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ヘンツェ/トリスタン~ピアノとテープおよびオーケストラのためのプレリュード
ヘンツェのピアノ協奏曲のなかでとても有名な《トリスタン-ピアノとテープおよびオーケストラのためのプレリュード》(1973)。
題名から推察できるとおり、ワーグナーのオペラ《トリスタンとイゾルデ》へのオマージュという形式をとっている。
1970年代前半の作品なので、これぞ現代音楽というくらいに多種多様な響きと曲想が混沌と渦巻き、独創的でアグレッシブでかなりのインパクト。

この曲はピアノ協奏曲に分類されてはいるけれど、むしろピアノ独奏付き交響曲に近い。
オケ伴奏抜きのピアノ・ソロと、オケの楽器の一部のように扱われているピアノとオーケストラの協奏が明確に分かれているし、協奏部分ではピアノが華やかに前面に出てくるというところは少ない。

ピアノがソロが弾くプレリュードは、どの楽章でも静寂で冷たく刺すような澄み切った響きが美しい。
曲中では、ブラームスの第1交響曲、ショパンの葬送行進曲(これは良くわからなかったけど)がダイレクトに引用されている。「トリスタン和音」も使われている(らしい)。
テープ録音では、Joseph Bédier's版の”the death of Isolde”から抜粋した言葉が子供によって朗読され、人間の心臓の鼓動音やオーケストラパートとオーバーラップしながら流れてくる。プリペアード・ピアノや古楽器も使われている。
前衛隆盛の頃に流行った現代音楽を聴き慣れていれば、ヘンツェはそれほど聴き難い音楽ではない方。色彩感豊かで和声が美しいので、旋律の歌謡性が希薄でも独特の叙情感が漂い、騒然とした厳しい雰囲気とカオスのような混沌さがあっても、その尖ったところが面白い。

《トリスタン》はロンドン交響楽団の委嘱作品で、1975年10月20日にコリン・デーヴィス指揮、ピアノ独奏はオメロ・フランセシュで、ロンドンで初演。
大編成で使用楽器の種類も多く、テープ録音も楽器だけでなく朗読や非音楽的な特殊音も必要になるため、そう簡単に演奏できるというわけではないせいか、録音はほとんどない。
今入手できるものは、ヘンツェ自身の指揮で、オメロ・フランセシュのピアノ&ケルン放送交響楽団の演奏による1975年録音のDG盤くらい。
カップリングされているのは、これも録音が珍しいピアノ協奏曲第2番(1973年)。この曲も前衛的で長大なので、両方を聴き通すにはかなりの集中力と忍耐力がいる。(コンチェルトは第2番より第1番の方が、まだしも聴きやすい気はする)

CDは在庫がないか廃盤らしいので高額。米国amazonならダウンロード販売で入手できるが、日本では購入不可。
国内盤は「DG 20世紀の遺産」シリーズに、《トリスタン》の同じ録音が収録されているが、これも入手不可能。

Henze: Piano Concerto No. 2; Tristan; Ballet Variations; TientosHenze: Piano Concerto No. 2; Tristan; Ballet Variations; Tientos
(1996/12/06)
Hans Werner Henze, Ferenc Fricsay(conductor), Christoph Eschenbach(piano), Siegfried Behrend(guitor), Homero Francesch(piano), London Philharmonic Orchestra

試聴する(米国amazon)


トリスタン~ピアノとテープおよびオーケストラのためのプレリュード/Tristan - Preludes for piano, tapes and orchestra(1973)

ピアノは独奏部分が多く、とても研ぎ澄まされた冷たく美しい響きと旋律。ここが気に入っていたのか、ヘンツェは《トリスタンへの前奏曲》というピアノ独奏曲も書いている。
オケのトゥッティがヘンツェの交響曲特有の騒然・混沌な雰囲気。色彩感豊かだが妖艶で不気味な響きと旋律がたっぷり。
テープ録音による朗読に加えて、心臓の鼓動音まで入っていて、映画を観ている気分が少しする。
時々、ワーグナー風な旋律が混在している気はするが(ワーグナーはほとんど聴かないのでよくわからない)、ワーグナーの《トリスタン》を観(聴き)慣れている人なら、いろいろ発見することがあるのでは。

1. Prologue
硬質の冷たい響きと静寂な雰囲気のピアノ・ソロによるプロローグ。
十二音技法が使われているようで、音がポツンポツンと静かに響く部分に、あちこち音が飛び跳ねて躍動的で饒舌に聴こえる部分が挿入されている。
ガラスや水といったモノを連想させる無機的な感触の響きの冷たさがとても美しい。
オケはピアノの響きを補完するように、ほんの少し、ピアノの休止部分に挿入されている。

2. Lament
オケとピアノの協奏。<Lament>にしては、かなり騒々しくカラフルで、曲がぐるぐる旋回しているようなカオスを感じてしまう。
オケの混沌とした響きを背景に、途中でピアノがジャズ風(?)の軽快な曲を弾いている。このアンバランスさは面白い。

3. Preludes and Variations
再びピアノ・ソロがメインになり、冒頭と同じような静寂で冷たい雰囲気に。
続いてヴァリエーションに入ると、管楽器主体のオケがいろんな鳥が鳴いているような軽やさ。
やがて荒々しく騒々しくなり、それがパタッと止むと、今度はピアノがおしゃべりするようなガチャガチャしたソロ。
それが終ると、わりと軽快で、時々気の抜けたように下降する旋律を弾くオケに変わったと思ったら、突然ブラームスの交響曲第1番の冒頭部分が流れてくる。
あまりに唐突なので、一体何が起こったんだろう?と思ったけれど、ブラームスの直接的な引用は短いが、その主題の雰囲気をその後も引きずっていく。
低音のティンパニが重々しく、弦楽は重厚で美しいが陰鬱で、それまでとは違って、重々しく静かに鬱々とした演奏で終る。

このブラームスの引用は、革命家ワーグナーと対立する旧弊な権威を象徴する(らしい)。
武満徹は”深い傷みの感情を秘めた旋律”の上昇する半音階とワグナーの音楽とは、遠く離れていないと言っていた。


4. Tristan's Folly
”Folly”というタイトルどおり、ピアノもオケも細かくせわしなく激しく動き回り、胸騒ぎのするようなクリスピーで金属的な響きが多用されている。
再びブラームスの第1交響曲の冒頭のモチーフが出てきたり、非音楽的な昆虫の羽音のような響きがバックで鳴り続けたり、打楽器と管楽器が勇壮に鳴っていたり。
それも同時に演奏されるので、複数の違ったタイプの旋律と響きがオーバーラップして、混沌・騒然という形容詞がぴったり。

5. Adagio - Burla I (Valse) - Burla II (alla turca) - Ricercare I - Burla III (Marcia) - Ricercare II
ようやく静かなアダージョかと思ったら、全然静かでスローテンポでもなく、前よりはマシといった程度。
アダージョもそれほど長くなく、”burla”らしく軽快なテンポとリズミカルな曲が次々と現われてくる。
かなり明るい色調(相対的な意味で)で、サーカスのような浮き浮きしたところもあるけれど、やっぱりどこかしら尖った荒々しい肌触りがするヘンツェ風のブルレスカ。

6. Epilogue
ようやくたどり着いたエピローグ。前半はピアノ・ソロ。
ややくぐもったような静かな響きで、まばらな音がポロンポロンとつながっていく。
時々、急き込むようなフォルテで弾いたり、糸がもつれたように細かな音が塊になったパッセージが入ったりしている。

最後の5分間は、テープ録音が入っている有名な部分。<抜粋した音源(Youtube)>
心臓の鼓動音を背景に、イゾルデがトリスタンの死を嘆く場面を少女が朗読し、オーケストラは悲愴で重苦しく息の長い旋律を重ねていく。
朗読されている言葉は、次の通り。

She takes him in her arms, and then,lying out full length, she kisses his face and lips, and clasps him tightly to her.
Then, straining body to body, mouth to mouth, she at once gives up her spirit and of sorrow for her lover dies thus at her side.

朗読が終ると、(トリスタンの?)心臓の鼓動音も消えてしまった。
続くオケのトゥッティは、かなり動きを抑えて、嵐が去った後の凪のように、ヘンツェにしては静かで落ち着いた雰囲気。
トライアングルや鐘の硬く冷たい音が強く響き、次に管楽器が主体になり、弦楽の妖艶でねっとりした響きに、ピアノのくっきりと聴こえる美しい旋律も加わって、いろんな響きがうねるように重なりながら、静かにエンディング。


《ヘンツェ/ピアノ協奏曲第1番》の記事

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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