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アスポース ~ デュカス/ピアノ作品集より ピアノ・ソナタ,ラモーの主題による変奏曲,牧神の遥かな嘆き
デュカスといえばすぐ思い浮かぶのは、《魔法使いの弟子》というタイトル。曲名だけ知っていて聴いたこともなく、そもそもフランスものは、プーランクとラヴェル以外はほとんど聴かない。
ディズニー映画にも使われていたそうなので(この映画も知らない)、youtubeで探すと映像&音楽が登録されていた。[ファンタジア2000 魔法使いの弟子](Youtube)
サントラとして聴くには良いけれど、この曲だけオケのライブ映像で聴いても、あまり魅かれるものがなくて、どうも相性が悪そうな予感。

管弦楽曲があまり好みに合わなくても、他のジャンルの曲なら合う場合も(たまに)あるので、次は本来の目的のピアノ作品。
デュカスはもともと寡作なので、ピアノ関係の曲も少なく、代表作といわれるのはピアノ・ソナタや変奏曲。

たまたま目にしたデュカスのピアノ作品集のレビュー(ピアニストはプレシャコフ)を読んで興味を引かれたので、いくつか録音を探してみた。
あまり録音は多くはないけれど、もともとピアノ作品は4曲しかないので、そう探すのに迷うこともなくてすむ。

プレシャコフ以外の録音は、デュカスの弟子のユボー、デュシャーブル、スティリアニ、アムラン、アスポース、フィンガーハットなど。アムランが弾いているというのはちょっと珍しい。
デュシャーブル以外は試聴したし、NMLにはプレシャコフ(Orion)、スティリアニ(NAXOS)、アスポース(SIMAX)、フィンガーハット(CHANDOS)盤が登録されていた。
いろいろ聴いてみると、ピアノ・ソナタは渦巻くような響きがエコーする作品で、それにルパートをかけてファンタジックに弾くような感じの録音が多いので、かなり紆余曲折して途中で混乱しそうな印象。
フランス系のピアニストなら、デュカスのお弟子さんのJean Hubeau(Apex盤)が定評があるらしい。

ピアノ・ソナタを全楽章聴いたなかでとても気に入ったのが、ノルウェーの若手ピアニストであるトゥール・エスペン・アスポースの演奏。
テンポが速く揺れも少ないし、打鍵はシャープで力強く、音の粒も綺麗に揃って響きが混濁することもなく、シンフォニックな響きのなかにも透明感があって、もやもやした雰囲気が薄めのすっきりした印象。
混沌としたデュカス独特の叙情性も充分に出ているわりに、旋律の流れもよくわかる。この録音を聴いた人たちの間では、かなり評判は良いらしい。

他の録音では時々聴いているフィンガーハットは、響きはわりとクリアに聴こえるけれど、テンポが遅く(演奏時間がアスポースより5分ほど長い45分くらい)たっぷりと情感と込めたようにテンポも揺れるし、細部の表現も濃い。モヤモヤとした霧の中で彷徨うような曖昧模糊とした雰囲気と濃い情感があり、好みとしてはちょっと苦手なタイプ。フィンガーハットは原曲の雰囲気をよく出しているような気はするけれど、演奏時間が40分以上かかるので聴き疲れしてしまう。

アスポースの録音はノルウェーのレーベルSIMAXからのリリース。
このアルバムはピアノ作品全集なので、《ピアノ・ソナタ》,《ハイドンの名による悲しい前奏曲》,《ラモーの主題による変奏曲、間奏曲と終曲》,《牧神の遥かな嘆き》の4曲を収録。

《ラモーの主題による変奏曲、間奏曲と終曲》はかなり有名らしく、これはとても聴きやすいくて面白い曲。
でも、感動するのは重厚な響きと壮大さで迫力充分の《ピアノ・ソナタ》。
現代のピアノ・ソナタでも名曲の一つではなかろうかと思うくらいに、長くて聴きとおすのはちょっと大変だけど、これは旋律と響きが独特で展開も凝っていて、これはかなり聴き応えのある曲。
ドビュッシーを追憶した《牧神の遥かな嘆き》も短い作品ながら、幻想的な響きがとても印象的。
デュカスの書いたピアノ独奏曲は少ないけれど、さすがに完璧主義者だけあって、これだけ内容が濃くヴァリエーションがあれば、充分満足できてしまう。
それに、デュカスのピアノ曲を聴いていると、旋律や和声の響きがどこかで聴いた気がすることが多く、それが何だったか記憶をたどったり調べたりしてしまうので、これが意外と面白かったところ。

Dukas: Complete Works for Piano SoloDukas: Complete Works for Piano Solo
(2004/06/14)
Tor Espen Aspaas

試聴する(米国amazon)


ピアノ・ソナタ 変ホ短調(1901年)
NAXOSの解説によると、サン=サーンスに献呈された曲で、20世紀のピアノ作品の名曲とみなされているらしい。(それにしては、聴いたことのある人は少ないはず)
明らかにベートーヴェン、リスト、フランクの影響が聴きとれる一方、洗練された感情とdiscursive density(絶えず推移していくような?)で刻印されたような古典的で審美的な思考が反映されている、リスナーとピアニストの両者に絶対的な集中力を要求する、と書かれている。これは全くその通り。
重なりあう響きと技巧的なパッセージが相まって華麗で混沌な雰囲気がベースにあって、それと対照的な透明感と静謐さ、明るさと開放感にコロコロと移り変わっていくので、面白いけれど気軽に聴くタイプの曲とは言えない。

第1楽章 Moderement vite
典型的なソナタ形式で(中間部の入りと終わりはどこなんだろう?)、主題は2つ。
冒頭の主題がとても印象的で、ここはフランク風。
不安が渦巻くように重苦しい雰囲気の旋律をペダリングで響きを重ねた左手のアルペジオがずっと支えていて、この雰囲気がほとんど第1楽章を支配している。
半音階が多く使われているようなので、調性感が曖昧で幻想的で、たえず揺れ動いているような不安定感がある。

2番目の主題は、左手のアルペジオのペダルで増幅された響きが薄まって、シンプルな和音やアルペジオに変わって、音が激減してすっきりした響き。
主題の印象もずっと明るく爽やかで、リスト風のベートーヴェン(?)のような古典的な雰囲気もある。緊張と緩和の効果があきらかで、第2主題を聴くと和やかな気分になってほっと安心。

第2主題のセクションはそれほど長続きせずに、徐々に冒頭主題がアダージョのように変奏されながら入ってきて徐々に勢いと激しさを増して、やがて冒頭部分が再び現れれる。

全体的に伴奏のパターンが同じで常に渦を巻いているような響きのする部分が多いので、さすがに10分以上も続くとちょっと単調に感じてくるところはある。

第2楽章 Calme - un peu lent - tres soutenu
動的で響きが重なって渦を巻いている第1楽章とは対照的に、静的でやや神秘的な雰囲気。テンポが遅くても、アルペジオが相変わらず多いので、さほど静謐な感じがしないけど。
解説によると、一応主題は2つあって、対立的でなく相互補完的で、17-18世紀の作曲家に好まれた装飾と二重奏の変奏で構成されている。
主題がそれほどメロディアスなわかりやすさがなく、変奏形式にもなっているので、いろんなモチーフが次から次へと現われては消えていくようで、ただでなくとも緩徐楽章はあまり得意ではないので、構成がよくわからない。

第3楽章 Vivement, avec legerete
冒頭から速いテンポで、ちょっとメンデルスゾーン風の細かいパッセージ。主題はとても明瞭で印象的。
第2楽章がかなり長くて静的だったので、フーガが使われているこの第3楽章はスケルツォ風に動きが激しく、スタッカートで飛び跳ねるようにリズミカルで、疾走感・急迫感が爽快。
主題に続いて出てくる片手づつずらしたようなユニゾンで上行下降するパッセージの響きが華麗。その後に一瞬明るい表情になったり、いろいろ変化していくので、聴いていても面白い。
中間部は、再び不安感に満たされたように沈み込んだ雰囲気に変わって、最後は、覚醒したように再び冒頭の激しい旋律と雰囲気が再現。

第4楽章 Tres lent - anime
前半はゆったりとしたテンポで、どことなくフランク風のシンフォニックな響きと厳粛・荘重さ。旋律が響きのなかに溶け込んでいくのでもやもや。
しばらくすると、旋律が明快で動的なパッセージに変わり、躍動感と明るさがでてきて、明るく開放感のある旋律(が現れて、フィナーレへ向かっていく雰囲気。ここからはかなりわかりやすい旋律と展開。
ラストに向かって開放感のある伸びやかな雰囲気が強くなってきて、和声も調性の明確で曖昧さのなくすっきりした響き。ショパンのピアノ・ソナタ(かスケルツォかバラード。あまり聴かないので思いだせない)にちょっと似ているかも。

これだけ全楽章が長いと、主題や雰囲気の推移も激しくさらに変奏も入っているので、何回か聴かないと第3楽章を除いて構成はかなりつかみにくい感じ。(第2楽章は何度聴いても構成がよくわからなかったし)
何度か聴けばそのもやもや・混沌とした印象はかなり解消されるけれど、それでもいつも集中力をもって聴かないと途中で迷子になりそうになる。この曲が好みに合っていれば、それさえも楽しく思えるくらいに内容は濃い。


ラモーの主題による変奏曲・間奏曲・フィナーレ/Variation, Interlude et Finale sur un theme de J.Ph.Rameau(1902年)
[ピティナの作品解説]
ラモーはまず聴かないので、主題がどの曲なのかは良くわからないけれど、そういうことは知らずとも、いろいろ変化があって面白い曲。
ピアノ・ソナタとは全然曲想もつくりも違うので、そんなに集中力はいらず、かなりリラックスして聴ける。ピアノ・ソナタで挫折しても(その可能性はかなり高いそうなので)、このラモーの曲の方はとても聴きやすくて、おすすめ。
この曲も、どこかで聴いたような旋律や和声が時々出てくるので、それが何だったか思い出すのに気をとられてしまった。

主題menuetは当然ながら、バロック風の優雅で可愛らしい雰囲気。
変奏が進むに連れて、不協和的な響きが混在し、和声の厚みを増し、曖昧模糊とした不安定感が強くなっていく。全体的にテンポの遅い曲は、デュカス風の調性感の曖昧な厚みのある響きが強い。
第6変奏Modereはとても穏やかで眠たくなってくるようなまったりした雰囲気。
第7変奏のAssez figはコマネズミがちょこまか動き回っているようでちょっとユーモラス。
第9変奏Animeは舞曲風で明るい。
第10変奏Sans lenteur bien marqueは面白いリズム感。リズムと雰囲気がディアベリ変奏曲の第5変奏と第6変奏によく似ている。
第11変奏Sombre assez lentの冒頭はピアノ・ソナタの第1楽章の重苦しい雰囲気。
Interludeは、リストのロ短調ソナタの冒頭のような厳しいフレーズが出てくるし、全体的にかなりリスト風。
最終変奏Finale: Moderement animeも、とても晴れやかで透き通った響きが綺麗。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番の主題に似た旋律がちょっと出てくるし、とても古典的な優美で可愛らしい変奏。

牧神の遥かな嘆き(ドビュッシーを追憶して)/La Plainte au loin du Faune (en memoire de Debussy)(1920年)
親友のドビュッシーを追憶した曲なので、ドビュッシーの《牧神の午後への前奏曲》の初めの方に出てくる半音階の主題の旋律を使っている。
全体的に沈痛な雰囲気ではあるけれど、神秘的で妖艶さも感じさせる響きが魅惑的。好みとぴったり合って、この曲はかなり好き。
冒頭からしばらくすると、ドビュッシーの短い半音階の上行下降するモチーフ(私はラフマニノフのパガニーニ狂詩曲の第10変奏冒頭でオケが弾いている旋律の方をすぐに連想した)が不安げにいたるところでリピートされ、主旋律の後ろで断続的に響く雨音のようなオスティナートが、不安定感をさらに強めている。
同じくカップリング曲の《ハイドンの名による悲歌的前奏曲》とは旋律も響きも全然違っていて、こちらの方がずっと面白い。

tag : アスポース ドビュッシー

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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