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アンデルシェフスキ ~ バッハ/パルティータ第2番
アンデルシェフスキのパルティータは、第1・3・6番がスタジオ録音、第2番がカーネギーホールのライブ録音。
アンデルシェフスキのパルティータは特に好きなので、もう数え切れないくらい聴いたけれど、なぜかこの第2番だけは、すんなり入っていけなかった。

その後、ソコロフ、ホルショフスキ、フェルツマン、シフ、アンダ、カッチェン、etc.といろいろな第2番を聴いたし、この曲は自分でもよく弾くようになったので、以前よりは許容範囲が広くなっている。
久しぶりにアンデルシェフスキの第2番を聴いてみると、これがなんて面白いパルティータ!と、印象が全然違う。
そのとき書いた記事を読み返していると、以前は全然聴けてなかったのがよくわかる。
異聴盤は数多く聴いた方が良いと実感したのは、スタンダード的な弾き方がどういうものか自分なりに基準ができて、それと違った個性的な解釈を楽しめるようになること。

このアンデルシェフスキのパルティータ第2番は、スタジオ録音で弾いたパルティータのような自然な成り行きを感じさせるのではなく、かなり練り上げられた印象は以前と変わず。それに違和感を覚えたものだけど、今はそこがとっても魅力的。

アンデルシェフスキは、この曲ではややスタッカート気味のタッチでフレーズを小刻みに切っていくようなところが多い。(もしかして古楽奏法の影響?)
フォルテになると左手をかなり強く弾いてたり、符点のリズムがシャープだったりと、メカニカルな感じがしないでもないけれど、逆に各声部が明瞭に聴こえてきて、対位法の面白さがよくわかるし、いつも聴いている曲が、アンデルジェフスキが弾くと全然違った風に聴こえてくるので、とっても新鮮。

短調の第2番は、6曲中特に構造がかっちりしているのに、叙情性が強いように感じる。
アンデルシェフスキが弾くと、現代的というのか、この曲の短調のもつ叙情性を強く出さずに、かなり淡白でさらさらとした叙情感。
ただし、”sarabande”はそれを補うかのように、極めて内省的で凝った表現。この”sarabande”だけが、他の曲と随分違った弾き方と雰囲気になっているところには、ちょっと違和感を感じるけれど。

Ⅰ.Sinfonia
冒頭は強い悲愴感がある和音の旋律。ピアノだと、それほどノンレガートなタッチで弾かず、ゆったりしたテンポとマルカート気味のタッチで悲愴感が強めの演奏は結構多い。
アンデルシェフスキはそれとは正反対。スタッカート気味に鋭く突き刺すように弾いていく。
感傷性が薄いので、逆に厳しさと重みはあるとは言えるだろうけれど、スパスパと小刻みに切っていくフレージングは、符号のリズムがちょっとせせこましい感じがする。
ここの弾き方は、リュプサムととても似ている。リュプサムはチェンバロ奏法をそのままピアノに移したような、頻繁なルバートと装飾に凝ったアーティキュレーションでパルティータを弾く。(ピアノで弾くとかなり独特な奏法に聴こえる)

導入部が終わると、軽やかなタッチの弱音は、アンデルシェフスキらしい柔らかな響きが美しく、さらりとした叙情感。ロマンティックというよりは、物思いに沈んで内省的な雰囲気。
後半は速いテンポで、弾けるようにバネの強いタッチがリズミカルで、急迫感も充分。声部の音色をそれぞれ変えているので、やっぱり綺麗に弾き分けている。

Ⅱ.Allemande
ノンレガートでも、少し柔らかくてふわっとした軽めのタッチの弱音が心地よく、軽やかでさっぱりした叙情感。
装飾音はさりげないけれど、かなりあちこちに入れている。他のピアニストの演奏とは曲がちょっと違ったように聴こえて(かなり洒落て聴こえる)、この装飾音の入れ方はかなり好き。

Ⅲ.Courante
少しだけシャープなタッチに変わり、Allemandeよりはやや動的で、叙情感も強め。
持続音が入って声部がやや込み入っている曲だけど、さすがにそれぞれの声部がくっきり綺麗に聴こえてくる。16分音符のフレーズが軽やかで、滑らかで、とってもリズミカル。

Ⅳ.Sarabande
アンデルシェフスキにしては、かなり粘り気のある表現。バッハでこういう弾き方を今までしてはいなかった(はず)なので、バッハの世界から、急に別の世界へトリップしたように錯覚してしまいそう。
テンポはかなり落として、かすかな響きの弱音は、密やかでとても儚げ。
珍しくルバートを多用し、特定の旋律を強く強調して弾いたり、装飾音も凝ってたりと、かなり表現が濃くて、なかなかすんなりとは進まない。
まるでチェンバロの奏法をピアノに移し変えたような感じ。こういう弾き方は、ベタベタした叙情感になりがちなので、誰が弾いても好きにはなれない。
同じスローテンポで弱音が支配的な内省的な演奏なら、さらに遅いテンポでインテンポのソコロフの方が、こねくり回さずストレートな表現と叙情性があって、私には聴きやすい。

Ⅴ.Rondeau
かなりゆっくりしたテンポで、ちょっと変わったリズム感。
内面に沈潜していった”Sarabande”から覚醒して、再び立ち戻った世界をゆっくりと見回しているような感じがする。
トリルと特に左手が弾く旋律のリズムが独特。左手の旋律は、マルカート気味の粘り気のあるタッチと飛び跳ねるようなスタッカートが混在して、不思議なリズムが面白い。グールドならこういう風に弾いたかも...と一瞬思ったほどに、かなりユニークな”Rondeau”。

Ⅵ.Capriccio
ややゆったり目のテンポで、声部ごとの旋律線とリズムの弾き分けがとても鮮やか。
両手に繰り返し出てくるシンコペーション的なリズムは、かなりアクセントが強く効いて、飛び跳ねるようなタッチ。
弾力のあるスタッカート的なタッチを多用しているせいか、全体的にメカニカルに聴こえるけれど、その分タッチの違いと明確なフレージングで声部の線がそれぞれくっきりと浮き上がってきて、これだけ綺麗に弾き分けられるのは凄い。

とにかく最初から最後まで、凝ったアーティキュレーションの面白さが素晴らしくて、とってもユニークなパルティータ。曲を一度バラバラに解体して、新たに構築しなおしたように感じるくらい個性的。
声部ごとに違う鮮やかな色彩感に加えて、フレージングもタッチがよく工夫されていて、特定のリズムやフレーズが強調されると、いままで音符のなかに埋もれていた音型や旋律に光があたって、曲のもつ別の面がくっきり浮かびあがってくるようで、とても新鮮。
アンデルシェフスキのパルティータは凝っていて本当に面白く聴けるし、とても好きだけど、どうも頭で聴いている感じがする。
この曲を聴いていて、心情的にストレートにシンクロできるのは、やっぱりソコロフの方。(最初の3曲だけなら、最近聴いたカッチェンのライブ録音がソコロフと同じくらいに好きだけど)


Piotr Anderszewski at Carnegie HallPiotr Anderszewski at Carnegie Hall
(2009/03/30)
Piotr Anderszewski

試聴する(米国amazon)
このライブ録音は、パルティータの他に、かなり濃厚な表現のヤナーチェクと、バッハ同様凝ったアーティキュレーションでドラマティックなベートーヴェンのピアノ・ソナタも個性的で素晴らしく、それにアンコールで弾いたバルトークの小品が哀感漂うとびきり美しい曲。全く充実したライブをCDで聴くことができたのだから、本当に満足。


アンデルシェフスキのカーネギーホール・ライブ録音に関する記事

ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番

バルトーク/シク地方の3つのハンガリー民謡

tag : バッハ アンデルシェフスキ

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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