*All archives*



ミッコラ ~ ラウタヴァーラ/ピアノ作品集
フィンランドの代表的な現代音楽の作曲家エイノユハニ・ラウタヴァーラの作品のなかで有名なのは、《カントゥス・アルクティクス 鳥と管弦楽のための協奏曲》(1972年作)やグラミー賞ノミネート曲《交響曲第7番「光の天使」》。
管弦楽曲に比べて、ピアノ作品はさほど聴かれていないような気はするけれど、彼のピアノ協奏曲やピアノ独奏曲は、ピアニスティックな技巧と豊かな色彩感のある響きのタペストリーが素晴らしく、現代音楽とはいえ北欧風の透明感や叙情性もあって、とても馴染みやすい曲が多い。

同じ北欧のシベリウスやグリーグの静かな叙情の世界はあまり好きではないので(いつも途中で眠くなる)、こういう音が積み重なって鍵盤上を舞っているような音楽の方が面白い。
この音の煌くようなタペストリーの美しさと、不協和的な音が重なってもなぜか透明感のようなものを感じるのは、やっぱり北欧風といっても良いのかも。

ピアノ作品集の解説に書かれたプロフィールによると、ラウタヴァーラは戦後の新古典主義の影響下で作曲活動を開始。
1950年代は、12音技法を使い出してかなりモダニスト的なイディオムを感じさせる作風。一方で個々の作品はかなり幅広いアプローチで書いている。(ピアノ作品集は主にこの時代のもの)
1970年後期になると、いろいろな様式の影響を統合した作品を書き始める。
1950年代からラウタヴァーラはフィンランドの代表的な作曲家とみなされていたが、国際的な評価を得たのは1990年代。1997年には交響曲第7番「光の天使」がグラミー賞にノミネートされた。

ピアノ協奏曲は、第1番1969年、第2番1989年、第3番1999年に作曲。
ピアノ独奏曲は1950~60年代くらいまでに書かれているので、前衛色が濃くはあるけれど、それにしては和声の響きや旋律は綺麗なのでさほど小難しいこともなく、現代もののピアノ作品集ではかなり好きなアルバム。
書き方がいろいろ違ったコンパクトな小品が多く、ピアノ・ソナタ(特に第2番)はピアノ協奏曲よりも構造がわかりやすく、それでいて協奏曲なみに響きが豊かでカラフル。
ラウタヴァーラを最初に聴くなら、ピアノ協奏曲の方ではなくて、独奏曲集の方が聴きやすいかも。

ピアニストのラウラ・ミッコラは30歳半ばのフィンランド人。ラウタヴァーラのピアノ協奏曲3曲もNaxosに録音している。
Einojuhani Rautavaara: Works for PianoEinojuhani Rautavaara: Works for Piano
(1999/07/20)
Laura Mikkola

試聴する(米国amazon)


このNaxos盤に収録されている個々の作品解説は、ラウタヴァーラ自身が書いているもの。

Etudes, Op. 42(1969年)
ラウタヴァーラによると、この時代の現代音楽のトレンドは”sparse, aphoristic style”だったので、(それとは違って)鍵盤全体を縦横無尽に使って、この楽器の機能をフルに引き出すことで、豊かな音色・響きや幅広い様式になるように書いた練習曲。

第1曲Terssit (Thirds)はいかにもラウタヴァーラらしい歪みの少ない不協和音とアルペジオできらめくように幾層にも重なった音の洪水。
第2曲Septimit (Sevenths)も似たようなタッチで、やや厳しい雰囲気。
第3曲Tritonukset (Tritones)はスローテンポで不安感が漂う。
第4曲Kvartit (Fourths)は、華やかなアルペジオが、北欧の雄大で透みきった自然のようなイメージ。
第5曲Sekunnit (Seconds)は再びスローテンポで、弱拍に同一音のオスティナートが続き、不安が忍び寄るような静けさ。
第6曲Kvinitt (Fifths)は、ピアノ協奏曲を連想させるようなとてもダイナミックなアルペジオ。ラヴェルのピアノ協奏曲に出てくるような”ゴジラ”のモチーフにほんの少し似ているような旋律が一瞬聴こえてくるのが面白かった。

Icons, Op. 6(1955年)
このイコンというのは、聖使徒ルカがマリヤを描いたものを指している。ラウタヴァータの解説が、このピアノ作品集の中では最も長い。

第1曲The Death of the Mother of Godは、何かの啓示が降り注いでくるように、少し神秘的でとても厳粛な雰囲気。
第2曲Two Village Saintsは打って変わって、まるで運動会をしているような軽快で活気のある曲。
第3曲The Black Madonna of Blakernayaは和音だけで構成された音の厚みのある、スローテンポで厳粛な曲。
第4曲The Baptism of Christはの冒頭は目まぐるしく動くピアノのパッセージが少しジャズ風?。それが終るとプロローグのように荘重な和音が鳴り響いてから、何かが生れ落ちるような思索的な弱音のフレーズに変わる。和声の響きがメシアンに似ているような感じもする。
第5曲The Holy Women at the Sepulchreは、音のまばらで静寂で、少し神秘的な雰囲気。
第6曲Archangel Michael Defeats the Antichristは、冒頭から高速で動き回るピアノのパッセージが明るく軽快で、これも運動会風。

前奏曲 Op. 7 (1956年)
タングルウッドでコープランドの下で勉強しているときに書いた作品(でも、コープランドには見せなかった)。
作品解説によると、当時、ヘルシンキでもアメリカでもいわゆるネオ・クラシカルな技法に縛られてたので、それに対するある種の抗議や反発の意味をこめた作品。
そういわれると、新古典主義的なところを感じさせない、いかにも前衛風の尖った雰囲気があるのが面白い。

1. Elastically Hammering
十二音技法で躍動的な曲を書いたらこういう風になるんだろうか、と思える曲。
2. Slowly Enough
左右とも単音をぽつぽつと静かに弾いているところが多く、どちらかというと叙情感とかそういうものを(皮肉を込めてわざと)無視して、音を並べたような感じがする。
3. Nervously But in Rhythmは、”ナーヴァスで、リズミカル”というタイトルそのままの雰囲気。
4. Chorale and Variationは、内省的ではあるけれど、和声がさほど美しくもなく、ぽつぽつと呟くような音がまばらなコラール。
5. Fugatoは、ちょっとシニカルで諧謔なフーガ。
6. Shiveringは水面で静かに波紋が広がっていくような静けさ。
7. Alla finaleは、リズムがとても面白い曲。3音からなる細かな連続音があちこちでオスティナートされ、それ以外にもいろんなリズムが錯綜する曲。フィナーレにしてはかなり変わった曲。

パルティータ Op. 34 (1956年)
未完に終ったギター用の小品をピアノ作品として書き直したわずか3分の変奏曲。
第1曲は音の動きがドビュッシーの《グラドゥス・アド・パルナッスム博士》に似た感じ。
第2曲の伴奏和音はギター作品のような名残がある(とラウタヴァーラの解説)。《前奏曲》のスローテンポの曲を、音を増やして幾分叙情的にしたようなタッチ。
第3曲は少しジャズ風な感じがするリズミカルで躍動的な曲。

ピアノ・ソナタ第1番”キリストと漁師”/Piano Sonata No. 1, Op. 50, "Christus und die Fischer"(1969年)
バルト海の夏のヴィラで作曲していた部屋の壁にかかっていた版画がタイトルの由来。10分足らずの短いソナタで、神秘主義的で敬虔な雰囲気。

第1楽章は夜の海をイメージさせるような静寂で澄んだ雰囲気。
最初の方で出てくる左手のアルペジオがゆるゆると規則的。解説によると、その版画の敬虔な雰囲気と波の音が重いリズムにつながっている。
徐々に波が激しくなっていくように、音が増えてテンポも増してクレッシェンドして終る。

急速な第2楽章は、特に3/8 and 2/8のリズムのいろいろなコンビネーションと、響きの重厚な重なりで、とてもリズミカルで賑やか(漁師が漁に励んでいる?)。不協和音が締めくくりのように鳴ってからは、一転して静かで厳粛。

第3楽章はスローテンポでとても静謐な雰囲気。ささやくようなコラールのようなテーマが漂っているけれど、《前奏曲》のコラールとは違って、水のような透明感と叙情感を感じさせる。

ピアノ・ソナタ第2番”火の説法”/Piano Sonata No.2, Op. 64, "The Fire Sermon"(1970年)
ラウタヴァーラにとって、'The Fire Sermon'は心の中にマントラのように焼きついている言葉。(でも、同名のエリオットの詩や仏陀の有名な説法とは、意識的な繋がりはない)
情熱からアイロニーまで幅広く表現したもので、ペシミズムと絶え間なく繰り返される葛藤(frustrating struggle)が特徴。
このピアノ・ソナタは、ラウタヴァーラの作品のなかではリサイタルでも演奏機会が多く、独奏曲のなかの代表作だと思う。音の響きが面白くて、曲の構成もわかりやすく、とっても弾き映えがする曲。

第1楽章は、冒頭の虫の羽音のような高速の細かく弾力的なパッセージが印象的。まるでリムスキー=コルサコフ《熊蜂の飛行》風。音の響きからいえば、バルトークの《戸外にて》の方にずっと似ているかも。
この羽音をバックに主題が静かに提示されて、徐々に激しさと密度と力を増して展開して、時々音のクラスターの中に溶け込んでしまいながら、最後には厳粛で決然としたタッチで主題がエコーされる。

第2楽章は北欧の自然を描写したような曲。冒頭は透き通った静かな叙情感がとても美しい。中間部は、華やかなアルペジオを背景にやや不協和的な和音があちこちで鳴るラウタヴァーラらしいタッチで雄大。最後は再び静かになるが、これはかなり曖昧模糊とした憂鬱な雰囲気。

第3楽章は行進曲風の勇ましくもいかめしい雰囲気で、ローウェル・リーバーマンのピアノ曲によく似たタッチ。和音主体で音の響きが重厚で華やか。最後は運命が決定したように不協和音で終るところが面白い。

tag : ラウタヴァーラ

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
Secret
(非公開コメント受付中)

カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ブログ内検索
最近の記事
最近のコメント
カテゴリー
タグリスト
マウスホイールでスクロールします

月別アーカイブ

MONTHLY

記事 Title List

全ての記事を表示する

リンク (☆:相互リンク)
FC2カウンター
プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

お知らせ
ブログ記事はリンクフリーです。ただし、無断コピー・転載はお断りいたします。/ブログ記事を引用される場合は、出典(ブログ名・記事URL)を記載していただきますようお願い致します。(事前・事後にご連絡いただく必要はありません)/スパム投稿や記事内容と関連性の薄い長文のコメント、挙動不審と思われるアクセス行為については、管理人の判断で削除・拒否いたします。/スパム対策のため一部ドメインからのコメント投稿ができません。あしからずご了承ください。