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カール・アマデウス・ハルトマン/ピアノ作品集 ~ ピアノ・ソナタ ”1945年4月27日”,ほか
作曲家のハルトマンですぐに思い出すのは、デンマークのエミール・ハルトマンと、ドイツのカール・アマデウス・ハルトマン。生きていた時代と作風が全く違うので、曲を聴けばどちらの作品なのか間違いようがない。

以前にエミール・ハルトマンのピアノ協奏曲を聴いて、メンデルスゾーンみたいと思ったけれど、カール・アマデウス・ハルトマンはピアノ協奏曲は書いていないらしく、ヴァイオリン協奏曲の《葬送協奏曲》の方が有名。演奏会のプログラムでも時々見かける。
ドイツ人のハルトマンは1905年生まれで60歳になる前に亡くなっている。
反ナチスの旗色が鮮明な作曲家だったので、退廃作曲家のレッテルを貼られて作品は上演禁止。戦時中は”国内亡命”状態になっていたが、ひそかに地下でレジスタンス活動を行っていたという。

ハルトマンのピアノ作品は、独奏曲がいくつか残っているが、低音を利かせた重厚な和声が響き、絶えず緊張感を強いるシリアスで思索的ないかめしい作風。
無調とは言え、それほど不協和的な歪みのある和声は使っていないし、旋律は歌謡性はないが音の配列はわかりやすく、慣れればかなり聴きやすい曲。
アルバン・ベルクのような緊張感と音の激しい動き、それに、対位法が使われているところはヒンデミットを連想する。
ピアノを打楽器的に強打し、モノクロームのようなざらついた肌触りがあるところは、バルトーク風。
ヒンデミットと違うところは、それほど感性的には乾いた感じはせず、ヒンデミットのようなメカニカルで即物的な感じは希薄なところ。
それよりも、思索的な生真面目さとやや濃いめの叙情感はベルクに似ている気がする。たまにヒンデミットのような軽妙さが顔を出すところが面白い。

                         


ハルトマンの作品はどれも録音が多くはなく、ピアノ作品集もかなり珍しいアルバム。
ピアノ作品集は2種類出ていて(他にもあるかもしれないけど)、これが対照的な演奏なので、同じ曲でもピアニストによって随分違った雰囲気になるのがよくわかる。
ウォルフガング・ドベルライン(Musicaphon盤)は、やや柔らかさのある明るめの澄んだ響きが美しく、色彩感が豊か。
ややリズムが緩く、厳しさや荒々しさといったものは薄めで、逆に研ぎ澄まされた叙情性が美しい。特に、緩徐楽章では表現が細かやで叙情豊か。
打鍵がそれほど鋭くパワフルではないので、ハルトマンらしい(と思われている)激しくテンションの高いところがさほど強く感じられないので、急速系の曲では緊張感が緩くちょっと弱々しいところがある。

このアルバムの難点は、収録時間の関係からか、ピアノ・ソナタの第2楽章スケルツォをカットしているところ。第4楽章は初版の方だけを弾いている。
Karl Amadeus Hartmann: Works for PianoKarl Amadeus Hartmann: Works for Piano
(2006/05/30)
ウォルフガング・ドベルライン(piano)

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ケーレンのTelos盤は、ピアノ・ソナタは全楽章を収録し、第4楽章は初版と第2版の両方を録音している。
ドベルラインの演奏とは違ったタイプで、バルトークのように打楽器的な力強い打鍵が冴えて、厳しくざらざらとした肌触り。
タッチが鋭く音は硬質で張りがあり、フォルテは鋼鉄線のように強靭でパワフルで、やや暗めの音色、鋭いリズム、強いアクセントの聴いたタッチがとてもマニッシュ。
ジャズ風の曲も、軽やかで洒落たタッチで弾いているところもあるけれど、リズムがかなりシャープで荒々しく前衛的(ミンガスのような?)な感じがして、結構面白い。
弱音は内面に沈潜していくような鬱々とした静寂さがあり、叙情的というよりは思索的な感じ。全体的に強弱・緩急のコントラストが強く、重たく威圧感があって、聴き終るとかなり疲れるものがある。
こちらの方が筋肉質的な演奏なので、ハルトマンらしい雰囲気が味わえるとは思うけれど、精神的に元気なときに聴いた方が良さそう。

Hartmann: Piano WorksHartmann: Piano Works
(2008/10/20)
Benedikt Koehlen

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ややゆったりとしてテンポと丁寧なタッチのドベルラインは、明るい音質と美しく色彩感のある響きで表現も細やかで、緩徐系の楽章が叙情的で美しい。
速いテンポでシャープな打鍵のケーレンは、音色はやや暗いがメリハリの効いたリズム感がとても躍動的で、急速系の曲やフーガが素晴らしく鮮やか。
曲によって聴くピアニストを選ぶというよりも、さらに細かく楽章別でどちらかを選んで聴きわけたくなってくる。

                         

小組曲第1番&第2番/Kleine suite Nr.1&Nr.2
第1番の緩徐楽章はひっそりとした静けさと薄い響きで、似たような音の配列と雰囲気なので、どれがどの曲だったのか、わからなくなりそう。
ドベルラインは透明な叙情感が綺麗だけれど、ケーレンは暗くて沈鬱な雰囲気。

第1番の第2楽章と第5楽章は速いテンポのフーガ。
ケーレンのフーガは、ノンレガート強いタッチの明瞭な音で、両手の声部の旋律線がくっきりと浮き出て、リズム感と旋律の絡みあいがとっても面白い。
まるで、2人が互いに大きな声で、対話を通り越して、自己主張しているような弾き方。

第2番の第1楽章は、ブリテンのピアノ小品風にモダンで軽快なタッチ。
第2楽章は、やや静けさに沈潜していくような内省的な雰囲気の曲(途中でちょっと盛り上がるけど)。
第3楽章になると、少し明るさと透明感が出てくるが、やっぱり静かで内省的。
第4楽章は”JAZZ”。それほどジャズ風な感じはしないけれど、それでもハルトマンにしては、軽妙で明るいタッチ。

ジャズ風トッカータとフーガ/Jazz-Toccata und Fuge (1928年)
<トッカータ>は、バルトークのピアノ・ソナタのように、打楽器的な打鍵が力強く、低音の響きが物々しい。いろいろなリズム・音型が入れ代わり立ち代り現われる。中間部は、かなり軽快なタッチでここはジャズ風な洒落た軽妙さ。
<フーガ>は、ヒンデミットのピアノ・ソナタ第3番に似ているところがあって、とても軽妙でメカニカルな曲。<フーガ>にしては、和声に厚みがあって響きが華やか。

ソナチネ/Sonatine (1931年)
冒頭から鋭いタッチで不協和的な音が急降下し、いかつい雰囲気の低音のオスティナートで、”ソナチネ・アルバム”にあるソネチネのようには、全然可愛らしくないソナチネ。
徐々にタッチが軽やかになり、グリッサンドが綺麗に響いたり、調子を外したような軽妙さや楽しげなところが多少入っていたりする。
終盤はピアニッシモになり、背後で微かな響きの和音がオスティナートされながら、ポツポツと途切れがちの音で断片的につながれる旋律は、物思いに沈むように思索的な雰囲気。

ピアノ・ソナタ第1番/Piano Sonata No.1
次の2曲目のピアノ・ソナタと違ってメッセージ性は希薄。ヒンデミットをずっと饒舌にしたように、音の配列がいろいろ変化して、とても表情豊かに聴こえる。

I. Toccataは、ジャズ風トッカータよりも、構造的な堅牢さが緩くて、圧迫感はあまりない。
ドベルラインが弾くと、密やかで軽妙な雰囲気で、おもちゃの人形が夜中に起き出して遊んでいるような感じ。
ケーレンは相変わらずテンポが速く力強いシャープなタッチで、アクセントの効いたリズミカルなところが軽快。

II. Langsamer tanzは、ドビュッシーの《象の子守歌》を前衛的にパラフレーズしたら、こんな曲になるのかも。
ドベルラインは柔らかなタッチで夢想的。ケーレンは暗い音色で、時に鋭くアクセントを効かせて、やや小難しい雰囲気。

III. Finaleらしく、冒頭からわりと明るい雰囲気で躍動的なフーガ。
いろんなパターンのオスティナートが次から次へと現われ、両手とも休むことなく、鍵盤上をあちこち動き回っている。
ケーレンは、バネのきいたリズムで両手の旋律の動きを明瞭に出して、論争しているかのようにとても饒舌なフーガ。
ドベルラインは、ゆったりしたテンポと丁寧なタッチ。途中で段々調子が外れたようにムードが下降気味になって、最後は思い出したかのように、元通り明るめのタッチでエンディン。

 ピアノ・ソナタ”1945年4月27日”/ Piano Sonata "den 27. April 1945" (1945年)
この日(1945年4月27日)、数千人のダッハウ強制収容所の囚人達が、自宅の前を足をひきずりながら隊列をなして死の行進を続けていく様子をハルトマンが目撃した。その強烈な記憶がこの作品の源泉。
ハルトマンのピアノ作品のなかでも代表作と言われる曲で2番目のピアノ・ソナタ。4楽章構成で演奏時間は30分ほど。第4楽章のみ初版と第2版がある。
和声の響きやフーガを聴くと、ヒンデミットに似ているところはあるけれど、抽象性は希薄で標題音楽のような描写性や叙情性が強い。

I. Bewegt
ヒンデミット風の対位法で交錯する旋律や、調性感がやや曖昧な和声の響きがとても美しい曲。
ゆったりと静寂な雰囲気のなかに、時に感情が激しく揺れ動くようなクレッシェンドがドラマティック。
ベルクのピアノ・ソナタのような鋭く研ぎ澄まされた悲愴感が痛切。

II. Scherzo: Presto assai
右手側の旋律が、中音域~高音域中心に激しく上行下降を繰り返しながら動き回り、何かに追いたてられる焦燥感や切迫感のようなものを感じる曲。

III. Marcia funebre: Lento
演奏時間は10分以上と4楽章中最も長い”葬送行進曲”。
深く沈みこむように重苦しく内省的。諦観や抑制された悲痛な感情が静かに流れていき、中間くらいで昂ぶる感情が抑えきれないように、テンポが加速して細かいパッセージが続き、フォルテの和音が激しく鳴る。

IV. Allegro risoluto (1st version) 又は Allegro furioso (2nd version)
”risoluto”、”furioso”を指示されている通り、荒々しく躍動的な曲。
スタッカート主体で、両手が鍵盤上を速いテンポで駆け回っているところは、第2楽章と良く似ている。
怒りのような強い感情を表すように、わりと明るめの色調の曲ながら、アクセントをつけた和音が何かに抗議するようにバンバンと鳴っている。
初版では、途中で第1楽章に回帰するような緩徐部分が挿入されている。曲想が急に正反対に転換するので、ここの静けさと叙情感が引き立っている。
ケーレンの打楽器的な重く力強いスタッカートとアクセントの効いた和音が、とても勇ましくいかつい雰囲気で、曲想に良く合っている。

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
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