポツと一歩一歩踏みしめるようなタッチが独特。
他の曲の弱音が比較的強い響きだったので、特にこのかすかな弱音の響きの静けさが際立っている。
乾いたような叙情感のあるサラバンドはとても内省的。瞑想的しているような深い静けさと、そこはかとなく漂う孤独感のようなものを感じる。
Ⅴ.RondeauとⅥ.Capriccioはほとんど切れ目なく続けて弾いている。
両曲とも力強いフォルテとノンレガートなタッチが切れ良く、錯綜する声部はほとんど同じ強さで弾かれていても、各旋律の横の線は明瞭。アクセントの効いた持続音の響きがとてもリズミカル。
くぐもった弱音で弾く部分から、すっと立ち上がるようにフォルテに切り替わっていくので、コントラストが鮮やか。弱音はより密やかに美しく、フォルテはさらに力強く聴こえてくる。
もともと色彩感のある音と朗々とした歌いまわしなので、モノクロで単調なところは全くなく、ぐいぐいと核心に迫っていくように突き進んでいく。
この2番はどちらかというと、弱音主体で叙情感を強く感じさせる弾き方が多いような気がするけれど、ソコロフの場合は、弾力のある力強いタッチで、聖堂や教会のような堅牢で荘重な建築を連想するようなパルティータ。
これだけ迫力のあるパルティータを聴いてしまうと、この曲は当分ソコロフ以外は聴けなくなってしまった。こういうパルティータを聴けば、イギリス組曲も素晴らしいに違いないと思うので、録音があれば絶対に聴いてみたいもの。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
演奏活動が欧州大陸中心のため、来日することがほとんどないせいか、日本ではあまり知られていない。
英国では時々演奏会をしていたが、2008年に入国手続が厳しくなった以来、途絶えているらしい。(”英国カルチャーの終焉ーソコロフ事件をめぐって”にその経緯が載っている)
ソコロフはスタジオ録音が少なく、そのキャリアの長さと評価の高さに反比例して、今入手できるCDはライブ録音を含めてもそれほど多くはない。演奏活動はリサイタル中心で、Youtubeにライブ映像がいろいろ登録されている。
Naiveから出ている2種類のBOXセットに、バッハ、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、スクリャービン、ラフマニノフ、プロコフィエフと、バラエティ良く収録されているので、このBOXセットを聴けばとりあえずソコロフのピアニズムを堪能できる。
ソコロフの演奏の中でも有名な《フーガの技法》の録音が収録されているのが、このBOXセット。
他に、パルティータの第2番、ベートーヴェンのロンドやピアノ・ソナタ第4番&第28番、ショパンのプレリュード全曲、ブラームスの4つのバラーとピアノ・ソナタ第3番。
好きではないショパンはともかく(これも素晴らしい演奏らしい)、これを今まで聴いていなかったなんて...と後悔するほどに、いずれも最初から最後まで、魅きこまれてしまった。もしツィメルマン、ポリーニ、ソコロフの3人のうち誰のリサイタルに行きたいかと聞かれれば、私なら迷うことなくソコロフ。
![]() | Grigory Sokolov: Bach, Beethoven, Chopin, Brahms [Box Set] (2005/10/18) Grigory Sokolov (Piano) 試聴する(分売盤へリンク) |
バッハの《フーガの技法》と《パルティータ第2番》は1982年録音。
パリのリサイタルのDVDも素晴らしいらしく、これもそのうち入手しないといけない。
Grigory Sokolov - Live in Paris

パルティータの第2番は、アンデルジェフスキ、ホルショフスキー、ペライア、フェルツマン、アラウ、グールド、etc.といろいろ聴いても、なかなか決定盤が見つからなかったけれど、ソコロフを聴いたおかげでようやくベストと思えるものが見つかった。
ソコロフは、ダイナミックレンジが広く、フォルテは力強いタッチで音量も大きく、引き締まった色彩感もある響き。
ロシア人のピアニストは、フォルテになるとバンバンと乱暴な(と私にはこえる)弾き方をする人が結構いるように思うけれど、そういうところが全くなく、フォルテがとても美しい。鋭いタッチで力強く、引き締まって弾力があり、音が割れたり濁ることがない。
弱音の表現の幅も広く、余韻の響きの美しさやニュアンスの繊細さがとても印象的。ソコロフは、外見はシベリアの熊さんみたいにがっちりとした体格なので、外見と演奏内容との関連性はないとはいえ、初めて聴いた時はこのイメージのギャップが面白かった。
何よりも、その音のもつ力(吸引力とでもいうのか)は、他のピアニストでは聴くことができないような魔力的(とでも言えばよいのか)なものを感じる。
強い求心力と堅固な構築性、内省的な深さに乾いた叙情感などいろいろなものが感じ取れて、その多彩さと強さは圧倒的。”精神性”という言葉が好き人なら、その一言で表現できるような演奏。(この言葉は好きでもないし、使わないようにしているけれど)
Ⅰ.Sinfoniaの冒頭は、遅めのテンポの力強い和音で深い響きに、厳しく悲愴な雰囲気が漂っている。ここはこういう風に弾いて欲しいと思っていたイメージとぴったり。
導入部が終わると、余韻が柔らかに響く弱音で弾かれる主題。密やかに流れるような叙情感がとても綺麗。終盤は力強く弾けるようなフォルテで毅然とした雰囲気で一気にラストへ。
Ⅱ.Allemandeも、少し水気を含んだような柔らかいな弱音の響きがとても美しく、凛とした叙情が漂うアルマンド。
Ⅲ.Couranteは硬質の力強いタッチの引き締まった響きで、軽快だけれど弾力のあるクーラント。
この曲の中で、最も静寂なⅣ.Sarabande。ゆったりとしたテンポで、ポツポツと一歩一歩踏みしめるようなタッチが独特。
他の曲の弱音が比較的強い響きだったので、特にこのかすかな弱音の響きの静けさが際立っている。
乾いたような叙情感のあるサラバンドはとても内省的。瞑想的しているような深い静けさと、そこはかとなく漂う孤独感のようなものを感じる。
Ⅴ.RondeauとⅥ.Capriccioはほとんど切れ目なく続けて弾いている。
両曲とも力強いフォルテとノンレガートなタッチが切れ良く、錯綜する声部はほとんど同じ強さで弾かれていても、各旋律の横の線は明瞭。アクセントの効いた持続音の響きがとてもリズミカル。
くぐもった弱音で弾く部分から、すっと立ち上がるようにフォルテに切り替わっていくので、コントラストが鮮やか。弱音はより密やかに美しく、フォルテはさらに力強く聴こえてくる。
もともと色彩感のある音と朗々とした歌いまわしなので、モノクロで単調なところは全くなく、ぐいぐいと核心に迫っていくように突き進んでいく。
この2番はどちらかというと、弱音主体で叙情感を強く感じさせる弾き方が多いような気がするけれど、ソコロフの場合は、弾力のある力強いタッチで、聖堂や教会のような堅牢で荘重な建築を連想するようなパルティータ。
これだけ迫力のあるパルティータを聴いてしまうと、この曲は当分ソコロフ以外は聴けなくなってしまった。こういうパルティータを聴けば、イギリス組曲も素晴らしいに違いないと思うので、録音があれば絶対に聴いてみたいもの。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。