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アスポース ~ ピアノ作品集(ベートーヴェン,シェーンベルク,ウェーベルン,ベルク)
アスポースの録音したデュカスのピアノ作品集がとても良かったので、他の録音を探してみると、ベートーヴェンと新ウィーン学派というちょっと珍しいカップリングのアルバムを出していた。

収録曲はベートーヴェン《ピアノ・ソナタ第32番》、シェーンベルク《6つのピアノ小品Op.19》、ウェーベルン《ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 Op.7》、ベルク《ピアノ・ソナタ》。

デュカスとこのアルバムを聴いてみると、アスポースの特徴は、緻密に設計された響きの多彩さ、透明感と爽やかさのあるしっとりとした叙情感、それに弱音の内省的な表情、といったところだろうか。
特に響きの美しさとヴァリエーションが素晴らしく、滅多に録音されることのない混沌とした響きのデュカスのピアノ作品集をアスポースが録音したのも、なるほどと納得。
偶然が重なって見つけたこのアルバムも予想していなかったほどに素晴らしく、アスポースの録音はこれからも必ずチェックしないといけない。

Mirror Cannon [Hybrid SACD]Mirror Cannon [Hybrid SACD]
(2008/04/29)
Tor Espen Aspaas

試聴する(米国amazon)

レーべルの2Lは、NAXOSの紹介文によると、”アコースティックな音の景色に誘ってくれるノルウェーのレーベル”。2Lの録音で聴いたのはプラッゲの《クリスマス変奏曲~クリスマス・キャロルによる即興変奏曲》。現代音楽風ではない素朴な趣の美しい旋律と色彩感のある音がとても綺麗で、ほのぼのとした味わいのある曲。


ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番 Op.111(1822年)[ピティナの楽曲解説]
ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタは、ペダリングやタッチをかなり工夫して、フレーズや旋律ごとに緻密に響きを設計していると感じられて、そこを聴いているとても面白い演奏。
はじめはそっちに気をとられてしまったけれど、繰り返して聴くと、それ以上に演奏自体が素晴らしくて、これは今まで聴いた最後のソナタのなかでも、特に好きな演奏の一つ。

第1楽章は、情熱的というよりは、冷静さと透明感を感じるせいか、色で言えば青のイメージ。
楽章途中で遅いテンポの弱音で弾くところは、ルバートがかかって粘着的なタッチでちょっと感情的な雰囲気がするけれど(もう少しさらりとしたタッチが好みなので)、情緒的というほどでもなく、内省的な雰囲気。
音が詰まってテンポが上がる部分になると、すっきりとしたタッチで淀みなくスラスラ弾いていく。

第2楽章は低音の深い響きが落ち着きと重みを出していて、主旋律とそれ以外の旋律でタッチと響きを変えているので、色彩感があって綺麗な音で、立体的な感じもする。
全体的に弱音に湿り気のある叙情感と内省的な雰囲気が漂っているように感じるので、フォルテの明るく力強い響きと対照的。

第2楽章の冒頭主題は、かなりゆっくりしたテンポで弱音も囁くように弱く、とても内省的な雰囲気。(ここはよく聴いているカッチェンの弾き方にわりと似ている感じ)
第1変奏以降は、わりと動きが出て、音もずっとしっかりした響きで明るくなっていく。特に、躍動的な第3変奏は、力強く一音一音明瞭な打鍵で、音色が輝くように明るい。アルペジオの響きの重ね方が面白くて、オルガンのようにエコーする響きも華やかで綺麗。
特にこの変奏では、響きの重ね方をフレーズによってかなり変えていくので、強弱のコントラストと相まって、表情の変化が大きくメリハリがよくついている。ペダリングも上手くて、アルペジオでも響きが混濁せずとても綺麗なレイヤーに聴こえる。
ちょっと気になったのは、57小節と58小節で、スラーが切れて、音型が変わるところで(ペダルも切っている)、一瞬だけ流れが途切れて間が空くところがいくつか。跳躍が入るので、直前で少しリタルダントしたり間が空いたりしていて、流れが止まるような気がする。移行するタイミングがほんの少しだけ遅い感じがして、なぜかひっかかってしまった。その後の変奏でも和音の跳躍で同じような間が入ることがあるので、跳躍のタイミングのズレなのか、もともとこういうフレージングにしているのか、どっちなんでしょう。

第4変奏もゆったりしたテンポでいろいろ変化する弱音の響きがとても綺麗(ちょっとタッチが粘着的ではあるけれど)。トリルはかなり明瞭で強め。音色や響き、緩急の変化のさせ方が上手く、滑らかな流れのなかでうねるように大きく起伏をつけていくところが見事。
終盤への盛り上がりでは、一気呵成な情熱的な高揚感や開放感ではないけれど、静かに着実に階段を上がっていくように、ほんの少しアッチェレランドとクレッシェンドをしながら、ペダルでアルペジオの響きを重ねて、高揚感を出していく。やや粘り気のある打鍵としっかりと芯のある響きと相まって、緊張感がありじわじわと強く訴えかける圧力を感じる。
トリルが響き続けるコーダは静寂さはそれほど強くなく、旋律とトリルがそれぞれ明瞭に響いて煌きがあり、明るく爽やか。

響きの移り変わっていく第2楽章の美しさが特に素晴らしく、しっとりとした叙情感は澄んだ水のように爽やかで、清々しく美しい印象。何より、内省的な静けさやじわじわと核心に近づいていくような緊張感があり、これは珍しくも繰り返し聴きたくなるほどに気に入ってしまった。

名前もほとんど聴いたことのないピアニストなのに、こういう素晴らしい演奏に出会うことがあるというのが、CD探しの大きな楽しみ。未知のピアニストの場合は、自分の耳と感性で判断するので、ネームバリューなどのフィルターが全くかかっていないだけに、本当に良いと思える録音に出会えます。

32番ソナタのマイベストは、カッチェンの68年録音。多分聴いたことのある人はほとんどいないと思う録音だけど、一度聴いてすっかり好きになった演奏。
アスポースの演奏を聴いた時も、そのときと同じように直観的に素晴らしい!と思ったので、この録音もカッチェンの次によく聴くことになりそう。

シェーンベルク/6つのピアノ小品 Op.19(1911年)[ピティナの楽曲解説]
シェーンベルクのピアノ作品集も、アスポースが弾くと響きの美しさと叙情感を強く感じる。
無機的に思えるポリーニの録音とは違って、ピーター・ヒルの透明な叙情感のあるシェーンベルクが一番聴きやすいと思っていたところが、アスポースはヒル以上に叙情的。
ヒルは音も雰囲気もやや暗めのトーンで、タッチはやや軽やか。陰鬱さや不気味さ、不安感といった雰囲気が強め。
アスポースは明るい色彩感のある太めで明瞭な音のせいか、美しく潤いのある叙情感が強い。

この小品集は、いずれも短く無駄のないシンプルな旋律で、各曲のモチーフは独立している。
第1曲Leicht, zartは、いろんな断片的なフレーズがちらちらと現れては消える。色彩感と叙情感が強い演奏だと、無機的には聴こえない。
ヒルはかなり沈んだトーンの音と動き。アスポースは音色が明るく音も大きく、響きがクリアで動的。

2曲目以降は、第1曲のフラグメントな音の動きとは反対に、メロディアスな旋律や和声が美しい。
特に、第2曲Langsamはリズムが面白く、バルトークの《夜の音楽》のように、暗い森に潜む動物たちの息遣いが聴こえてくるような感じ。ヒルはテンポが速く動的で何かが蠢くようで、アスポースは遅めのテンポで一軒づつ扉を叩いて回っているような。
第3曲は冒頭は力強い和音が重苦しく悲愴な雰囲気で、後半は静かに沈潜。
第4曲は、沈潜した雰囲気。和音がアクセントになって、静寂さから突発的に感情が噴出したように。続く第5曲も似たような曲想。
第6曲のSehr langsamは、マーラーの葬儀に参列した後に書かれた曲。まばらな音が静寂さのなかで、ぽつ~ん、ぽつ~と響いては消えていく。ヒルの方が鬱々とした雰囲気は強め。


ウェーベルン/ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 Op.7(1910年)
シェーンベルクとベルクがくると、普通はウェーベルンの《ピアノのための変奏曲Op.27》のカップリングになるけれど、珍しく《ヴァイオリンとピアノのための4つの小品Op.7》を選曲。
ウェーベルンのピアノ独奏曲は、シェーンベルクよりもずっと聴きづらい。管弦楽曲なら音色がカラフルで旋律も増えるせいか、ピアノソロよりはまだしも聴きやすい気はするけれど。
この曲もヴァイオリンが入っているせいか、旋律がかなりメロディアスになり、音色も増えて色彩感が増している。
ポツポツと密度の薄い音が、あちこち飛び跳ねるようなウェーベルンらしい音の配列が聴こえるけれど、ピアノ独奏曲よりはずっと聴きやすい。
一番わかりやすい曲は<第2曲 Rasch>。旋律はかなり明快で動きが激しい。すぐに思い浮かんだのは、ヤナーチェクのヴァイオリンソナタや弦楽四重奏曲。和声の響きやヴァイオリンの音の動き、突発的なフォルテの激情感とかが似ているから。
<第1曲 Sehr langsam>は、ゆったりとしたテンポで、ヴァイオリンはキ~コ~とやや神経質な旋律と響き、ピアノはポロンポロンと響きが長くずっと瞑想的。
<第3曲 Sehr langsam>これは静寂で闇に包まれた森の情景風。ぽつん、ぽつんと時々飛び跳ねるピアノの音が印象的。
<第4曲 Bewegt>は、感情が噴出したような冒頭のフォルテから、すぐに沈静。


ベルク/ピアノ・ソナタ Op.1(1908年)[ピティナの楽曲解説]
現代音楽のピアノ・ソナタの名曲の一つ。学生の頃(くらいに)一度聴いて、旋律の美しさと張り詰めた叙情感が強く印象に残って、この曲は忘れることがなかった。
一楽章形式で10分以上かかり、冒頭主題がとても印象的。これが変形しながら、和声の美しい響きと濃い情感が織り込まれて、感情の激しい噴出と瞑想が度々交代しながら進行していく。

このピアノ・ソナタは、グールドの演奏が昔から私のスタンダード。グールドの録音のなかでは、ヒンデミットのピアノ・ソナタと並んで珍しくも好きな曲で、シャープで硬質なタッチで、クリスタルのような冷たい情熱と刺すような強い緊張感が漂っている。
アスポースは、グールドのような冷たく研ぎ澄まされたタッチではなく、やや丸みの帯びた生温かさを感じる響きで、演奏に柔らかさを感じる。
呟くような弱音の響きが内省的に聴こえ、ベルク独特の妖艶で濃密な雰囲気はやや薄く、しっとりとしたマイルドな叙情感がとても心地良い感じ。


アスポース~デュカス/ピアノ/作品集
グールド~アルバン・ベルク/ピアノ・ソナタ

(参考)ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第32番のCD聴き比べサイト

tag : アスポース ベートーヴェン シェーンベルク ベルク

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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